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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    しょしょドロライ25回目
    つなぐ日常

    #鍾魈
    Zhongxiao

    つなぐ日常「魈、お前から見て俺は……ちゃんとした凡人に見えているだろうか?」
    「えっ、えぇ……と……? ですね……」
     望舒旅館の露台にて、鍾離と共に茶を飲んでいる。いつもの風景だ……と言えるくらいには鍾離はここへ訪れている。しかし今日の鍾離はなぜか、ものすごく気落ちされている。茶を飲んだ後、これでもかという程に深い息を吐いている。このような鍾離を見かけることはあまりない。その訳は、おおよそ今聞かれたことに起因しているのだろうなということまでは、魈は理解できていた。
    「我からすれば……鍾離様は凡人の生活に溶け込んでおられると思うのですが」
    「そうだな。俺もそのつもりだったのだが……どうやら俺は、女性に好意を持たれないタイプのようなんだ」
    「鍾離様が……ですか……」
     魈は絶句してしまった。そのようなことなどある訳がない。鍾離程顔が整った人物は見た事がないし、何に於いても鍾離程頼りになる人物はいない。許されるのならばずっと傍にいたいと願っているのに、女人とはなんと贅沢な生き物なんだろうか。と魈は思った。
    「お見合い話を持ちかけられてな、応じたんだ」
    「お、お見合いですか……」
     先程から鍾離の言うことを反芻することしかできない。鍾離に恋仲ができたなどの話を聞くことが出会ってからこの数千年程なかった為、心の中ではとても驚いてはいるのだが、口には出さなかった。そもそも鍾離が女人に興味を示すなど想像もしたことがなかったのだ。
    「俺も凡人として伴侶を迎えても良いかと思って応じている。相手と茶を飲む段階では皆楽しそうにしているのだが、数回出掛けた後に、相手側から断られてしまうんだ。魈にはなぜこのような事態になるか、わかるか?」
    「いえ……まったく……わかりません……」
     鍾離と茶を飲むことは魈にもある。数回と言わずに何度も出掛けたこともある。鍾離と共にいることに緊張することはあれど、二度と出掛けたくないなどと思ったことはなかったので、何故そのように言われるか皆目見当もつかなかった。
    「顔が駄目なのか……?」
    「そのようなことは……ないかと……」
     鍾離ならば顔を変えることくらい造作もないことだろう。しかしそれが理由ではないはずだ。もしかしたら、顔が良すぎて見ていられないということはあるかもしれないが。
    「ならば……少し、付き合ってくれないか? 俺の駄目な所を教えて欲しい」
    「鍾離様に駄目な所など、ある訳がありません」
     魈は思わず即答してしまった。
    「実際共にいればあるかもしれないぞ。では、出掛けようか」
     鍾離の駄目な所を指摘するだなんて恐れ多いにも程がある。しかし、頼まれたからには任務を遂行しなければならない。
    「はい……鍾離様はいつも、どこに出掛けられるのでしょうか?」
    「まずは身近な所だと思い、璃月港を歩いている」
    「なるほど、わかりました」
     早速と璃月港に行き、鍾離と港の中を歩いた。時折鍾離は凡人に声を掛けられ話をしていたり、露店の新商品を見つけては店主に話を聞いていたりと、魈から見れば楽しそうに過ごされていた。悪いことではなく、むしろ良いことだと思う。そして、その場であった出来事を、魈に説明してくれている。それに何の不満もない。むしろ説明までしていただいて嬉しく思う。
     女人は何が気に入らないのだろうか。こんなに鍾離様は楽しそうなのに。
    「日が暮れてしまったな。今日はここまでにしよう。送って行く」
    「……わ、我は一人で帰れますが……」
    「そうだな。はは。そうであった」
     折角だからと璃月港の入口まで戻ってきて見送られてしまった。女人であれば家まで送られるのだろう。至れり尽くせりである。望舒旅館までは仙術を使い一瞬で帰ってきたが、鍾離が先程「送っていこう」と言った時の表情があまりにも優しい顔であったので、一瞬だけ魈の心臓が跳ねた。

     またある日、今度は早朝に出掛けようと誘われ、望舒旅館まで鍾離が迎えに来ていた。朝から出迎えてもらう申し訳なさもあったが、目的地が軽策荘の方だと聞いて、魈は甘んじてそれを受け入れた。早朝に見る鍾離もいつもと変わらない。なんなら少し眩しいくらいだ。
     軽策荘まで歩く道すがら、先日の鍾離の行動の駄目なところはあったかと尋ねられたのだが、生憎と魈は一つも駄目な所が見つからなかった旨を返した。
     軽策荘近くの竹林でタケノコを掘り、それを望舒旅館まで持ち帰って言笑に調理してもらった。待っている間に茶を飲み、一息ついていた。
    「凡人とも竹林へ行かれるのでしょうか?」
    「ああ、そうだな。少々遠いので採れたてのタケノコを土産にするのでも構わないと言ったのだが、皆ついて来てくれていた。同じように望舒旅館でしばし休んでから璃月港に帰るといった予定なのだが、それがいけないのだろうか?」
    「凡人の体力についてはわかりませんが……確かに璃月港から軽策荘までは程々に距離があるかと思います」
    「なるほど。皆ここで食べるタケノコ料理に舌鼓を打って満足そうに帰っていたから、良いのかと思っていた」
    「そうですね。凡人は珍しい食材を好むので、きっと満足されたことでしょう」
     この璃月を愛してやまない元神がここまでしているのだ。満足しない訳がない。きっと望舒旅館から璃月港までも寄り添って送られるのだろう。どこに不満があるというのだ。
     実際言笑が作ってくれた色んな具材で煮込まれたタケノコ料理を少したべたが、不味いとは思わない。鍾離もやはり採れたては味が違うと美味しそうに食べていた。別の皿で魈用にと渡された出汁だけで煮たと言うタケノコは、悪くない味だった。
    「では、今日は送る必要がないのでここで別れよう。どうだ。俺の駄目な所は見つかったか?」
    「いえ……」
    「そうか。忖度ない意見で構わないので、次もよろしく頼む」
    「承知しました」
     鍾離が帰離原を歩いて行く背中を見送る。後何回程こうして共に出歩くのが続くのだろうか。駄目な所が見つかるまで。であれば、それは未来永劫見つかるような気がしない。
     もしや、我が指摘しなければ、ずっと鍾離様は我と出掛ける予定を立ててくださるのか?
     一瞬だけ出過ぎた世迷言が頭をよぎった。鍾離は凡人の伴侶を迎えようと思っていると言っていたではないか。いつまでも魈と共に過ごしていたら、鍾離の願いは叶えられることがない。これではいけない。次に会うことがあれば、何か……何か難癖をつけて離れて貰わなければならない。
     魈はそう決意を固くして次の会合に望むことにした。

    「はは。やけにお前が考え込んで苦虫を潰したように『鍾離様は少し、茶を飲み過ぎなのかと』と言い出した時には驚いて本気でそう思ってしまったが、そういうことだったか。すまない」
     次は沈玉の谷にて茶を飲むことになり、茶を飲み日に照らされる茶葉を眺め、帰り際になんとか考えつく鍾離の駄目な所を伝えた。一瞬だけ目を丸くして面食らったような顔をして「そうか」と呟かれたことに胸が痛み、魈はすぐ様撤回した。鍾離には悪い所などなく、今日も楽しく茶を飲んでいたことを伝えると、今度は朗らかに笑っていた。
     無理だった。鍾離の悪い所を指摘するなど、始めから無理だったのだ。
     正直に伝えると、鍾離は凡人に求められるから応じているのであって、自ら積極的に伴侶を探している訳ではないことを教えてもらった。
    「それよりも、ここ数日で気付いたことがある」
    「はい、どのようなことでしょうか」
    「……やはり、お前と出掛けるのは楽しいと感じる。次はどこへ行こうか。お前の行きたい所で構わない」
    「なっ……わ、我ですか」
    「ああ」
     鍾離はじっと魈が話すのを待っている。行きたい所など行き尽くしているであろう鍾離に、行きたい所を伝える難解さを感じる。もしや凡人も、どこへ行きたいかと聞かれ、答えられずにいたのではないか。それにより鍾離は断られていたのではないか。
     今更駄目であるかもしれない所が見つかったとて、それをどう伝えて良いか、むしろ伝えるべきことなのかと魈はまた頭を悩ませ始めた。しかし、これからも何度もこうして共に出掛ける日常は続いていくのだと、どこかで安心してしまう魈なのであった。
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