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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    異国の軍隊に雇われた狡噛がマラリアにかかって宜野座の夢を見たり、襲撃されて怪我をしたりするお話です。

    #PSYCHO-PASS

    やし酒と煙草を一本 ここでは、国家のために戦い傷を負い、入院した兵士は王から煙草を一箱下賜される。
     それは傭兵の俺も例外ではなかったらしく、野戦病院で目が覚めると、枕元には太陽のマークが刻まれた赤い煙草が置かれていた。皆はそれをありがたがって万歳、万歳と蚊帳の中、汚れた額にこすり付けていた。俺はそこまでこの国の王に忠誠心がなかったから病室で吸っても良かったのだが、夜刺されてもまずいと思いやめた。だから俺は皆がそうするように■■■王万歳と言い、王室のマークを額にこすり付け、胸ポケットに入れた。
     俺がこの野戦病院に入ることとなったのは、怪我が理由ではなく(勿論怪我はしていたが)マラリアが理由だった。最初のうちは気づかなかった。長い雨期が続き、鬱々としていた時に軽く発熱し、頭痛や悪寒に襲われ、嘔吐した時に従軍医師にマラリアと診断された。そこからは地獄だった。黒水熱を併発した俺は助かる見込みのない患者の部屋に隔離され、一週間と数日苦しんだ。死亡率は三十%というんだから、助かったのは奇跡だと言われた。流石に俺もこの時は神に感謝した。けれどまぁ、助かった俺はまた明日から軍という死地に戻る。生きてゆくために。
     
     
    「コウガミ、ここにいたのか」
     夜、病室から出て煙草を吸っていると(下賜されたものは不味かったから隣で寝ていた患者にやった、やはりスピネルの方が美味い)、俺と同じく傭兵の黒い肌をした男がやって来た。彼は元は知識階級の人間らしく、俺が病室で読んでいた『やし酒飲み』を見て、いい本だ、風邪の時に読むと最高だよ、と言った。彼の言う通りその本は混沌とした夢のような本で、身体がバラバラになる紳士や、「死」を売り買いする設定など、英語でなければ読めないような文体に俺は魅了されていた。少々設定がぶっ飛んでいたから、マラリアの時の熱を思い出して苦しくはなったが。
    「この村にバイクで娼婦たちが来てる。お前は充分稼いだだろう。楽しんできたらどうだ?」
    「病気を移されたらごめんだからやめておくよ。……国に残してきた恋人もいるしな」
    「へぇ、初めて聞いたな。どんな女だ?」
    「気が強くて、俺がいないでも生きていける女」
     相手が男だとは言わなかった。この国ではまだ同性者差別が根強く、背後から撃たれちゃ笑えないからだ。
     俺がいなくても生きていける男。きっと彼は今頃、多くの人々に支えられて生きているだろう。最後に見捨てた俺ではなく、たとえば常守のような仲間に支えられて。でも毎夜夢に見る。最後に視線が合った時の緑の揺れる目を夢に見る。マラリアで苦しんでいる間もギノの夢を見た。彼は優しく俺の胸を撫で、穏やかにキスをしてくれた。俺はそれに、愛していると答えたが、ギノは笑うだけだった。夢だというのに、都合が良くない。
     ギノは俺がいなくても生きていけるだろう。けれど俺は彼がいなくては生きていけなかった。今も目的もなく屍のように過ごしているから、もし再会することがあったら笑われるかもしれない。
    「気が強くて尻のでかい女は俺も好きだ。コウガミとは気が合うな」
    「いや、あいつは尻はでかくなかったよ。足が綺麗だった。しゃぶると喜ぶんだ」
    「日本人の性癖は分からないが、コウガミならそうするのも分かる。……煙草を吸い終えたらすぐに蚊帳に戻れ。またマラリアになるぞ。マラリアは免疫が出来ない」
    「ああ、すまないな、気を使わせてしまって」
     俺たちはそれを最後に別れた。そしてそれが彼との最後の会話になった。
     
     
    「銃をとれ! ゲリラが襲ってくるぞ!」
     銃弾が飛び交う中誰かが叫ぶ。俺はそれを聞きながら、軍から支給されたAK四七を構えた。俺たちを守っていた心もとない袈裟は破れ、土壁の窓は銃弾でめちゃくちゃに蜂の巣が広がっている。さっき隣で寝ていた仲間は撃たれて死んだ。俺も左脚を撃たれて感覚がなかった。銃弾をナイフでえぐり出し、簡単に煙草で焼いて止血し、シーツを裂きくるんだが、上手くいったかどうかは分からない。俺は躊躇なく発砲する。誰かが倒れる音がする。手榴弾が投げ込まれる。誰かが叫び、誰かが爆死する。パイプベッドが銃撃に跳ね飛ぶ。どうにかしてここから逃げなければならない。どうにかして戦線を立て直さねばならない。そのためには別の小屋にいる軍の隊長にコンタクトを取らなければ。
     だが、俺がどうにかしてその小屋に辿り着いた時、そこにいるはずの隊長はもう姿がなかった。馬鹿でも分かる、俺たちは見捨てられたのだ。
     俺は死んだ仲間の銃を使い人を殺し、死んだ敵の銃を使いまた人を殺した。この国は長く内戦が続いているせいか、ゲリラの戦闘精度は低かった。だからたくさんの人を殺せた。俺は脚を引き摺って歩いた。痛んだが、マラリアの苦しみよりはマシだった。そのうちに腕を撃たれかけ、俺はAK四七で敵を殴って腹を撃った。敵は、いや、ゲリラは血を吐いて俺に交渉した。「お前は強い、こちら側に来ないか」と死にかかったゲリラはなおも言った。だが俺は彼の頭を撃ってそれを拒否した。交渉決裂だ。俺はまだこの国の軍隊に雇われている。隊長に見捨てられた今でも、一応義理は通さねばならない。隊長に制裁を課すのはその後だ。

     
     日が昇る頃には、ゲリラは撤退していた。野戦病院を狙うという非人道的な振る舞いに俺は怒りを覚えたが、どうせこの軍の隊長は襲撃を事前に知って俺たちを見捨てたのだろう。もしかしたら、ゲリラと通じていたのかもしれない。
     残った軍人や傭兵と俺は痛む脚に鞭を打って死体を担ぎ山にし、ガソリンをかけそれを焼いた。死者のため、伝統の通りに埋める気力は残っていなかった。従軍医師、看護師、それからバイクに乗ってやって来た娼婦らに、軍隊や傭兵の男たち。俺は彼らを焼き、とりあえず首都を目指すことにした。あそこは今も戦闘が続いているが、王は精鋭の兵士たちに守られている。俺たちを捨てた隊長が逃げるならあそこだろうとも思った。銃弾を撃ち込むなら王の前がいいだろうか? そうしたら次は俺が殺されるか?
     俺は痛む脚をさすり、足元に本を見つける。それは昨晩傭兵の男と語った『やし酒飲み』という本だった。やし酒飲みが魑魅魍魎に惑わされつつも死んでしまった酒作りの名人を探しに、死者の町へと出かける主人公の話だ。
     俺は煙草を取り出し、やし酒の代わりにゲリラが残していったビールを飲んだ。水っぽかったが、飲めないものでもなかった。
     俺もそろそろ彼のように混沌とした旅に出よう。誰かを殺すために。そして出来たらもう一度マラリアにかかって、ギノの夢を見るために。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    TRAINING征陸さんのセーフハウスを出る狡噛さんが、あかねちゃんに書いた手紙のこととか、宜野座さんのこととかを思い出すお話。
    800文字チャレンジ23日目。
    最後の言い訳(愛してる) ギノに手紙は書かなかった。彼に迷惑はかけられないと思った。これ以上、彼を俺の人生に巻き込んではならないと思った。常守に手紙を書いたのは、彼女が俺に夢を見ているところがあったからだ。俺は刑事ごっこが最後までしたかった。佐々山のようになりたかった。その遊びをするにはギノじゃなく、常守が適任だった。それだけだ。彼女は俺を恨むだろう。秘密を握らされて、それを皆に告白する時俺を恨むに違いない。俺とギノの仲を彼女は察しているから、ギノに伝える時も苦しいだろう。けれど彼女なら耐えられる。俺はそう思って、あのセンチメンタルな手紙を書いた。
     バイクに乗りセーフハウスを出ると、妙に凪いだ気分だった。風は頬を撫でてゆくし、それは冷たいのだけれど、槙島との決着が迫っていることに、俺は終わりを感じていた。この事件が終わったら、きっと俺は処分されてしまうだろう。自分の色相が濁っていることも分かっている。人を殺そうと決めてしまったら、もう元には戻れないことくらい、一般市民でも知っている。でも、俺は槙島を、自分の双子のようなあの男を殺さねばならなかった。
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    TRAINING飴玉を舐めながら色々考える宜野座さんです。
    800文字チャレンジ28日目。
    キャンディ(これからのこと) 飴玉を舐めながらキスをする遊びを覚えたのは学生時代、飴玉を舐めながらフェラチオをするのを覚えたのも学生時代、けれどセックスをしながら飴玉を初めて舐めたのは、どうしてか三十を過ぎてからのことだった。
     基本的に飲み食いをしながらセックスをするのは好きじゃなかったからこれは全部妥協で、個人的に好んだのは全てが終わって水を勧められたのを飲むくらいだった。中国じゃ飲み食いをしながら一日中セックスをしたんだぜと豆知識を披露されても、だからなんだという話だ。どうやら狡噛はそれがしたいらしかったが、俺はそういうのはいい。あまり風流なのは得意じゃないし、古代に想いを馳せてするセックスなんて御免被りたい。
     話は戻って飴玉についてだが、なぜ今そんなことを考えているのかというと、今日、仕事中に警護対象から俺たちは飴玉をもらったからだ。それは小さな少女で、あなたたちにお駄賃ね、と彼女はスカートを揺らしながら笑っていた。彼女は事件の関係者の娘で、襲撃対象になっていたので俺たちが警護することになったのだが、考えすぎだったのか無事に家に着いた。それからしばらく公安局がやって来るまで守ったものの、公安局から事件が発生したとは聞かない。今はまだ、こう着状態にあるのだろう。
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