not awaken(ねんねこねんねこ) 狡噛が寝入っている時の顔を見るのが好きだ。密集して生えたまつ毛が影を作って、それは少し歳を重ねて痩せた頬に影を作る。形のいい鼻筋には癖っ毛がかかり、薄く開いた唇は小さく開閉している。狡噛はあまり眠りが深くないから、こういうのを見せることは少ない。長い間一緒に寝ているけれど、これで二度目くらいだ。だから俺は深く観察する。美しく滑らかな頬、かさついてもなだらかに膨らむ唇、そしてゆっくりと開いてゆく青い瞳。俺は青い瞳が一番好きだ。そこに自分が映るのが一番好きだ。かすれた声でギノ、と呼ばれるのが一番好きだ。彼がそばにいればなんだっていいんだけれど、彼が俺を確認するさまが好きなのだった。
「……何時間寝てた?」
狡噛が眉を寄せてそう尋ねる。俺は三十分くらいだと答えて、彼はそれに納得したようだった。まだ疲れが取れていないのだろう。けれど狡噛は昔からあまり眠らないから、再び寝てもそれほどの時間は目をつむっていないだろう。
「子守唄でも歌ってやろうか?」
足をこすり合わせて、俺はそんなふうに恋人をからかう。今日は雨のせいで少し寒かった。ホームセクレタリは稼働しているが、外の雨の音は聞こえる。自動じゃなく冷房に設定してあったから彼の指は冷えている。
「いいな、それ、母さんには歌ってもらったことがないんだ。忙しい人だったからAI任せで」
「奇遇だな、俺もAI任せだったよ。でも学生時代に習ったことがあるんだ。気まぐれにとった教育課程でね」
俺は狡噛の髪を撫でる。そしてゆっくりと唇を開く。喉はかすれていて、ちゃんと歌えるかは分からなかったが、それでも彼が求めるならば歌ってやりたかった。ちょうど今頃の季節の歌だ。
「ゆりかごの上で、カナリヤが歌うよ、ねんねこねんねこ、ねんねこよ
ゆりかごの上で、びわの実が揺れるよ、ねんねこねんねこ、ねんねこよ」
静かにそこまで歌うと、狡噛は即物的なのか、「枇杷の実か……」とつぶやいた。どうせ出島のマーケットで買うことでも考えているんだろう。でも少し柔らかくなった表情に俺は満足して、彼がまたうとうとするのを待った。俺がカナリヤだったらお前のために歌うし、枇杷の実だったら、お前の喉を潤すのに。俺はそんなことを思って、狡噛を優しく抱きしめた。