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    佳芙司(kafukafuji)

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    リンク集【https://potofu.me/msrk36

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    POIPOI 71

    当時世間を騒然とさせた(?)例の夏のお昼寝描き下ろしイラストで一本書いておきたかった。

    #京園
    kyoto-on

    京園⑱

     熱帯植物の大木の影。幹も梢も大きければ当然葉も大きく、伸びた枝葉に隠されるように置かれたハンギングチェアが微かに揺れる。飲み物を買って戻ってきた京極が、微睡む園子を前にしてどうしたものかと眉尻を下げた。
     近年リニューアルしたばかりという温室植物園のドーム内はあたたかく人も疎らで、風も吹かず静かだ。休憩スペースで二人掛けのハンギングチェアを見つけた園子が、ブランコを見つけた子供のように腰掛けて振り返り笑顔を見せた様子が目に焼き付いているだけに、藤で編まれた籠のようなそれの背凭れに身を預ける無防備な姿に胸の内が俄に忙しくなる。小さな鞄を胸の下辺りで抱えた手も今はただ添えているだけで、降りた前髪が瞼の上にかかっている。外したヘアバンドは転がって膝から落ちていた。
     危なっかしい人だ。と、もう何度目になるか分からない憂慮は何処か甘い感情を伴う。額を隠す彼女の前髪を指先で払って退かしてやると思いの外素直に瞼が開いた。はじめから起きていたのだろうか、と、京極はやや目を瞠る。
     まだぼんやりとした視線が何度か瞬く。眠気を含んではいるものの園子の表情は柔らかく、首を傾げた拍子に前髪が落ちた。

    「真さん」

     微笑んだ彼女が居住まいを正し隣の空いたスペースに座るよう座面を軽く叩いて促してくる。もうすっかり目は覚めているらしく、差し出されたペットボトルを受け取り蓋を捻り開ける手付きもしっかりしていた。喉を通る冷たさに目を細める彼女の隣で彼も同じようにボトルを開けた。

    「気持ちよくてついうとうとしちゃった」

     伸びを一つして肩の力を抜いた園子がハンギングチェアに体重をかけ、その拍子に少し椅子が揺れた。

    「此処はあったかくていいわね。……出たくなくなっちゃう」

     温室の外は、晴れてはいるが恐らく風が冷たい。まだ日暮れには早いが陽は傾き始めている。午睡に丁度良い陽射しにはもう日陰を求めたくなるような強い暑さはない。
     夏はもう終わりかけている。
     当たり然の事が寂しく感じるのは何故だろう。
     園子が黙って京極を見上げる。彼女の視線を受けた彼は一瞬言葉に詰まったように小さく息を呑んだ。それに気付いたのか一度目を逸らして、園子が手櫛で髪を整える。ヘアバンドを着け直してから再度向けてきた微笑みが、夏の終わりを惜しんでいるだけのそれではないと分かって、しかし言葉が出てこない京極は逡巡から抜け出せない。
     ずっとこのままこうしていたいと、言ってしまっていいのか分からない。
     きっと今、互いに同じ事を考えているに違いないのに。
     京極も黙ったまま、園子の肩を抱き寄せて自分の胸に押し付けるようにして抱き締めた。ハンギングチェアが揺れて、背凭れの向こうに見えた空の青さと陽射しがやけに眩しく感じる。触れ合った身体と、腕の中の園子が額を擦り寄せるぬくもりが切ない。
     恋しい人と過ごすこの時間は、とても幸福で、胸を掻き毟りたくなるほどもどかしい。

    「もう少し、このままで。……」

     この夢の中にいたいと願ってしまう。
     京極の指先が園子の髪を優しく撫でる。彼の顔が近付いてくる気配に、彼女はそっと瞼を閉じた。



    〈了〉



    20230910/まどろむまにまに


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    佳芙司(kafukafuji)

    REHABILI園子さんは正真正銘のお嬢様なので本人も気付いてないような細かなところで育ちの良さが出ている。というのを早い段階で見抜いていた京極さんの話。
    元ネタ【https://twitter.com/msrnkn/status/1694614503923871965】
    京園⑰

     思い当たるところはいくらでもあった。
     元気で明るくて表情豊か。という、いつかの簡潔な第一印象を踏まえて、再会した時の彼女の立ち居振る舞いを見て気付いたのはまた別の印象だった。旅館の仲居達と交わしていた挨拶や立ち話の姿からして、慣れている、という雰囲気があった。給仕を受ける事に対して必要以上の緊張がない。此方の仕事を理解して弁えた態度で饗しを受ける、一人の客として振る舞う様子。行儀よくしようとしている風でも、慣れない旅先の土地で気を遣って張り詰めている風でもない。旅慣れているのかとも考えたが、最大の根拠になったのは、食堂で海鮮料理を食べた彼女の食後の後始末だった。
     子供を含めた四人の席、否や食堂全体で見ても、彼女の使った皿は一目で分かるほど他のどれとも違っていた。大抵の場合、そのままになっているか避けられている事が多いかいしきの笹の葉で、魚の頭や鰭や骨を被ってあった。綺麗に食べ終わった状態にしてはあまりに整いすぎている。此処に座っていた彼女達が東京から泊まりに来た高校生の予約客だと分かった上で、長く仲居として勤めている年輩の女性が『今時の若い子なのに珍しいわね』と、下膳を手伝ってくれた際に呟いていたのを聞き逃す事は勿論出来なかった。
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