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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    しょしょドロライ16回目「おかえり、ただいま」
    鍾離がプロポーズして断られる話

    #鍾魈
    Zhongxiao

    いつかはおかえりも、ただいまも「魈、俺と伴侶の契りを交わしてくれないか」
    「……鍾離様、それは我に向けて言ったのですか?」
    「この場にお前以外の奴がいると思うか?」
    「いえ……」
     魈は困惑していた。伴侶の契りとは何だと一瞬の内に脳内でよくよく考えたが、伴侶は伴侶でしかなくそれ以上でも以下でもない。
    「無理にとは言わない。嫌ならきっぱり断ってくれ。そうすれば俺も諦めがつく」
    「嫌では、ありませんが……」
     無理ではない。嫌でもない。鍾離が魈に対して、遠慮など一切しなくていいとは思っている。先日恋仲になって欲しいと言われた時も、自分で良ければと引き受けたのは記憶に新しい。
    「答えは今日出さなくてもいい。だが俺の気持ちを知っていて欲しかった」
     恋仲であれば、鍾離の気が済んだ後に解消されることもあるだろう。しかし伴侶となれば話は別だ。鍾離の伴侶が自分などに務まるだろうか。もちろんずっと敬愛していたのは確かである。しかし、鍾離に対する自分の気持ちなど、考えたことがなかったのだ。
     共に茶を飲み、散歩に連れ添い、共に眠る。恋仲であってもその行為はしていた。では、伴侶とは何をするものだろうか。
    「伴侶になれば、何か変わりますか……?」
    「いや、何も変わらないな。共に住むことになるくらいか?」
    「共に、住む……?」
    「ああ、そうだ」
     鍾離と同じ家に帰り、朝から晩まで共に過ごす。それが、鍾離の言う伴侶なのだろうか。
    「お前に毎日いってらっしゃいとおかえりが言いたい。そして、それを俺にも言って欲しい」
    「鍾離様に、いってらっしゃい……」
     往生堂へ出掛ける鍾離に、玄関先でいってらっしゃいと送り出し、戻る頃にはおかえりと家で待つ。日中は降魔もある故に望舒旅館を拠点にすることもあると思うが、今よりもっと鍾離と距離が近くなるということだ。
     鍾離に挨拶をする自分を思い浮かべるだけで、頬が熱くなってくる。
     ……だが。
    「我は……その幸せを噛みしめることが許される存在ではありません。それは鍾離様も存じているかと」
    「お前が璃月を守ってくれた年月を思ってもか?」
    「はい」
    「……そうか」
     鍾離の顔がすっと冷え、瞬時に気落ちしているのがわかった。魈の胸にはぐっさりと杭が刺さったように傷んだが、それはもう今日明日で解消されることでもないのだ。
    「鍾離様のお気持ちはもちろん嬉しいです。我も……我にその役目が務まるならば、もちろんお受けしたい気持ちはあります」
    「……わかった。ありがとう」
     これが今の魈の精一杯である。ズキリと胸が痛むが、これは逃げてはならない痛みだ。
    「今日の所は帰るが、恋仲であることは続けていいのだな?」
    「はい、もちろんです。……申し訳ございません」
     鍾離は複雑な笑みを浮かべて、踵を返した。鍾離が行ってしまう。引き止めてその身体に触れたい所だが、それはあまりに自分勝手な行動だ。身体の横に腕をぶら下げて、強く拳を握った。
    「鍾離様……いってらっしゃいませ」
    「うん」
     一瞬振り向いて、鍾離は頷いた。いつか、おかえりもいってらっしゃいも、自分が最期を迎えるまでには言えるようになっていたいと、初めて思った。

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    yahiro_69

    DONE魈生誕祭!の鍾魈なのに主に喋っているのは旅人とパイモンです。なんでだろう「鍾離先生、この後帰離原の方まで行くけどついでにいつもの薬届けてこようか?」

    頼んでいた清心の束を受け取って鍾離はひとつ瞬いた。
    旅人たちには時折、荻花洲にある旅館まで使いを頼む時がある。
    かの旅館に住まう少年仙人へ、凡人には作り得ない薬を届けてもらっているのだ。
    そういえば前に頼んだのはいつだったかとカレンダーを見て気がついた。

    「そうだな……少し待ってもらえるか? 一緒に手紙を書いておこうと思ってな」
    「いいけど珍しいね。ちょっとの用なら伝言するけど」

    旅人とパイモンが揃って首を傾げるのが面白くて、ふふと笑みながらカレンダーを指す。

    「いや何、今日はあの子の生誕の日だったということを思い出してな。祝いの言葉でも添えておこうかと」
    「えぇっ魈の誕生日なのか!? うーん、それならオイラたちもプレゼントを持っていくか?」
    「というか鍾離先生が直接持っていくほうが良いんじゃないかなあ。いつも先生のこと気にしてるし」

    今度は揃って別の方向に首を傾げている。
    本当にこの異邦人たちは見ていて飽きないものだと鍾離は機嫌よく筆と便箋を手元に寄せた。

    「いや、あの子はあれでいてお前たちのこ 1783