夷陵の森の奥、黒い狐が花に埋もれるように眠っている。
近隣の村に流れていた噂では、悪い狐が罪のない人々へ災厄をもたらそうと、邪気を含んだ花を際限なく生み出しているという話だった。
その花に触れたものは気が狂うと恐れられ、誰も森には近付けない。
元々昼でも暗く雰囲気が不穏だと忌避されていた場所に、得体の知れない狐が棲みついている。
凶事が起きる前にどうにかして欲しいと乞われた藍忘機が見つけたのは、噂とは真逆の存在だった。
「君は何者だ? 何故、こんなことを?」
大木の根元に横たわっている狐に声をかける。
魏無羡と名乗った狐は、目を閉じたまま藍忘機の質問に答えた。
「なんとなくだよ。目的もなくぶらぶらしてて、たまたま辿り着いただけ」
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