夢で会えたら「はい!ハクちゃん、これどうぞ!」
イディルシャイアのとある店の小さな店主、クロちゃんから景品を貰った。
エクサークヒーラーコート、というらしい。道ですれ違った冒険者が着ていたのを見かけてから、いつか着ようとハクは心に決めていた。
早速身につけてみると、肩周りが開けているおかげで涼しい。が、薄着に見えて自分を守るエーテルが形成されているようで、防御力は高いようだ。そしてエーテル伝導率がいい。これならより強力に魔法を放てそうだ。
「わあ!とってもお似合いだね!」
「へへ、クロちゃんありがとな。これずっと着たかったんだよ。これであの人にも見せびらかせるし」
「そうなんだ、良かったねハクちゃん。あの人って?」
「あー、それは…」
「ども、お久しぶりっス」
イシュガルドを臨む丘の上。ひっそりと見守るように置かれた墓に挨拶をした。新しい花が添えてある。毎日墓参りをする、彼の心優しい親友の手によるものだろう。
「最後に来たのいつだっけ?ああそうそう、アラミゴ解放した後だったっけ」
アラミゴ解放後、エオルゼア同盟軍と帝国軍が衝突した。その時、ハクは帝国の皇太子であるゼノスと一戦交えたのだが、突如襲われた激しい耳鳴りと頭痛で気絶したことがあった。すんでのところを蒼の竜騎士エスティニアンに助けられ、イシュガルド軍に保護された。その後、フォルタン家を始め心配をかけた人々に挨拶して回り、この墓にも報告をしたのだった。
「あん時から大分鍛えたんスよ〜、おかげでイイ装備着れましたよ!ほら!」
ハクは墓の前でくるりと回って見せた。あの人は筋肉がやたらと好きだったから、露出の多い装備を着て見せると大層喜ぶだろうと、ハクは露出の多い装備に変えるとよく墓参りに来ていた。
ほんとは生きてる間に見せたかったけど。まあ、贅沢は言えない。俺を庇って死んでしまったのだから。
「!、ックシッ」
薄着で雪の中立っていたせいで寒い。しんみりしていたら寒さが堪えてきた。ただでさえミコッテ族は寒さに弱い。これ以上いたら寒さでやられてしまう。
「あ〜、それじゃ俺、帰ります!また来るんで!」
んじゃ、オルシュファンさん。と墓に手を振って、ハクは急いで宿に戻った。
宿に戻ったら温かい飲み物でも作ろうかと思っていたら、部屋の中から物音がした。
慎重に部屋のドアを開けると、留守番させていたマメットオルシュファンがココアを作っていた。
「!」
こちらに気づいたマメットオルシュファンー長いので以下マメシュファンと呼称するーが駆け寄ってきた。どうやらハクの帰りを歓迎しているらしい。
「あー、わざわざ作ってくれたんスか?あざっす!」
ハクはマメシュファンの頭を撫でて、出来たてのココアを眺めた。甘い匂いにカカオの香りが混ざって、大層美味しそうだ。もわもわと立ち上る湯気が冷えた体には魅力的に映る。
「タイミング良すぎっしょ〜天才かよ〜」
マメシュファンの分と自分の分とでココアを注ぎ、乾杯した。
「あー美味ぇ!温かくてサイコーッスよ」
ハクは耳を上機嫌にぱたぱたと動かし、マメシュファンの頭を撫でた。
いつだったか、ウルダハの政変に巻き込まれ、雪の家に転がり込んだことがあった。その時も、オルシュファンは動揺し気落ちするハク達に温かいココアを差し入れてくれた。そのことを思い出した。もっとも、今ココアを作ってくれたのは、そのオルシュファンを模した魔法人形なのだが。
「マメシュファンさんいつもマジで助かるっス、あざっす」
ハクが礼を言うと、じっと見つめていたマメシュファンがこくりと小さく頷いた。
マメシュファンのハクを気遣う行動は、これがはじめてではない。
温かい飲み物のほかにも、部屋を温めておいてくれたり、製作中に必要な素材を持ってきてくれたりと、手伝いこちらをサポートする行動をしてくれる。
また、筋肉に興味のあるそぶりも見せる。例えば、着替えている最中や露出のある装備を着ていたら背後から視線を感じてふりかえってみるとじっとマメシュファンが見つめてきたことがあった。街中でともに歩けば、筋肉質な冒険者をじっと見つめていたこともある。
もちろん、マメシュファンを制作したのは、オルシュファンを小さな頃から知る人間だ。彼の行動パターンをプログラムした可能性はある。しかし、それでは説明のつかないような、まるで心を持って己で考えて行動しているような、そんなそぶりを時折見せる。そしてそれは、まるでかつての盟友がそこにいるような、妙なリアリティを持っていた。
魔法人形は心を持つことがある、と。ハクは経験からそう考えている。彫金師ギルドにいる生き地引のネジ、イシュガルドで出会ったギギという魔法人形も、聞いて、感じて、考えて行動していた。
その経験から、彼はマメシュファンにも自律して考えるだけの心があるのではないかと思っている。
まるでオルシュファンのような行動をしたとしても、それは「オルシュファンであれ」と願われた結果マメシュファン自身がそう成長しただけのことだ。マメシュファンはあくまでマメシュファンだ。だからこそ、オルシュファンになれと、こちらのわがままを押し付けてはいけないと、そう考えていた。
彼には彼の生涯がある。オルシュファンではないのだと、考えていた。
ある、夜までは。