唯一の恋射日の征戦の中盤、雲夢江氏が姑蘇藍氏と同じ戦場で戦うことがあった。
このときも江厭離は、弟たちについて戦地へおもむき、修士たちのための食事の用意や傷の手当といった支援に加わった。
日中、江厭離が大きな鍋を両腕に抱えて外を歩いていると、白い人影がさっと近づいてきて言った。
「姉上、私が運びます」
江厭離の弟たちは「姉上」なんてかしこまった呼びかたはしない。すこし不思議に思いながら人影を見上げ、目を丸くした。声の主は含光君だった。
「えっと……」
思わず藍氏の第二公子の顔をまじまじと見つめたが、すました表情からはなにも読み取れない。彼とは江氏がこの戦場へ到着した際、簡単に挨拶したきりだった。
とはいえ江厭離は、江氏宗主の長女としていろいろな立場の人と話してきたおかげで、成人するころには物怖じしない性質になっていた。
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