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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    廃棄区画での話。どこで寝ても同じ話。
    800文字チャレンジ90日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    目を閉じておいでよ(全て同じ) 何にも知らない恋人に、何もかもを教えた気がする。手の繋ぎ方、口付けの仕方、抱擁の方法、それからどうやってセックスをするのか。なのに想いを伝える方法は教えなかったのだから屈折している。俺は彼が俺以外では失敗すればいいと思っていて、わざと恋人の作り方を教えなかった。俺以外では失敗するように、そんなふうに何もかもを教えた。彼がそれを知っていたかどうかは分からない。純粋な性格だし、案外気づいていないかもしれない。でも気づいていたら、俺はどう思われていただろう。独占欲の強い恋人だろうか。別にそれでもいいが、嫌われたくはない。
     
    「痴情のもつれの上での殺人ねぇ……」
     縢が珍しそうにぼろぼろになった男の残骸を見つめた。監視官であるギノは、色相悪化を避けるためパトカーで待機している。俺たち猟犬が推理をし、それを献上するのがいつものパターンだった。
    「そんなの珍しくないじゃないの。廃棄区画では統計上は殺人事件はほとんどが……」
    「あー、聞きたくないよくにっち。俺に夢を見させてよ」
     痴情のもつれの上での殺人。よくあるパターンで、女はどこかに去ってしまった。近隣住民によれば喧嘩の絶えないカップルだったらしく、女はヒステリックでよく飛び出して行ったらしい。いつもはそれでガス抜きできるが、今回はそうは行かなかった。男が爆発してしまい、エリミネーターの的となった。
    「今は女の捜索は難しいな。このまま帰ろう。飼い主様はご立腹かもしれないが、女はいつかものを取りに帰ってくるだろうし、それをドローンに見張らせよう」
     そう言うと、縢はつまらなさそうに口笛を吹いた。廃棄区画には薄暗い空気が漂っていた。泥臭い匂いも。それは彼とは全く違う匂いで、俺は時折、染まってほしい、とも思ってしまう。例えば公安局から逃げ出して、こんな場所で二人過ごすとか、そうしたら、俺だってお前のために何か出来るから。
    「さぁ、行くわよ、狡噛」
     分かってるさ、分かってる。でも目を閉じてこの部屋に来たら、いつもと変わらないんじゃないか? 目を閉じて来たら、ベッドも同じなんじゃないか?
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    TRAINING1期後の狡宜。ずっと狡噛さんのことを思っている宜野座さん。
    800文字チャレンジ71日目。
    報われない努力(あなたという人) 狡噛を忘れられたらと思ったことは数え切れない。彼を愛さなかったら、きっと俺はもう少し上手くやれたんじゃないだろうか? 上司からもたらされる見合いの写真を断ることもなく、執行官たちの立場を思って腹芸をすることもなく、狡噛が少しでも自由に動けるよう青柳に彼を託すこともなかった。でも、彼は俺の手を離れて、遠い所へ行ってしまった。行方は知れない。シビュラの範疇外ということくらいしか俺には分からず、俺の上司となった常森が知るのもそれくらいだった。監視官の強力な権限があってもそれなのだから、きっと今頃は自由に野良犬として生きているのだろう。
     狡噛を忘れられたら、そう思って学生時代から撮り溜めていた写真のメモリーを消そうとしたことは数知れない。けれど俺はみっともなくそれに縋ってしまい、記憶の中で薄れつつある彼の声や、肌や、熱を思い出そうと努力するのだった。でも駄目だ、それも最近は駄目になってきてしまった。彼はどんな声だった? 俺を抱いた日の肌はどんなふうだった? あの瞬間に感じた熱はどんなものだった? 思い出そうとしても、それはいつも中途半端で終わる。まるで、彼がもうこの世には存在しないかのように。
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