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    Hino

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    Hino

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    AC6/食の細いG3に飯を食わせたい食堂のババアの話。ギャグでしかない。なんでも許せる人向け。

    食堂のババアの憂鬱〜もやしラーメンを添えて〜食堂のババアは若い子達が飯を口いっぱい頬張る姿を眺めるのが大好きである。決して給料はよくないし、本社の会計から食費を抑えろと度々お小言を貰い、挙げ句の果てに僻地のルビコンに飛ばされて不満がないとは言い切れない。それでもババアは己の信念に則り誇りをもってこの仕事を続けている。

    ただババアも頭を悩ませている問題があった。
    G3の食の細さである。レッドガンはどちらかといえば体育会系の雰囲気の強い職場だ。アーキバスのヴェスパー部隊と異なり強化人間より真人間の割合が多く、訓練もAC、MTの操作よりも体力増強に重きを置いている。だというのにこのG3は番号付きであるにも関わらず、細い。食も細ければ身体も細い。ババアはとても心配していた。そのうち過労と栄養失調でぶっ倒れてしまうのではないかと。
    食堂にはよく姿を見せるのであの手この手で盛ろうとするがいつも「野菜定食」だの「かけそば」だのオフィス街勤務の女性事務職員のようなメニューばかりを頼む。
    サービスに揚げ物をつけようとしても断固として拒否する。口癖のように「歳をとると健康診断の項目ばかり増えて大変なんです」とババアを牽制してくるのだ。酒は浴びるように飲むくせに何をぬかしているんだとババアは思っていた。
    レッドガンがルビコンに来てから数ヶ月、遂にババアは一計を案じる事にした。



    時刻は昼時。午前の業務を終えた隊員達がぽつぽつと社員食堂に姿を見せ始める。五花海もその一人だ。食堂の開放時間に合わせて現れテーブルが空いているうちにさっと席を取り、軽食程度の昼飯を食べ終えたと思えばとっとと喫煙ルームに移動して長い一服をし、そして業務に戻るのがルーティーンとなっている。今日だってそのつもりで来ていた。

    五花海が食堂に足を踏み入れて感じたのは寸胴鍋で炊いたであろうスープの香りだった。強烈な臭みがないのでおそらく豚骨ベースではなく鶏白湯。
    そういえばここ数日、食堂のババアはやたらラーメンに凝り始めたと部下が話していたのを思い出す。滅多なことでは頼む気も起きないがこの日は珍しく心が動いた。鶏ベースのスープなら余程外さないかぎりサッパリ系のはず。メニュー表の「もやしラーメン」にほんの僅かに違和感を覚えたが五花海は構わず注文することにした。
    「もやしラーメン単品で」
    「〆の白米おすすめだよ」
    「単品で結構」
    「トッピングの追加は?チャーシュー一枚だけでいいのかい?チャーシューは3枚まで追加オーダー受け付けるよ、メンマ、味玉、海苔、他の具は要相談だよ」
    「いりません」
    「せめて野菜は盛ったらどうだい」
    「...はぁ、それくらいならどうぞ」
    「普通盛りでいいね?」
    「私が大盛りなんて食べるわけないでしょうよ」
    食堂のババアは断られるとわかっていても毎回しつこいくらい食い下がってくるが、今日はいつもより引くのが早かった。たまにはこういう日もあるだろうとトレーに割り箸、お手拭きを載せて受け取り口に向かう。ババアは背後の調理場に注文内容を伝達する。
    「アンタ達!もやしラーメン、コール野菜マシ!!」
    はいよー!という威勢の良い調理場から上がる。一方の五花海はコール?食堂のババア共はコールサインで呼び合うようにでもなったのか?と一抹の不安を覚えたが後の祭りだった。
    「おまちよ!野菜マシもやしラーメンだよ!!残すんじゃないよ!!」
    いつにも増して食堂のババアが声を張り上げてトレーの上に社食を置く。
    第一印象は「山」だった。

    「...はぁぁぁ〜〜〜?!」
    丼の上に形成された野菜は完全にスープと麺を覆い隠していた。綺麗な山型に盛られた野菜の上に散らされた背脂は山頂にかかる雪の如く光っている。というかテッカテカだ。チャーシューは確かに一枚なのだが問題はサイズ。スライスされていない豚バラブロックがそのまま鎮座する圧巻の光景だった。
    五花海が閉口してトレーとドヤ顔の食堂のババアの顔を交互に見比べていると訓練から上がってきた他番号付きも並びはじめていた。
    「おつかれ、五先生...って珍しいもん頼みましたね」
    ヴォルタも驚くが見返す五花海の顔も愕然としており一番弟子はなんとなく察する。余程のことがなければへらへらしているあの五花海から笑顔がなくなっているのはある種緊急事態。
    「...先生、普通盛りで頼んだんっスか?初めは小盛り推奨ですよ」
    「は?え?」
    食堂のババアに視線を戻すとニッと歯を見せて笑う。
    「普通盛り300gだよ!!」
    「馬鹿なんですか?」
    メニュー表の細かい所を確認すれば端っこに小さくグラム表記があった。小盛りですら200gとありババアが五花海をどうやっても嵌める気だったと気がつく。
    「しかもこれ茹で前の表記でしょ、おばちゃん」
    G13こと621の言葉にまた空気が凍った。食の細い人間にとってあまり良い意味には聞こえない。
    「ということはつまり?」
    「だいたい1.5倍くらい量が増えるよ」
    馬鹿かよと五花海は心の中で毒づく。
    「馬鹿かよ!!!」
    口に出てた。

    「G系ラーメン出すって言ったらお堅い本社の会計が煩くて敵わないからね、名前はお淑やかにしといたのさ」
    「ババアは有利誤認って言葉はご存知ですか〜?」
    「詐欺を生業にしていた人間に言われたかないね」
    後ろもそこそこ詰まりだしているが口論が止まる気配がない。野次馬も集まりだした頃ヴォルタが口を挟む。
    「もう諦めて手つけた方いいッスよ先生。麺が伸びると後が辛ぇので」
    ババアも五花海もどっちも引かないが出された料理の破棄はどのみち許されないだろう。それに通常の麺料理ですら時間が経てば美味しくなくなる。ぐぅの音も出ない正論に押し黙った五花海に助け舟がきた。
    「そんなに大変ならシェアしよっか?」
    621的には食べきれないから嫌がってるんだろう程度の認識だったが五花海からすればナイスアシストである。
    「恩に切ります!レイヴンは人の心がよく分かってらっしゃる...」
    「ちゃんと腹一杯食うんだよ」
    「言われなくとも腹八分目にはなりますから」




    席についた621は早速取り皿にチャーシュー(というのも憚られるごん太の肉塊)を移し、埋もれた麺を掘り起こしつつ野菜の上に載せていく。野菜の下から出てきた麺は当然ながら太麺だった。食堂のババア謹製手揉み極太麺。これが世に言う天地返しか、と五花海は考えるのを放棄した。
    「わたしが食べる分はこっちに移すね」
    「いえ!!私が食べる分を取ります!!」
    遠慮がちにお椀、もとい通常サイズのラーメンどんぶりに自分が食べる分を移し替えようとする621を制し五花海自身が食べきれる量を取る。全体の1/3を移したが単純計算で麺だけで150g、そこに増した分の野菜も加わりシェアしたとは思えない量になっていた。チャーシューは固辞した。
    「いただきまーす」
    「いただきます...」
    食べ慣れない極太麺はとにかく小麦の存在感が際立っていた。アルデンテでもないのにやたら噛みごたえのある麺。ヘルシーなはずの野菜も背脂のおかけでコテコテに脂っこい。鶏白湯ベースで薄口かと思われたスープには豚骨の粉末が足されカエシの塩っ気が効いて上品とは対極の存在だ。
    一方、対面に座る621は幸せそうにチャーシューを頬張っていた。歳かな...とメンタルにもダメージを負っていると621と視線が合う。ハッと何かに気がついたら彼女がもごもごと咀嚼しながらチャーシューを差し出す。
    「ひとりで食べててごめん。はい、あーん」
    「...」
    他のものだったら喜んで口にしたろうにごん太チャーシューは流石に躊躇う。だいたいあーんで口に入る可愛いサイズではない。ただ目の前の621の顔が曇り始めると小指の爪ほどしかない五花海の良心も痛む。
    腹を括って齧り付いた豚バラの肉塊は今日の食事の中で最大の暴力だった。



    「五花海先輩、胃薬持ってきました」
    「...ありがとうございますレッド。優しい後輩に恵まれて私は果報者です...」
    「お、お大事にどうぞ」
    ババアの願いとは裏腹に、その日の午後五花海は早速倒れた。
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