Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    時緒🍴自家通販実施中

    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😻
    POIPOI 192

    うとうとする狡噛さんのお話。
    800文字チャレンジ96日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    not awaken(ねんねこねんねこ) 狡噛が寝入っている時の顔を見るのが好きだ。密集して生えたまつ毛が影を作って、それは少し歳を重ねて痩せた頬に影を作る。形のいい鼻筋には癖っ毛がかかり、薄く開いた唇は小さく開閉している。狡噛はあまり眠りが深くないから、こういうのを見せることは少ない。長い間一緒に寝ているけれど、これで二度目くらいだ。だから俺は深く観察する。美しく滑らかな頬、かさついてもなだらかに膨らむ唇、そしてゆっくりと開いてゆく青い瞳。俺は青い瞳が一番好きだ。そこに自分が映るのが一番好きだ。かすれた声でギノ、と呼ばれるのが一番好きだ。彼がそばにいればなんだっていいんだけれど、彼が俺を確認するさまが好きなのだった。
    「……何時間寝てた?」
     狡噛が眉を寄せてそう尋ねる。俺は三十分くらいだと答えて、彼はそれに納得したようだった。まだ疲れが取れていないのだろう。けれど狡噛は昔からあまり眠らないから、再び寝てもそれほどの時間は目をつむっていないだろう。
    「子守唄でも歌ってやろうか?」
     足をこすり合わせて、俺はそんなふうに恋人をからかう。今日は雨のせいで少し寒かった。ホームセクレタリは稼働しているが、外の雨の音は聞こえる。自動じゃなく冷房に設定してあったから彼の指は冷えている。
    「いいな、それ、母さんには歌ってもらったことがないんだ。忙しい人だったからAI任せで」
    「奇遇だな、俺もAI任せだったよ。でも学生時代に習ったことがあるんだ。気まぐれにとった教育課程でね」
     俺は狡噛の髪を撫でる。そしてゆっくりと唇を開く。喉はかすれていて、ちゃんと歌えるかは分からなかったが、それでも彼が求めるならば歌ってやりたかった。ちょうど今頃の季節の歌だ。
    「ゆりかごの上で、カナリヤが歌うよ、ねんねこねんねこ、ねんねこよ
     ゆりかごの上で、びわの実が揺れるよ、ねんねこねんねこ、ねんねこよ」
     静かにそこまで歌うと、狡噛は即物的なのか、「枇杷の実か……」とつぶやいた。どうせ出島のマーケットで買うことでも考えているんだろう。でも少し柔らかくなった表情に俺は満足して、彼がまたうとうとするのを待った。俺がカナリヤだったらお前のために歌うし、枇杷の実だったら、お前の喉を潤すのに。俺はそんなことを思って、狡噛を優しく抱きしめた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💯🍋🍊🍎🍍🍉🍈🍐🍑
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
    1852

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
    3531

    related works

    recommended works

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAINING青っぽい学生時代狡宜。
    800文字チャレンジ83日目。
    鼓動が限界(ある夏の日に) 初めてギノと口づけをした時、心臓が痛すぎて病気になったと思った。不恰好にも手の汗がびしょびしょだったし、それで嫌われやしないかまた心臓の鼓動が早くなった。何回も歯磨きした、歯磨きしすぎて血が出るくらい歯磨きした。ガムも噛んだしミント味のラムネも食べた。そうして俺はやっとギノと先送りにしていたキスをして、恥ずかしそうに笑う彼にもう一度キスがしたくなった。でももう鼓動が限界だ! これ以上キスしたら死んでしまうかもしれない。死因、キスをしたこと、愛する人とキスをしたこと、少しロマンチックだけれど、もっとしたいことがたくさんある。海に行きたい、山に行きたい、俺が好きなところ全てにギノを連れて行きたい。廃棄区画にある古本屋とか、やっぱり廃棄区画にあるジャンキーなハンバーガーショップとか、そんなところにギノを連れて行きたい。ギノは嫌がるだろうな。でも俺を知って欲しいんだ。俺はまだ童貞でデートの仕方も知らなくて、だから自分の好きなものを教えるくらいしか思いつかない。でもそれだって充分だろう? 俺の好きなものは、俺を構成するものなんだから。それを差し出すってことは、俺を差し出すってことなんだから。
    910