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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    1/22夏五ワンライ。
    お題【天井/プルタブ/映画館】
    映画を見に行った二人がいちゃいちゃするお話です。

    #夏五
    GeGo
    ##夏五版ワンライ

    ライフ・イズ・コメディ! 傑と映画館に行くことになった。これって初デートだなぁ、俺たちも結構恋人らしいことをするもんだなぁ、そう俺は思って、なぜ傑がよりにもよってクレヨンしんちゃんの映画を選んだのか考えもしなかった。チケットまで事前に用意したのも怪しかったが、俺は傑と一緒に映画を観に行く、そんな事実だけに興奮してしまって、やっぱりなぜ傑って奴がクレヨンしんちゃんを選んだんだ?、恋愛映画でもないのに、とは考えなかった。でも『モーレツ! 大人帝国の逆襲』とか『アッパレ! 戦国大合戦』は俺を映画館に連れて行った五条家の呪術師も泣いていたから(俺は情緒の育っていない子どもだったので、結構長い間教育のために分かりやすい勧善懲悪のアニメ映画を見に連れて行かれていたのである)、映画の優しいジャイアンみたいに、クレヨンしんちゃんも映画は大人になると泣けるのかなって思った。それに傑と映画館に行けるんなら別に何の映画でも良かったから、もしこのチケットの映画で泣けなくたって、それはそれでいいだろうって。それで傑だけ泣いたら、ちょっと居心地が悪いかなぁ。
    「ここの席、並んで二つお願いします」
     傑は映画館に着くと受け付けの係の人にそう言って、一番後ろの端っこの席を指定した。ちょっと見にくいんじゃないかって思ったけれど、二人きりになれるような気がして、それはそれでいいかなって俺は勝手に満足した。この時に傑が何をしようとしているのか気づけばよかったのだけれど、俺はちょっと馬鹿になってしまっていて、でかいサイズのポップコーンやコーラを買って、久しぶりの映画館にドキドキしていたのであった。
     映画は最初からずっと楽しかった。何となく設定がよく分からないところもあったけれど、俺たちと一緒に映画を見たちびっ子たちがしんちゃんやみさえやひろしを応援しているところとか、映画に飽きて騒いで走り回る子どもとか、面倒くさいけど一緒に映画を楽しんでいるみたいで良かった。それから、そういうのを見て傑が優しそうな顔をするのとかも、やっぱり良かった。
     でもそう思った瞬間、傑は俺の手のひらに自分のそれを重ねて、静かに、って言った。静かに、静かにって傑は何をするつもりなんだ? キス? もしかして一番後ろの席を選んだのは誰にも見られないでキスするため? 映画はもうクライマックスだ、誰も俺たちを見ていない。頑張れしんちゃん、スクリーンの外の俺たちのためにも頑張ってくれ。馬鹿な子どもが走ってきて邪魔しないように、世界の平和を守ってくれ。
    「祓うよ」
    「へ?」
     傑がスクリーンに映らない、みんなが気にしないぎりぎりのところの天井を指差す。そこには確かに低級の呪霊がいて、それはずっと取り憑く子どもを涎を垂らして選んでいたみたいだった。なんだ、って俺は思った。任務だったのかよって、デートじゃなかったのかよって。あと、チケットを用意したのが夜蛾先生だったら嫌だなって。でも傑は笑って呪霊を祓い、それを飲み込んだ。
     俺はいつもそんな一連の動作を見ないふりをしていたけれど、傑は呪霊を飲み込む時、少し嫌そうな顔をする。少しでも楽になってほしい、俺はそう思うけれど、俺の術式もなかなかしんどいところがあるし、お互い、呪術の深いところには踏み込まなかった。それがルールみたいになってた。キスをしても、セックスをしても、お互いの一番深いところには踏み込まない。嫌なルールだなって思う。でもそれが、一番俺たちが長く一緒にいられる方法だった。
     映画が終わった。子どもたちはアイスクリームを買ってとか、クレヨンしんちゃんのおもちゃを買ってとか、パンフレットがいいとか、もう一回見たいとか、お子様ランチが食べたいとか、いろんなことを言っていた。俺は映画が始まる前に買ったポップコーンを食べ尽くしてしまい、コーラもなくなっていて喉が乾いていた。でも人が流れるままに俺たちは映画館を出て、その表にある自動販売機で硝子へのお土産に煙草を買って、それからオレンジジュースも買った。プルタブを起こして飲んでいると、傑は私にもちょうだい、って言った。呪霊の口直しがしたいんだとも。俺がそれを無視していると(任務なら任務と言って欲しかったのだ、自分一人でデートを期待して馬鹿だと思った)、傑は俺の腕を引っ張って自動販売機を通り過ぎ、映画館の宣伝の立て看板の裏に引っ張り込むとキスをしてきた。見知らぬ誰かの足音がする。その時、俺はこれで傑も楽になるのかなって思った。呪霊の味はまずいって昔酔っ払った傑に聞いたことがあったら、俺の味、というよりオレンジジュースの味で口直しが出来たらいいなって。
    「ありがとう、美味しかったよ、悟の味」
     傑が微笑む。俺はその余裕綽々な表情に一発殴ってやりたいなぁと思ったけれど、傑の味にどうでも良くなってしまって、へなへなと倒れそうになりながら、「硝子はこんな時に煙草を吸うんだろうね」って言った。冷静になりたい時に吸うもんだと思った。そんな俺に傑は「一本吸う?」って尋ねた。でもやめておいた。硝子へのお土産に手をつけるわけにはいかない。
    「そういえば悟、実は私ね、もう二枚チケットを持ってるんだけど?」
     傑が評判のいい恋愛映画のチケットを制服から取り出す。それはひらひらと風になびいて、さっきまでの考え事とかを全部持って行ってしまった。何だよ、ちゃんと任務の後でデートするのも考えてたんなら、きちんと言ってくれればいいのに。
     俺はそう思って、きっと甘ったるいんだろう恋愛映画を見るべく映画館に戻った。もし今度俺に手を重ねてきたら、こっちからキスしてやる、そう思って。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    狡宜800文字チャレンジ2日目。
    いじわる(意地の悪い恋人について) ギノは意地が悪い。たとえばどちらも悪いような喧嘩をした後、彼は数日に渡って視線をそらし、あからさまに俺を避け、そしてデバイスのメッセージすら無視する。そしてその数日間俺は彼に触れることすら出来なくて、ようやく拝み倒してベッドに沈む頃には、もう一週間が過ぎていたりする。俺はこれでも彼を尊ぶようにしているつもりなのだが、どうやら、小さな一言が彼を傷つけてしまったりするようだ。二十年付き合ってそれが分からないというのだから笑ってしまうが、法律家にでも相談すればこれは内縁の夫に対する離婚事案らしいのだから恐ろしくて聞けはしないし詮索もしないのだが。
     そして今日も喧嘩をしてしまった俺は途方に暮れてギノの部屋のドアを叩く。通常市民は犯罪者を恐れず鍵を開けっぱなしにするが、移民の多い出島ではかつて東南アジアで見たような、何十にも錠前をつけるのが主流だった。ギノは移民ではないけれど、どうも俺は敵対勢力と見られている気がする。彼を傷つけるもの、彼の辛い記憶を呼び覚ますもの、なぁ、それでも愛していてくれよ。俺はそう願って、「ギノ」とインターフォンに呼びかける。音声は返ってこない。しかし鍵は開いて、俺はあぁ良かったと思い、そして何も手土産のない自分を思い出しこれは説得に時間がかかるぞ、と頭を抱えた。せめて酒くらい持ってくればよかった。
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