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    ナンナル

    @nannru122

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    ナンナル

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    俳優さんは勝負に出る。
    最近全然書けなくて、今日は絶対上がらないって思ってたのに、九時からスイッチ入ってほぼゼロ状態からここまで行った_:( _ ́ω`):_
    時間も時間で眠いので読み返しはしてない。誤字脱字とか多いですが雰囲気で読んでいただけますと。

    先に言う。ここまでしても伝わらないのが☆くんだと思ってる。

    メインディッシュは俳優さん以外テイクアウト不可能です!× 19『今回の特別ゲストは、Vivid BAD SQUADの皆さんです!』

    盛大な拍手と、客席からの歓声が会場を包み込む。それをいつもの愛想笑いで拍手をしながら、類は見ていた。入ってきた四人組は、初めて見る顔と見た事のある顔が半分。司会者に、予め打ち合わせで伝えられていた席まで案内され、少し緊張気味の四人が座る。一番背の高い青柳冬弥が、類の視線に気付いて目を向けた。ぱち、と合った目に、にこりと笑みを一つ返して、類は顔を逸らす。

    『皆さん現役の高校生ですよね。その歳でCDの発売なんてすごいですね』

    司会者が話しかけると、一人ひとりが返していく。わたわたとしている少女を除いて、他の三人は淡々と答えていた。その様子を眺めながら、類は愛想笑いを続ける。台本通りの流れだ。この後は、彼らのCDの宣伝が入り、他のキャストを交えたトークが始まる。トーク内容は、大まかに決まっているが、質問に対しての返答は細かく決まっているわけではない。なので、リハーサルでは飛ばされていた部分だ。
    寧々から、あまり話すとボロが出るから極力喋らないように、と念を押されている類は、周りに気付かれない様に小さく息を吐いた。幼馴染であり、自身のマネージャーである寧々からの信用はどうやら薄いらしい。そこまで変な話はしないよ、と類は内心で心配性の幼馴染へ返した。

    『そんな期待の大きい彼らへ、皆様からのご質問をどんどんお聞きしちゃいましょー!』

    わっ、とまた観客席から声が上がる。
    どうやら宣伝も終わって、トークが開始するらしい。男女半々の空間で、ほとんどアドリブなトーク番組は開始した。

    ―――
    (司side)

    「お兄ちゃんっ!始まった!!始まったよっ!!」
    「分かったから、少し落ち着かないか、咲希」
    「だって、とーやくんと類さんが一緒に映ってるんだよ?!」

    ぶんぶんと両手を強く握りしめて上下に振る咲希は、隣で見ていてもとても興奮しているのが分かる。それはそうだ。大ファンである神代類が、小さな頃から仲の良い幼馴染と一緒にテレビに出ているのだから。咲希に落ち着けと言いつつ、オレもドキドキしている。今回は冬弥達がメインであるとはいえ、流石人気俳優な神代さんはカメラによく映る場所に座っている。冬弥達の方へ柔らかい表情を向ける神代さんはとてもかっこいい。多分、咲希がいなければ前のめりになって見つめてしまうかもしれん。

    「いいなぁ、とーやくん。類さんとお話できるなんて…」
    「…………そう、かもしれんな…」
    「アタシも握手会に行けたらお話できるかな…?」
    「………出来るんじゃないか…?」

    咲希の言葉に視線が逸れる。流石に、下手なことは言えない。
    神代さんと話すどころか、連絡先も交換して週に二回の頻度で会っていて、握手どころか手を繋いだり頭を撫でられたり、抱き締められてしまったこともある、と…。思い出して、ぶわわっと顔が熱くなる。実は我が家に何回も来ていて、ソファーも椅子もテーブルも触れられたことがあり、お客さん用の食器や布団は神代さんが使ったこともある、とか。神代さん用のお弁当箱のセットがこの家にある、とか。きっと咲希が知ったら、大騒ぎなのだろうな。

    (……オレも、神代さんが好きになった、なんて、絶対に言えないが…)

    それも、ファンとしてでは無い。神代さんの特別になりたい、と、心のどこかで願ってしまう。そういう意味の好きだ。とてもじゃないが、咲希に言えるはずもない。神代さんにだって、これは言えない。言って、困らせたくない。
    ツキ、ツキ、と胸の奥が痛い気がして、眉を顰める。

    「あっ!とーやくんだよ!お兄ちゃんっ!!」
    「む…」
    「なんか、知り合いがテレビに出てるのって不思議だね!」
    「…そうだな」

    画面に冬弥がアップで映されて、咲希が足をパタパタとさせる。普段は行儀が悪いと母さんに注意されるが、今日は両親もいない。咲希が大興奮している気持ちも分かるので、オレも何も言わない。司会者の女性に質問され、冬弥はいつも通りの穏やかな表情で返し始めた。どうやら、お便りで質問のあったものを出演者に聞くという番組のようだ。

    「とーやくん、なんだか緊張してるね」
    「そうだな。だが、流石冬弥だ、今のところその緊張も上手く隠しているな」
    「うん。アタシなら、絶対言葉が出てこなくなっちゃうよ」

    淡々と答える冬弥の声を一つ一つ大事に聞く。弟の様な冬弥が、こんなにも頑張っているのは誇らしいな。胸がジン、として、つい口元が緩んだ。彰人も、上手く冬弥をフォローしてくれているようだ。一緒に映る片方の女性の方が、緊張で固まってしまっている。だが、仲間同士で上手くフォローし合っているのがなんだか微笑ましくて、安心してしまう。冬弥から聞いてはいたが、良い仲間が出来たのだな。

    『それでは次の質問です。皆さんが憧れている人はどんな人ですか?』

    小さな紙を手に、司会者の人が次の質問を読み上げる。メンバーの二人がキラキラした顔で話し始めたのは、どうやら憧れのミュージシャンのようだ。あの彰人が絶賛する人とは、どんな人なのだろうか。そんな二人を優しい顔で見つめる冬弥ともう一人の女性へ、司会者の人が顔を向ける。冬弥はどうやら先にもう一人のメンバーへ先を譲ったようだ。少し恥ずかしそうに髪の長い女性メンバーに顔を向けて、話し始めている。どうやらこの二人は仲がとても良いようだ。嬉しそうに抱き締める夜空色の髪の女性に、クリーム色の髪の女性はわたわたとし始めた。この光景も良くある事のようで、冬弥と彰人は見慣れている様子で見守っている。

    『とても仲が良いんですね。青柳くんは、憧れの人とかいますか?』

    司会者が今度は冬弥に視線を向ける。その質問に、冬弥は頷いた。マイクを口元へ近付けて、落ち着いた声で話し始める。

    『幼い頃から、憧れている先輩がいます。とても優しくて、明るく、太陽の様な人なんですが――』
    「あ、もしかして、お兄ちゃんの事じゃない?」
    「…と、冬弥……!」

    咲希がオレの腕を掴んで画面を指さす。確かに、オレの名前は出ていないが、幼い頃から家族同士で付き合いがあり、沢山アドバイスをくれた先輩と紹介されてはオレの事かもしれん。よく三人で遊んだ事や、ピアノを練習したこと、相談に乗ってくれたことなど、冬弥が話をしてくれている。胸の奥がじんわりと熱くなって、思わず目頭を指でおさえた。これは、気恥ずかしくもあるが、嬉しいな。

    『青柳くんは、その人の事がとても大好きなんですね』
    『はい。尊敬する先輩です』
    『青柳くんに、そんな風に言ってもらえる先輩の方が羨ましい』

    司会者が上手くまとめて、スタジオの人達が優しい顔をしている。なんとも穏やかな雰囲気の会場。オレも、冬弥にそんな風に言って貰えて嬉しいぞ。後で冬弥にお礼を言わねばならんな。うんうん、と頷いて、涙が滲む目を指で擦る。と、カメラが切り替わって画面に神代さんが映った。

    『神代さんはどなたか憧れている人とかはいますか?』
    「あ、類さんだ!」
    「…、……」

    司会者の言葉に、神代さんがマイクを持ち直す。
    少し考える素振りをした神代さんは、ちら、と横へ視線を向けたようだった。若い女性を中心に人気の神代さんが憧れている人、というのはどんな人なのだろうか。ほんの少し体が前に出る。ぎゅぅ、とオレの腕を掴んで、咲希も画面に注目していた。

    『憧れている人、と言われると、沢山いるので中々難しいですね』
    『神代さんでも、憧れている人は沢山いるんですね』
    『そうですね。そういえば、最近“憧れ”と言うよりは、“感心”している子はいますよ』
    『人気俳優である神代さんが気にかけるなんて、どんな人なんでしょう』

    にこ、と笑う神代さんに、司会者の人が少し身を乗り出した。周りのキャストさん達も、興味があるようで、真剣な表情をしている。咲希もとても真剣な表情だ。憧れの人ではなく、“感心のある人”とは、どんな人だろうか。もしや、役者志望の後輩とかだろうか。そういえば、前に神代さんが番組の事を教えてくれた時に、『楽しくなって』と言っていたな。沢山話したと言っていたが、この事だろうか。それ程神代さんが興味を惹かれた相手とは、一体どんな人なのだろうか。もし新人の役者さんだったりしたら、参考にさせてもらいたいな。

    『とても真面目で明るく元気な子なんですが、料理がとても上手で優しい子なんですよ』
    「……………ん…?」
    『最近プライベートで仲良くさせてもらっているんですが、僕の前だと緊張するみたいで、すぐ顔を赤くする可愛い子で』
    「………んぇ……?!」

    思わず変な声が出てしまう。
    これは、自意識過剰と言うやつだろうか。神代さんが、カメラへ視線を向けているだけのはずなのに、何故かオレの方を見ている様に感じてしまう。じわぁ、と頬が熱くなって、心臓の鼓動が早くなる。これは、勘違いだ。オレのはずがない。もしかしたら、神代さんはオレ以外にも最近知り合った人がいるのかもしれん。もしくは、仕事で知り合った人で、プライベートでも連絡をとるようになったとか…。

    『僕に演技の仕方を教えて欲しいって言ってくれて、とても筋の良い子なんですよ。教えた事はしっかり吸収して実践してくれますし、元々声の出し方が良く役者向きの子だったんですが、僕が少し指導したらとても良い演技をしてくれたんです』
    『神代さんに指導してもらえるなんて、素晴らしい体験じゃないですか』
    『ふふ。その子の舞台を見せてもらいましたが、とても素晴らしかったですよ。そのあと、僕の隣に立ちたいからと役者を目指すって言ってくれて、僕の事は“師匠”って呼んでくれるんです』
    「…んんッ……?!」

    ごほ、けほ、とむせて咳を繰り返すオレに、咲希が驚いて背を叩いてくれる。心配そうにする咲希に一言「大丈夫」と返して、オレは頭を抱えた。
    勘違いじゃない。これは確実にオレの事だ。絶対に文化祭の時の話をされている。神代さんに演技の仕方とかを教えてもらったのも、劇の後役者になりたいって思って、神代さんに言ったのも、冬弥達に“オレの師匠だ”と紹介したのも、全部当てはまってしまう。

    (…こ、れは、冬弥や彰人にバレないだろうか…)

    背筋を冷たいものが伝い落ちていく。ここで二人にバレて、咲希に言われてしまったら…。そんな事をする奴らじゃないと思うが、オレが咲希に隠しているのを知らなかったら、世間話の間に話をされてしまうのでは…。かといって、オレが黙っていてくれと言って、もし二人が気付いてなかった時は墓穴を掘ることになってしまう。これは、一体どうすればいい。

    『神代さんのお弟子さんなんて、素敵ですね。他にも立候補したい新人は沢山いるんじゃないですか?』
    『有難いですが、僕は、今は一人で十分ですね』
    『あの神代類にそこまで期待される役者の卵は、どんな方なんでしょうね。私達も近い未来が楽しみですよ』
    『ふふ、期待していてください。きっと、僕よりも素晴らしい役者になりますから』

    司会者の言葉に、神代さんがふわりと笑う。テレビの画面いっぱいに映る神代さんの表情は、とても柔らかい。一緒にいる時に、オレへ向けてくれる表情。優しくて、とてもかっこいい、男の人の顔。
    じわぁあ、と顔だけでなく耳や首まで熱くなって、慌ててソファーを立ち上がった。驚く咲希に気付かれる前に背を向けて、「トイレに行ってくる…!」と逃げるようにリビングを飛び出す。トイレの扉を開けて滑り込むように体を入れ、背中で扉を塞ぐ。ずるずるとその場にしゃがみ込むと、自動でトイレの蓋がゆっくり開いた。
    静かな機械の駆動音しかしない一室に、心臓の音がうるさく鳴り響く。何もしていないのに、息が苦しく感じた。痛いくらいドキドキするのは、神代さんのあの顔を思い出してしまったからだ。

    「……………あれは、ズルい…」

    きゅぅ、きゅぅ、と胸が締め付けられるみたいに苦しい。苦しいのに、嬉しくて嬉しくて、口元が緩んでしまいそうだ。神代さんに、特別だと言われたみたいで、嬉しい。カメラに向けているはずなのに、オレに向けられたみたいだった。神代さんに指導を受けたいと言う役者は、きっと沢山いるはずなのに、オレだけだと言って貰えた様に錯覚してしまう。まだ、ハッキリとオレだと言われた訳では無い。もしかしたら、勘違いの可能性もまだある。なのに、何故こんなにも、“オレだ”と、自信を持ってしまうのだろうか。

    「………見てほしい、と、言ったのは、…この事だろうか…」

    神代さんが、是非見てほしいと直接言ってくれた。それは、この言葉をオレに聞かせるためだったのか。期待、されている。他でもない神代さんに。オレがいつか隣に立ちたいと、そう言ったから。それならば、絶対にその期待に応えてみせる。きゅ、と唇を引き結んで、胸に手を当てた。まだ、ドキドキしていて、落ち着かない。嬉しくて舞い上がりそうで、けれど、少しだけ期待に添えなかったらと不安もある。だが、あの表情に、“大丈夫”と、言われた気がしたんだ。

    「…神代さんは、ずるいなぁ……」

    むに、と指で頬を摘んで、目を閉じる。浮かぶのは、あの優しい顔ばかりで、顔の熱が引いてくれない。この特別扱いされているような感覚のせいで、いつまで経っても神代さんへの気持ちに切り替えがきかないな。諦めねばならんのに、諦めきれない。
    その内、神代さんが正式に婚約者の人とテレビで発表するまで、このままだろうか。その時まで、オレは無謀なこの気持ちを抱いてないといけないのか。ほんの少し眉間に皺がよる。考えたくないが、オレは、神代さんの“たった一人の特別”にはなれんからな。

    「……………はぁ、…こんな顔、咲希には見せられんな…」

    もう少し頭を冷やしてからもどろう。
    神代さんのことを考えると、いつまで経ってもおさまらないので、暫くトイレの中で別のことを考えた。

    ―――

    『まるで、熱烈な告白みたいですね』

    司会者の言葉に、類はふわりと微笑んだ。会場にいた観客も、出演者でさえも、その表情に思わず息を飲む。シン、と静まり返ったスタジオで、類はマイクへ声を落とした。

    『そうですね。僕にとっては、そうかもしれません』

    スタッフも含めたその場の全員が、呆然と言葉を失う。
    テレビを見ていた視聴者も、同じだった。あの、神代類が肯定した。それは、あまりに衝撃的な事実。スタジオの隅でそれを見ていた寧々は頭を抑えて蹲った。「何言ってんの、馬鹿…」と思わず零れた言葉は誰の耳にも届かない。寧々だけが知っている、類の秘密だ。他人にそこまで興味を持たなかった類が、唯一惹かれた司を思い返して、もう一度深い溜息が零れる。

    『……か、神代さんも面白い冗談を言うんですね…!』
    『ふふ、これでも、今必死にアプローチをさせてもらっているんです。中々気付いてもらえないので、僕ももう少しハッキリ言わないといけないと思いまして』
    『全国のファンが卒倒しそうですが…』

    司会者の笑顔が引き攣っている。もう誰も、類を止められないと察したようだ。にこにことご機嫌な類は口元へ手を当てて小さく笑った。左手の薬指には、指輪の跡だけが残っている。いつも映っている銀色の輪は、もうそこにはなかった。ざわ、と観客席が騒がしくなり、スタッフが無理矢理CMを挟む。逃げるようにスタッフの方へ駆けていった司会者の後ろ姿を目だけで追って、類は小さく息を吐いた。

    (……流石に、これで気付くかな…)

    ハッキリと言った言葉を、伝えたかった相手は聞いてくれるだろうか。類の頭の中には、真っ赤に染った顔で慌てる司が浮かんでいた。司の妹は類のファンであり、類の番組を見る時は良く兄妹で見ていると、類は聞いていた。だから、この番組が放送される時も、兄妹で見てくれるのだろう。そう思うと、ほんの少しの恥ずかしいような気持ちと、司がどんな反応をしてくれるかというワクワクした気持ちで類の胸の内がいっぱいになる。

    「……………」

    ちら、と横へ視線を向けると、今回の特別ゲストである四人と目が合った。正確には、冬弥と、だ。彼はキラキラした目で類を見ている。にこ、と類が微笑むと、冬弥もほんの少し口角を上げて笑い返した。

    「素敵なお弟子さんがいらっしゃるんですね」
    「ふふ、ありがとう。僕には勿体ないくらい、可愛い弟子だよ」

    冬弥の言葉に、類は素直に礼を言う。冬弥も優しい表情を向けていた。そのすぐ隣で、彰人が頭を抱え長く息を吐いている。冬弥は気付いていない。類の言う“可愛い弟子”が、自分の“憧れている先輩”だと。

    「すごいな、彰人。あんなにもお弟子さんを想っているなんて。咲希さんがファンになる気持ちがよく分かる」
    「………冬弥、頼むからちょっと黙れ」
    「? どうしたんだ、顔色が良くないが…」
    「……頼むから気付け。お前、めちゃくちゃ張り合われてるぞ…」
    「?」

    キラキラと輝く目で類を見る冬弥に、彰人はもう一度溜息を吐いた。どこか鈍感な相棒に、彰人の腹部がキリキリと痛む。類は、冬弥の憧れの人が司な事に気付いている。気付いていて、態と司を引き合いに出したのだろう。それに気付いてしまった彰人だけが、この場の空気に胃を痛めていた。何も気付かない冬弥に、彰人はこれ以上何も言わない。
    そんな二人を見ていた類は、ふと視線を感じてスタジオの奥へ目を向けた。鬼の様な顔で類を睨む寧々を見つけ、にこ、と作り笑顔を貼り付ける。

    (…これは、後で怒られるかな……)

    自身のマネージャーの怒りを察して、類は背筋を伸ばす。
    指輪は常に付けること。これは寧々と決めた約束の一つだ。類に近寄る女性が多い事や、週刊誌なんかのスキャンダルネタにされないように、変な問い合わせを減らすために、ずっとしてきた。婚約者が居ると肯定せずに思わせ、極力他人との接触は抑えてきた。が、今回の事で、それら全てが無駄になる。更に、特別視している“人”がいると、発言してしまったのだ。今更否定も言い逃れも出来ないだろう。

    (…それでも、天馬くんに誤解されたままでいるのは、困るからね)

    どこか一線を引こうとするのは、きっと婚約者が居ると信じているからだろうと類は気付いている。だからこそ、ハッキリと公の場で宣言するしか無かった。プライベートで言っても、司に上手く伝わると類は思えなかった。少し長めの打ち合わせの後、司会者が漸く戻ってきて、撮影が再開される。
    この後は、質問も変わり、先程の事に触れられることは無かった。他のキャストも、どこか緊張した面持ちで撮影は続き、無事に終わった時にはその場の殆どが安堵したのは別の話である。

    ―――

    「………す、すごい…」

    ドキドキとする胸をおさえて、ほんのりと赤く染まった顔で画面から目が逸らせずにいる咲希は、小さく言葉を零した。一緒に見ていた司は、先程リビングを飛び出していってしまった。司会者と大ファンである俳優神代類のやり取りに、咲希は目が逸らせない。

    「これ、もしかして、類さんの好きな人の話だよね…」

    ひゃわー、と女子高生らしい可愛らしい反応で、咲希は足をパタパタとさせ百面相をする。恋をまだ知らない咲希にとっては、まるで少女漫画を見ている気分だ。有名人にこんな王子様みたいな事を言われては、ドキドキしてしまう。自分だったら、きっと耐えきれなくて逃げ出してしまうかもしれない。咲希はそんな風に自分に置き換えて考え、また恥ずかしそうに目を固く瞑った。

    「類さんの好きな人って、どんな人なんだろう…」

    ぎゅぅ、と兄の腕の代わりに傍にあったクッションを抱き締めて、脳裏に女性の顔を思い浮かべる。今話題の女優や、可愛いアイドルを浮かべては、首を左右へ傾けた。どれもしっくりこない、と口をへの字にし、クッションに顔を埋める。CMの軽快な音が、一人きりのリビングに響いた。
    ふ、と浮かんだテレビの映像を思い出して、咲希はまたじわ、と頬を熱くさせる。

    「……類さんの、あんな顔、初めて見たなぁ。好きな人のお話する時って、すごく甘い顔をするんだ…」

    ドラマや映画で見たどの顔よりも、ずっとずっと甘い顔を、咲希は見てしまった。きっと、この番組を見ていた誰もが思ったことだろう。普段見せる表情とは少し違う、大人の男性の顔。幼い頃から大ファンで、ずっと追いかけてきた咲希が、まだ知らない俳優神代類の表情だった。

    「うぅ…、あの顔で見つめられたら、絶対ドキドキして逃げたくなっちゃうよ。類さんの好きな人が緊張しちゃうの、分かるなぁ…」

    類が言っていた、“緊張してすぐ赤くなる”という相手の様子を思い出して、つい納得してしまう。うんうん、と頷き、自分の事では無いというのにドキドキが未だおさまらない咲希は、ぼんやりと隣へ目を向けた。

    「……お兄ちゃん、トイレ長いなぁ…」

    早く兄にこの事を聞いてほしい。そう思いながら、この番組が終わるまで帰ってこなかった司を、咲希は待ち続けた。

    ―――
    (類side)

    「…………」

    そわそわと、スマホへ目を向けてしまう。
    今日は、あの番組が放送される日だ。時間的にも、もう終わった頃だろう。スタッフと話をしに行った寧々はまだ戻ってこない。次の打ち合わせは、今度出る写真集の打ち合わせだったはずだ。

    「……まぁ、天馬くんの事だから、連絡が来ることは無いか…」

    番組を見てほしいと言ったけれど、リアルタイムで見てくれているかも分からない。それに、今回の番組は殆ど特別ゲストの彼らが中心の番組だ。ドラマや映画と違い、感想を抱く様な番組でも無い。彼が態々連絡をくれるかは難しいだろうね。それなら、見てくれたかどうか、僕から連絡するべきだろう。

    「…いや、今度直接会って反応を見るのもいいかもしれないな」

    きっと、いつもみたいに緊張して真っ赤な顔の彼が、困った様に問いかけてくれるかもしれない。あそこまでハッキリ言ったのだ。僕が彼を特別に想っていると、流石の天馬くんも気付いただろう。それならば、彼がどう返すのか面と向かって見てみたい。
    ふふ、とつい笑みのこぼれる口元へ手を当てて、ソファーの背もたれへ体を預ける。

    (もし、彼に直接的に問われたら、どう答えようか…)

    はぐらかして、戸惑う彼を見るのもいいかもしれない。あまり意地悪をすると、嫌われてしまうだろうか。まぁ、それならもう一度惚れ直させてみせるけれど。
    可愛らしい反応をしてくれるだろう天馬くんを思い浮かべていれば、机の上のスマホが震えた。軽快な音が鳴り、画面には愛おしい彼の名前が表示されている。数回目を瞬いて、急いでスマホを手に取った。指を滑らせて応答すると、機械越しにいつもより大きな声が聞こえてくる。

    『か、神代さん、今いいですかっ…!』
    「君から電話なんて、珍しいね。また何か事件かい?」
    『え、ぁ、…そ、ういうわけではないのですが……』
    「ふふ、からかってすまないね、大丈夫だよ。なにかな?」

    困った様に口ごもる天馬くんの声が可愛い。機械越しなのが少し勿体ないな。脳裏に、彼の困った様な顔が浮かんで、口元が弧を描く。彼はとてもわかりやすい。これは、あの番組を見てくれたのかな。彼が電話するくらいなのだから、理由がそれしか思い至らない。

    『その、…神代さんが前に言っていた番組、見ました…』
    「嬉しいね。どうだったかな」

    予想通り、番組の話だったようだ。最初の勢いはどこへやら、少し小さくなった声を聞き漏らさないように集中する。緊張のせいかいつもより少しだけ大きな呼吸の音すら、愛おしい。僕の事を、番組を見ている間ずっと考えてくれたのだろう。そう思うと、今すぐにでも彼に触れたいと思ってしまう。

    『…あ、あんな事言って、大丈夫なんですか…?!』
    「うん。大丈夫だよ。全部、僕の本心だからね」
    『っ…、あ、の、時のって……』
    「言っておくけど、全部君の事だよ。僕はあの時、天馬くんだけを想って言ったから」
    『んぇ…?!』

    勘違いだと思い込まれる前に、退路を塞ぐ。天馬くんなら、僕の発言を勝手に曲解しそうだからね。通話口で彼がわたわたとしているのが伝わってくる。きっと、今彼は林檎の様に顔を赤らめているのだろうね。通話なのが恨めしい。彼が目の前にいれば、その表情も仕草も見れるというのに。手を伸ばせば、触れられたというのに。
    ぐっ、と膝の上であいた手を握り締める。

    『…そ、れって、……』
    「僕の言ったこと、ちゃんと考えておくれ。僕は、君の憧れの人でも、師匠とかでもないし、そんな所で、終わるつもりもないから」
    『………ぇ、…ぁ、……ぇ…?』

    機械越しに、彼の戸惑う声が聞こえてくる。
    ここまで言えば、流石の彼も勘違いは出来ないはすだ。自分が僕の特別なんだと、早く自覚してもらわないとね。

    「それじゃぁ、また月曜日の朝に」
    『………は、ぃ…』
    「おやすみ、天馬くん」

    消え入りそうな声で、おやすみなさい、と返してくれた天馬くんの声を最後に、通話を切った。
    スマホを机の上に置いて、手の甲で目元を塞ぐ。額が、じわ、と少しだけ熱い気がした。緊張しなかったとは、言わない。僕だって、彼と話す時は緊張くらいする。月曜日、彼はどんな顔をしてくれるだろうか。もしも、彼が期待するような目を向けてくれたら、僕は手を出さずに我慢出来るだろうか。

    「……あと一年は、長いなぁ…」

    はぁ、と深い溜息を吐くと、タイミング良く寧々が戻ってきた。
    あの番組のせいで仕事が増えたと、とても恨めしそうな顔で僕を睨む寧々に、僕はいつも通りの作り笑顔を向けた。
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    Replies from the creator

    ナンナル

    CAN’T MAKE銀楼の聖女

    急に思い付いたから、とりあえず書いてみた。
    ※セーフと言い張る。直接表現ないから、セーフと言い張る。
    ※🎈君ほぼ居ません。
    ※モブと☆くんの描写の方が多い。
    ※突然始まり、突然終わります。

    びっくりするほど変なとこで終わってます。なんか急に書き始めたので、一時休憩も兼ねて投げる。続くか分からないけど、やる気があれば一話分だけは書き切りたい( ˇωˇ )
    銀楼の聖女『類っ、ダメだ、待ってくれっ、嫌だ、やッ…』

    赤い瞳も、その首元に付いた赤い痕も、全て夢なら良いと思った。
    掴まれた腕の痛みに顔を顰めて、縋る様に声を上げる。甘い匂いで体の力が全く入らず、抵抗もままならない状態でベンチに押し倒された。オレの知っている類とは違う、優しさの欠片もない怖い顔が近付き、乱暴に唇が塞がれる。髪を隠す頭巾が床に落ちて、髪を結わえていたリボンが解かれた。

    『っ、ん…ふ、……んんっ…』

    キスのせいで、声が出せない。震える手で類の胸元を必死に叩くも、止まる気配がなくて戸惑った。するりと服の裾から手が差し入れられ、長い爪が布を裂く。視界の隅に、避けた布が床へ落ちていく様が映る。漸くキスから解放され、慌てて息を吸い込んだ。苦しかった肺に酸素を一気に流し込んだせいで咳き込むオレを横目に、類がオレの体へ視線を向ける。裂いた服の隙間から晒された肌に、類の表情が更に険しくなるのが見えた。
    6221

    ナンナル

    DOODLE魔王様夫婦の周りを巻き込む大喧嘩、というのを書きたくて書いてたけど、ここで終わってもいいのでは無いか、と思い始めた。残りはご想像にお任せします、か…。
    喧嘩の理由がどーでもいい内容なのに、周りが最大限振り回されるの理不尽よな。
    魔王様夫婦の家出騒動「はぁあ、可愛い…」
    「ふふん、当然です! 母様の子どもですから!」
    「性格までつかさくんそっくりで、本当に姫は可愛いね」

    どこかで見たことのあるふわふわのドレスを着た娘の姿に、つい、顔を顰めてしまう。数日前に、オレも類から似たような服を贈られた気がするが、気の所為だろうか。さすがに似合わないので、着ずにクローゼットへしまったが、まさか同じ服を姫にも贈ったのか? オレが着ないから? オレに良く似た姫に着せて楽しんでいるのか?

    (……デレデレしおって…)

    むっすぅ、と顔を顰めて、仕事もせずに娘に構い倒しの夫を睨む。
    産まれたばかりの双子は、先程漸く眠った所だ。こちらは夜中に起きなければならなくて寝不足だというのに、呑気に娘を可愛がる夫が腹立たしい。というより、寝不足の原因は類にもあるのだ。双子を寝かし付けた後に『次は僕の番だよ』と毎度襲ってくるのだから。どれだけ疲れたからと拒んでも、最終的に流されてしまう。お陰で、腰が痛くて部屋から出るのも億劫だというに。
    6142

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