獅子身中「白露殿」
「おぉ、丹恒ではないか!」
仙舟人の装いをした青年が、買い食いに勤しむ白露に声を掛けた。笠の薄布から見知った顔が覗く。白露と目が合った彼はしゃがんで改めて彼女と視線を合わせた。
「久しぶりじゃのう。息災であったか?」
「ああ。貴女も元気そうで何よりだ」
「どうじゃ、尻尾は生えたか?」
からかうと丹恒青年は苦笑して自分の臀に何も生えてないことを確認した。
「尾がなくても、貴女は俺に会ってくれるだろう?」
「あったりまえじゃ!!」
丹恒の言葉に白露は飛び上がり、再会した友人と手土産を歓迎した。
「景元にはもう会ったかの? 相変わらず魔陰の身の兆候すらないジジィじゃ! 今日も診察したが、はなまる健康体じゃの」
「そうか。良かった」
白露の言葉に丹恒が小さく微笑み、手ぬぐいで彼女の口元を拭ってやった。
彼はよく無口だ無表情だと言われているが、白露には感情豊かで、口数こそ多くはないが言葉を尽くす誠実な青年に見えた。自分達の生い立ちを除いても彼を好ましく思う。師と弟子、もしくは兄と妹のような関係は言い得て妙だった。
だからこれも好意の上での忠告だった。親しい友人が辛いことになるかもしれないと思うと、耐えられなかったのだ。穏やかな丹恒の目を見つめる。小首を傾げる彼に、白露は医者として親友として、しっかりと忠告をした。
「じゃが腰痛には気をつけよ。景元にはすでに湿布薬を出してやってるからの」
「そうなのか? 将軍は事務が多いから、そのせいだろうか」
「違う違う! 蜜月とて励みすぎるなよ、という意味じゃ! 丹恒自身も気をつけるんじゃぞ?」
「そう言われて、俺は……」
話終えると途端に両手で顔を覆ってしまった丹恒のつむじを数えながら、景元は小首を傾げる。
「御忠告痛み入るな。しかしそうか……年寄りの腰でちゃんと君を満足させられてるのかという心配が」
「その前に別のことで思うところが無いだろうか!?」
年端も行かない見た目の少女にセックスをしすぎるな、なんて注意されるとは、丹恒の今までの人生で受けたことの無い恥ずかしさだった。
あの後、完全に固まってしまった丹恒に白露は新たに処方箋をいくつか渡し、何度も気をつけるようにと言いつけて明かりが灯り始めた夜市に走っていった。はっと気がついた丹恒は、まさかその処方箋を薬剤師に渡せる訳もなく、早足で景元の屋敷に帰ってきたのだった。
ただ親友に挨拶してきただけなのに、こんな出来事になるとは……冷静な開拓者であるはずの丹恒でも混乱をずっと引きずってしまい、可哀想に涙目で頭を抱えてしまっている。
そんな丹恒を痛ましいと思いつつ、景元は別のことで困っていた。
今回の逢瀬ではまだ丹恒と欠片も触れ合っていなかったのだ。なんなら愛獅子の方が擦り寄ったり舐めたり甘噛みしたりとやりたい放題だ。
卓を挟んで近くに寄ってこない丹恒に手を伸ばす。
「丹恒、過ぎたことは仕方ない。ほら、こちらへ……」
「……腰は大丈夫なのか?」
と、指先が届くその前に掠れた声が景元を止めた。
「ああ。ここ暫く神策府に缶ずめになっていたけどね、白露殿の薬で随分楽になった。座りすぎは体に良くないね」
「……他に不調を隠しては?」
「白露殿からの診断通りさ。健康そのものらしい。たまに眠気が酷い時があるが、あれはどうにもならないそうだ」
優しい恋人だ、ここまで景元の体を気にしてくれるとは。そのお礼を愛にしたためて返そうじゃないか。もう一度景元が手を伸ばそうとしたその時、パシリと手の甲を叩かれた。
「丹恒!?」
信じられないとばかりに景元が目を見開く。反対に丹恒は目を閉じ、鋭く息を吐いた。
「今回は貴方に触れない」
「……というと?」
互いにごくりと息を飲む。
「共にすごしたいとは思う。だが、セックスはしない……!」
物怖じも臆することもなく将軍お膝元の羅浮神策府を元気に走り回る開拓者達の姿に、高段から景元の隣で眺めていた彦卿がその中の1人に違和感を覚えたようだ。
「将軍、丹恒先生と喧嘩してるの?」
なかなか鋭い指摘だ。
「何故そう思うんだい?」
「丹恒先生、時々将軍のこと見ては直ぐに視線を外すから。まぁよくわかんないけど早めに謝っちゃいなよ」
そう忠告してくれる彦卿に笑いながらも、実は景元はこの状況を実際に楽しんでいた。
触れるな、と滞在初日に宣言されてからは景元は誠実にそれを守った。
老い先短いと自分で言うように、すでに景元は数百年も生きた長命種だ。その長い年月の中で、性欲というのはとっくに覚えのない感覚になっていた。今は丹恒と逢う度に交歓を深め合うが、それは互いに隙間が無いほど求め合っているからこその交わりだった。
だから実は、丹恒に触れ合えなくても寂しいと思うところは多大にあるが、どうしてもセックスしなければという程の焦がれるほどの感覚はない。むしろゆったりとした気持ちで丹恒と寄り添い語らいあっている。
こんな過ごし方も、悪くは無い。
ただ丹恒が少し気まずそうにしているのだけは、何とかしてやらねばと思った。
任務が終わり丹恒の定宿となっている景元の屋敷に共に帰る。今日は何が起きたか、どんな任務だったか、とつとつと教えてくれる丹恒に頷きながら彼の好きな白茶を温くいれてやる。
「今日の任務は大変だったね。まさか永狩原野の密猟者が逆に狩られる立場になるなんて」
「どちらにしても密猟者は捨て置けない。洞天の地衡司にもくれぐれも頼んだから、然るべき対処をしてくれるだろう」
青磁の杯をくっと煽り、白い喉が上下に動く。ほぅと息をついた丹恒に、景元も微笑んだ。
「もうすぐ出発だね」
「……」
「あと3日か……」
列車の停車時間は問題さえ起こらなければ一定だ。今回は羅浮での補給と任務が重なり10日間の滞在となった。
「……」
「穹から、明日からは任務は無いと聞いているよ。やっと自由時間になったんだ、どこか出掛けようか?」
夜は共に過ごせるが、今回は2人とも多忙で昼はすれ違ってばかりだった。ぜひ新しくオープンした店や新茶を丹恒にも楽しんでもらいたい。
「……」
「丹恒?」
青磁の杯を指で撫でつつ、丹恒は顔を伏せたまま答えない。
「出掛けるのはやめておくかい? 君も今日までの任務で疲れたろう。ゆっくり碁でも楽しもうか」
「……いや」
先程より熱くした茶を差し出すも、ふるふると頭を振られる。
もちろん丹恒のこの様子の理由に気づかない景元ではなかった。心配する表情で、笑みを抑える。
愛しい青年を驚かせないように、ゆっくりと手を伸ばした。
「さて……君がどうしたいのか、そろそろ教えてくれるかな?」
「っ!」
触れるギリギリ、麿い頬を手のひらに真綿のように柔く包む。産毛がふわふわと景元の肌をくすぐるのが気持ち良い。
「ね、丹恒……」
甘い、丹恒が好きだという甘い声で促してやる。頬にある親指でツイと肌を撫で上げた。
「あ……」
掠れた声が丹恒から振り絞られる。懸命な様子に景元も小さく息を飲んだ。
「俺から言い出したのにこんなこと言うのは卑怯だとわかってる。それでも、」
「うん」
「貴方に……抱かれたくて堪らないんだ……!」
よし、陥落だ。
「おいで、丹恒」
青年が答える前に杯を持ったままの手を取り抱き寄せる。丹恒が取り落とした杯を極上の絨毯が音なく受け止めてくれた。
「景元」
「さぁ、君を抱かせて」
「ん……!」
景元に比べると一回り小柄な青年がすっぽり抱き締められて隙間なく寄り添う。その顔はまさに悦を浮かべていて、頬はじんわりとリンゴのように染まり、薄い唇からは速い吐息が待ちかねるように盛れている。龍身こそ表してないが、青灰色の瞳は明るい翡翠に転じて、ポロポロと玻璃の涙を流していた。
「泣かないで丹恒。そんなに寂しかったかい?」
「んっ……貴方は普段通り近くにいてくれるのに、とても遠くに感じて……あ、」
抱き合い絡まりながら寝台に2人身を投げる。互いの服を脱がせあいながら、唇をはキスを辞めることはしない。時に吸いながら、時に噛みつきながら、呼吸の好きを狙って舌を差し込み、甘い口内を蹂躙しながら。
2人分の唾液を溢れさせる丹恒の口端からそれをじゅるりと吸い取ってやりながら、景元はふと気付いた。
「……おや」
その声にキスで朦朧としていた丹恒もはっと気づいて慌てて身を起こす。
「これは、ちがッ」
「ほら、大丈夫。慌てないで」
丹恒はすでにほとんどの衣服を景元に剥ぎ取られ、あとはスラックスと下着だけだ。少し抵抗する丹恒を宥め、景元はベルトに手を伸ばし、細い腰から下着ごと一気に引き抜いた。
「わぁ、これは……」
「み、見ないで、くれ……」
すでに溢れた愛液でびしょびしょに濡れている下着に、流石の景元も予想はしていなかった。
よほど恥ずかしいのだろう。膝を擦り合わせて身体を横に倒して丹恒が出来るだけ身体を小さくしている。
だが、そんな恥ずかしがる顔も、滑らかな肩も、肉付きの良い胸や太腿も、細い腰も、しなやかな手足も、全て景元の前にあるのだから隠れようがない。愛液にてらてら濡れた丸い尻も。
「丹恒、君は最高に可愛いね……ずっと我慢してきたからこうなったのかい?」
「う……」
こくこくと頷く。その仕草がとにかく可愛くて、ずっと見ていたい光景だった。だが景元自身耐えきれず丹恒に覆い被さる。
甘そうな耳たぶを食んで、息を吹きかける。
「私もね、もう我慢出来ないんだよ」
「あぅ……!」
性欲がないというのは、あれは嘘だ。
「君が欲しくて堪らない……」
丹恒を前にして堪え性の無い男は舌なめずりをし、荒々しく自分の豪華な衣装を剥ぎ取りすでに猛々しくそそり立った自身の男根を見せつける。恥ずかしがり怯える丹恒はそれを見て目線を思わず逸らすが、直ぐに小さく細めて物欲しそうに見てきた。
直ぐに丹恒に覆いかぶさり、その目元にちゅっとキスをする。お互いのまつ毛が擦り合わさる距離で景元は瞬いた。
「ね?」
「……ん」
景元のうなじに手をするりと伸ばした丹恒が、もうすでに隙間もないほどの距離なのに、さらに傍に行きたいと擦り寄る。
一瞬も離れないほどの近さで何度も互いの唇を吸い、舌を絡め合う水音だけが部屋に響く。
景元が丹恒の濡れた秘所に指を伸ばした。ぐちゅりとぬかるみが吸い付いて、喜んで景元を迎えた。
「ん、あっ、」
敏感な粘膜を優しく擦られて、景元の耳元で丹恒が喘ぐ。掠れた青年の声が心地よく、また下半身にさらに重く熱を持たせる。まったく、本当に誰が性欲などないと思ったのか。何度だって自分の思い上がりを詰った。
にちっ、ぬちゅ、と三本の指で拡げながら丁寧に淡い秘所をトロかせていく。
「うぁっ、ッ、あ、」
「こんなに柔らかい……。もう入ってしまうかな?」
寝台のシーツさえもびしょびしょになるほど濡れたソコは、丹恒が返事をするより早く景元の指をきゅっきゅっと吸い付き先を促した。赤い顔が、さらに熟れた番茄のように限界まで赤くなる。
「あぁッ!」
キスのせいで花のように鮮やかになった唇から恥じ入る声が細い悲鳴のように天蓋に包まれた。
「もぅ、いいから、だめッ」
「だめ?」
「っちが、ダメじゃな、もう早く……!」
ますます荒くなる息遣いの中で丹恒が懇願する。この数日ずっと待たせてしまったのだ。景元もこれ以上焦らしはしなかった。
二、三度ほど自身を扱き、さらに勃たせると、丹恒の秘やかな所を目掛けて突き立てた。
途端、理性を引き離すような抗いようのない快感に景元は奥歯を食いしばった。
「ぁッ、あ――ッ!」
限界まで引き絞られたか細い声が丹恒の唾液に塗れた唇から上がる。
男の亀頭はすぐさまぬかるみに嵌るのを阻まれる。狭い入口が侵入を拒んだ。
「っ、」
「ふぁッ、あ、ん……」
ぎりぎりと拒む肉壁に丹恒自身も焦れているが、それも快感となって涙が止まらないようだ。
可哀想だがその抵抗を無視し、景元はゆっくりと肉を裂くように両壁を押し進んだ。
「くっ……う」
「あ、あ、ぅ、あ」
堪える獰猛な呻きに嬌声が断続的に重なる。強張っていた身体はクッタリと全身を景元の腕に預け、与えられる快感に夢中になる。トロトロに蕩けている細腰をガシリと掴み、少し乱暴に引き寄せた。
汗でしっとり濡れた濃い黒髪が、少し日に焼けた身体に絡んでますます色香を強める。引き寄せ突き上げられた快感で震えた丹恒の、景元が次に何をしようとするのか期待した目が一層潤んで見つめている。
汗の味がするぽってりと育ちきった乳首を一舐めし、大きく足を広げて景元を受け入れさせた体制はそのままにさせ、弾みを付けて丹恒を引き寄せた。
「ひっ、あぁああああ!!」
一気に腰を進める。大きな瞳が一層見開かれた。
甲高い悲鳴が2人きりの天蓋に響き、鼓膜を震えさせる。
「あっ、あ……ゃーー」
「くっ……」
じゅくじゅくと真っ赤に熟れ、潤みきったぬかるみに根本まで性器を突き入れると、ボタボタと涙を流して泣きじゃくる丹恒が虚ろに声を上げる。綺麗に切りそろえられた薄色の爪を乗せた足の指がくるんと丸まって過ぎる快感に耐えていた。
だが景元が深く貫いた先は慣れ親しんだ男根を迎合し、うねり包む。すっかり形を景元のものに変えたそこは胎内の肉壁が甘えて、絡みついて、強請ってくる。
「んっ……! あ、あっ」
「……平気かい?」
「んっ……んんっ!」
ゆるゆると抜き差しし、震える耳の柔らかい毛に濡れ切った声を囁かせると、それにも感じるように首を竦め声を上げる。くったりと落ちていた両手は、縋るように景元の首に回される。健気なその様子に苦笑しながら、抱きかかえるように背中に手を回し上半身をピタリと添わせる。胸板に押し当てられる凝りきった乳首の硬い感触を楽しみながら、気を反らせるように口を吸った。
「んん……ふぁ、ん」
「……っ、動くよ」
「あ……や――――――っ!」
ぐちゅんと少し大きめに腰を動かすと、高い嬌声が耐えきれないとばかりに合わせたままの口の中に吸い込まれた。蕩け切った筒は予想出来ないうねりで景元を逆に攻め立て飲み込もうとする。さっきよりもずっと蕩けた表情を見せる丹恒に目を細めた。
「っ、私を見て、丹恒」
「ふッぁ……っあ……あ、ン」
潤んだ瞳が必死に瞬きし景元に答える。甘ったるい声を上げる唇を大きくひと舐めし、小さな舌がちろりと出てきた所でそれを甘噛みし自身の口の中に引き込み食んだ。ふくふくした舌が甘くて脳まで痺れそうだ。
「ん、ん……ふぁ……あっ」
絶え間なく口づけをしている間も腰の律動は止めない。抱きしめた身体を逃がさないようにきつく抱きしめ穿つ。
お互いの胸が合わさり早い鼓動が伝わりあう。
ぐちゅぐちゅと水音が高く聞こえてくる度に、耳からの快感に耐えるように丹恒が瞼をギュッと瞑る。
「んんッ! ……あ、んっ……」
「……ふッ、気持ち良いかい?」
「……ん、きも……ち……ぁ、ん……っ! ……ぁ……っ!」
一際音高く腰を打ちつけると景元の首にからまる腕がギュウギュウ締め付けられる。
丸い尻を撫でて、腰を両手でしっかりと掴んだ。
「一度、達しておかなきゃね」
「あっ、や、なに……?」
怯んで舌が回らない様子の丹恒に、構わず思い切り腰を打ちつけた。
「あぅっ! あっ、あっあ、……ゃあ!」
「……っ、狭いな……!」
「あぅ……ふ、あ、あっ、はげしっあっ!」
今まで散々にゆるゆると犯した胎内を、突然大きく怒張した性器で暴きまわる。
丹恒の呼吸も何もかも無視した乱暴に、瞳からポロポロと涙が溢れて髪がそれを吸う。性的興奮が頂点に達し、征服欲と激しい嗜虐心が景元の本能から顔を出す。
鮮やかに赤く咲く愛らしいぬかるみに、自身の赤黒い歪な性器がテラテラ濡れ光りながら抜き差ししている。
とてつもない充足感が全身を満たしていく。自覚できる程歪に口角を上げ、腰を回し胎内を掻き混ぜる。
「あっあぁっんん―――!」
「丹恒っ……」
「……あっ、あ、あぁ……! や、あぁっ!」
丹恒の荒い呼吸がより疾走していくのがわかった。とろっと蕩けた瞳が狼狽えている。
達する寸前の大きな快感の波が身体を駆け巡っているのだろう。喘ぎながら景元の目を見つめてかすかにかぶりを振る。もう限界か。
「あっ、……あ、あ、んぁ、あぁっ……!」
「いいよ。……達して」
より一層強く深い場所に性器を叩きつけ身体を揺さぶった。
「ゃっ……あ、あぁ――――……!!」
「くっ……ッ……!」
瞳がぎゅうと閉じて臍が痙攣する。眼下の白い身体が大きく震え、背中が綺麗にのけぞった。
丹恒の身体が快感に跳ねるのを押さえつけるように、景元は愛しい青年を強くつよく抱きしめ腰を打ち付けた。
「っく、……」
「っあ、あ、っ……あぁ……景元、ッ、あ!」
余韻のようなか細い悲鳴が、景元の名を呼んだ瞬間、雄の性も胎内で弾けて満ちた。
幾度も交わり、2人で満たされた吐息に包まれる。いつものように眠るために隣の部屋に向かうと、清潔な寝台の傍にすでに清め用の盆と替えの服が置いていた。もしかして今夜の蜜時を神策将軍は容易く見破っていたのだろうか。丹恒は大きな手に体を丁寧に清められながらそんな事を考えていた。
景元も乾いた夜着に着替え、すっかり身支度を整えてから寝台にことりと横たわる丹恒を背中から抱きしめた。
そして全て吐き出し、景元の手の中にすっぽり入るペニスをゆるく撫でる。すると「あっ、あっ、」と可愛らしい声が鳴った。
「もう、出来ない、から、……んっ」
「こんなに気持ちよさそうなのに?」
「もっ、何も出な、」
力のない身体で景元に好きなように愛でられながらも、何とか身を捩ってその手から離れようとする。ぴゅくりと鈴口から半透明の液体が少しだけ零れた。
「ほら、気持ちよかった」
「……ぅッ、また心配させたら、」
「うん?」
「だから、……その、彼女が」
「! 白露殿のことかい?」
そこで景元もさすがに手を止めた。やっと解放されてぐったりとした丹恒を、改めて自分の体の上に抱き上げる。何度かもぞもぞと動いて丹恒も心地よい位置に落ち着いた。
ぐっと身を伸ばして枕元の手ぬぐいを取り、景元の手と自分の太ももを拭った。らしくなくその手ぬぐいを床に放り投げて、また景元の体の上に戻った。
心地よい重さと鼻先をくすぐる丹恒の髪の匂いに、景元も大きく息を吐いた。
「……さっきの話だが」
「白露殿だね。……そうだね、心配させないように少しだけ控えよう」
「頼む……」
丹恒は口元をむずむずさせた。言いずらそうに眉根を寄せる。
「その、ずっと考えてたんだ。どうして彼女に知られたのだろうと……」
ああ、それは。と、景元がにっこり笑った。
「君との仲は周知の事実だからね」
「そうか……え!?」
丹恒が跳ね起きた。
「見知っている者はほとんど知っているのではないかな? 符玄殿も御空殿もご存知だ」
「え、……え!?」
「彦卿にはまだ早いから黙っているんだけれど……でもあれは知っているね。ませた子だから」
丹恒が目を白黒させてる間にも景元がとつとつと知り合いの名前を羅列する。羅浮で世話になった者のほとんどが彼らの関係を知ってるとは。
「なん、で、」
「何でだろうねぇ?」
景元が嘯く。何でも何も、彼自身が噂を広めたからに決まっていた。
理由は2つ。
1つは、知られていた方がスケジュールを合わせるのに丁度良かったからだ。
列車が来れば神策将軍は隠れる。
今回のようにどうしても職務をずらせない時以外は、これで丹恒と共に過ごせる時間を確保出来る。極私的な目的だった。
もう1つは、追放を解かれたばかりの丹恒に、景元の後ろ盾があると周知する為だ。
列車の友人たちに宣言したように、丹恒の身の安全は神策府としては保証できない。だが景元自身はそうではない。
きっと丹恒は彼の手助けなど必要ないだろうが、せめて未来へ歩み出す背中をほんの少しでも支えたいと思うのだ。
だから2人の関係はあえて隠さず、人払いも最低限にしてきた。親しい友人達には、とくに丹恒に好意を持っている白露には診察がてらお互いに世間話の花にしていたのだが、それが今回は困った方に行ってしまった。
まだ混乱している丹恒の猫毛をぽんぽんと撫でて、そのまま自分の腕の中に引き寄せる。
「まぁ、皆に祝福されるなんて素敵なことじゃないか」
「そ、そう、なのか……?」
景元の明るい声に、丹恒はまだ混乱している。また明日になれば一悶着あるかもしれないなと苦笑した。
丹恒はまだ不思議そうに瞬きしながら、景元に抱きしめられる心地良さに次第に満足気に息を吐いた。