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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    現パロショショ
    布団でゴロゴロしたり、デートしてみたりしようとする話

    #鍾魈
    Zhongxiao

    有意義な時間「鍾離様……もうだいぶ日が昇っています……」
    「そのようだな」
    「お、起きないのですか……?」
    「今日は休みだ。お前とまだこうしていたい」
    「先程もそう仰ってましたよね」
    「つまりまだ起きないということだ」
     今日は日曜日で、魈のバイトもなく二人とも休みの日であった。鍾離の部屋で一夜を過ごし、ずっと身体をくっつけていたようなものだが、朝になっても鍾離は腕に魈を抱いたままだった。
    「朝ごはんは……」
    「お前はいつも食べなくても良いと言っているだろう」
    「洗濯は……」
    「洗濯機に乾燥まで任せておけばいい」
     布団から起き上がる口実を即座に潰されていく。そればかりか腕の拘束が強くなった。出ていこうとする身体を後ろから抱き締められている。
    「我はもう起きたいです。折角の休みなので、何か有意義に過ごす方が良いと思うのですが……」
    「これも有意義な時間だ。何もせずお前とただ布団で寝転がる時間というのは、それだけで価値がある」
    「そうでしょうか……」
     確かに岩王帝君はこんなに朝寝坊しない。客卿もそうだっただろう。夜叉にはそもそも休日などというものがない。ただ何も無い時間をだらだら過ごすというのは、気持ちがそわそわして逆に落ち着かない。
    「……そうだな。では、魈の言う有意義な時間とは何だ? 昼からはそれをしようではないか」
    「ひゃっ」
     項に口付けられて、うっかり変な声が出てしまった。後頭部に鼻を埋められている。同じシャンプーを使っているので鍾離も同じ匂いがするはずなのだが、とても安らぐいい匂いだと鍾離は言う。鍾離はどれだけ魈を抱いても飽き足りないらしく、拘束する手を緩め、服の上から魈の身体をゆったりと撫でている。
    「そう、ですね……」
     改めて思うと、有意義な時間とは何だろうかと考える。勉学は一人で出来るので、わざわざ休みの日に鍾離に見て貰う程ではない。
     買い物……特に買うものはない。ブラブラと鍾離と出掛けるのは有意義と言えるのだろうか。特に見たいと思うものもない。このような時、伴侶とはどのように過ごすのが正解なのだろう。
    『魈はさ、先生とデートとかしないの?』
     ふと空に言われたことを思い出した。咄嗟に「鍾離様と我がデートなどして今更どうなる」などと答えてしまったが、何事も体験してみなければ、明確な答えなど出せないのではないだろうかとも思う。これは、試してみるいい機会なのかもしれない。
    「では、デー……」
     デート。口にするには短すぎるたった三文字が、あまりに言い慣れない言葉であり口を詰まらせてしまった。
    「デー?」
    「で、出掛けませんか。外に」
     鍾離様、我とデートしませんか。
     どのような顔でそんな事を言えばいいのかわからず言葉を濁してしまった。既に付き合いたての初々しさもなければ、これ以上発展するような関係でもない。どの口がデートなどと誘えようか。
    「どこか行きたい所があるのか?」
    「……特には、ないのですが」
    「俺とこうしているのは嫌か?」
    「……その聞き方はずるいです、鍾離様」
     ただ布団の中で抱き締められている時間が、決して嫌な訳ではない。鍾離を独り占めできる贅沢な時間と言えばそうなのだが、気がつけばそれだけで一日が終わりそうな気配すら感じる。それで良いのかは少し疑問に思うが、鍾離はそれを有意義な時間だと思うのだろうか。
    「鍾離様は、我と一日こうしているのが、有意義な時間なのでしょうか」
    「そうだな。誰にも邪魔されずに、時の流れも忘れてこうしていられるのはある意味幸せなことだ」
    「幸せ……」
     突然妖魔が現れてこの場を去るようなこともない。この間柄を誰かに秘密にする必要もない。自由で幸せな日々。それがこの布団の中にあるということならば、それは有意義とも言えると納得しそうになったが、鍾離の意見も少し聞いてみたかった。
    「……鍾離様は、我と……で、デートなどしたいと、思ったことは、ありますか……?」
    「……デート?」
    「はい、いえ、例えば、なのですが」
     何が例えばなのか、突っ込まれたら答えられない所ではあったが、鍾離は黙り込んでしまった。思えば共に人生を歩むようになってからは、買い物や用事に連れ立って行くことはあれど、デートらしいことをしたことはない。望舒旅館から璃月港まで歩いて散策をしたことはあったが、あれはデートだと言えるものだったのだろうか。
    「魈と、デート……」
     魈の身体をまさぐっていた鍾離の手がぴたりと止まり、あっさりと起き上がった。その様子を目で追っていると、顎に手をやり何か深刻な顔をしながら考え込んでいる。
    「……鍾離様……?」
    「なるほど。お前は俺とデートがしたかったのだな。気がついてやれずすまない」
    「いえ、そういう訳では……」
    「確かにそれは有意義な時間だな。魈とデートか……。魈とデート……」
     何回口にするのか。『魈とデート』という単語を何度も反芻しながら鍾離はその単語を噛み締めている。
    「よし、行こう」
    「えっ」
    「ちょうど日も出て暖かそうだ。外に出るには良い時分と言える。大型書店まで歩いていくのもいいな。本というのはネットで買うより、実物をこの目で見る方が何倍も趣がある。景色を堪能するのもいいな。いつもは電車で行く距離も、歩くとまた違う発見があるというものだ。そういえば駅の反対側に庭園があったように思うのだが、まだ見に行ったことはまだなかったな。魈は俺と行きたい場所や、何か面白いものを目にはしていないか? どうせならお互いに行きたいところへ行くのが良いと思うのだが、着替えながら少し考えてみてくれ」
     鍾離は突然饒舌になりそう述べると、ベッドを降りてパジャマを脱ぎ着替え始めた。さっきまで布団から出る気配など一切なかったのに、急にテキパキと動いている。それを見て呆気に取られていたものの、はっとしてまずは着替えようと自室へ戻った。
    (鍾離様と、デート……)
     デートとは何をするかも詳しくはわかっていないのに、その言葉が頭の中に浮かぶだけで既に顔が熱い。ひんやりしている自分の部屋の室温がちょうど良く感じる。
     既に昼に近い時間なので、先程述べていた鍾離の行きたい場所を回ったら、もう日が暮れてしまうのではないかと思う。昼に食べたいものくらい何か意見を出した方が良いのではないかと思いながら、何がいいものかと悩みつつ、適当に目の前にあった服を着た。
    「鍾離様、着替えたのでいつでも出られます……が……」
     再度鍾離の部屋に行くと、先程着ていた服と違う衣服を着ていた。そればかりか衣装棚を前に腕を組み、今から魔神でも倒しにいくのかという程の鋭い眼光で衣服をまじまじと見ていた。
    「鍾離様……?」
    「服がないんだ」
    「服が、ない……?」
     服なら今着ていらっしゃる。目の前にもたくさんの衣服がある。むしろ魈よりたくさんの衣服を鍾離は持っている。一体どういうことだろう。
    「鍾離様……服がない、とは……?」
    「折角魈とデートに行くんだ。それ相応の服装で挑むべきだとは思うのだが、生憎仕事に着ていく服ばかりでな。服がないんだ」
    「はぁ……」
     魈は適当にパーカーをひっつかんで着ているだけなので、非常にラフな格好をしていると言える。その辺りを散策をするのに衣服などなんでもいいのではないか。と思ったが、目の前の伴侶はそうではないらしい。
    「魈、今日は予定を変更してデートに着て行く服を買いに行こうと思うのだが、どうだろうか」
    「我は別に構いませんが……」
     鍾離のデートの意気込み具合に、逆にこちらが尻込みしてしまいそうになる。魈も、鍾離の隣に並び立つのに相応しい服装で行くべきなのだろうかとも考え始めてしまう。
    「では、我も何か……デートに着て行くに相応しい服を探してみます」
    「お前は今のままでも充分魅力的だ」
     そっくりそのままその言葉をお返ししたかった。服によって今更魅力が変わったりはしない。鍾離は龍であろうが鳥であろうが例え猫であろうと、いつも鍾離であり、どんな服を着ていても魈にとっては魅力的な方である。
    「しかし、俺が選んでいいのならそれはいい提案だ。ひとまず昼食を食べに行くとしよう。楽しみだな、魈」
     厳しい双眸から一変して、鍾離が柔らかく笑う。自分と過ごす中でまだ楽しみに思える出来事があることは嬉しく思う。全てのことに興味を持ち、それを楽しんでいらっしゃる。魈にとって太陽のような方だ。思わずそういうところが好きなのだなと納得して、少しばかりの笑みを返した。
     
     ……出掛けたのは良いが、鍾離の衣服だけでも何店舗も周り、魈に似合う服探しにこれまた色々な店を渡り歩き、もうなんでもいいと魈が投げ出しそうになってからも、鍾離は次の店へと歩いて行った。既に両手には紙袋を抱え、とっくに日は暮れている。鍾離は一体何回魈とデートに行くつもりなのだろうかと思ったほどだ。
     ──しかし、鍾離の真剣な顔や笑った顔やこだわり所を近くで見れるというのは、これは確かに、有意義な時間であると言えるかもしれないと、魈は思ったのであった。
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