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    ナンナル

    @nannru122

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    POIPOI 77

    ナンナル

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    お弁当屋のバイトさんは、俳優さんにお弁当を食べてもらう。

    誤字が多いと思いますがスルーしてください。
    雰囲気で読み流すやつ。

    メインディッシュは俳優さん以外テイクアウト不可能です!×18(司side)

    賑やかなショッピングモールをフラフラと見て周り、お目当てのお店に入る。雑貨が並ぶ棚を一つ一つ確認していれば、簡単にそれは見つかった。

    「……どれにするか…」

    色とりどりの箱を見回して、首を傾ぐ。
    神代さんにお弁当を作ると約束をした。ならば、まずはお弁当箱が必要だろう。一つ一つ手に取って、眺める。やはり大人だからな、サイズが大きいものがいいだろうか。普段あまり食べないと、寧々さんは言っていたが、買いに来てくれる時は結構な量を買ってくれている。食が細い訳では無いのだろう。

    「木製のものもあるのか…!」

    確か、木製のお弁当箱は良いと聞くな。シンプルではあるが、これがいいかもしれん。サイズは…。
    んー、と顔を顰めて悩んでいれば、ぽん、と肩を軽く叩かれた。「司先輩」と聞き慣れた声で名前を呼ばれて振り返ると、冬弥が不思議そうな顔でそこにいた。

    「おぉ、冬弥ではないか!」
    「こんにちは。こんな所でお会いするとは思いませんでした」
    「冬弥も買い物か?」
    「はい。練習で使う水筒を新しいものにしようかと」

    丁度お弁当箱のコーナーの隣の棚が水筒の様だ。悩んでいたお弁当箱は、2段になっている方を手に取って、冬弥と共に隣の棚に移動する。ズラッと並んだ水筒を見回して、何となく小さめのものを1つ手に取る。

    「冬弥達は喉を使うから、水筒は大事だな」
    「はい。最近は練習の量も増えてきたので、少し大きいサイズにしようと思いまして」
    「そういえば、CDの発売が決まったと咲希に聞いたぞ!おめでとう、冬弥!」
    「ありがとうございます。収録も、ついこの間終わりました」

    嬉しそうな様子の冬弥に、オレも嬉しくなる。
    冬弥は、彰人達と四人のグループで歌を歌っている。たまたま路地で歌っていた時に声をかけられ、CDの話が持ち上がったそうだ。最初は乗り気ではなかったと聞いているが、周りに押されてここまで来たらしい。オレとしても、冬弥達の歌が評価されるのは嬉しいからな。昔から冬弥と仲の良い咲希が発表を聞いて、飛び跳ねて喜んでいたのを知っている。オレにとっても、冬弥は弟の様な存在なので、その成長が喜ばしい。
    冬弥と話をしながら、お弁当箱の他に魔法瓶と水筒も一緒に買った。冬弥達と同じように、神代さんにも喉を大切にしてほしいからな。喉にいい飲み物も一緒に渡したい。

    「買い物に付き合わせてしまって、すまんな」
    「いえ。オレも、司先輩と話が出来て楽しいです」
    「そうかそうか!オレも、冬弥の頑張っている話が聞けて嬉しかったぞ!」
    「ありがとうございます」

    冬弥と話すと、なんだか落ち着くな。他愛もない話をしながらショッピングモールを出て、家までの道を歩く。冬弥の家も近くなので、途中まで一緒だ。この後は、家で神代さんに作るお弁当のレシピを考えねばならんな。ぼんやりとそんな事を思っていれば、冬弥が、「そういえば」と呟いた。

    「司先輩のお師匠さんはお元気ですか?」
    「へ…? あ、あぁ、師匠…! 師匠なら、元気だぞ!」

    なんの疑いもない綺麗な目で問われ、慌てて返した。なんの事か一瞬分からなかったが、文化祭での事を思い出して合点がいった。『神代さん』の事だ。あの時、冬弥に神代さんを紹介できず、誤魔化すように『オレの師匠だ』と言ってしまったからな。だらだらと冷や汗が流れるが、表面上は笑顔で取り繕う。今更、師匠があの有名俳優の神代類だなんて、言えるはずがない。冬弥に言って、もし咲希にバレたら、言い訳できないからな。

    「それは良かったです。そう言えば、今度、彰人達と四人で、テレビに出ることになっていまして」
    「おおお!凄いじゃないか!」
    「咲希さんが教えてくれたんですが、その番組に、咲希さんがファンの神代さんも出るらしいんです」
    「んっ…?!」

    さらりと言われた言葉に、思いっきり咳き込んでしまい、冬弥が驚きつつもオレの背を叩いてくれる。ごほ、ごほ、と咳き込みながら、脳内に浮かぶ神代さんの顔に頭を抱えた。まさか、このタイミングで神代さんの名前が出るとは思わなかった。というか、同じ番組に出るのか、二人が? 冬弥がうらやまし…いやいやいや、そうじゃない。だが、オレは神代さんの隣に並びたいと思っていたのに、冬弥に先を越されるとは思わなかった。

    (……前に文化祭で顔を合わせた師匠だと、冬弥にバレなければいいが…)

    神代さんは知っているだろうし、黙っていて貰えるようにお願いしてみよう。冬弥は素直だからな。オレが神代さんと知り合いなのがバレては、咲希に正直に話してしまいそうだ。いつか話をしなければならないが、今はまだ咲希にも話せないからな。漸く咳が落ち着いて、冬弥に大丈夫と告げた。こほん、と一つ咳払いをしてから、冬弥の方へ顔を向ける。

    「収録はいつなんだ?」
    「次の月曜日ですね」
    「…ふむ、そうか」

    月曜日なら、丁度神代さんに会う日だな。ならば、その日に伝えてみよう。うん、と一人頷いていると、冬弥に首を傾げられた。冬弥には、何の事か分からないだろう。笑って誤魔化して、分かれ道で冬弥にもう一度礼を言う。冬弥に手を振って早足に家へ向かいながら、月曜日の事を考えた。

    ―――

    「………よし」

    キュッ、とランチクロスと端をしっかり結う。それを魔法瓶や水筒と一緒に手提げ袋に入れて、準備は万端だ。時計を確認すると、いつも家を出る時間より早い。手提げ袋を持って学校の鞄を背負ってから、玄関に向かう。咲希は今日早めに登校する日だと言って先に行った。ガチャ、とドアを開けて、「行ってきます」と大きな声で言う。
    本日は晴天である。

    「そろそろ来るだろうか…」

    そわそわと家の前で立って、左右を交互に見る。神代さんからは、朝受け取りに行く、とだけ言われた。オレの登校の時間に合わせると言ってくれたが、これで良いのだろうか。家の前で手提げ袋を握り締めて待てば、車のエンジン音が聞こえてきた。ハッ、として顔をそちらへ向けると、見覚えのある車が家の前で止まる。
    ドアが開いて、助手席の方から神代さんが降りてきてくれた。

    「おはよう、天馬くん」
    「お、おはようございますっ!」
    「遅くなってしまってすまないね」
    「いえ、全然待っていないので、大丈夫ですっ…!」

    バン、とドアが閉まって、そのまま車がゆっくり走り出す。それを目で見送った神代さんが、オレの目の前まで来た。頭を下げて挨拶をすると、神代さんはくすっと笑う。そのまま、学校がある方向を指さされ、流れで歩き出した。朝から神代さんに会えるというのは、なんだか不思議だ。足をゆっくりにして数歩分後ろを着いていこうとすると、神代さんもオレに歩幅を合わせて隣に来てくれる。それが申し訳なくて、いつも通りのスピードにもどした。

    「あの、車、行ってしまいましたが…」
    「大丈夫。寧々なら、もう少し先のところで待っていてくれるから。少しだけ、天馬くんと一緒に歩く時間が欲しくてね」
    「んぇっ…?!」

    ぶわっ、と顔が熱くなって、慌てて顔を逸らす。耳に触れるフリをして腕で顔を隠すも、全然隠せる気がしない。視線があっちへこっちへとさ迷って、心臓が煩いほど跳ねた。これはあれだ、仕事前の息抜きのようなものだ。息抜きになるのかは全く分からんが。

    「月曜日の朝から天馬くんに会えるなんて、なんだか嬉しいね」
    「……そ、ぅ、です、か…?」
    「いつもより仕事にやる気が出るよ」
    「っ、…ご、誤解を生むので、そういう言い方はどうかと思いますッ…!!」

    まるで、恋人にでも言うかのような甘い声に、顔の熱がどんどん高くなっていく。また、からかわれているのかもしれない。だって、神代さんも、オレに会えて嬉しいとか、都合のいい夢だ。こんな事を神代さんが言ったら、誰だって自分が特別だって勘違いしてしまう。
    まるでドラマの登場人物にでもなったみたいだ。神代さんのファンが多いのも、納得出来る。

    「おや、僕は思った事を言っているだけなのだけど…」
    「うぅ、…ね、寧々さんが待っているので、行ってきてくださいっ!!」
    「もう追いついてしまったね。次はもう少し先で待っていてもらおうかな」
    「お仕事遅れてしまいますよっ! っ、これ、お約束のお弁当ですっ!」
    「ありがとう、天馬くん」

    まだ話し足りないと言わんばかりの神代さんに、オレは慌てて会話を切り替えた。これ以上は、心臓が持ちそうにない。ふしゅ〜、と湯気が出そうな程熱い顔はくらくらして、限界だ。早口に切り出して、ぐっ、と押し付けるように差し出した手提げ袋を、神代さんが受け取ってくれる。少し重たいが、車なら大丈夫だろう。きらきらと輝くような笑顔でお礼を言われて、目の前がちかちかしてしまう。

    「水曜日に返すね」
    「…は、はぃ……」
    「天馬くんも、学校、頑張っておいで」
    「か、みしろさんも、…おしごと、がんばってくださぃ……」

    ひらひらと手を振って車の中に入っていく神代さんを呆然としたまま見送って、その場に立ち尽くす。頭の中は、先程の神代さんの顔ばかりが浮かんでいた。ふらふらとする足で学校へ向かうと、ぽつぽつと周りに同じ行先の生徒が増えてくる。が、それを気にする余裕がないほど、頭の中は神代さんでいっぱいで…。
    自分の教室に入って、自席に座った瞬間、ゴンッ、と思いっきり額から机へ崩れ落ちた。

    「……………これが、毎週は……死んでしまぅ…」

    アイドルに負けない程かっこいい好きな人のキラキラ笑顔は、朝から見るものでは無いと、オレはほんの少しだけ後悔した。
    このすぐ後に登校してきたえむに、質問責めにあったのは言うまでもない。

    ―――
    (類side)

    「……あれは流石にやり過ぎなんじゃ…」
    「天馬くんが可愛くてつい、ね」
    「あんたに狙われているあいつが不憫過ぎる…」

    抱えた手提げ袋はまだほんのりと温かい。中をちら、と覗くと、お弁当箱だけでなく水筒なんかも入っていた。彼は本当に真面目ないい子だ。そわそわとして、自然と口物が緩む。少しからかい過ぎたかもしれないけれど、あれくらいしなければ、彼も気付かないだろうからね。許してほしいかな。

    「幸せにする自信はあるからね。彼が不安にならないよう、目一杯愛情表現はしていこうかなって」
    「……そんなこと言って、類、楽しんでるでしょ…」
    「彼が高校を卒業するまでは待つつもりだからね。それまでは許してほしいな」
    「…………騒ぎになるような事はやめてよね」

    はぁ、と溜息を吐く寧々に笑顔で返して、窓の外へ目を向ける。今頃どんな顔をしているだろうか。真っ赤な顔で、僕の言葉の意味を考えてくれているだろうか。そうなら良い。ほかの事が何も手につかなくなるほど、僕でいっぱいになればいい。彼には、『誤解』も『勘違い』もして貰えなければ困るからね。自分が特別なんだと、気付いてもらわないと。

    「ふふ、天馬くんはいつ気付いてくれるかな」
    「………………ほんと、あんたがモテる理由だけは全く分かんない…」

    寧々は隠す気もない溜息を大きく吐いた。車はゆっくりと地下の駐車場に入っていった。

    ―――

    「次はテレビ収録だっけ」
    「そう。ゲストに高校生の子達が来るらしいね」
    「高校生ね。…天馬くんはそろそろお昼かな」
    「はいはい。隠さなくなったからって、そういうの言わなくていいから」

    ぐぐっ、と背中を押され、苦笑する。時刻は11時だ。学生なら12時にはお昼休憩だろう。僕らは撮影がこれからなので、少し遅くなりそうだ。天馬くんのお弁当の感想を送る頃には、彼の昼休みは終わってしまうかな。僕から連絡するまで、彼はそわそわしながら待っていてくれているのだろうか。ふふ、もしかしたら、『口に合わなかったかもしれない』なんて思って、教室で百面相していたりするのかな。それはそれで見てみたい。彼はとても表情が豊かで面白いからね。

    「………類、顔が気持ち悪いんだけど…」
    「おや、すまないね」
    「今日はテレビ番組の収録なんだから、間違っても変なこと言わないでよ。あんたが言うと、すぐ広まるんだから」
    「ふふ、気を付けるよ」

    キィ、と大きな扉を開いてスタジオに寧々と一緒に踏み込む。中にいたスタッフの人達が一斉にこちらを向いて、笑顔で集まってきた。ほとんどが女性スタッフで、挨拶や案内などを率先して行ってくれる。隣にいる寧々は面倒くさそうに先に行ってしまい、僕は作り笑顔を貼り付けた。こういう時、一人逃げていく寧々はずるい。話しかけられる事には適当に返して、用意されていた休憩用の椅子に座る。最後の調整なのか、スタッフさん達がバタバタしている中、他のキャストもスタジオに集まってきた。軽く挨拶をして、立ち話に付き合っていれば、調整はすぐに終わる。

    「神代さんは、ここでお願いします」
    「ありがとうございます」

    中央よりの席に座ると、隣は司会者の席のようだ。その向こう側に4つ程空席がある。多分、そこがゲストの席なのだろう。ざわざわとまた騒がしくなったスタジオを見渡すと、スタッフの説明を真剣に聞く子たちが見えた。見覚えのある姿に、目を瞬く。
    この前廊下ですれ違った子たちだ。

    (……あの髪の色、どこかで見たと思うのだけど…)

    紺桔梗と薄花色のツートンカラーの髪の少年は、穏やかな表情で仲間達を見ている。珍しい髪色なので、印象に残りやすいと思うけれど、どこであったのだったか…。それから、彼の隣にいる夕焼け色の髪の少年も見覚えがある。高校生という事は、天馬くんの知り合いかな。

    「………ぁ、…」

    はたと気付いて、思わず小さく声が零れた。昨年、彼と一緒に行った文化祭だ。確か、天馬くんの友だちとして紹介された。名前は確か、“冬弥くん”と“彰人くん”だったか。まさか、天馬くんの知り合いとこんな所で再会するとは思わなかった。なんとなく見ていると、夕焼け色の髪の子と目が合ってしまい、咄嗟に愛想笑いを浮かべる。向こうからも愛想笑いが返ってきたので、そっと顔を逸らした。

    (……まぁ、僕も大人だからね)

    初めての子達には優しい先輩でいてあげよう。困っているようなら助けてあげたいとも思うしね。
    決して、天馬くんの友だちだから、ではなく。

    ―――
    (司side)

    「………………」

    昼休み後の授業は、眠そうにする者や寝ている者が多い。ちら、と隣の席を見た時、隣のクラスメイトも寝てしまっていた。内容が数学なので、余計に眠くなるのだろう。黒板の文字をノートに書き写して、時計を見る。一時半はとっくに過ぎた。もう時期数学の授業が終わ時間だ。そわそわとしてしまう気持ちは深呼吸でなんとか落ち着かせる。けれど、すぐにまたそわそわしてしまって駄目だ。

    (…神代さんは、あのお弁当をもう食べただろうか……)

    昼休みには連絡が来なかった。もしかしたら、忙しいのかもしれん。それとも、美味しくなかっただろうか。ほんの少しだけ入れた野菜が気に入らなかったか。そんな事ばかり考えてしまって、何も手につかない。授業の内容も全然頭に入ってこない。

    「ぉ、…じゃぁ、今日はここまで」

    数学教師の声で、教室の中がざわざわとしてくる。日直の号令で席を立ち、挨拶をする。そんなお決まりの流れを終えた所で、慌ててスマホを掴んだ。画面に通知が入っているのが見えて、急いでロックを外す。

    「っ…!」

    メッセージアプリを開くと、一番上に神代さんと名前が表示された。一度深呼吸をしてから、名前をタップして開いた。パッと表示された写真には、空っぽのお弁当箱が映っている。その下のメッセージの出だしは、『ご馳走様』だった。続く文面を読むと、どれも美味しかったと感想が綴られている。それに安堵して、肩の力が一気に抜けた。

    「…良かった。神代さん、食べられたみたいだな…」

    味の感想は、どれも褒めてもらえている。お世辞だとしても、とても嬉しい。玉子焼きに明太子を混ぜて焼いてみたが、神代さんは初めて食べたようで面白い発想だと書いてある。味も気に入ってもらえたようで良かった。ふわふわの玉子の中にプチプチした明太子の食感が混ざって、ほんの少しピリッとする感じがオレも好きだ。今度じゃこやほうれん草なんかも混ぜてみよう。ほうれん草は嫌がられてしまうかもしれんが、ほんの少しなら大丈夫だろうか?

    「来週も、楽しみにしてくれるのか…」

    スマホの画面が嬉しくて、ついつい何度も見てしまう。一通り読んで、画面を切りかえて、なのにもう一度メッセージを開いて読んで、また閉じて、また開いてを繰り返す。口元が緩んで、気を抜いたらだらしない声が出てしまいそうだ。んんっ、と咳払いも一つして、次の授業の準備をする。これが終わったら、またバイトだ。

    「……来週も、美味しいって言って貰えるように、頑張ろう」

    神代さんの嬉しそうな顔を思い出して、ついもう一度、メッセージアプリを開いた。

    ―――

    「いらっしゃいませっ!」

    お店のドアが開く音がして、顔を上げる。水曜日のこの時間に来るお客様は決まっている。硝子のドアを開けて入ってきたその人は、いつも通り帽子やマスク、眼鏡で顔を隠していた。オレと目が合うと、マスクをズラして、眼鏡を外してくれる。月色の瞳が優しく細められて、ついドキッとした。

    「こんにちは、天馬くん」
    「こんにちは!神代さんっ!」

    カウンターまで一直線に来てくれた神代さんに、オレも笑顔で挨拶を返した。いつものメニューを注文する神代さんに笑顔で返して、一つひとつをパックに詰めていく。それを眺めながら、神代さんがにこにこと笑顔で口を開いた。

    「お弁当、作ってくれてありがとう」
    「ぁ、…いえ、こちらこそ、食べてくださってありがとうございましたっ…!」
    「ふふ、僕が完食したら寧々が驚いていたよ。どれも美味しくて、気付いたらなくなっていたからね」
    「それなら、安心しました」

    ぱちん、と蓋を閉めて、レジ袋に入れる。神代さんに金額を伝えると、ぴったり払ってくれた。いつもならここでレジ袋を差し出すのだが、何となく手が止まる。レジ袋を手渡して終わってしまうのがなんだか勿体なくて、一瞬迷ってしまった。視線が泳いだオレに、神代さんがくすっと目の前で笑った。

    「あの玉子焼きは面白いね。明太子が混ざっているから色合いも可愛らしくて、前に食べた玉子焼きより少し後味がピリッとするのがとても良かった」
    「あ、ありがとうございます…」
    「お味噌汁まで用意してくれてありがとう。温かいものがあると、とても落ち着くね。具も僕に合わせてわかめと豆腐にしてくれたんだよね、とても飲みやすかったよ」
    「それは良かったです」
    「それから、インゲンをお肉で巻いたやつも、食べられたよ。とても柔らかくて味の強いタレが絡まっていたから、あまり気にならなかった」
    「インゲンは良く茹でて柔らかくしたら、シャキシャキした食感が薄れて野菜らしさが減るかと思ったので…!」

    一品だけ混ぜた野菜も、食べてもらえたみたいで良かった。食べずに残してもらっても大丈夫だったのだが、挑戦してもらえたのが嬉しい。それに、食べやすかったと言われたら、頑張ったかいがある。お肉の量を増やして、甘じょっぱいタレも何度も味見して作ったからな。嬉しくて緩みそうになる口元は手を当てて隠す。神代さんは、野菜が嫌いだと言うが、オレが作った時は毎回ちゃんと食べてくれる。今日だって、メッセージで先に感想を貰っていたのに、直接言ってもらえたのが嬉しい。
    ほわほわと胸の奥が温かくなるのを感じながら、レジ袋を持つ手に力を入れた。
    「どうぞ」と袋を手渡すと、神代さんが優しく笑って受け取ってくれる。目の前で、神代さんの笑う顔が見られる。それだけで、充分過ぎるくらい幸せだ。

    「これ、返すね」
    「ありがとうございます!」
    「来週も、朝君の家に行くから、待っていてくれるかい?」
    「はいっ…!」

    お弁当箱の入った手提げ袋を受け取って、お礼を伝える。手提げ袋をカウンター内の荷物置きに一度置いて、神代さんの方へ顔を向けた。あまり引き止めては、困らせてしまうからな。ぺこ、とお辞儀をすると、神代さんに頭をぽん、と軽く撫でられた。すぐに撫でる手が離れてしまったが、残った神代さんの掌の感触が擽ったくて、自分の手で触れられた場所をおさえる。ひらひらと手を振る神代さんが入口の方へ行くのをぼんやりと見ていると、くるりと顔だけがこちらへ向けられた。

    「後でメッセージを送るけど、今度やる番組、良かったら天馬くんに見てほしいな」
    「………それって、もしかして月曜日に収録したやつですか?」
    「うん。前に文化祭で天馬くんに紹介された子達と一緒に収録したのだけど、聞いていたのかい?」
    「神代さんと共演するというのを、数日前に聞きました」

    お弁当箱を買いに行った日に、冬弥から聞いた話だとすぐに思い至る。文化祭で紹介したと言っても、たった一度、しかも綿菓子を作る間しか対面していなかったのに、覚えてくれていたのか。記憶力が良い所も、役者として大事な事なのだろうな。オレも、頑張らねばならんな。
    オレがうんうん、と頷くと、神代さんがくすくすと笑う。いつものようにマスクと眼鏡で顔を隠すと、ドアに手をかける。

    「なら、是非見てほしいな。結構楽しかったし、僕なりに沢山話をさせてもらったからね」
    「はい!楽しみにしていますっ!」
    「ふふ、それでは、また来週」
    「またのお越しをお待ちしておりますっ!」

    笑顔でそう返して、ドアを開ける神代さんにもう一度頭を下げた。硝子越しに、遠のいていく神代さんの後ろ姿をぼんやり見つめて、小さく息を吐く。傍に置いておいた手提げ袋をちら、と見て、カウンターに額を預ける。顔が熱いのは、神代さんに会うと全然おさまらん。ドキドキもうるさいし、気を抜くと声が裏返ってしまいそうになる。

    「………それでも、神代さんが帰ってしまうと、寂しいと思ってしまうのだな…」

    出来ることなら、もっと話をしていたい。文化祭の練習の時みたいに、沢山神代さんと一緒にいられたら…。と、そこまで考えて、慌てて頭を振る。そもそも、オレは神代さんと話をすることだって本当は出来なかったはずなんだ。こんなに良くしてもらっていて、これ以上欲張りになってどうする。

    「とにかく、仕事に集中しなければっ…!」

    パチンッ、と両手で頬を叩いて気持ちを切り替える。えむが来るまであと少しだ。店番はしっかりやらねばな。
    この数分後にお客さんが増え、忙しさで考え事をする暇は消えるのだった。

    ―――

    「お兄ちゃん、協力してっ!」
    「………ぇ、と…」
    「類さんの握手会っ!絶対絶対行きたいのっ!」
    「……………………………」

    パンッ、と目の前で手を合わせて頼み込んでくる妹の咲希から、視線を逸らす。
    バイトが終わって家に入ったら、目の前にスマホの画面が突き付けられた。そこに出ていたのは、『神代類の握手会』という見出しだ。咲希に早口で説明された内容をまとめると、どうやら今度写真集が発売になるとかなんとか。発売に合わせて、握手会が行われるのだが、参加資格は抽選で勝ち取らねばならないらしい。あの神代類に会えるチャンスという事もあって、かなり当選の確率が低くなるので、オレも一緒に挑戦してほしい。という事だ。
    必死に頼み込んでくる咲希に、オレは頭を抱える。

    (……その神代さんに、今日も会ったばかりなのだがな…)

    返してもらった手提げ袋を後ろ手に隠して、唇を引き結ぶ。神代さんと知り合いになったという事を、オレはまだ咲希に話していない。というのも、後ろめたい気持ちがあるからだ。
    オレとは違い、咲希は幼い頃から『神代類のファン』だ。身体が弱く入院生活の長かった咲希が頑張るきっかけになったのが、神代類のドラマだった。ドラマの中で、優しくかっこいい神代さんを見て元気を貰ったのだと、咲希は良く言っている。ファンクラブにも入る程で、咲希の部屋には神代さんのポスターや雑誌なんかが沢山ある。妹に頼られたい兄としては少し複雑ではあったが、咲希が楽しそうに日々を過ごしているのを見られて安心できた。
    だからこそ、咲希に神代さんとの事を話せずにいる。ましてや、懸想をしているなんて言えるはずがない。オレよりもずっと前から神代さんが大好きな妹に、いつ話すべきかと頭を悩ませている。

    「お願いっ、お兄ちゃん…!」
    「…………………」
    「当たらなかったら諦めるから、応募だけでも一緒にやってくださいっ…!」
    「…………はぁ、わかった、わかった…」

    咲希のお願いに、弱い。目の前で頼み込まれては断れず、渋々頷いた。大丈夫、抽選は神代さんがやるわけではないし、当たらない確率の方が高い。それに、咲希も友だちと行くことになると思うので、大丈夫だろう。
    パッと表情を輝かせた咲希が、オレからスマホを受け取った。手際よく応募サイトを開いて入力していく咲希を見て、オレはもう一度息を吐いた。なんだか、今日は疲れてしまったな。

    「えへへ、当たるといいなぁ」
    「そうだな」
    「お兄ちゃん、ありがとうっ!」
    「どういたしまして」

    ぽんぽんと咲希の頭を軽く撫でてから、オレはスマホを受け取って部屋に向かった。
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    Replies from the creator

    ナンナル

    CAN’T MAKE銀楼の聖女

    急に思い付いたから、とりあえず書いてみた。
    ※セーフと言い張る。直接表現ないから、セーフと言い張る。
    ※🎈君ほぼ居ません。
    ※モブと☆くんの描写の方が多い。
    ※突然始まり、突然終わります。

    びっくりするほど変なとこで終わってます。なんか急に書き始めたので、一時休憩も兼ねて投げる。続くか分からないけど、やる気があれば一話分だけは書き切りたい( ˇωˇ )
    銀楼の聖女『類っ、ダメだ、待ってくれっ、嫌だ、やッ…』

    赤い瞳も、その首元に付いた赤い痕も、全て夢なら良いと思った。
    掴まれた腕の痛みに顔を顰めて、縋る様に声を上げる。甘い匂いで体の力が全く入らず、抵抗もままならない状態でベンチに押し倒された。オレの知っている類とは違う、優しさの欠片もない怖い顔が近付き、乱暴に唇が塞がれる。髪を隠す頭巾が床に落ちて、髪を結わえていたリボンが解かれた。

    『っ、ん…ふ、……んんっ…』

    キスのせいで、声が出せない。震える手で類の胸元を必死に叩くも、止まる気配がなくて戸惑った。するりと服の裾から手が差し入れられ、長い爪が布を裂く。視界の隅に、避けた布が床へ落ちていく様が映る。漸くキスから解放され、慌てて息を吸い込んだ。苦しかった肺に酸素を一気に流し込んだせいで咳き込むオレを横目に、類がオレの体へ視線を向ける。裂いた服の隙間から晒された肌に、類の表情が更に険しくなるのが見えた。
    6221

    ナンナル

    DOODLE魔王様夫婦の周りを巻き込む大喧嘩、というのを書きたくて書いてたけど、ここで終わってもいいのでは無いか、と思い始めた。残りはご想像にお任せします、か…。
    喧嘩の理由がどーでもいい内容なのに、周りが最大限振り回されるの理不尽よな。
    魔王様夫婦の家出騒動「はぁあ、可愛い…」
    「ふふん、当然です! 母様の子どもですから!」
    「性格までつかさくんそっくりで、本当に姫は可愛いね」

    どこかで見たことのあるふわふわのドレスを着た娘の姿に、つい、顔を顰めてしまう。数日前に、オレも類から似たような服を贈られた気がするが、気の所為だろうか。さすがに似合わないので、着ずにクローゼットへしまったが、まさか同じ服を姫にも贈ったのか? オレが着ないから? オレに良く似た姫に着せて楽しんでいるのか?

    (……デレデレしおって…)

    むっすぅ、と顔を顰めて、仕事もせずに娘に構い倒しの夫を睨む。
    産まれたばかりの双子は、先程漸く眠った所だ。こちらは夜中に起きなければならなくて寝不足だというのに、呑気に娘を可愛がる夫が腹立たしい。というより、寝不足の原因は類にもあるのだ。双子を寝かし付けた後に『次は僕の番だよ』と毎度襲ってくるのだから。どれだけ疲れたからと拒んでも、最終的に流されてしまう。お陰で、腰が痛くて部屋から出るのも億劫だというに。
    6142

    recommended works