Dom/Subユニバース④カチャカチャと音を鳴らしながら食事を運ぶ。
私が向かう先は地下、彼がいる場所だ。
今日は彼とどんな話をしようか、今日のプレゼントは喜んでくれるだろうか。
私はワクワクとした気持ちを隠さず歩く。
「類。」
突然名前を呼ばれ、振り向く。
そこにはここにいないはずの大臣が立っていた。
「どうしてこちらに‥?王都の方で待機しておられるはずでは‥。」
「貴様の計画が後一歩、というところでうまく行ってないようなのでな。あの将校から情報を聞き出すのに苦労しているそうじゃないか。」
「それは‥‥。」
「なに、お前が悪いわけではない。domの命に強いsubだったというだけだろう。subでありながら軍人をやっているくらいだ。お前一人で情報を聞き出せなかったとしても仕方がない。だから私がこちらに新たな人員を送った。お前のように強いdomを数人な。いくらdomの命に強いと言っても複数のdomから一斉に命令されれば奴だって情報を吐くだろう。」
「‥‥。それでは彼は情報を出す前に壊れてしまうかもしれません。そうなって仕舞えばこちらのデメリットが大きいのでは‥?」
「一度壊れてしまっとしてもケアさえすれば話程度はできるだろう。情報さえ聞き出せればあとは奴がどうなろうと問題ないしな。お前が私の指示に意見を出すとは珍しいな、類?」
主に不審そうな目で見られて私は押し黙るしかなかった。
主が言っていることは正しい。
彼から情報を引き出すには一番効率が良い方法だろう。
だけれど。
嫌だ。
そう感じてしまう。
彼とプレイするのは私だけがいい。
他の誰にも彼を譲りたくない。
私はもやもやとした気持ちを必死に隠し主の指示に同意する。
「明日には全員到着するだろう。あとは任せたぞ。」
「はい。」
私は主を見送ったあと早足で地下に向かう。
早く彼を私のものにしないと‥!!!
***
バタン!と荒く扉を閉める音がした。
奴がここにきたのだろうとすぐ予想がついた。
ここには時計がないから自身の体感でしか時間は分からないが、おそらくいつもより奴がくるのは遅い。
荒く扉を閉めるようなこともなかったので私は違和感を抱いた。
コツコツと近づいてくる足音がして、私の目の前に奴が現れる。
しかしいつもと様子がどこか違う。
いつもなら料理や意味のないプレゼントなどを持っているのにそれもない。
いつもなら挨拶をしてペラペラと話し始める奴の口は動かない。
表情も焦っているのか苛立っているのか、いつもの楽しそうな顔ではなかった。
明らかにいつもと違う様子に私は不信感と戸惑いを感じ奴をじっと見つめた。
「strip」
「なっ‥!!」
奴から突然発されたコマンドに驚く。
こいつがそう言ったコマンドを出すのは今までになかった。
いつもと違う様子に私は戸惑い動けない。
「strip!」
そんな私に奴は苛立った様子で強く同じコマンドを出す。
嫌だ。
そう思っているのに手は少しずつ動き出してしまう。
そんな私の様子をあいつは怖い顔で見ている。
嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
体が拒絶している。
うまく服が脱げない。
けど脱がなければ‥‥。
理性と命令の板挟み状態になってうまく判断ができない。
‥‥こう言った時、セーフワードがあればどうにかなったのだろうか。
恐怖に支配された頭でそう考える。
私たちはパートナーではない。
その事実が私をより苦しめる。
頭がガンガンと痛む。
‥‥‥怖い。
なにも考えられない。
ただ手が震える。
「いっっ!」
なかなか服を脱がない私にイラついた奴はちっと舌打ちをして私の手を強く掴んだ。
握られた手が熱くて痛くて。
ここ最近ではこいつが私にこんなに酷くすることはなかったのに。
不機嫌そうにオレを見てくる目が怖くて、うまく息が吸えない。
体が恐怖に支配されてしまって動くことができない。
誰か助けてほしい。そんな弱気な考えが私の頭の中を巡るが、助けて、と声を発することすらできなかった。
ガッと私の服が荒く掴まれる。
そして無理矢理脱がそうと荒い手つきでボタンが外されていく。
どんどんと私の裸体が晒されていった。
私の視界が真っ暗になって何も見えなくなる。
そんな視界の中でも必死に奴に抵抗し続けた。
「っ!!やめ、ろ‥!!!」
「‥‥‥‥。」
奴は何も言わなかった。
私の様子など何も見えていないかのようにただ私の服を脱がす。
必死に、必死にもがいて、もがいて。
何も見えない暗闇の中で、なんとか奴の頭を掴む。
私は奴の頭を離さないようにぐっと強く掴んで、
そして思いっきり頭を振って額をぶつけた。
「〜〜っ!!」
「っ!?」
ガツンとやってきた衝撃に視界が揺れる。
痛くて頭がぐわんぐわんと揺れる。
たが、その衝撃のおかげか何も見えなかった視界が明けてきた。
目の前に見えるのは奴の金色の瞳。
‥やっと目が合った。
ぴたりと奴の動きが止まる。
突然の衝撃に驚いたのか奴は目を見開いて私をみていた。
動きが止まったことにホッとしてはぁはぁと必死に息をしていると奴はどうして、とぽつりと言葉を発した。
「どうして‥。ここまでしてなお、貴方は私のものになってくれない。優しくしても酷くしても‥!
どうやったら貴方は私ののものになってくれるんですか!」
「!」
そう言った奴の瞳からは涙が溢れていた。
ぽろぽろ、と金色の瞳から溢れる涙はまがいもなく本物で。
こいつは私のことが本当に欲しい、と思っているのか‥!
私は奴の言葉を初めて心の底から信じられた。
ずっと奴は私の情報が欲しいから私が欲しいのだと言っているのではないか、と考えていた。
しかし、こいつは情報ではなく、本当に私を欲していたのだ。
そう知った瞬間、こいつの今までアホらしいと思っていた行動を思い出す。
薔薇を差し出しては嬉しそうに花言葉を語っていたり、私に愛しているだなんて言葉を投げかけたり。
私を手に入れるために必死に下手くそなアピールしていたことに可愛らしいとすら感じた。
それと同時に、自分のことを悲しそうに語っていた奴の顔を思い出す。
「‥‥。お前が大臣のものである以上私はどうやったってお前のものにはならん。お前が私のことを本気で欲しい、と思うならばお前が私のものにならないか?」
突然の私の提案に奴はキョトンとした顔をしてこたらを見ていた。
「貴方のもの‥?」
「そうだ。私のものになるというのならお前を私の部下としてそばに置いておいてやろう。」
「domである私にsubである貴方が命令する立場になるというのですか?」
そう言って奴は怪訝そうな顔をする。
「domだとかsubだとか関係ない!貴様が私が欲しいというのならば私の元で私からの信頼を取ることだな!」
あの時はあれもきっと嘘だ、信じるなと自分に言い聞かせることで奴が苦しんでいたという事実から逃げようとした。
が、あれは嘘ではなかったのだろう。
本当は人を笑顔にできる人間でいたかった。
奴はそう言っていた。
ならば、私が。
「私が貴様を人を笑顔にできる人間にしてやろう。domである以上無理だ、なんて弱音は言わさん。だから私に大人しく従え。」
「何を仰って‥!私は貴方に無理矢理プレイをしたのですよ‥!?それだけじゃない、町の人々と森の民の争いが始まるように仕組みもしましたし、それ以上にもっと大臣の元で許されないことをしてきました。そんな私が貴方の部下など‥!」
「今まで行ってきた罪は私の元で償うといい。まずは森の民と町の人々の笑顔を取り戻すことからせねばな。プレイに関しては仕事上の問題だったのだということにしてやる。
‥‥‥それに、貴様とのプレイは無理矢理だったが、貴様に命令されるのは‥‥嫌いではなかった。それこそ大人しく餌付けされるぐらいにはな‥‥。
‥‥だから貴様が私の信頼を取ったときにはパートナーなってやらんこともない、と思っている‥。」
段々と私の顔が熱くなってきた。
でも実際、奴に褒められるのは嫌、じゃなかった。
初めて奴の命令に従ってしまっていた時のことを思い出せばソワソワとしてしまうくらいには奴の命令に呑まれている。
敵、という立場さえなければ。
そう何度も思った。
私の言葉を聞いて奴はポカンとした顔をしてこちらを見ていた。
パートナーになりたい、と思っていたのは私だけなのかと思いますます恥ずかしくなる。
「き、貴様が悪事に手を染めないためにもパートナーは必要だろう!だから、その、私がっ‥‥!」
私が恥ずかしさのあまり言い訳のようなことを言い出すと突然奴に抱きしめられた。
そのままぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
その行為は奴のglareをずっと浴び続けていた私の体に安らぎを与えた。
体がぽかぽかとする。
奴に包まれている安心感にほう、と息を吐く。
そうすると、奴は抱きしめたまま私の頭を撫でた。
頭がふわふわとして、嬉しくて、奴の手に擦り寄る。
「ごめんなさい、貴方が欲しくて、でもどうすればいいかわからなくて。全然私のものになってくれないし、主は別のdomとプレイさせるだなんて言い出して。貴方を他の者に取られたくないと思ってつい暴走してしまいました。」
ぽつりぽつりと奴は懺悔するように話し始めた。
事情を一通り話し終えると抱きしめられていた腕が離れる。
少し寂しさを感じていると私の目の前に奴はひざまづいた。
「私は貴方に忠誠を誓います。だから私を貴方のものに。」
そう言って私を見つめるその金色に輝く目には嘘偽りがない、と感じた。
「これから苦労することになるぞ。根を上げるなよ?類?」
私はそう言って類に手を伸ばす。
類はその手を取り、私の横に立った。
さて、まずはここから出て、森の民と町の人々の問題を解決せねば。
幸い類が現状を話していてくれたおかげでどう対策するかの候補はいくつか考えることができている。
「手始めに、森の民と町の人々を笑顔にしようではないか!」
***
王の座を狙って多くの悪事に手を染めていた大臣が捕まった。
彼が行っていた悪事は到底許されるものではなく、その罪を暴き捕らえることに成功した将校は国から多くの賞賛を得ていた。
そんな将校の近くにはいつも一人の部下がいた。
その部下はあまりにも将校に従順なものだから将校のsubなのではないか、と噂されていたりいないとか。
***
「kneel」
その言葉を聞いてぺたり、と座り込む。
そんな私を類は相変わらず楽しそうににこにこと見つめている。
‥‥見つめていないで早く褒めて欲しい。
頭を撫でて欲しい。
そんな思考が私の頭の中を埋め尽くす。
なんなら今すぐお前に飛びついてやりたい。
そう思うけれど、類がにこにことこちらを見ているだけで何もしない、ということは“待て”ということなのだろう。
だから私はじっと類を見つめて耐える。
「あぁ‥貴方のその耐えている顔が、その目がとても好きです。その目を溶かすことができるのが私だけ、というのも‥。」
そう言って類は私の頭をやっと撫でた。
嬉しい。
早く褒めて。
そう思いを込めて類の手に擦り寄る。
「ふふ、good boy。今日もお疲れ様です。将校殿。」
褒められて嬉しいけれど、一つ気に入らなくて私はむっとする。
「‥プレイ中は将校ではない‥。」
そういうと一瞬キョトンとした顔をしてたから奴はふっと笑った。
「あぁ、ごめんね。司くん。」
そう言って類は再び私の頭を撫でた。
名前を呼んでもらって、褒めてもらって。
ふわふわとしてとても気分がいい。
もっと、もっと命令して。褒めて。
そう思って私は類を見つめる。
楽しそうに歪む金色の瞳と目が合う。
「strip」
あの時恐怖でできなかったコマンド。
だけど、今は違う。
ゾクリ、と興奮で震える体を動かして私はボタンに手を掛けてゆっくりと一つ一つ外していく。
そんな私を奴は興奮した様子でじっと見つめていて。
そうして私は奴のものになるのだ。