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    ナンナル

    @nannru122

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    ナンナル

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    俳優さんがお弁当屋のバイトの子にデートを申し込む。
    お弁当屋が全く出てこなくなった( 'ㅅ')アレ?
    ぐちゃーってしてるけど、雰囲気で読み流してください。

    🎈くんの視点より、⭐️くんの視点を書く方が楽しい( ˇωˇ )お前誰だよって感じになりますが…。
    日常をすっ飛ばして書きたい所をとにかく書いていくと思うのでご了承ください。

    メインディッシュは俳優さん以外テイクアウト不可能です×!8(類side)

    「撮影お疲れ様でした」

    拍手の音が撮影スタジオに響き渡る。今日が最後の撮影だった。季節は冬に変わり、あの文化祭から約二ヶ月程が経っている。もう時期ドラマの放送が開始されるだろうね。最後だからと挨拶に来る女性スタッフや共演者に愛想笑いを返す。連絡先交換とかは適当にあしらって、そわそわと落ち着かない気持ちを押し込んだ。

    「類、次の現場行くよ」
    「そうだね、寧々。それでは、失礼します」

    えー、という女性の声も聞こえたけれど、聞こえないふりをして寧々について行く。スタジオを出たところで、寧々がスマホを取り出した。多分、この後のスケジュールの確認だろうね。僕もスマホを取り出して、メッセージアプリを開く。

    「……連絡なし、かぁ…」
    「なに、またあの子?」
    「僕としては、些細なことでも連絡が欲しいんだけどね」
    「………普通芸能人相手にそんな頻繁に連絡しないでしょ」

    はぁ、と溜息を吐く寧々に、僕は苦笑する。それはそうかもしれないけれど、寂しいものは寂しい。連絡するのは、いつも僕からになってしまうからね。
    たまたま立ち寄ったお店で出逢ったバイトの子。最初はそれだけだったのだけど、彼のころころ変わる表情や優しさ、明るいところなんかに惹かれて、自分でも驚く程あっさり恋に落ちてしまった。俳優なんてやっていれば、嫌でも周りから交流を持ちかけられる。正直、人と関わるのは苦手で、必要最低限な接触しかしてこなかった。親しくしているのは、幼馴染み兼マネージャーの寧々くらいだろう。寧々はさっぱりした性格で、一緒に居て楽だからね。

    「これが女性なら、もっと頻繁に連絡もくれるんだろうね」
    「……その子がもしそういう女の子だったら、多分類は好きにはなってなかったでしょ」
    「…………そうかもしれないね」

    寧々の呆れた様な言葉に、頷いてしまう。いつもの車の助手席に座って、シートベルトをつけた。発進する車の窓の外を眺めながら、頬杖をつく。
    確かに、天馬くんがもし女の子だとして、僕のファンだったなら、きっといつもの様に適当にあしらって、お店も変えていたかもしれない。彼が一般人と同じように僕に接するから、つい興味が湧いた、というのが正しい。まぁ、それが無くても印象的な子だったのだけれどね。文化祭での、ステージの上で演技をする彼を思い出しては、まだ胸の奥がドキドキとしてしまう。もし次の機会があるならば、今度はどんな事をやってもらおうか。あの花が綻ぶような笑顔で僕を見た彼を、きっと僕は一生忘れられないと思う。写真やビデオを撮っていなかったのが、悔やまれるな。

    「…けれど、そろそろ会いたいものだね」
    「まだ、忙しそうなの?」
    「そうだね。木曜日が特に多いみたいだけど、どうやらお店の周りもすごいらしいよ」
    「……ま、類が来るなんて知られたら、そうなるでしょ」

    車がウインカーを出して曲がる。それをぼんやりと見ながら、溜息を吐いた。寧々に忠告されてから、SNSには載せない様にしていたけれど、どうやら僕が通っていると噂が広まってしまっているらしい。あの文化祭の後から、天馬くんのいるお弁当屋さんは人が多く集まっている。女性客が多く、滞在時間も長いため、中々近寄れない。こうなっては、落ち着くのを待つしかないので、暫くお店には行けていない。つまり、天馬くんにも最近会えていなかった。お店の状況を聞く名目で、連絡はしているけれど、返事はしてくれても、彼の方から私用で連絡が来ることは無い。

    (…気を遣われているのか、それとも、一線を引かれているのか……)

    嫌われてはいないはずだ。彼は分かりやすいくらい感情が表に出るからね。赤くなったり、僕の事をキラキラした目で見てくれたりしていたから、それなりに好感も高いはずだ。なのに、一向に距離が縮まらないのはなんなのか。いや、直接会える機会が無くなってしまっているのだから、仕方ないかもしれない。

    「次に会う時は、もっと積極的にアプローチをかけて見ようかな…」
    「…………類、お願いだから犯罪だけはしないでよ…」
    「酷いなぁ。僕は天馬くんと仲良くなりたいだけだよ」
    「……」

    顔を顰めた寧々はそのまま何も言わない。これは、あまり信用されていないのかな。僕だって、交際するまで天馬くんに手を出すつもりはないのだけど…。アプローチの一環として、デートのお誘いくらいはするかもしれないけれどね。意識してもらいたいから距離は詰めるけれど、何も無理矢理囲いたいわけじゃない。

    「…まぁ、ドラマの撮影期間中通ってるって噂もあるし、撮影が終わったって類が流させば、少しずつ収まるでしょ」
    「そうだね。お店側としてはお客は多いほうが嬉しいかもしれないけれどね」
    「じゃぁ、類が店を変える?お弁当屋さんなんて、他にもあるんだし、ちょっと探せば、おかずを選べるお店もあるでしょ」

    寧々の言うことももっともだ。お弁当屋さんなんて、いくらだってある。家から近いということもあったけれど、メニューを選ぶことが出来るお店なら、他にだってあるはずだ。自営業ということもあって、おかずのメニューは他と違うかもしれないけどね。お店に迷惑をかけないためには、別の店に通うのが一番いいのかもしれない。

    (…けど、それだと、もう天馬くんとは会えなくなってしまうね)

    彼が働くのはあの店なのだから、彼に会うには、あの店に行かなければならない。まぁ、他の店の定員が、僕の事を言いふらさないとも言えないしね。通えるかどうかはまた別の話になるだろう。彼が常に店員をしていたあのお店だから、通えていたのもある。今更別の店に行こうとも思えない。自炊出来れば、悩むことも無いのだけど、生憎僕は自炊が出来ないしね。今は寧々を誤魔化して適当に済ませてしまっているけれど、出来るなら、あのお店に買いに行きたいところだね。

    「ドラマの放送は年が明けてからだし、類は次の撮影も始まって忙しくなるんだからね」
    「分かっているよ」
    「年末年始の休みは取れなかったけど、一応、再来週の休みは取っておいてあげたから」
    「ありがとう、寧々」
    「はいはい。その代わり、仕事はちゃんとしてよね」

    あの小説を元にしたドラマは、来年から放送が始まる。今は至る所で宣伝がされていて、ネット上でも話題になっていた。まぁ、理由はもう一つあるのだけれどね。
    年末年始を控えた十二月中旬。無理を言ってしまったのに頑張ってくれた寧々にお礼を言って、スマホに指を滑らせた。メッセージアプリを開いて、すぐに文字を打ち込む。また、僕から連絡をする、というのは、少し残念だけれど仕方ないね。

    「そういえば、あの劇もかなり有名になってたよね。ドラマが始まったら、また騒がれるんじゃないの?」
    「そうかもしれないね」
    「まさか、誰もあの劇の脚本と演出に、人気俳優神代類が関わっている、なんて知らないんでしょうね」
    「ふふ、天馬くんは色んな人に“協力者”について聞かれて、大変みたいだけれどね」

    寧々の言っている劇は、あの文化祭で天馬くんのクラスがやった劇の事だ。なんでも、文化祭に来た一般客がネット上でかなり騒いだらしい。とてもクオリティの高い劇だった、と。一部録画された映像も出回ってしまって、文化祭直後は大騒ぎとなった。脚本の作りと、所々で一風変わった演出がお客さんの目を引いたらしい。主役の演技力も高かったことから、一部の雑誌の記者が高校にまで来たと、天馬くんが言っていた。本人は『知り合いに一緒に考えてもらったんです』と、律儀に説明をしたそうだ。自分の手柄にしない所が、なんとも彼らしいと思った。もう時期、テレビドラマが放送されるということもあって、ネット上では例の小説が話題になっていた。劇とドラマは、脚本に組み込まれたシーンが少しづつズレている。そういうちょっとした違いも、見る人からしたら楽しいだろうから、と僕がそうした。だからきっと、ドラマが始まったら、また騒ぎになってしまうかもしれないな。
    メッセージアプリに文字を打ち込みながら、そんな事をぼんやりと考える。あれ以来、天馬くんに役者としての話が持ち上がったりしていないだろうか。天馬くんの演技力なら、きっと見る人は彼の才能を見抜くだろう。それはとても喜ばしい事ではあるけれど、出来ることなら、僕が一番に、彼にその道を示したかった。まぁ、その道に進むかは、彼次第なのだけどね。

    「今回の事でわかったと思うけど、類が関わると面倒くさいことになるんだから、勝手に演出付けたり、素人に演技指導とか、やらないでよ」
    「僕は、天馬くんだからやったんだけどね」
    「や、ら、な、い、で!」
    「分かっているよ、心配かけてすまないね、寧々」

    キィ、と車が地下の駐車場に止まる。どうやら、次の撮影スタジオに着いたようだね。確か、ドラマの放送記念特集だったかな。主演を演じた僕の話が聞きたい、とかなんとか。
    シートベルトを外して、車の扉を開く。寧々が車の鍵をかける音を聞きながら、エレベーターの方へ足を向けた。スマホの画面に映っている送信ボタンを押すと、ポコン、と小さな音が鳴る。撮影が終わる頃には、返事が来ているだろうか。来ているといいな。

    「間違っても、変な話は絶対しないでよ」
    「しないよ」
    「スマホは預かってるから、早く終わらせてよね」
    「はいはい」

    画面が真っ暗になったスマホを手渡して、控え室に入った。

    ―――
    (司side)

    「………今日も、神代さんが来なかった…」

    ぼふ、とベッドに寝転がって、枕を抱える。文化祭が終わってから、神代さんがお店に来なくなった。理由は、お店に人が増えたから、だ。前々から少しずつ女性客が増えた気はしていたのだが、文化祭が終わったあたりから急に増えだした。木曜日は特に集中していて、何事かと思っていたが、咲希が言うには、SNSで大騒ぎらしい。あの神代類が通っているお弁当屋さんがある、とかなんとか。

    『ここ、お兄ちゃんのバイト先だよね?お兄ちゃん、類さんのこと見たことある?!』

    などと、咲希が大興奮していたな。咲希が神代さんの大ファンなのは知っている。知っているが、可愛い妹の咲希だからといって、「神代さんとは週一で会うし連絡先も交換しているぞ!」なんて言えるわけもない。かなり心は痛んだが、「オレはよくわからんからな、見てないかもしれんな」と嘘をつくしかなかった。残念そうにする咲希を見て、本当に胸が痛かった。だが、神代さんが来ている、なんて言ったら、咲希まで店に通いに来そうで、言えなかった。

    (多分、騒がれるのが苦手なのだろうしな…)

    あれだけ帽子やサングラスにマスクまでつけて毎回来てくれているんだ。あまりバレたくないのだろう。オレに教えてくれたのだって、きっと、オレが神代さんの事を知らなそうだからだろうしな。実際、ドラマの発表が無ければ気付かなかったかもしれん。まぁ、文化祭の話をした時の反応を見ると、オレが俳優なのを知っていても、距離を置かれなかったが。本当に、優しい人だ。

    「……暫く来れないとは言っていたが、こうも会えなくなると、落ち着かん…」

    ごろごろと寝返りを打って枕に顔を埋める。元々住む世界が違うのだ。あんなに定期的に会えたのだって不思議なくらいだったのに、オレは欲深いな。神代さんが優しいからと、演劇のアドバイスが欲しいなんて我儘まで言って、しかも実際に劇を見に来てくれた。週一回の特別なお客さんが一変、とても近い人になってしまった。
    笑顔を向けられるだけで胸が苦しいくらいドキドキして、あの綺麗な声で名前を呼ばれただけでキラキラして聞こえて、優しく触れられるとそれだけで頭の中がいっぱいになる。文化祭の日を思い出すだけで、こんなにも顔が熱くなって、息が詰まりそうだ。スマホが鳴る度に、手が震えてしまう。画面に神代さんの名前が出てくると、どうしようもなく嬉しくて、落ち着かなくなる。
    本当なら、文化祭が終わった時点で会えなくなってもおかしくないはずだったんだ。連絡先は交換したが、忙しい神代さんと、もう交流することも無いはずだった。また、週一回の特別なお客さんに、なるはずだった。なのに、神代さんは、オレにメッセージをくれる。お店に来られない、と言うだけではなく、『学校はどうだった?』とか、『最近の新メニューは何があるのかな?』とか、色々な話題をくれる。オレの料理が、また食べたいと、言ってくれる。

    (こんなにも嬉しい、のは、どうしたらいいんだ…)

    きゅぅ、と音を鳴らす胸をおさえて、熱い顔を枕に押し付ける。オレよりもずっとずっと長く神代さんを見守ってきたファンの人達からしたら、きっとすごく不公平な事かもしれん。だから、オレからは、連絡しないと決めた。神代さんがオレに優しくしてくれるのは嬉しい。連絡をくれるのが嬉しい。でも、オレは神代さんとは住む世界が違うから、オレから神代さんに、会いたいとは言わない。言えない。

    「…いつか、隣に並べるような大人になったら、会ってください、も、言えるのだろうな」

    オレはまだ、高校生で、なんの取り柄もないお弁当屋のバイトだから、オレからは、望めない。望まない。とにかく、早い内に進路を決めて、目標に向かって頑張るだけだ。やりたい事も見つけたからな。

    「……のわっ、…?!」

    ピロンッ、とスマホが大きな音を鳴らすから、思わず体が跳ね上がった。メッセージが届いたようで、慌ててスマホのディスプレイをつける。パッと明るくなった画面に、『神代さん』の文字を見て、息を詰めた。落としそうになったスマホを慌てて握り締めて、ベッドの上に正座する。

    「か、え…、あ、……」

    言葉にならないものがぐちゃぐちゃに頭の中でぐるぐる巡る。神代さんからのメッセージ。なんで、とか、今度はなんだろう、とか、何かあっただろうか、とか、早く見ればいいのに、見る勇気がない。もし、もう会わないとか、連絡先を消してくれ、とか言われたらどうすればいいだろうか。いや、神代さんがそんな事言うとは思えんが、最近バイト先も騒がしくなってきているし、万が一何か問題でもあったら…。右往左往と手が宙を彷徨う。真っ暗になった画面では、メッセージに何が書かれているかわからん。すぅ、と大きく息を吸って、ゆっくり吐き出した。

    「…よし……」

    意を決して、スマホを手に取った。ディスプレイに指を走らせると、メッセージアプリが開く。アイコンは、前にオレが作ったハンバーグの写真だ。余程気に入ってくれたらしい。そんな所にも、胸の奥がきゅぅ、と音を立てる。何度見ても、このアイコンには慣れない。たぷ、と画面をタップすると、ぽこん、とメッセージが表示された。

    『再来週の土曜日に、もし予定がなかったら、僕に時間をくれないかい?』

    メッセージを三回ほど読んで、首を傾げる。再来週の土曜日…、予定…、時間…。ということは、これは、つまり…。

    「…神代さんに、会える、と、いうことか……?」

    しかも、バイトの日以外で、だ。バッ、と壁に貼られたカレンダーへ目を向ける。今日は金曜日で、再来週の土曜日だから、つまり…。目がゆっくりと数字を追っていく。20、21、22、23…。黒い数字の隣のマスを見て、はた、と目を瞬く。土曜日は、青い枠で囲まれているから分かりやすい。そして、そこに書かれている数字は、24。

    「……………く、くりす、ます、…いぶ……?」

    何度見ても、12月と言えば、でお決まりの数字だ。慌ててスマホのメッセージをもう一度見るが、『再来週の土曜日』としっかり書かれている。はく、はく、と音もなく口が開閉して、スマホのディスプレイを凝視した。送り主は神代さんで間違いない。これは、間違えて送られてきたのだろうか?それとも、本当に、オレ宛…?

    「…っ、……」

    ぶわわっ、と一気に顔が熱くなる。もしかしたら、たまたま休みがこの日しかなく、オレに何か急ぎの用事があるのかもしれん。時間をくれ、とは書いてあるが、一日とはまだ決まってないだろう。もしかしたら、この家に忘れ物があったとか、文化祭の日に、なにか落し物をして受け取りに来るとか…。なんとかあってもおかしくない予想を立ててみるが、それとは逆に心臓がうるさく鼓動して止まない。

    「これでは、まるで、…で、…と、のお誘いみたいじゃないか……」

    ぼふっ、と顔から火が吹き出そうな程、さらに熱くなる。自分で言っていて、何を言っているんだと思うが、そう見えてしまう。クリスマスイブに、予定が無ければ時間をくれ、なんて、勘違いしてしまいそうになる。じわ、とスマホを握る手に汗が滲んで、慌ててシーツで拭った。何故こんなにも緊張しているのだろうか。神代さんには婚約者がいて、オレなんか相手にされるわけないだろう。
    ぶんぶん、と頭を振ってスマホに指を滑らせる。とにかく、いつまでも悩む訳にはいかない。予定は無いのだから、断る必要もないだろう。

    「…だ、い、じょうぶ、です…」

    短く打って、送信ボタンに指を持っていく。が、これでいいのか?もっと他に何かないのか?何かありましたか?と聞いた方がいいのか。それとも、どこへ行くんですか?とか。いや、それでは期待しているのがバレてしまう。そもそも、期待するってなんなんだ。神代さんは、きっと何か用があるから連絡をくれただけで、遊びに行くとか、そういう事ではないだろう。もしかしたら、婚約者の方への贈り物に悩んでいて、オレに意見を聞きたいとか?!それなら納得できる。

    「…納得はできるが、…本当にそうなら、オレは、行かない方がいいんじゃないか…?」

    神代さんを好きになってしまったオレが、神代さんの婚約者の方のために、プレゼントなんて選べない。選べないなんてことは無いが、きっと、気持ちがぐちゃぐちゃして迷惑をかけてしまうかもしれん。やはり、今からでも予定が入ったことにして断るべきか…。だが、大丈夫と送ったのに、やっぱりダメです、とは送りづらい。

    「…………何をするか聞いてから、考えるか…」

    もし本当にプレゼント選びだったとしたら、さっさと終わらせて迷惑かける前に帰ればいい。下心有りで申し訳ないが、神代さんに会える機会があるのなら、会いたいからな。例え年下の知り合いとして、だとしても、もう少しだけ夢を見ていたい。

    「……クリスマスに会うのなら、やはりオレも、なにか用意したいな…」

    文化祭のお礼と言えば、受け取ってくれるだろうか。そんな事を思いながら、目を瞑った。

    ―――
    (類side)

    「いいですね、ありがとうございました」
    「こちらこそ、ありがとうございました」

    ぺこ、と頭を下げる記者の方に愛想笑いを浮かべて、僕も会釈する。インタビューは、よくある様なことばかり聞かれた。けれど、新人のようでメモが遅く、言葉も辿々しい。お陰でかなり時間が経ってしまった。寧々が仕切りに時計を見ているから、急いでいるのかもしれないね。席を立ち上がって寧々の方へ向かうと、紙袋が手渡される。

    「とりあえず、急いでもう一つ行かないと」
    「結構遅くなってしまったからね」
    「ほんとよ。次の映画の打ち合わせがあるっていうのに」
    「あぁ、あの遊園地を貸し切って撮影する映画だね。今日は監督と軽い挨拶のみだったと思うけど」
    「そう、監督が忙しいからって打ち合わせが夜になっちゃったのに、あと三十分で始まっちゃう!」

    早足でスタジオを飛び出す寧々を追いかけて、ちらりと時計を見やる。九時半に差し掛かっているのを見て、寧々の鞄へ手を突っ込んだ。予想通り手前に入っていた僕のスマホを抜き取って、画面を見る。通知欄に入っているメッセージを見て、頬を緩めた。

    (良かった、予定はないみたいだね)

    もし予定が入っていたらどうしようかと思ったけれど、杞憂だったようだ。寧々に歩幅を合わせて歩きながら手早く返信を打ち返す。彼は、気付いただろうか。日程がクリスマスイブなことに。さすがに、少しあからさますぎたかな。休みが取れるかわからなくて、連絡がここまでギリギリになってしまった。けれど、せっかくなら、彼と行きたい所があったからね。

    「ちょっと、類、前見ないと危ないじゃない」
    「すまないね。あと少しだけ」
    「………ほんと、今までそんなこと無かったくせに」
    「ふふ、彼のことになると、どうしても落ち着かなくてね」
    「惚気ないでよ」

    送信ボタンを押すと、ぽこん、と音が鳴る。エレベーターに乗り込むと、寧々が数階上のボタンを押した。打ち合わせが同じビル内で良かったかな。息を整えている寧々を横目に、スマホの画面を見る。

    『もし良ければ、君に見せたい舞台があるんだ。それを、僕と一緒に見てほしい』

    そう短く返した文面を読み返して、画面を閉じる。彼は映画鑑賞なんかが好きだと言っていたからね。舞台やショーも楽しめると思う。それに、この前文化祭で劇を演じた彼は、とても輝いていた。彼自身、演じる楽しさを体感したと思うからね。映画やドラマ以外のものに触れて、もっと彼に興味を持ってもらいたい。出来ることなら、この先、彼が演者を目指してくれたら良いとも思っている。その為のお誘いだ。

    (まぁ、彼をクリスマスデートに誘いたかった、なんて下心もあるのだけどね)

    僕の隣で楽しむ彼が見れるなら、十分だ。ここ最近会いに行けなかったこともある。これは、僕の我儘だね。この我儘に、彼を巻き込んでしまうのは申し訳ないけれど、ほんの少しでも意識して貰えたらいい。

    (…彼が、僕を好きになってくれたら、何よりも優先するんだけどね)

    それこそ、仕事よりも。軽快な音が響いて、エレベーターが止まる。自動ドアが開いて、長い廊下が目の前に現れる。寧々が足早に歩き出し、僕も続いた。そろそろ、会議室に着いてしまうね。スマホをマナーモードにしようとしたところで、タイミング良くピロンッ、と音がする。画面に目を向けると、天馬くんから返信が返ってきていた。

    『ぜひ。楽しみにしています』

    思わず息を飲んで、足が止まる。胸の奥がふわふわして、何だか変な気分だ。短い文面は、絵文字もスタンプも何も無い。なのに、天馬くんがあの笑顔で笑っているような気がした。嬉しそうな笑顔が脳裏に浮かんで、消えてくれない。軽く額に手の甲を押し付けると、じわ、と熱が伝わってくる。

    (……これは、期待していい、んだよね…?)

    クリスマスイブに舞台を見ようと誘って、『楽しみにしています』は、誤解したくなる。彼は、こういうのを世間一般的に『デート』と言うのだと、気付いているのだろうか。
    文化祭の時だってそうだ。あれだけずっと一緒にいたのに、彼は終始にこにこして、意識しているかというと少し違って見えた。なんというか、憧れのお兄さん、を見るような、そんな感じがするんだ。彼からしたら、劇の師匠かもしれないけれど、僕には片想い相手の男の子なのにね。

    「ちょっと、類?どうしたの?」
    「あ、なんでもないよ、寧々」
    「急いでよね。打ち合わせ始まっちゃうじゃん」
    「すまないね」

    寧々に声をかけられて、慌てて笑顔を貼り付ける。スマホはポケットにしまい込んで、寧々を追いかけた。この打ち合わせが終わった頃には、天馬くんは寝てしまっているだろうか。それなら、返事は明日かな。待ち合わせ場所とか、時間を決めないと。あと、彼に門限はあるのだろうか。せっかくなら、ナイトショーも見てもらいたいから、遅くなっても大丈夫か確認しておかないといけないね。彼は実家暮らしだって言っていたから、遅くなっては家族の方が心配してしまうだろう。

    (……彼が一人暮らしなら、そのまま僕の家に誘って…)

    いや、それは、僕が手を出さないと約束できないから、無理かもしれないな。大丈夫、今回はちゃんと彼を家まで無事に送り届けると誓うから。何も今すぐじゃなくていい。彼が高校を卒業するまで、まだ時間はあるからね。ゆっくり僕を知ってもらえばいい。

    (…………次会うときは、指輪も、外して行こうかな)

    ちら、と左手を見て、グッと握り込む。彼に誤解されてしまってはいけないからね。天馬くんの前では、指輪は外しておこう。
    立ち止まった寧々に合わせて、僕も足を止めた。どうやら会議室に辿り着いた様だ。会議室の扉をノックする寧々が、ちら、と僕を見る。
    それに一つ頷いて、僕はいつもの作り笑いを浮かべた。
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    Replies from the creator

    ナンナル

    CAN’T MAKE銀楼の聖女

    急に思い付いたから、とりあえず書いてみた。やつを一話分だけ書き切りました。
    ※セーフと言い張る。直接表現ないから、セーフと言い張る。
    ※🎈君ほぼ居ません。
    ※モブと☆くんの描写有り(性的な事は特になし)
    ※突然始まり、突然終わります。

    この後モブに迫られ🎈君が助けに来るハピエンで終わると思う( ˇωˇ )
    銀楼の聖女『類っ、ダメだ、待ってくれっ、嫌だ、やッ…』

    赤い瞳も、その首元に付いた赤い痕も、全て夢なら良いと思った。
    掴まれた腕の痛みに顔を顰めて、縋る様に声を上げる。甘い匂いで体の力が全く入らず、抵抗もままならない状態でベンチに押し倒された。オレの知っている類とは違う、優しさの欠片もない怖い顔が近付き、乱暴に唇が塞がれる。髪を隠す頭巾が床に落ちて、髪を結わえていたリボンが解かれた。

    『っ、ん…ふ、……んんっ…』

    キスのせいで、声が出せない。震える手で類の胸元を必死に叩くも、止まる気配がなくて戸惑った。するりと服の裾から手が差し入れられ、長い爪が布を裂く。視界の隅に、避けた布が床へ落ちていく様が映る。漸くキスから解放され、慌てて息を吸い込んだ。苦しかった肺に酸素を一気に流し込んだせいで咳き込むオレを横目に、類がオレの体へ視線を向ける。裂いた服の隙間から晒された肌に、類の表情が更に険しくなるのが見えた。
    9361

    ナンナル

    DOODLE魔王様夫婦の周りを巻き込む大喧嘩、というのを書きたくて書いてたけど、ここで終わってもいいのでは無いか、と思い始めた。残りはご想像にお任せします、か…。
    喧嘩の理由がどーでもいい内容なのに、周りが最大限振り回されるの理不尽よな。
    魔王様夫婦の家出騒動「はぁあ、可愛い…」
    「ふふん、当然です! 母様の子どもですから!」
    「性格までつかさくんそっくりで、本当に姫は可愛いね」

    どこかで見たことのあるふわふわのドレスを着た娘の姿に、つい、顔を顰めてしまう。数日前に、オレも類から似たような服を贈られた気がするが、気の所為だろうか。さすがに似合わないので、着ずにクローゼットへしまったが、まさか同じ服を姫にも贈ったのか? オレが着ないから? オレに良く似た姫に着せて楽しんでいるのか?

    (……デレデレしおって…)

    むっすぅ、と顔を顰めて、仕事もせずに娘に構い倒しの夫を睨む。
    産まれたばかりの双子は、先程漸く眠った所だ。こちらは夜中に起きなければならなくて寝不足だというのに、呑気に娘を可愛がる夫が腹立たしい。というより、寝不足の原因は類にもあるのだ。双子を寝かし付けた後に『次は僕の番だよ』と毎度襲ってくるのだから。どれだけ疲れたからと拒んでも、最終的に流されてしまう。お陰で、腰が痛くて部屋から出るのも億劫だというに。
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    recommended works

    のくたの諸々倉庫

    MOURNINGその手を取るために必要なこと/類司
    前に書いてたものその1です。支部に上げる予定は今のところないのでここに。
     好きだ、と。
     震える声で告げた瞬間、類は大きく目を見開いた。
    「……君が、僕のことを?」
     小さく頷く。屋上は夕暮れの色に染まり、風も冷たくなり始めている。きっと今大声で歌ったら、遠くまで響くのだろうな──と。玉砕覚悟の告白故か、オレの思考はいつも以上に平静なもので。
     けれど見つめた類の表情は、案の定明るいものではない。まあそうだよな、というか告白なんかした時点で冷静じゃなかったか、などと頭を抱えかけたとき。
    「やり直し」
    「……は?」
     心の底から、意味が分からなかった。
     こいつの思考回路を理解できないのはいつものことだが、まさか告白の返事より先にダメ出しをくらうとは。けれどそんなオレをよそに、口元に手を当てて考え込んだ類はただ、「もう一度、言ってみせてよ」と。
    「なん、でだ」
    「そうだね、うまく伝わらなかった……というのが主な理由かな。思わずその対象を、僕かと訊いてしまうほどには」
    「ばっ……今ここにいるのは、オレとお前だけだろうが……!」
    「分からないよ、僕の頭上をカラスが飛んでいたくらいだ。それにこう見えて僕は臆病でね、君の『好き』と僕の『好き』が食い違っていたらと思う 2116

    のくたの諸々倉庫

    MOURNING色々/類司
    前に書いていたものその2(と言いつつ3つあります)
    ・お題:香水

     ……ああ、またか。
     周りにはバレないようにため息をついた。司くんの纏う香りが、いつも違うことをなんとなく嫌だと思い始めたのは、きっと僕達が付き合い始めたからだろう。とはいえ彼の周りに、匂いがうつるほどの香水をつけている人なんていないし──飛ばしたドローンが浮気現場なんてものをとらえたこともない。
     ああでも、彼には妹さんがいたんだっけ。なら彼女がつけているそれの香りだろうか、と。抱きしめた彼の肩に顔を埋めていれば、くすぐったそうに彼は笑う。
    「どうしたんだ、類」
    「君はいつも、違う香りをさせているね」
    「ああ、それは役作りのためだ」
     ……ん?
     予想外の返答に思わず顔を上げれば、ふふんと自慢げな顔で胸を張っている。よくぞ違いに気付いたな、と取り出された小瓶には、今度のショーで彼が演じる役のラベルが貼ってあった。
    「毎回こうして、演じる役に似合う香水をつけているんだ。もちろん妹の協力も得ている上、客席には届かない、というのは承知しているが」
     そこで一度言葉を切り、彼は微笑む。
    「いつも隣にいるお前には、どのようなオレにもときめいていてもらいたいからな!」


    ・お 1218