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    ナンナル

    @nannru122

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    ナンナル

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    お弁当屋さんの末っ子ちゃんは、綺麗なお姉さんに出逢う。

    🍬ちゃんと🤖ちゃんの話。
    時間軸は文化祭の話が出るちょこっと前の話。

    メインディッシュは俳優さん以外テイクアウト不可能です×!(土曜日の特別なお客様)(えむside)

    「えむちゃん、今日も偉いね〜」
    「えへへ、ありがとうございます!」

    ひらひらと手を振ってくれる近所のおばちゃん、毎週来てくれるお隣駅のお兄さん、わんちゃんの散歩をしているおじちゃん。みーんな仲良しのお客様。小さい頃から可愛がってくれる人たち。このお店はおじいちゃんが創ったお店で、今はお父さんとお兄ちゃん達が経営してる。あたしの大好きなお店。高校生になってからは習い事が忙しくて全然平日はお店に入れないけど。

    「いらっしゃいませ〜」

    ドアが開いた音で、顔を上げる。ふわふわの髪の人が、ゆっくり入ってきた。葉っぱさん色の髪が、綿菓子さんみたいにふわふわしてる。あたしより背が高くて、とってもとっても綺麗な人。その人が、キョロキョロとお店の中を見てから、あたしの方を見た。
    土曜日の午前十時くらい。宝石さんみたいな紫色のお目目がとっても綺麗な人。

    「ねぇ、今日はいつもの子、いないの?」
    「いつも……あ!司くん!」
    「…?…多分そいつ」
    「今日はお休みです!平日が多いの!」

    司くんは、同じクラスのお友達。このお店のバイトさん。優しくて頼りになる、お兄ちゃんみたいな人。いつもはあたしの代わりにお店の店員さんをしてくれるんだけど、今日はお休みの日なの。習い事のない土曜日は、あたしがシフトに入れるから、いつも頑張ってくれる司くんはお休みの日。
    ほんの少し目を丸くしてから、「そう」って、お姉さんが呟いた。司くんに、ご用事だったのかな?

    「まぁ、いっか。何かオススメある?わたし、前に付き添いで一回来ただけだから、あまり知らないの」
    「それならそれならっ!宝箱が良いよッ!」
    「……………たからばこ?」

    首を傾げるお姉さんに、あたしはショーケースを指さす。お稲荷さんが置いてあるところを指さして、にこって笑って見せる。

    「お稲荷さんのお弁当だよっ!中身は内緒だから、開ける時、宝箱みたいにドキドキするでしょ?」
    「そんなメニューがあるんだ…?」
    「ううんっ!あたしが今から詰めて作る新メニューですっ!」
    「…………」

    オススメ、って聞かれたら、いーっぱいあって迷っちゃうもん。お兄ちゃん達が作るお弁当は、どれもすーっごく美味しくて、沢山の人に食べてもらいたいから。だったら、作っちゃえばいいんだよ。お弁当箱に、あたしが食べてほしいものいーっぱい詰め込んで、にこにこ笑顔になってもらうの!
    いつもみたいに笑顔で言ったあたしに、お姉さんはきょとんと目を丸くしちゃった。なにか、おかしなこと言っちゃったかな?首を傾げると、お姉さんが手を口元にあてて、ほんの少し俯いた。

    「お、お姉さん?」
    「……ふ、…ふふ、…」
    「?」
    「なにそれ、今から作るなんて、そんなのありなの?」

    肩を震わせて笑うお姉さんが、お腹を抑えてそう言った。さっきみたいな、少しむむむー、ってした声とは違う。すごく楽しそうで、綺麗な声に、今度はあたしの体が動かなくなっちゃった。ぽぽぽ、とほっぺたが熱くなって、目が逸らせない。とってもとっても、可愛くて綺麗な笑顔だった。

    「じゃぁ、その“宝箱”をお願いするね」
    「んぇ?!あ、はいっ!」
    「わたしはネタバレされないように座ってようかな」

    近くに用意していた椅子に座ったお姉さんは、スマホを出してすごい速さで打ち始めてる。すごい。ドラマで見たパソコン打つ人みたい!!…って、そうじゃないね。慌ててお弁当用の入れ物を用意して、おかずを中に詰めていく。何を入れようかな。やっぱりこれ入れたいし、これも好きっ!ご飯のところは、お稲荷さんを沢山詰めて…。

    「……………?」

    さっきの、あのきゅきゅきゅーんってしたのは、なんだったんだろう?お姉さんが、とってもきらきら笑顔だったから、嬉しかったのかな?そうだね、そういう事だよね。
    うん!と大きく頷いて、最後のひとつをお弁当箱に詰め込む。蓋をして、ペタ、ってセロハンテープも外れないように貼り付ける。袋に入れてから、カウンターにそれを置いてお姉さんに声をかけた。普通のお弁当と同じお金を貰って、お姉さんにお礼を言う。

    「ありがと」
    「またのお越しを、お待ちしておりますっ!」

    ぺこっ、とお辞儀をすれば、お姉さんはさっさとお店を出ていっちゃう。それを目で見送って、へな、とその場にしゃがみ込んだ。まだ、お胸がドキドキしてる。とっても、綺麗な人だったな。

    「……司くんに聞いたら…分かるかな?」

    ボソッと呟いた言葉は、誰にも聞かれず消えちゃった。

    その後、お兄ちゃんにお弁当の事がバレちゃって、昌介お兄ちゃんには怒られちゃった。でも、慶介お兄ちゃんが、「それは、面白いかもしれないな」ってあたしの意見を聞いてくれて、次の週から、毎週土曜日数量限定で『宝箱弁当』がお店に並ぶことになったの。あたしが好きなものを詰め込むお弁当。
    一律五百円のわくわくキラキラなお弁当。

    ―――

    「土曜日、司くんはいないの?って、お客さんが来たよー?」
    「っ…!も、もしかして、帽子やマスクとかメガネをつけた背の高い人か?!」
    「…んー、眼鏡はかけてたけど、あたしと同じくらいの人だったよ?」

    帽子もマスクも付けてなかったから、違う人かも。女の人だよ、って教えてあげたら、司くん、しゅーん、ってしちゃった。「そっか…」って少しだけ残念そう。もしかして、司くんの特別なお客さんだと思ったのかな?

    「すっごく綺麗な人なの!」
    「そうか。良かったな、えむ」
    「うん!あたしも、あんな風にかっこいいお姉さんになれるかな?」

    にこにこと笑うと、司くんが頭を撫でてくれる。司くんにとって、水曜日のお客様が、“特別なお客さん”なら、あたしの特別なお客さんは、お姉さんがいいなぁ。また来てくれるかな?来てくれたら嬉しいな。お弁当、美味しいって思ってくれたかな?びっくりしてくれたかな?

    「今度はお話したいなぁ」

    先生が来るまで、司くんに、お客さんと仲良くなる方法を聞いたりして、いっぱい笑った。また、会えますように。そう心の中でお願いして。

    ―――
    (寧々side)

    「じゃぁ、寧々、行ってくるよ。なにか欲しいものとかあるかい?」
    「…なら、たからばこ……」
    「?…たからばこ?」

    車から降りようとしている類にそう言いかけて、やめた。緩く首を横に振って、ひら、と手を振る。

    「なんでもない。類と同じので良いよ」
    「了解」

    バタン、と類が車を降りてドアを閉める。スマホをポケットから取り出して、画像欄を開いた。新しいところにある画像をタップすると、これでもかって程おかずの詰め込まれたお弁当の写真が出てくる。

    「………ほんと、詰め過ぎ」

    くす、とつい笑ってしまう。どんだけおすすめしたかったのか。でも、どれも本当に美味しかった。食べたことあるのはマカロニサラダくらいかな。春巻きとか、ひじきの煮物とか、インゲンや人参なんかの野菜のベーコン巻き。それに、種類が違うお稲荷さん。五目稲荷や、白米のお稲荷さん、混ぜご飯のお稲荷さんに、桜でんぶで飾られたお稲荷さんも入っていた。花柄にくり抜いた人参や、目をギュッと瞑ったニコちゃんマークの海苔が薄く焼いた卵に乗っていて、ちょっと可愛い。そんな飾り豊かなお弁当は、確かに『宝箱』だった。

    「……まぁ、また行っても良いかな」

    類には内緒で。私がお休みの土曜日だけ。本当は、天馬くんが、類の正体をバラしてないか様子を見に行くつもりだったけど、もういいや。類は類で、毎日すっごく楽しそうだから、好きにさせてあげる。

    「…次はどんな宝箱になるのかな」

    新しい楽しみを見つけた、そんな素敵なお休みの日の話。
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