G組とヘルムート メリッサメリッサ
ヘルムート・ボーデ。帝国軍人。和平の証としてガリアに……ランシールに。
ゼリ様が嫌いな、憎い、帝国軍人。
偵察科で組む機会はあるが現役の軍人を、和平の生きた証を倒すのは得策ではない、それくらい分別はつくのだ。ゆえに手出し不可能な焦れがメリッサの全身を苛む。
ゼリの目指す所に影があるなら引き裂いて血路を開くくらいの自信はあった。
しかしいまは直接は影にならない、和平の証としてガリアに留学という形でいるヘルムートを害することがどうなるかなど結果がわからないほど頭は足りなくない。
同じ偵察兵科でいままさに偵察兵科として集い、会話はアバン・ハーデンスが中心となりながらも時おりあらぬ方向に突っ走るアバン・ハーデンスが慌ただしくして周りが諌めたりするのをヘルムートは肩を竦め、たまに意見に口出しする程度だ。
偵察兵科は一部を除けば、あまり仲良しこよしという風ではない。
だからメリッサはとくに口を挟まずやかましい級友たちを眺めていられる、ここにゼリはいないのだから起こすアクションも限られていて、とくにメリッサは意見を出す方ではないため他の皆もそう求めてこなくて極めて楽だ。
ヘルムートという憎き存在を盗み見続けることだって容易い。
──彼が本国に戻り再びガリアの地を荒らしに踏めば直接下すことは有り得る。
ヘルムートは所詮一時しのぎの証。それはこのランシール内でも既に広まっていることで、ヘルムート自身それを肯定も否定も挟まず重く口を閉ざしている……
であるのにも関わらず、あのダルクス人の村での悶着から先、愛するゼリと簡潔な「あれ」「わかった」程度の意思疏通をするようになったヘルムートがたまにあるのは、とても目障りだった。
アバン・ハーデンスがいつものようにゼリ様に迷惑をかけるようにまとわりつくのも疎ましいが、 あくまで利害関係だけの今、恨めしい相手が眼前にいながらにしてなにもできないのがメリッサにはとても歯痒い事実。
ゼリだって完全に許したわけではないのを、いつも彼の機微を彼の背でつぶさに眺めるのが常のメリッサにはわかっている。
だからこそ、これは帝国の動向も注視せねばならなくなるなと──ばらばらに同兵科のクラスメートたちが席に立つのに倣い、突然彼が周囲に視線を走らせた。
さすがにあちらで現役軍人であるからか少しこぼれてしまった殺気を察してか、メリッサと彼との目線が交差しそうになり、メリッサより先にヘルムートの方がやや瞠目して、そして帽子のつばを深く傾けた。
おや。とメリッサはおもわずほくそ笑んでしまった。
そういえばいつだったかの演習場で、最後まで発見されなかったメリッサが隠れるのに飽きて背後から声をかけた際、他のクラスメイトたちは各々驚いていたがヘルムートは微かな反応だけがかえってきていたが、おもえばあれは顔色や態度に出ていなかっただけでなんらかの動揺を誘えたのかもしれない。
「……うふふ」
「!っ……いない」
わざと声を漏らし笑う。すぐさまに視線をこちらに投げつけてきた気配があったが、壁を
メリッサは苦手意識を持たれることは常たるものなので心に来るものもないが、それが憎き帝国軍人相手だとすると愉快な予感がした。
おわり