Come on Mellow────────
「…茨、おいで」
言葉では招いているのに、手は差し出され自ら取るように促される。迷うことはない、主人がそうするようにと示すのなら従うのが下僕だ。
しかし、今は躊躇ってしまった。閣下の声音が、普段よりも少々低く聞こえたから。
(これは、間違いなく怒ってる…)
見れば分かる、と言うよりは聞いた方が分かりやすい。だから顔や態度にあまり出さないかわりに、声に感情を含ませることで否応無くこちらを従わせようとしてくるのは困ったものだが。
まあそれが効果は覿面、怒りを出されると身が竦む思いをさせられる。そんな自分の心中などお構い無しに、閣下の言動に反応を見せない自分に対して、とうとう不機嫌に顰められてしまった。
「…聞こえてないわけじゃないよね?私は来て、と言っているのだけど。ねぇ、茨?」
「───っあ、アイ・アイ!申し訳ございません、閣下の迫力に圧倒されてしまいました!いやぁ、世を統べるに相応しい貫禄!流石でありま…」
「……来るのが遅い」
「…………えっと、あ〜…。すみません…」
張り詰めた空気にいつものようには舌が上手く回らなかった。畏まった敬礼の姿勢を解いて、再度ずいっと差し出された手を渋々取ると、強く握られた。軽く引かれ、一歩閣下に寄る。
つい逸らしてしまった目線が、顎を掴まれ正面に直される。そのまま、今度は閣下から一歩近付いてきた。顔が近いです、と言うと次は拗ねてしまいそうだから、じっと閣下を見上げて待つ。
「……茨に来て欲しくて、ずっと待ってたよ」
ふっと綻んだ表情に目を奪われてしまった。その隙に唇が重ねられる。謝罪の言葉も賞賛も、今は通じない。
だから素直に、この人に身を委ねるしかないのだ。
「はい───お待たせしました、閣下」
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