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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    9/3ワンライ
    お題【花火・行方】
    雨で順延になってしまった花火大会を残念に思う狡噛さんを、宜野座さんがマーケットに連れ出す話です。ご飯を食べたり、マフィアの末端から聞き出した取引を追ったり、花火をしたりします。

    #PSYCHO-PASS
    ##狡宜版深夜の創作60分勝負

    花火の雨 大雨が降って、狡噛が楽しみにしていた花火大会が順延になった。俺は中止になったんじゃない分よかっただろうと思ったのだが、彼はそうではなかったらしく、大きく落ち込んでいた。俺はそれが珍しく、面白く、暗闇の中雨が降りつけるベランダで未練がましくハイネケンの瓶ビールを飲む恋人を見つめながら、さて、どうやって慰めるかなんてことを思っていた。
     出島での花火大会は珍しくない。ここでは宗教行事と結び付けられることの多いそれは、クリスマスや新年を祝う時、旧正月を祝う時などに何発も豪華に上がった。思うに狡噛は花火が見たかったのではなく、そういう雑多な行事、東京にいては感じられない移民たちの生の生活が見たくて、それが叶わなくて落ち込んでいるのだろう。
    「ほら、もっと飲めよ」
     俺はそう言って、煙草を吸い始めた狡噛にビールを手渡す。自分の分も口にする。すると彼はベランダの手すりでキャップを外して、指で煙草をつまんで緑色の瓶ビールに口をつけた。外は雨が降っている。部屋に備え付けのコミッサアバターが明日にかけての豪雨を予報していたから、今日はもう晴れはしないのだろう。でもそれでいいじゃないかと思って、花火の行方はもう来週に決まっているのだからと俺は思って、狡噛にこんな提案をした。
    「マーケットに行かないか? そろそろ盆も終わりだろう、何か掘り出し物があるかも」
    「……こんな雨なのに?」
     こんな時間なのに? 狡噛が言う。俺はその真面目そうな言葉に笑いそうになって、けれどどうにかこらえてそりゃあそうだよな、こんな雨だものなと一人で納得した。
    「今日のために用意した料理たちがかわいそうだろ? 安くなってるかもしれないし、見に行こう」
    「そりゃあそうだが、意外だな。ギノがそんなことを言うなんて。いつも俺に付き合わせてばかりなのに」
     そうだ、俺はいつもお前に付き合っている。だから分かるのだ、ここでだらだらとビールと煙草を楽しんでいるふりをして、本当は街に繰り出したいことくらい。俺は花城に外出申請をする。名目は昨日の任務の続きの聞き込みだ。マフィアの末端に位置する青年が情報提供してくれた武器密輸の取り押さえ。
    「何だかサービスが良くてうたがっちまうな」
    「帰ってきてからサービスしてくれればいいさ」
     俺はそう言ってハイネケンを手にベランダを出た。果物のような味わいに、まろやかな泡、それは口を楽しませてくれたけれど、土砂降りの中で食う料理には負けるだろう。
    「外出申請、通ったぞ。さぁ、仕事のふりをして楽しもう」
     俺がそう言うと、狡噛は少し複雑そうな顔をして、「仕事ねぇ」とつぶやいた。昨日の仕事がうまく進まなかったことを彼はまだ気にしているのかもしれない。マフィアの青年から情報を得た俺たちは武器の製造工場にまでたどり着いたが、そこはもぬけのからだった。情報が筒抜けだったのだ。これでは情報にならない、もう守れないかもしれないと、足抜けしたそうな青年にそう言うと、確かに昨日まではここに武器はあったのだという。もう売り払われてしまったのだろう、というのが、彼の言い分だった。
    「仕事のふりだ、狡噛。仕事は明日からすればいい。今日は充分に走り回ったんだから」
     俺はそう言い、傘を二つ取り出した。無言で彼に渡すと、狡噛はしけった煙草を携帯灰皿ににじり消して、それを受け取った。
     
     
     俺たちはマーケットに行ったけれど、そこには店主たちの姿はあったものの、花火大会目当ての客たちの姿はなく、いつもよりずいぶんさびれて見えた。けれどそれも味がある。俺たちはそんな中、フティウと呼ばれるフォーの亜種を食べた。豚肉、牛肉団子、イカ、エビ、名前も知らない魚、もやしやエシャロットが入った具沢山のスープだ。俺たちは跳ね返る雨で足をびしょびしょにしながらそれを食べ、「今日のために準備してたんだ、たんと食べておくれよ」と言う老いた主人にせかされながら、サクサクのパンケーキも食べた。豚肉やエビ、もやしでいっぱいの黄色の生地だ。
    「ここら辺で怪しい人を見たことは?」
     狡噛が言う。すると老婆は「あんたらみたいな人かい?」と言い、彼を苦笑させた。狡噛がまとう空気は、彼女にとってはただものではないのだろう。俺だって多分、一般人には見えない。
    「……何か取り引きがあるって噂はあったけれど、それだけだね。おおよそ今夜の花火大会目当てに、何かの受け渡しをしようとしたんだろうよ」
     老婆はそう言って、氷が入ったビールを俺たちにサービスだと渡した。口をつけたそれはもともと薄かったのか味がほとんどせず、わずかに果物の爽やかな香りがしたくらいだった。ビールが苦手な人間でも飲めそうなそれだが、狡噛は気に入らなかったのか水のようにごくごくと飲んでいた。
    「それじゃあ取り引きも順延か」
    「いや、案外そうじゃないかもしれないぜ」
     俺のつぶやきに、狡噛が反論する。彼はもう仕事の最中の目になっていて、料理を楽しんでいた男はいなくなっていた。
     かくして、俺たちは雨の中、マフィアの青年が示したいくつかの場所を回ることとなった。そのうちの魚介類の倉庫では無事武器の受け渡しをとらえることができたのだけれど、ここでは関係のない話だろう。
     俺は全てが終わって花城を呼んだ後、煙草を吸う狡噛の側で手持ち花火を売る、幼い少女を見つけた。彼女はびしょびしょになった花火を泣きそうな目で差し出して来て、俺はマネークリップから外したありったけの金を彼女に渡した。少女の顔が明るく輝く。これはお情けじゃない、仕事がうまく行ったお裾分けだ。雨で花火大会が順延しなければ、今回のようなスムーズな逮捕には至らなかった。
    「無駄なものを買う趣味があったなんて知らなかった」
     狡噛が言う。俺はそれにそうでもないさ、と返して、倉庫の屋根の下で赤い紙に包まれたしけった花火に火をつけた。するとそれは驚くべきことに輝き出して、俺は思わず手から落としそうになった。
    「……無駄なものじゃなかったみたいだな」
     俺がそう言うと、狡噛は肩をすくめた。俺は一つずつ、買い取った花火に火をつけていった。花城が来てもまだしていたので、ずいぶんなご身分ねと皮肉られてしまったが、まぁ、いい身分だったのは明らかだった。でも、そんな花火も終わってしまう。まだ雨は降っている。ざあざあと、俺たちを閉じ込めるように。美しいだけの刹那的な花火の中に、俺たちを閉じ込めるように。俺はそれを心地よく思って、最後の花火に火をつけて、隣に座る恋人の顔を見つめたのだった。
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    Replies from the creator

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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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