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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    何となく前回の続き。
    二人で浴室に入って、髪の毛を少し切ってもらう宜野座さんのお話。

    #PSYCHO-PASS

    意味なんかないはずだけど 髪を伸ばしていることに確かな意味なんてない。伸ばし初めの時は、よく聞かれたものだ。願掛けをしてるんですか、何を願っているんですかって。俺はそれを聞かれる度に何も考えていないんだって言い返して、実際のところどうなのだろうと悩んだ。理由もなしにこんなに髪型を変えるだなんて、そんなことはきっとない。俺は多分どこかで狡噛に会たくて髪を伸ばしていた。そうしたら会えたのだ、あの奔放な男に。それからはずっと惰性で伸ばしている。また会えたらいいと、自分から突き放しておいてまた会えたらいいと。狡噛は知らないだろう。外務省で再び出会った時は髪型は変えないんだなと言われた。何か理由でもあるのかとも言われた。俺は意味なんてないさとつぶやいて、少し伸びた髪を触った。果たして願掛けをして髪を伸ばしていたと言えば彼は喜ぶだろうか? そこまで思われていたと思って喜ぶだろうか? それともいつものようにクールに振る舞う? 俺は分からない。彼の考えが俺には分からない。彼を喜ばせたいけれど、どう振る舞えばあの男が俺を愛してくれるかが分からない。願掛けで髪を伸ばしていたと言えば重いと思われるかもしれない。それともロマンチストな彼は喜ぶだろうか。俺には分からない。
     
    「伸びたな。戦闘中邪魔だろう。編み込みでもしてみたらどうだ?」
     二人で一緒に風呂に入っている時、浴槽に浸かった狡噛が言った。浴槽に浸かった俺はそれにどう答えて良いか分からなくて、「ん」とだけ言った。確かに髪は少し伸びていた。あまり伸ばしすぎると的に引っ張られてしまう。アドバンテージを与えてしまう。だから良くない。分かってはいるのだが、今から理容室に行くのは面倒だった。ぽちゃん、湯が跳ねる。狡噛が湯をすくって髪に馴染ませる。俺の髪は湯船の中で揺れていて、それは水草のようでもあった。欲を言えばオフィーリア、現実を見れば薄汚い水草。俺はそれを切らねばならないと思いながら、どこかで最初は意味なんてなかったはずの伸ばした髪を削がねばと思った。
    「なぁ、狡噛。お前が切ってくれないか? 適当でいいんだ。どうせ結んでしまうから。敵に引っ張られない程度に切ってくれよ」
     そう言うと、狡噛は固まった。このバスルームには狡噛が髭を剃るためのナイフがある。それで削いでくれと俺は願い事をしたのだった。けれど狡噛は悩んでいるようだった。俺の髪をこのままにしておきたいのだろうか? 編み込みなんて面倒じゃないか。もし解けたらやっぱり敵に引っ張られてしまう。それはそれで気持ちが悪い。
    「適当でいいんだって言ってるだろう。理容室に行くのは面倒でな。あの店でのやりとりが苦になってさ」
     俺がそう言うと、狡噛はやっと浴室から身体を半分出して、鏡の近くに置かれたナイフを取った。官舎のバスルームの鏡は曇っていて、俺が今どんな髪型なのかは分からない。けれど、俺は全て狡噛に任せてしまうと、何だかどうでも良くなってしまった。ぽちゃん、また水が跳ねる。俺はそれにまぶたを閉じて、狡噛が切りやすいように浴槽の中で座る。
    「再開した時、髪型が違うのに分かったの、本当に嬉しかったんだ。髪型を変えてもギノはギノだって。俺もずいぶん変わってたからな。でも、もう一度再会した時も同じ髪型だとは思ってなかった。てっきり願掛けだと思ってたから。俺に会うためのな」
    「はは、ずいぶん気が大きいんだな」
     ナイフが短く束ねた髪に刺さる。そしてゆっくりと削がれてゆく。俺はそれを頭の皮膚で感じながら、優しく引っ張られるそれで感じながら、まばたきをして何も写っていない鏡を眺めた。じょり、髪が離れる感覚がある。狡噛は何も言わない。俺はまばたきをやはりして、狡噛に語りかけた。
    「どうだ、男前になったか?」
    「お前はいつもハンサムだよ」
     狡噛はそう言って、ゆっくりと俺の髪を削いでいった。相変わらず器用だ。切られた髪は浴槽の淵に置かれていて、それは短いもののどこか気持ち悪かった。早く流してしまいたい。これじゃあまるで遺髪のようじゃないか。
    「なぁ、本当にこの髪型に意味はなかったのか?」
     狡噛が言う。俺はうまく返事ができなくて、ただ視線を落としただけだった。
    「俺はお前にまた会えるんなんて思ってなかったし、願い事もできる身分じゃないと思ってた。お前が俺にまた会いたいと思ってくれてたんなら嬉しい」
     そうだよ、と言ったら狡噛は喜ぶだろうか? 俺が願掛けをして、今も願掛けをしているのはお前がいなくならないためだと知ったら果たして喜ぶだろうか?
     なぁ、狡噛。お前はもう俺の前からいなくならない? 試すように髪を切らせたのはそのせいなんだ。お前はもう俺の前からいなくならない? 髪を切ってしまっても、髪の先を少しでも切らせてしまっても、お前は俺の前からいなくならない? 俺は何も言えない。ただ俯いて、俺は狡噛が「出来た」と呟くのを待つ。湿度の高い浴室で。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    TRAINING学生時代の狡噛さんと宜野座さんのラブレターにまつわるお話。
    800文字チャレンジ9日目。
    手紙(ラブレター) 狡噛は変にアナクロなところがある男だった。授業はほとんど重ならなかったが、教師の講釈をタブレットにまとめるでなくノートに書き写したり、そして今ではほとんど見ない小説を読んでいたり。だからからなのか、狡噛にかぶれた少女たちは、彼と同じ本を読みたがった。そしてその本に感化された少女たちは、狡噛に手紙を書くのだった。愛しています、好きです、そんな簡単な、けれど想いを込めたラブレターを書くのだった。狡噛の靴箱には、いつだってラブレターが詰まっていた。俺はそれに胸を痛めながら、彼が学生鞄にそれを入れるのをじっと見た。そしてその手紙はどこに行くのだろうかと、俺は思うのだった。
     彼の同級生がいたずらを思いついたのは、狡噛があまりにもラブレターをもらっていたからだろう。ラブレターで狡噛を呼び出して、待ちぼうけさせてやろう、という馬鹿ないじめだった。全国一位の男には敵わないから、せめてそんな男でも手に入れられないものがあることを教えてやる、ということなのだろう。俺は話を聞いても、それを狡噛には伝えなかった。ただ俺は狡噛が傷つくとどうなるのか少し気になった。そんなこと、どうでも良いことなのに。
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    TRAINING出島のマーケットを夜歩く話。
    800文字チャレンジ17日目。
    月のない夜(あなたのいる夜) 出島は景観整備がほとんどされていないから、夜にマーケットを歩くとほとんど空に月はない。星もないし、店から登る湯気や、煙草の煙なんかで薄くけぶっている。けれど俺はその風景が好きだった。それこそが彼が日本に戻ってきた理由のような気がして。
     狡噛が日本に戻って再び寝るようになった時、彼はここでは月は見えないのだなと、少し寂しそうに言った。そりゃあそうだろう、彼が道を作るように進んでいた発展途上国には夜には明かりはない。みな早くに寝て、早くに起きて仕事をする。こんなふうに夜を楽しむのは、電気が通っているところだけだ。
    「飲んで帰るか?」
    「今日はそうするか」
     花城と離れたら本当はすぐにでも官舎に戻らねばならないのに、俺たちは彼女の監視がルーズなのをいいことに聞きなれない言葉を話す店主に勧められて、読めもしない文字が書かれたビールを二本頼んだ。狡噛はそれを温かい夜にぐいぐい飲んで身体を暖かくして、俺の指先に、ベンチに手を置くふりをして触った。俺もそれに同じように触った。あたりにはまだ人がいて、月はなくて、通りに掲げられたぼんやりとした明かりだけが夜市を照らしていた。美しい夜だった。
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    TRAINING児童養護施設で子どもたちに本を読んであげる宜野座さんのお話。
    800文字チャレンジ39日目。
    童話の王子様とお姫様(スノーホワイト) 仕事で児童養護施設を訪れた時、ギノがスーツの裾を引っ張る子どもたちに、童話を読んでやっているのを見たことがある。彼は長い髪を少し垂らして、ぼろぼろになった、今では珍しい紙の絵本を読んでやっていた。絵柄はディズニーの白雪姫。美しい白雪姫と、幼い頃に彼女と出会い、王妃に捨てられてしまった思い人をずっと探し求めていた王子様のストーリー。毒林檎を食べて仮死状態になってしまった白雪姫が、王子様のキスで目覚めるストーリー。いつの日にか王子様が来てくれるその日を私は夢に見る。
     ギノの落ち着いた語り口に、子どもたちはもっと、もっとと絵本を持ち込んで、その様は花城が呆れるくらいだった。私はあなたを子守役として雇ったんじゃないんだけど? とは彼女の弁だ。俺もそう思ったが、普段ドローン任せにされている子どもたちは、人間の大人に興味津々だった。結局この日は残りの俺たちが職員に聞き込みをして、ギノは子どもたちにかかりきりだった気がする。それでも優しい、慈しむような彼の表情は、俺にとって素晴らしいものだった。もしこんな仕事をしていなかったのなら、彼はあんな表情を多くの人々に向けただろう。そう思うと、胸が少し痛んだけれど。
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