日曜日のオムレツ 食事は基本的に狡噛が作る。三食全てとまではいかないが、一食、いや二食程度は彼が作る。俺はそれをぼんやりと食べて感想を言って、食器洗い機に皿を放り込む。その皿も狡噛が選んだもので、見たこともない色であったり、不思議な形をしていたりする。狡噛の飯はうまい。和食も洋食も中華も、山岳で食べられるスパイシーな料理も、彼は自分のものにしてしまっていた。俺が知っているのは料理の下手くそな狡噛慎也だったから最初は驚いた。狡噛は特に味覚がおかしいところがあったし、俺はそんな彼を愛してもいたので。
「それで、今日は午後からどうする?」
小さなオムレツをフォークで突きながら狡噛は言った。コップにはオレンジジュース、脇の小鉢には名前も知らない野菜のサラダ。俺はそれらを均等に口に入れながら、彼の提案をぼんやりと考えた。
「出島のマーケットは? 古本屋を巡って、時間が経ったら夕食を食べにどこかの店に入ってもいい。俺はそろそろ観葉植物の肥料が切れて来たから、それを買いたいかな」
オムレツを口に入れる。トマトの甘酸っぱいソースが口に入る。すると、狡噛が俺をじっと見た。何か奇妙なものを見るような目で。俺はその理由がよく分からずじっと見つめ返したが、彼はどうしてか俺に手のひらを差し出す。困惑して首をかしげると、彼は俺の唇を拭って、トマトソースを舐めた。俺はそれに恥いることはなかったが、彼がここまで自分の中に入ってきていることには驚いた。自分の生活の、少し恥ずかしいところまで。
「このまま家でぼんやりするのもいいかもな?」
狡噛が笑う。それは誘いなんだろう。俺はそれに気づいて、少し恥ずかしくなった。セックスの誘いがこんなに生活に密着しているなんて、少しどころじゃない、大いに恥ずかしい。けれどそれは甘くもあった。狡噛が側にいることに、俺は安堵していたから。
俺は皿を片付ける。狡噛がコーヒーを淹れて煙草に火をつける。さぁどうしよう、日曜の午後の俺は大変だ。