ファースト(キス) 初めてしたキスを覚えてる? 私はね、覚えてるわ、最悪だったのよ。パーティーで酔っ払って、クラスの一番かっこいい男の子とキスをした。性格は最低だったけど。
フィッシュ&チップスを食べながら花城は、酔っ払ったのかそんなことを言った。彼女が自分のプライベートな話をするのは珍しかった。大体いつもはぐらかされてしまうか、俺たちの話題に取り替えられてしまうから。でも今日は違った。花城は油できらきらと輝く唇をぽってりとさせて、かつてあった青春について語った。
ソーダのしゅわしゅわってする感覚があったの、それでキスをしてるって分かった。私が飲んでたカクテルは、炭酸を使ってなかったから。あぁ、駄目ね、私何を言ってるのかしら。
そう言うと、花城は机に突っ伏して寝息をたて始めた。したたかに飲んだ後だったが、男三人に囲まれてする話じゃなかったし、寝るなんてもってのほかだった。でも結局須郷が彼女をおぶって行動課のオフィスまで帰ることになり、俺たちは事件解決の祝杯を終えることになったのだった。
「初めてしたキスは覚えてるか?」
出島のマーケットを歩きながら、俺は狡噛に尋ねた。すると彼は俺に遠慮することもなく白状した。彼の初めては俺じゃなかった。分かっていたことだが案外ダメージがでかい。
「告白されて、キスをしたら諦めるって言われたからその時に。中学の時だったかな」
よくある話だった。俺はそれを聞きながら、自分の答えを探した。初めてのキスは狡噛とだった。彼が俺に告白してくれて、その時初めて人に触れた。熱い手のひら、熱っぽいぽってりとした唇、そして汗ばんだ鼻先。
「でも、今じゃ後悔してるかな。もう少し待てば運命の相手に出会えたのにさ、キスの仕方も知らないで、お前に口付けたかった」
狡噛はそんなことを言って、俺をマーケットの隅に引きずり込んだ。そしてキスをする。もう慣れてしまったキスをする。
「こんなふうじゃなく、もっと戸惑ってキスしたかった。それくらいギノが魅力的だったから」
彼はそう言うとまた歩き出した。俺の頬は火照っていた。狡噛がそんなふうに思っていたことなんて、俺は少しも知らなかったから。