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    短い話を放り込んでおくところ。
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    5/21ワンライ
    お題【喝采/踏切/稲光】
    ちょっとしたホラー夏五です。夜蛾先生に頼まれて踏切の怪異に挑む二人です。

    #夏五
    GeGo
    ##夏五版ワンライ

    雨が降る 踏切で奇妙なことが起こると高専に電話があったのは、じめじめとした梅雨の時期で、その日も雨が降っていた。
    「行ってくれるか」そう夜蛾先生は教室に俺と傑を呼び出して言った。踏切で何が起こっているのか俺たちも先生も知らされていない状態だったから正直不安だったが、電話の主人はもっと取り乱していて、一体何が起こっているのか知れそうにもなかったのだという。ただ先生は拍手をする人間がいる、いや、人間じゃあないかもしれない、とだけ言った。俺はそこでなぜか嫌な予感がしたが、呪術師はこの世ならざるものを恐れてはならないし逃げてもいけない。俺はそれを思い出し、薄暗い部屋でサングラスを掛け直した。
    「傑も行くの? 俺一人でもいいけど?」
    「喧嘩をふっかけようとしても無駄だよ。今回は怪異についてよく分かっていないからね。私も行くさ」
     俺たちはそんなことを言って、夜蛾先生からもらった地図を持って件の踏切に行った。そこは小さな、電車も数本しか通らない踏切で、しかし地蔵や花束が置いてあり、不穏な空気はあった。残穢もある。それも大量の何かの残穢が。
    「どう思う?」
     珍しく傑が俺に尋ねた。彼もこの大量の残穢に戸惑っているのだろう。俺はそれに「これだけじゃあなんともね」と言いつつ、地蔵の前にひざまずいた。それは事故の犠牲者を守っているというより、関西圏によくある地蔵盆のもののようだった。ここは関東だから、なぜ置かれているのかは分からないが。この地域が、関西からの移住者が多いのかもしれないけれども。
     俺たちはしばらく踏切の周りを動き回った。近所に住む誰かにも話を聞きたかったが、周囲に人はおらず、それも叶わなかった。
     そんな時稲光が落ちて、ここに来て初めて踏切の遮断機が降りてきた。カン、カン、カン。警報器が鳴る。なのになぜか傑は踏切の中央にいる。俺はそんな傑の腕を強引に引くが、強く立たれて上手くいかない。「傑!」俺はもう面倒になって彼の頭を数度殴り、ぐったりとした恋人をずるずると引っ張る。その時、ぎりぎりの隙間を警笛を鳴らす電車が通り過ぎてゆき、そして雨が降り出した。ぽつぽつとだった雨は、今は頬を叩くまでになっていた。
    「傑、どうしたんだよ、何かに乗っ取られた?」
    「あれ……」
     傑が指を差す。電車が通り過ぎて、けれどまだ降りている遮断機の向こう側を指差す。そこには見知らぬ大人たちがいて、にこにこと笑いながら俺たちに向かって拍手喝采をしていた。足元はうっすらと消えている。ここにあった大量の残穢は、彼らのものだろう。
    「最初にあれを見つけて、取り込もうと思ったんだ。でも駄目だった。反対に吸い込まれそうになったよ。助けてくれてありがとう、悟」
     傑が笑って立ち上がる。濡れた頬には、一筋の髪が張り付いていた。
     俺たちはその後彼らを全員祓い、夜蛾先生に連絡をして念のため年季のいった呪術師に来てもらうことにした。多分、祓っても祓っても、あの不気味な大人たちは復活することだろうから。そんな予感があった。
    「今回、俺たちあんまり役に立たなかったね」
    「先遣隊としては役に立ったさ。先生もそれを期待したんだろうしね」
     傑はそう言うと、俺の腕を引いて雨が強くなってゆく中、遠くで待たせている補助監督の車へと向かった。俺はその手が冷たいことに気づいて、もしあの時彼を無理やり引っ張らなかったらと、そんなことを思ってぞっとした。
     雨が降る。稲光が落ちる。喝采はもう聞こえない。ただ聞こえるのは、静かに当たりを満たす、そんな雨ばかりだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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