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    ナンナル

    @nannru122

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    ナンナル

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    ファンタジア。🎪☆前提🎈🌟2

    ム幻のセカイでヨ想もできないギ曲をトモに。2(類視点)

    「改めて見てみると、見つけづらい所に宝箱とかが置かれているんだね」
    「さっき地面に靴とかも落ちてたし、このセカイってゲームのダンジョンみたいに創られているのかも」
    「それって、途中でモンスターが出てくるってこと?」
    「可能性としては無くはないと思うけど、体力とか、レベルとか、経験値とか、そういうのは表示されないし、経験値集めの意味が無いなら、出来れば遭遇したくないかな…」

    すっかりゲーム好きとして考察を始めた寧々に、つい くすっと笑ってしまう。こういう状況は、寧々にとってはとても楽しいのだろうね。いつものどこか一歩引いている様子は無い。僕よりも状況把握が早くて助かるよ。
    今までに集めた物を広げて一つひとつ確認する寧々を頼もしく思いながら、彼女の話に耳を傾ける。真剣なのは、ここが彼女の得意なゲームに似たセカイだからか、それとも、司くんの為か…。

    (あの時司くんと一緒にいたのは、きっと寧々のそっくりさんだとは思うけど、寧々自身が司くんをどう思っているのかを聞いた事は、今まで無かった…)

    司くんと寧々には、似ているところがある。二人の息が合っていると感じることも多い。きっと、えむくんよりも寧々の方が司くんと気が合うんじゃないかな。口では素直になれなくて、どこか素っ気なくしているけれど、寧々は司くんを嫌ってはいないからね。むしろ、好感を持っているとも感じる。時折、彼女が司くんに向ける目が、僕やえむくんに向けるものとは違うから。
    だから、あの時中庭にいる二人の姿を見て、“もしかして”と思ったのだろう。二人なら、有り得なくはない、と。

    「類…?」
    「ぁ、すまないね。少し、ボーッとしていたみたいだ」
    「…司が心配なのは分かるけど、ゲームオーバーにならないよう気を付けてよね」
    「……そうだね」

    真剣な顔の寧々に一言謝れば、彼女はまた話し始めた。
    うんうん、と何度も頷いて寧々の話を聞くえむくんの隣で、寧々の手元に視線を落とす。多分、先程宝箱らしい物の中から出てきた腕輪について話しているのかもしれない。バフやデバフとか、特殊効果なんて専門用語も出てきていて、えむくんは首をあっちへこっちへと傾けている。説明する寧々は、見たこともないほど生き生きして見えて、それがなんだか微笑ましい。

    「で、この飴が体力回復で、こっちのクッキーが状態異常回復っぽいんだよね」
    「おおぉおお! なんかかっこいいね!」
    「状態異常回復があるなら、状態異常をかけてくる相手がいるってことかな?」
    「多分。それから、攻撃力アップのキャラメルと、防御力アップのお煎餅、素早さが増すラムネとかもあるみたい」

    宝箱の中身は殆どがお菓子だった。飴の量が多いのは、体力回復が一番大事だということなのかもしれないね。ただ、戦いの最中に飴を舐めるというのは、中々に難しい要求だと思うのだけど、これは噛んでも効力はあるのだろうか。
    なんてぼんやりと考えていれば、お菓子を片手に摘んだ寧々がほんの少し顔を顰めた。

    「いや、それよりも、お菓子が回復アイテムってなんなの。もっとそれっぽい見た目のポーションとかの方が雰囲気が出るのに…」
    「まぁ、見たところ司くんの想像力が反映されているようだから、こういうアイテムも、子どもの頃の司くんの発想なんだと思うよ」
    「……まぁ、司らしいけど、イマイチやる気が出ないっていうか…」
    「その文句は、彼を無事に助け出してからにしようか」

    寧々の頭にぽん、と手を置いてそう伝えれば、彼女は小さく頷いた。これは、司くんを助け出した後に、寧々によるゲーム講座が始まりそうだ。勿論、受講者は司くんなのだろうね。
    ふふ、とそんな二人を想像して、つい笑みがこぼれる。ふと気付けば、宝物の山の中に小さなペットボトルが三本ほど置いてあるのが見えた。司くんの性格を思わせる薄いオレンジ色のペットボトルに手を伸ばしてそれを取れば、分かりやすく“オレとくせい!”と子どもらしい字で書かれていた。
    それがなんとも司くんらしくて、またくすっと笑みがこぼれる。そんな僕の手元のペットボトルを見た寧々が、「あ、」と声を発した。

    「それ、精神状態を安定させる飲み物だって」
    「まさかのメンタル補整効果っ…!?」
    「“オレ特性ミックスジュース”ってやつで、材料は栄養価の高い果物や野菜を混ぜ合わせたものだって」
    「僕には必要のない物だね」

    そっとお菓子の山の中に戻せば、寧々に、じとっとした目を向けられた。
    正直、二人に比べれば、多少は精神にダメージを受けることはないと思うからね。実際に動物や人を斬るというのはしたくないけれど、ここはセカイだ。全て創り物であり、やらなければ自分達がやられるとなれば、多少非情にもなれる。その点、心優しい二人には、ぬいぐるみを傷付けるというだけでも気になってしまうだろうからね。
    一通り確認を終えた所で、集めたものをポケットへしまっていく。これがまた不思議で、普通なら容量を超えてしまうだろう量をいれても全然平気で、更にまだ入りそうだ。取り出す時も、欲しいものを思い浮かべればあっさりと出てきてくれるしね。とても便利な世界だね。

    「それじゃぁ、そろそろお城に向かおうか」
    「さんせー! 早く司くんを助けないとね!」
    「そうだね」

    元気に立ち上がった えむくんが、両手を空に向けて伸ばす。彼女はどこでも元気で明るくて、見ている僕らも自然と明るくなれるね。
    ぴょんぴょん、と跳ねるえむくんに寧々が「落ち着きなよ」と声をかけるのを横目に、お城の方へ顔を向ける。とりあえず、まずは、あそこに辿り着くのが目標かな。

    「…ん……?」

    ふと、少し先の地面に何かが落ちているのを見つけて、近寄ってみた。どうやらぬいぐるみの様だ。ツインテールの女の子のぬいぐるみは、髪の色がなんだか司くんによく似ている。
    そのぬいぐるみを拾い上げる。とても大事にされていたのか、ふんわりとした手触りで結構大きいようだ。子どもが持つにはちょうどいいサイズ感だろうね。けれど、着ている服だけが何故か質素に見える。どこかで見た事のあるような薄緑色の服をまじまじと見つめれば、横からえむくんの声が聞こえてきた。

    「その子、咲希ちゃんにそっくりだね!」
    「…言われてみれば、司くんの妹さんに似ているね」
    「じゃぁ、それって司の落し物?」

    今の咲希くんより髪も短くて幼い感じがする。それに、表情もどことなく暗い。もしかしたら、幼い頃の咲希くんなのだろうか。
    じっ、と人形を見つめていれば、どこかから鳥の羽音が聞こえてくる。寧々やえむくんも気付いたようで、三人で空を見上げれば、お城の方向から大きな鳥が飛んできた。あまりに大きな鳥に、えむくんの目がきらきらと輝く。

    「すごいおっきな鳥さんだね!」
    「……類、もしかしてこれ、敵襲…?」
    「…覚悟しておいた方がいいかもしれないね」

    嫌な予感に寧々と顔を見合わせれば、大きな鳥がゆっくりと高度を下げてくる。その背中に人影を見つけて、僕らの予想が当たったのだと知れた。ひょこ、と顔を覗かせたえむくんのそっくりさんが、隣にいるだろう子どもに声をかけている。えむくんのそっくりさんに続いて顔を覗かせる司くんが、僕の手元を見て「ぁ、」と口を開いた。

    「…咲希……!」

    ここにはいるはずのない彼の妹さんの名前に、手に持ったぬいぐるみへ視線を落とす。多分、これの事なのだろうね。やっぱり司くんのモノのようだ。それなら、これを探しにここまで来てくれたことになる。僕らから逃げたにも関わらず、僕らに出会う可能性があっても探しに来るほど、大切なものなのだろうね。
    顔を上げて司くんを見れば、どこか強ばった顔をしていた。返してもらえないかもしれないと、危惧しているのかもしれない。そんな彼に、出来るだけ優しく笑って見せた。

    「これ、司くんのぬいぐるみかい?」
    「…そ、そうだっ! 返してくれ!」
    「どうぞ」

    片手で持って、彼に向けて腕を伸ばす。距離があるから取りに来ないと受け取れないけれど、それでも、返す気はあると伝えるために精一杯腕を伸ばす。それを見た司くんは、一瞬目を丸くさせると、キッ、と睨むようにこちらを見た。
    “何を企んでいるんだ”と言わんばかりのその顔に、つい苦笑してしまう。以前した司くんとのやり取りと似ていて懐かしいとさえ感じてしまうのは、ここ数日司くんに避けられていたからかな。

    「大切なものなんだよね? どうぞ」
    「…………」
    「罠かと疑うのなら、ここに置くよ。ちょっと待っておくれ」

    ハンカチなんて洒落たものはないので、寧々から羽織を一度返してもらってから、それにぬいぐるみを置く。地面に羽織と一緒に置いてから、寧々とえむくんと三人で少し離れた。「もういいよ」と声をかければ、えむくんのそっくりさんと顔を見合せた司くんが、彼女に何か言っているのが見えた。ゆっくり降下する鳥が、地面に着くと同時に消えてしまう。
    急いでぬいぐるみを拾い上げた司くんは、とても安心したようにその表情を弛めた。よく見れば、彼の腕にはもう一体の人形が抱えられているようだ。

    「……」

    じっ、と僕の羽織を見つめる司くんが、それを小さい手で拾い上げる。そのままそれを持ってこちらへ駆け寄ってきてくれた彼は、僕の目の前で足を止めると、手に持った羽織を僕に返してくれた。

    「ありがとう」
    「…ふふ。どういたしまして」

    僕からもありがとうと返せば、彼が照れくさそうに笑ってくれる。それに安堵して、そっと手を差し出した。びくっ、と肩を跳ねさせる司くんが、その手を見てから、僕の顔を伺うように見る。
    出来るだけ優しく笑いかけて、ほんの少し首を横へ倒す。

    「司くん、僕らと一緒に帰ろう?」
    「っ……」

    小さな手が、震えたまま離れていく。視線が逸らされて、ゆっくりと首を横へ振られた。「嫌だ」と呟く彼の声に反応するように、えむくんのそっくりさんが『司くん!』と彼の名を呼ぶ。
    次いで、えむくんのそっくりさんが地面に描いた絵から、大きな象が現れる。

    「……帰らない…」
    「…司くん」

    どこか泣きそうな声でそう呟いた司くんに手を伸ばせば、後ろから寧々が「類っ…!」と大きな声で僕の名前を呼んだ。地震かと思う程大きく地面が揺れて、すぐ近くに大きな足が落ちてくる。くるりと僕に背を向けた司くんが とん、と地面を蹴った。そしたら、その体がふわりと高く飛躍して、大きな像の背に簡単に乗ってしまう。
    それを見た寧々が呆気とし、えむくんがキラキラした目を彼に向けた。

    「すごいっ…! 司くん、今ぴょーんって飛んだよ!」
    「いや、いくらセカイでもおかしいでしょ?!」
    「……」

    じっ、とこちらを見る司くんの表情は、ずっと暗いままだ。そんな司くんが、手に持っていた人形を像の背から投げて落とした。
    小さな人形が、ゆっくりと大きくなっていく。地面に着地したそれは、紛れもなく人だった。見覚えのあるツートンカラーの髪色と、感情の読み取りにくい表情に、冷や汗が背を伝い落ちる。

    「………青柳くん…」
    「…どうやら、司くんの持っている人形は、本当に彼らのようだね」

    長いマントに、騎士のようなかっこいい鎧が様になっている。彼らしい出で立ちに苦笑して、一歩後退った。その時、どこかから獣の鳴き声みたいなものが聞こえてきて、三人で空を見上げる。
    上空から、何かが落ちてきている。それは真っ直ぐ僕らの方へ大きな声を上げながらすごいスピードで迫ってくる。

    「いやいやいやっ、嘘でしょ…?!」
    「おおぉおおおおお! かっこいいねぇ!」
    「…寧々、えむくん、とりあえずそっちに走って」

    大きな口から覗く鋭い牙と大きな翼、図鑑の中でしか見たことの無い様な体と大きなしっぽに口角が引き攣る。寧々の腕を掴み、えむくんの背を手で軽く押してから、急いでその場を駆け出した。どれくらい離れればいいかは分からないけれど、あれがぶつかったら怪我どころでは済まない。
    とりあえず建物の後ろへ避難しようと全力で走る僕達の後ろで、ドォンッと爆発にも似た大きな音がして、次いで突風が背後から襲ってくる。それに吹き飛ばされて三人で少し先に転がされた。
    モクモクと立ち上がる砂煙と獣の咆哮に、寧々が泣きそうな顔をする。びりびりとした衝撃に、指先が痺れて動きづらい気がした。

    「無理っ…絶対無理…! 人間が敵う相手じゃないって…!!」
    「うぅ、手がびりびりジジジーンってするよぉ〜…」
    「いやぁ、まさか本当にドラゴンが出てくるとはねぇ」
    「そんな暢気なこと言ってる場合じゃないからっ!!」

    バシッ、と思いっきり強く背中を寧々に叩かれる。
    像の数倍大きなドラゴンが、青柳くんに頭を下げるのが見えた。どうやらあのドラゴンを使役しているのは、彼のようだ。西洋風の剣を鞘から引き抜いた彼は、まっすぐに僕らの方を見つめてくる。
    頬を伝い落ちる汗を手の甲で拭い、その場に立ち上がる。ここで青柳くんに勝たなければ、司くんも助けられない、ということらしい。

    (……なんとも、変な気分だね…)

    “勝てる”なんて、思った事がない。青柳くんはいつでも彼の特別だから、何をしても勝てないと思っていた。
    その相手に今、“勝て”と言われているようで、なんとも複雑な気分だ。それでも、ここで“無理です”と逃げるわけにもいかない。

    「…お手柔らかに頼むよ」

    聞こえないとは思うけれど、僕の決意を込めて、そう口にした。

    ―――
    (寧々side)

    (……なんだろ、類の調子が悪い気がする…)

    武器も何も無いわたしは、二人が戦うのを端っこで見てることしか出来ない。ドラゴンの爪を類が剣で受け止めて、えむがどこか楽しそうにドラゴンに向けてハンマーを振り下ろしてる。それをただ見ているだけのわたしは、ずっとハラハラする胸を手で押えているしか出来ない。
    ドラゴンの爪を振り払った類は、そのまま鱗を纏ったその腕に傷をつけようとしているみたいだけど、類の剣は日本刀だから、威力がそこまでないみたい。
    どうしよう。わたしに何か出来ることは無いのかな。二人はこんなに戦ってるのに、わたしはどうすればいいの?

    「なにか弱点とか分かればいいんだけど…」

    ゲームは属性攻撃とか、弱点になる部分を攻撃すればHPを減らすことが出来る。でも、それがどこなのかなんで全然分かんない。
    尻尾を駆け上がる えむが、ハンマーを振り下ろす。けど、全然攻撃が効いている感じがしない。やっぱり鱗は硬いのかな。それなら、大抵鱗がないお腹とか、首とかがダメージ判定を受ける場所だと思うけど…。
    動きが少し変な類は、何かに焦っているように見える。気の所為かもしれないけど、なんて言うか、必死…?

    「…類っ! 一度下がった方がいいと思う…!」
    「大丈夫だよ、…寧々は、そこから動かないでねっ…」
    「………類…」

    一刻も早く司を助けたいのは分かるけど、なんでそんなに焦る必要があるの? 上手く攻撃は受け止めているみたいだけど、怪我したらもっと戦いづらくなるだけなのに。
    ドラゴンの背中で首を捻るえむは、攻撃が効かないのが不思議みたい。「えむ!」と大きな声で呼べば、それに気付いてこちらに駆け寄ってきてくれる。

    「なぁに、寧々ちゃん?」
    「多分背中はダメージが通らないから、お腹とか、柔らかそうな所を叩いた方が良いと思う」
    「おぉおおお! さすが寧々ちゃんっ!」
    「それから、類の様子が少し変だから、フォローしてくれる?」

    ちら、と類を見れば、えむもわたしにつられて類へ目を向けた。「類くん…?」と不思議そうにする えむに頷いて、えむの手を握る。
    「お願い」と真剣な顔で伝えれば、えむがいつもの笑顔で頷いた。「任せて!」と胸を叩くえむに、安心させられる。ドラゴンに向かって駆け出した えむは、わたしの言葉通りドラゴンのお腹を目指しているようだ。祈るように両手を握り締めて、二人の無事だけを願う。

    (…青柳くんとゲームで対戦するの、結構楽しいんだよね)

    たまにばったり会った時に青柳くんとゲームを一緒にする事があるけど、青柳くん、かなり強くて、戦っていて楽しい。だからかな、今も、青柳くんと戦っている時のような気分。わたしは戦闘じゃ役に立たないけど。
    類も、そんな感じなのかな。青柳くんと仲が悪いようには見えないし、逆に最近は仲良くなったようにも見えたけど。
    でもたまに、類が羨ましそうに青柳くんのことを見ている時があった。司と仲のいい青柳くんを見て寂しそうな顔をする類が珍しくて、よく覚えてる。

    (……もしかして、それで焦ってるの…?)

    類は、司の事を大事にしてる。それはもう分かりやすいほど。だって、司とよく一緒にいるし、わたしと話していても司の事ばかり話すし、えむと司が二人でいれば気になってずっとそわそわしているし、今だって、青柳くんの事を意識して調子を狂わせてる。いつもの類なら、わたしやえむの動きを見て指示を出すだろうし、あんな風に無鉄砲に戦いなんて挑もうとしないと思う。
    さっき えむのそっくりさんに襲われた時も、ずっと冷静だった。今の類は、全然“類らしく”ない。

    (…っ、…誰が見ても“勝敗”なんて明らかなのに……!)

    諦めた自分が馬鹿らしくなる。
    危ないと分かっているけど、ここからじゃ声が届かないから、二人に声が届くよう走り出した。少し先の方にあるゴミ箱の横に隠れれば、わたし一人なら身を隠せるし、二人の邪魔になるからことだってない。そこからなら、類に声が届く。らしくもなく“負け”を認めている幼馴染に、文句だって言える。
    えむがわたしの指示通りにドラゴンのお腹へ向けてハンマーを振り下ろした。予想通りダメージが入ったようで、ドラゴンが後ろへとよろける。踏ん張るために足に力を入れて地面を強く踏みしめたドラゴンの体重で、自身のように地面が大きく揺れた。ぐらっ、と足がもつれて、もう少しで目的の位置までいけたのに少し手前で派手に転んだ。
    それを見たドラゴンが、大きく息を吸う。

    「……ぅ、わ…」

    大きな口から、炎が一瞬見えた。まさか、そんなファンタジー世界でお馴染みの攻撃まで出来ちゃうの?
    ぐっ、と重心を少し後ろへ移動させ、ドラゴンが大きな目で標的であるわたしを じっ、と見つめてくる。その口が開く瞬間、ドラゴンの体の重心が前に傾いた。ぶあっ、とその口から、勢いよく青色の炎が吹き出す。目の前に迫るその炎に、思わず目を瞑って身構えた。

    「っ、…ひゃっ……?!」

    体が焼ける痛みを予想していたわたしの体が、大きく傾く。強く押し出された体は地面を転がり、腕や足をひりひりとした痛みが襲った。火傷の痛みじゃない。転んだ時の擦り傷の痛みや、ぶつけた時の痛みだ。
    バッ、と顔を上げれば、わたしのすぐ近くで類が自分の頭を手で押えていた。その手の指の隙間から、赤い血が垂れるのを見て、思わず背がゾッ、と粟立つ。

    「類っ、…類、大丈夫…?!」
    「っ、…寧々こそ、大丈夫かい?」
    「わたしは平気だけど、類が……!」
    「……それなら、よかった…、君が怪我をしたら、司くんも、えむくんも…心配するからね」

    へらりと笑う類は、そのまま立ち上がろうとする。ふらふらになる類を支えて立ち上がり、類の腕を掴んだ。どうやら、おでこを擦りむいて血が出たみたい。大きな怪我じゃなくて、少し安心した。でも、このままじゃ、二人がもっと怪我をするだけだ。
    ちら、とえむを見れば、上手く攻撃を躱しながらハンマーをドラゴンの体にぶつけている。あの身体能力の高さには、恐れ入る。
    次いで、青柳くんの方を見れば、彼はただドラゴンとえむの戦う姿をぼんやりと見ているだけのようだ。その青柳くんの首に、細い笛のような物が紐でかけられているのが見えた。

    「類、…多分、青柳くんを倒せば、あのドラゴンも消えると思う」
    「…ぇ……」
    「テイマーなら、主人がやられればテイムモンスターは戦えなくなる。だから、えむにドラゴンを引き付けてもらって、類は青柳くんからあの笛を奪って壊してほしいの」

    青柳くんの格好は、見た感じ 竜騎士、って所かな。ドラゴンに乗って戦う、男子が憧れるジョブの一つ。でも人と会話出来ないドラゴンを操るなら、それを可能とする何かがあるんだと思う。ドラゴンの声が分かる特殊体質だったら難しいけど、アイテムが無ければ従える事が出来ない、という設定なら、なんとかなるかもしれない。一か八かだけど、ドラゴンと正面から戦うよりずっと勝つ可能性が高い。

    「…寧々がそう言うなら、頑張ってみようかな」
    「………わたしが言えることじゃないかもしれないけど…」
    「……寧々…?」

    どこか困ったように笑う幼馴染に、ゆっくりと息を吐く。なんで、諦めたような顔をここでするのかな。“頑張ってみる”じゃなくて、“やってやる”ってならないの?
    ずっと、司の隣にいるくせに。

    「後悔するような諦め方は、しない方がいいと思う」
    「…なんの、こと……」
    「あの人は本物の青柳くんじゃないんだから、ここで勝たなきゃ、本物にも勝てないじゃん」
    「………いや、青柳くんと勝負するつもりは…ない、んだけど…」

    わたしの言いたい事が全然分からない様子の類を睨むように見て、握った拳に力を入れる。
    怪我してまで人の事助ける優しいやつ。でも、それで一歩踏み込まないのは、絶対違う。こんな所まで来るんだから、もっと吐き出せばいい。

    「ここで負けたら、司を助けるなんて出来ないじゃんっ!」
    「っ……」
    「“負けるかもしれない”じゃなくて、“勝たなきゃダメ”なんだよ!」

    ここがゲームの世界で、例えリトライがあるとしても、“負けてもいい”なんて思わない。“勝たなきゃ”進めないんだから。力になれないわたしがこんな事言うのは違うかもしれないけど、それでも、類がこのパーティーのメインキャラクターなら、類が勝たなきゃダメだから。

    「青柳くんに勝って、堂々と司の手を掴むくらいしなさいよっ!」

    殴るなんて出来ないから、ほんの少し力を入れた拳で類の胸元を殴る。目を丸くさせた類は、数秒黙った後、くすっ、と笑った。「寧々は凄いね」と、そう小さく呟いて。

    「……正面から行って、勝てると思うかい?」
    「…正直、難しいと思う。でも、類なら勝てるよ」
    「…………ふふ、…君がそう言ってくれるなら、絶対に勝たなければね」

    立ち上がった類が、わたしの手を引いてくれる。
    「終わるまで、隠れていて」と、わたしに背を向けた幼馴染は、いつもみたいに笑ってた。その背を ぱしん、と強く叩いてから、「行ってらっしゃい」と大きな声で言ってあげる。
    振り返ることなく駆け出した類の背中は、ちょっとかっこよかった。
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