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    ナンナル

    @nannru122

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    ナンナル

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    この話、🎈くんが☆くんの事を考える時に「彼」と呼ばせるか「彼女」と呼ばせるかめちゃくちゃ悩む…:( •ᾥ•):
    とりあえず、今回は「彼」にしてるけど、後で書き換えるかもしれぬ…。

    にょつ 3※注意※

    ・続きのようなやつ。
    たまたま7000字まで書いてたから、書ききってみた。
    注意文は前と同じ。
    雰囲気で読み流してください。

    ーーー


    (類side)

    初めて彼と喧嘩した。
    人付き合いの苦手だった僕には、かなりの衝撃だった。
    いつでも凛としていて優しい彼のことを少なからず好ましく思っていたし、憧れもあったと思う。いずれ王の後を継ぐとひたむきに努力する彼が、純粋に好きだった。
    だからこそ、王城の庭で一目惚れしたこの想いを、真っ先に彼に伝えたのだ。彼なら笑わずに、応援してくれるも思ったから。
    まさか、それで喧嘩になるとも思っていなかったけれど。

    ―――

    「で、皇太子殿下を見返すために努力して、沢山の令嬢を誑かしてまで初恋の御令嬢探しをし続けた結果、皇太子殿下に余計嫌われるようになった、と」
    「誑かしてはいないのだけれどね」

    静かに紅茶を飲む寧々に、にこりと笑って返す。彼女の母親と僕の母親が知り合いの為、昔から交流がある。天馬くんの次に僕が仲良くしている子だ。彼と喧嘩してからは、何かあれば寧々に聞いてもらっている。
    そんな彼女と今一緒にいるのは、話聞いて貰うためだ。

    「情報を得るためなら贈り物もデートもします、なんて、周りからしたらいい迷惑じゃない。その気もないのに、その気にさせるんだから」
    「おや、僕は話を聞かせてほしいと声をかけているだけだよ」
    「…あんたの見目でそんなことを言われたら、誰だって勘違いするわよ」

    はぁ、と隠す気なく盛大に溜息を吐かれる。僕としては、彼女の居場所さえ聞ければそれで良かったのだけれどね。他の御令嬢に興味もなければ、必要以上に親しくなるつもりもない。僕は、あの子を見つけられればそれでいいからね。
    その為なら、なんだってする。

    (…なんとしても、期日までに見つけないとならないからね)

    父さんから打診されるお見合い話を全て断ってきた。僕には想いを寄せる人がいると、そうはっきり打ち明けて。けれど、貴族の、それも国で有名な宰相である父さんの跡を継ぐ跡取りとして、婚約は義務だ。それを断り続けるのは、いつまでも可能というわけではない。
    父さんから提示されたのは、僕の成人の儀が行われる年までに決めること、というもの。それまでに見つけて婚約を成立させなければ、父さんが指定した相手を娶らなければならない。そういう約束をしてしまった。
    当時は、彼女を探すのにそう時間はかからないと思っていたんだ。高位貴族は数も限られているから、すぐに見つかる、と。けれど、国中の御令嬢に会ってみたけれど、僕の探す人はいなかった。髪色から王族の血を引く人なのだとは思うけれど、どうしても彼女が見つからない。他国の可能性も考えて、最近は他国の令嬢の情報も集めてみている。けれど、なかなか見つからないまま学院に入学してしまった。
    あとたった三年で、本当に見つけられるのだろうか。

    「それより、学院に通い始めてから天馬くんに邪魔ばかりされて、全然情報収集が出来ないのだけど」
    「類が目をつけられる様なことばかりやっているからでしょ」
    「ただお茶を飲んでいるだけだよ。夜会でだって、話しかけられたから話をしているだけだというのに」

    思わず眉間に皺が寄ってしまう。
    学院に入るまでは、出来るだけ彼との接触を避けた。王家とのお茶会は断ったり仮病を使い、彼が訪問する時は窓から逃げたり、外出先で会おうものなら理由をつけてすぐにその場を離れた。会う度に険しい顔をする彼を、僕は苦手になっていたからだ。
    何か言いたげに顰め面をする天馬くんが、苦手だ。前はいつも笑顔でいてくれたし、僕を見かけると駆け寄ってきてくれて、いつだって手を引いてくれた。だというのに、あの日から僕らの間には、高い壁が出来てしまった。彼に憧れていたこともあり、そんな彼を見たくないと思ってしまっているのかもしれない。彼にまた拒絶されるのが、怖いのだと思う。だから、僕は彼とこれ以上関わりたくない。
    そんな僕の言葉を聞いて、寧々がそっと肩を落とした。

    「皇太子殿下って、類に気があるんじゃないの?」
    「それはないよ」
    「否定早すぎだから」

    寧々の言葉にきっぱりとそう言い切る。
    彼はこの国の皇太子だ。昔からの腐れ縁ではあるけれど、そういう仲でもない。第一、僕は彼に嫌われているのだから、有り得るはずもない。単に、不真面目な僕が許せないのだろう。学院に通っているのだから、真面目に学生生活をしろ、と。彼は本当に真面目だからね。

    「……まぁ、わたしは関係ないし、どうでもいいけど。巻き込まれるのは嫌だし」
    「せめて、彼が邪魔をしに来なければ、もう少し上手くいくと思うのだけれどね」
    「…というか、王家の血筋なら、皇太子殿下の妹さんは違うの?」

    首を傾げる寧々に、僕はそっと頷いて返した。
    天馬くんには、妹さんがいる。咲希くんという、彼の一つ歳下の皇女だ。彼と同じ王族特有の髪色をしていて、ふわふわの髪は腰まで伸ばしている。彼と違い、いつもにこにこと優しく笑いかけてくれる様は物語のお姫様そのものだろう。

    「似ているのだけれど、彼女ではないね」
    「…なんで言い切れるのよ」
    「笑った顔が違うんだ。それに、僕が探している彼女の髪は真っ直ぐなストレートだったからね」
    「…………笑った顔、ね…」

    寧々から、じとりとした目が向けられる。印象の問題だけれど、確かに違うんだ。咲希くんも表情豊かではある。けれど、僕が綺麗だと思った、あの笑顔とは違う。それに、彼女は天馬くんの妹さんだ。昔は彼と仲良くしていた事もあって、必然的に彼女と接する機会も多かった。だから、彼女ではないことはすぐに分かったんだ。
    どちらかと言うと、天馬くんの笑った時の顔に、似ていたから。

    (……まぁ、彼ではないこともハッキリしているから、これだけ探し回っているのだけれどね)

    自嘲気味に笑って、そっと息を吐く。
    やっぱり、この国にはいないのだろうか。これだけ情報収集をして探し待っているというのに、一切何も得られない。名前も分からない御令嬢を探すのが、ここまで大変だとは。もしかしたら、僕の見間違いか、思い出を美化し過ぎているのか。
    ここまで来ると、そうではないと言いきれないね。

    「まぁ、見つけたとしても、もうすでに婚約も決まっているかもしれないしね」
    「ほぅ? お前は補習をサボって、こんな所で婚約の申込みをしていたのか?」

    ぴしり、とカップに伸ばしかけていた指先が固まる。目の前で、寧々が小さく「げ…」と声を零していた。僕のすぐ後ろを見ながら、その表情を固くしている。聞き慣れてしまった声に、僕は頭が痛くなる気がした。振り返るのが恐ろしく、なんとかこの場を逃げる策を考える。
    が、それよりも先に、天馬くんが僕の肩を掴んだ。

    「草薙家の御令嬢は他の貴族からも申し入れが沢山あるはずだ。素行不良のお前より十分有能な者が選ばれることだろうな?」
    「……皇太子殿下殿、少し手の力が強いよ。そんな事では、か弱い御令嬢のエスコートは難しいのではないかい?」
    「安心しろ。お前が真面目に授業を受けられるようになるまで、オレはお前のエスコートだけをさせてもらうからな。まずは、補習室までエスコートしてやろうか、神代くん?」

    これみよがしににこりと笑って僕を“神代くん”と呼ぶ天馬くんに、僕は苦虫を噛み潰したような顔になる。
    今日は歴史の授業の補習だ。前回のテストを適当に回答した結果、補習対象になってしまった。考え事をしていて気が抜けてしまっていただけなのだけどね。というよりも、何故補習の日程を把握していて、尚且つ僕を呼び出しに彼が来ているのか。
    本当に、何故ここまで嫌われたのだろう。いや、あの喧嘩が原因だろうけれど。

    (…まぁ、友人ではなかったと彼が言い切ったのだから、それよりもっと前から嫌われていたのかな)

    肩を竦めて、席を立つ。
    これ以上ここにいては、寧々が気疲れしてしまうだろうからね。固まったまま動けずにいる寧々に軽く挨拶をして、彼の手を振りほどいた。咄嗟に何か言おうとする天馬くんには、「ちゃんと向かうから安心しておくれ」と一言伝える。連行されるかのように掴まれるのは御免だ。

    「…、…な、なら、逃げないように手だけでも…」
    「心配しなくとも、真っ直ぐ向かうよ。これ以上君の時間を取るわけにもいかないからね。だから、そこまでする必要はないだろう?」
    「…………そ、う、だな…」
    「そういうのは、君の握力に耐えられる立派な女性の為にしてあげればいい」
    「…………………」

    ふい、と僕から顔を背けて、天馬くんが黙ってしまう。行き場の無くなった手を後ろ手に隠し、彼は僕から一歩分距離を取った。けれど、どこかへ行く様子もなければ、立ち止まることもない。僕の行く先に着いてくるようだ。これ以上逃げるつもりはなかったけれど、こうも信用されていないのは残念だね。まぁ、彼はとことん僕を嫌っているようだから仕方ないかもしれないけれど。
    そんな相手の世話まで頼まれてしまう皇太子殿下殿には同情するよ。心の中でそう呟いて、僕は彼と一言も交わさず補習室に向かった。

    ―――
    (司side)

    「…う、…嘘だっ……」

    わなわなと震える手をギュッ、と握り締める。
    目の前に張り出された期末試験の結果から、目が逸らせない。学院に入学してからずっと学年一位を守ってきた。この国の王になるのだからと、人一倍勉学にも力を入れてきた。苦手な外国語も専属の家庭教師に教わりながら習得したのだ。
    だというのに、オレの名前の隣には『二』の文字が入っている。そして、今までオレの名前の上には誰の名前もなかったところに、『神代類』という名前が書かれている。

    「……か、みしろ、るい、に、…抜かされた…」

    何度見ても順位は変わらない。震える声は、周りのざわめきに掻き消されてしまう。この場の誰もが、この結果を見て驚愕している事だろう。
    なにせ、類は学院に入学してから勉学を全く真面目にしてこなかったのだ。テストの時は休むか寝るかしているし、普段の授業はサボってばかり。オレが何度呼びに行き、その度に何度鬼ごっこや隠れんぼとなったことか。補習の一覧に名前がよく登場していた。そんな類が、オレより高い点を取ったのだ。
    全教科満点という類の結果に、開いた口が塞がらない。

    「…何かの間違いだ、だって……そんな…」
    「おはよう、天馬くん」
    「のわぁッ……?!」

    呆然とするオレの耳元に低い声が落とされ、思わず素っ頓狂な声が出る。ビクッ、と身体を跳ねさせると、腰に手が添えられて、引き寄せられた。慌てて顔を横へ向けると、隣で類がにこ、と笑う。綺麗な顔に、ぶわりと顔が熱くなっていくのが嫌でもわかる。

    「迎えに行くと言っているのに、何故一人で行ってしまうんだい?」
    「ひ、一人で行けると言っているだろうッ…?! それよりも、離れろッ!」
    「何かあっては困るじゃないか。前は君の方から来てくれていたのに、照れているのかい?」
    「何も無いッ! 何も無いから、腰を掴む手を離さんかッ…!!」

    両手で類の胸元を押しやるも、類は全然動じない。そればかりか、余計に腰を引き寄せる手に力が入った。じわぁ、と触れられたところから熱が広がっていく。心臓が破裂しそうな程煩く鼓動して、目の前がくるくると回っているかのようだ。
    こんな至近距離で類と接することがなかったせいか、頭の中はぐちゃぐちゃだ。ここ数日、類からのスキンシップが多くて困る。こんな風に腰を抱き寄せられたり、顔の距離がやけに近かったり、やたらと声音が甘く聞こえてしまったり。オレが女と知られてしまってから、類の態度がおかしい。必死に抵抗しているものの、体格差のせいか全然引き剥がせん。
    心のどこかで、類にされて嬉しいと思ってしまっていることすら、悔しい。

    「そんなこと言わずに、教室までエスコートさせておくれ」
    「え、えええすこーとッ…?!」

    さらりと言ってのけた類に、思わず声が裏返る。目の前でふわりと笑う類に、胸の奥がきゅぅ、と音を鳴らした。きゃー、と周りの女性達から声が上がり、一瞬で場の雰囲気が変わる。先程までのざわめきとは違う騒がしさに、更に人が集まってきた。
    慌てて腰を抱く類の手を振り解き、赤くなった顔を袖で隠す。大きく息を吸うと、ほんの少し気持ちが落ち着く気がした。

    「いらんッ…! あと、先に言っておくが、無断でオレに近付くんじゃないぞ…?!」
    「照れてしまっているのかい?」
    「違うッ! これ以上お前に振り回されてなるものかっ…!」

    ふん、と顔を背けて、類に背を向ける。
    こうなったら、勉強の時間を増やしてやる。それから、家庭教師にもっと詳しく教わらねば。剣術の稽古に隣の領地への視察、母さんとの淑女教育とやる事は沢山あるが、負けたままでは納得いかん。絶対に次のテストでは類より良い点を取るんだ。
    逃げるように教室に入り、どかっ、と席に座る。鞄の中から筆記具や教科書を引っ張り出して、ぱらぱらと捲った。とにかく、テスト内容の復習もしよう。間違えそうなところを重点的に。
    じっ、と文字の並ぶ教科書に目を通していく。中々理解できないところは何度も読み、時折別の教本を開いた。そんなオレの視界の隅に、影が映り込む。その影は大きくなり、とん、と肩に何かが触れた。

    「あぁ、ここが苦手なんだね」

    びくっ、と肩が跳ねる。
    顔を上げると、先程振り切ったはずの類が何故か隣にいた。オレの手元を覗き込む姿に、目を丸くさせて指を差す。

    「……な、何故お前がっ……?!」
    「ここは、こっちの教本の方が分かりやすいよ」
    「ぁ、ありがとう、……ではなくっ、…!」

    差し出された別の教本を反射的に受け取ってお礼を言う。が、すぐに頭を左右に振って受け取った教本を突き返した。平然と隣に座っている類は、気にせずに教本を開いていく。
    学院は基本的に自由席だ。授業によって教室は変わるし、その日その日で座る場所も変わってくる。類は基本授業には出ない。出たとしても、今まではオレから離れた席を選んで座っていた。あからさまに離れた場所に座られて、その度に胸がちくちくと痛んだ。サボる類を探しに行って、教室まで連れ帰って来る時も、態々隅の席へ逃げられた。そんな類が、何故今日に限って隣に並んでくるのか。

    (いや、ここ最近毎日こうだ…)

    オレが女だと知られた日の翌日から、類はやたらとオレに構ってくる。話しかけてくるし、席だって自然と隣に座ってくる。行き帰りも馬車で送ると言われて、即刻拒否した。オレは、類に女性扱いをしてほしいわけでない。遊びのつもりでオレに触れないでくれ。

    「オレに構うなと、さっきもい、…んむ……」

    大きな声で言おうとした言葉が、遮られる。
    類の人差し指が、オレの唇にとんと当てられたのだ。思わず口を噤んだオレに、類はそっと首を横へ倒した。にこりと笑みを浮かべる類が、「天馬くん」とオレの名を呼ぶ。

    「この前も言ったように、僕は君のサポートがしたいんだ」
    「……、…」
    「僕で力になれるのなら、いくらでも付き合うよ」
    「………だ、が……」

    類の優しい声音に、言葉を飲み込む。
    確かに、類はこの前そう言っていた。オレが成人になる日までサポートする、と。だが、それは断ったはずだ。オレだって、皇太子として育てられたのだ。護られるつもりも、教えを乞うつもりもない。まして、類は授業をサボっていて、まともに勉強など……。

    (…まともに授業に出ていなかったはずなのに、何故、オレより期末考査の成績が上だったのだ…?)

    そう思い至り、つい顔を顰めてしまう。
    授業をサボり、沢山の女性達と一緒にいる姿を何度も見てきた。前回まで、中間より低い結果しか残してなかったはずだ。だと言うのに、何故今になって…。もやもやとしてしまい、上手く入ってこない。類が隣にいるせいで、余計に落ち着けない。
    持っていたペンを机に置いて、教本をぱたんと閉じた。

    「……天馬くん…?」
    「…少し席を外す。着いてくるな」
    「もう授業が始まってしまうよ」
    「…いいから、放っておいてくれ」

    席を立ち上がるオレを見て、類も席を立つ。そんな類に、極力感情を殺してそう言った。頭の中がぐちゃぐちゃで、全くまとまらん。一度一人になって落ち着きたい。伸ばしかけられた手を振り払い、類から少しだけ距離をとる。睨むように類を見れば、それ以上は何も言われなかった。
    逃げるように教室を出て、トイレの個室に入る。鍵をしっかりとかけ、扉に背を預けた。

    「……………」

    ずる、と扉を滑り落ちるように、その場にしゃがみ込む。きゅ、と唇を引き結び、腕で目元を隠した。

    「………いまさら、…なんなんだっ……」

    そう言葉にしてしまうと、目頭がじわりと熱くなる。
    小さく聞こえる始業の合図は、初めて聞こえないふりをした。

    ―――
    (類side)

    「……嫌われているなぁ…」

    ぼんやりと壁に背を預けて、そう声をこぼす。
    廊下に他の生徒はいない。授業が始まってしまったようで、校舎の中は静かだ。男性用のトイレからは誰も出てこない。けれど、天馬くんがこの中にいるという事は知っている。声をかけようかとも思ったけれど、そんな事をしては余計に怒らせてしまうかもしれない。

    「…難しいな……」

    そっと息を吐いて、顔を上へ向ける。窓の外は晴天だ。いつもなら、こんな日は裏庭で寝転がっていたかもしれないね。温かくて気持ちがいいんだ。それに、周りの音が何も気にならなくなる。

    (………前まで、天馬くんの声を聞くのが嫌だったから、特に用事がなくても授業をサボっていたっけ…)

    ぼんやりとそんな事を思い出して、くす、と笑ってしまう。今は、天馬くんの声が聞こえないだけで、こんなにも不安になってしまうなんてね。
    天馬くんの、いつもハキハキとした声が苦手だった。この国の王になる為に日々努力する彼を見るのが、嫌だった。誰にでも向ける太陽の様な笑顔が、気に入らなかった。僕へ向けられるものが、全て他の人と違って見えたから。
    ずっと、彼を支えて行くのだと思っていた。幼いながらに、“皇太子の側近候補”として共に過ごしてきた。父さんと国王陛下の様な、信頼し合える関係になるのだと、信じて疑わなかったから。

    (……だからこそ、彼が皇太子らしくなるほど悔しくて堪らなかった…)

    彼と共に成長し、誰よりも彼の理解者でいるのだと、そう思っていたのに。
    あの日、彼は僕を捨てた。天馬くんには隠し事なんてしたくないし、天馬くんにも僕の全てを理解してほしかった。それなのに、彼は祝福してくれるどころか、僕を突き放した。友人では無いと、言い切った。
    それが、本当に悔しかったんだ。

    「…君に認めてもらえないなら、僕の努力に意味なんかないというのにね……」

    天馬くんを支える為に必死に頑張った努力が全て否定された気がして、何に対してもやる気がなくなった。彼の隣にいないのなら、もう頑張る必要なんて無いのだと、諦めることにした。
    ただ、彼と距離を置くきっかけになってしまった、この想いだけは捨てたくなかった。多分、意地のようなものだろうね。天馬くんが僕に婚約などできないと言い切ったから、絶対に見返してやろうと思った。婚約者を連れて行って、『見直したかい?』って、言いたかった。
    意気地無しで、引っ込み思案。他人と関わるのが苦手だった僕を、彼は情けないと思っていたのだろう。確かに、国王陛下となる天馬くんの臣下になるなら、それではダメだろう。宰相である父さんの様に、人の心を読み、交渉を有利に進める話術も必要だ。人と話すのが苦手だと逃げていられるわけが無い。

    (彼に言われたのが悔しくて、必死に対話術を学んだっけ…)

    人と話す特訓もして、沢山の御令嬢に関わりながら、あの子を探した。今思えば、初恋相手を探しながら、天馬くんにただ認めてもらいたくて必死だったんだ。素敵な人を見つけたなって。努力したんだなって。やっぱり、僕に隣にいて欲しいって、そう言ってもらえるように。
    その意地がどんどん強くなって、結果的に、彼への苦手意識へ昇華されてしまっていたのだろうね。
    ずっと探していたのが天馬くんで、僕が得たいのが天馬くんの隣なのだと自覚したら、今まで感じていた彼への苦手意識はすっかり消えてしまったようだ。

    「……嫌われているところからスタートなんて、中々にハードルが高いなぁ…」

    やっと見つけた初恋相手は、僕を嫌う皇太子殿下。
    女性の様に優しく接しても、疎まれるだけ。ガードが固くて、すぐに逃げられてしまう。話がしたくとも、素直に応じてはくれない。世話焼きで優しくお人好しだから、困っている人がいれば嫌いな相手にも手を伸ばす。人望があって、沢山の人に愛される未来の国王。
    彼が僕を選んでくれると言うなら、今度こそ期待に応えてみせるのに。

    「……………そもそも、何故僕は、彼にここまで嫌われているのだろう…?」

    昔は仲が良かったと思うのだけど。
    寧々にも何度も聞かれた。その度に、考えるのを放棄してきた。いくら考えても、思い当たる節がなかったから。けれど、昔の僕に何か問題があったなら、彼との関係をやり直すためにも、それを知らなければならないだろう。
    例えば、なにか気に触るようなことを言ってしまったか、とか。

    「………」

    思い返してみても、あの日は会ってすぐあの話になったはずだ。約束を破ったり、僕が遅刻した訳でもない。本当に、どこで彼を怒らせてしまったのか全く分からない。
    はぁ、と息を吐くと、トイレの中から鍵を開ける音が聞こえてきた。ハッ、として顔を上げる。足音が近付いてくるのに気付いて、慌てて扉から離れた。考え込んでいるうちに、かなり時間が経ってしまっていたようだ。
    ずっとトイレの前で彼を待ち伏せていた、なんて思われたら、余計に嫌われてしまうだろう。
    物陰に身を隠してそっと伺えば、トイレから天馬くんが出てきた。きょろきょろと辺りを見回した彼が、小さく肩を落とす。保健室の方へ足を向けた彼の背を目で見送ってから、僕は壁に寄りかかった。
    今声をかけるのはやめておこう。そう決めて、小さく息を吐く。

    「……どうすれば、天馬くんと距離を縮められるのだろうね」

    距離を縮める第一歩は、会話だと思う。
    昔の僕が天馬くんと仲良くなったのだって、彼が沢山話しかけてくれたからだ。引っ込み思案で人見知りだった僕に、何度も会いに来てくれて、沢山話しかけてくれた。それなら、僕も同じようにすれば、少しは心を許してくれるかと思ったのだけど…。中々溝は埋まらない。

    「…女性相手なら、二人っきりで話すと、警戒心も薄れるけど…」

    そこまで考えて、はたと思い出す。期末試験の少しあとに、実技試験があったはずだ。剣術の試験で、今回もトーナメント戦だろう。天馬くんはいつも一位を取っているから、勝ち残れば戦えるはずだ。天馬くんが他の生徒に負けるはずもないからね。

    (いつもは面倒だから適当な所で負けていたけれど…)

    ふむ、と一つ思案して、僕はその場を後にした。

    ―――

    「という事で、僕と賭けをしようよ、天馬くん」
    「なにが、“という事で”、なんだ…?」

    授業が終了した後の休憩時間。
    逃げようとする天馬くんを捕まえて、にこりと笑う。訝しむ様に僕を見る天馬くんは、逃げられないと悟ったのか、溜息を吐いた。話を聞いてくれる気になったらしい。
    パッと掴んでいた手を離すと、天馬くんはほんの少し方の力を抜いた。それを見て、胸の奥に針が刺さった様な気がした。

    「で、賭けとはなんだ?」
    「次の実技試験で僕が君に勝ったら、お願いを一つ聞いてほしいんだ」
    「…は……?」

    僕の言葉に、天馬くんが呆気とする。
    そんな彼には構わず、そのまま続けた。

    「勿論、君が勝ったら、君のお願いを何でも一つ聞いてあげるよ」
    「まてまてまて、何故そうなるんだ?!」
    「僕が叶えてあげられる範囲ではあるけれど、悪い話ではないだろう?」

    まだ何か言いたげな天馬くんに、にこりと笑みを向ける。
    もし本当に僕が嫌いなら、彼が勝ったお願いで『二度と近付くな』と言えばいい。そうしたら、僕はその願いを聞き入れるつもりだ。
    天馬くんに近付かずにアプローチは続けるけれど。

    「………何を考えているんだ…?」
    「何も。天馬くんともっと仲良くなりたいだけだよ」
    「………………」

    じとりと僕を睨むように見て、天馬くんがなにやら考え始める。この話に乗ってくれれば、僕は全力で勝ちに行く。もし負けてしまったら、その時は、また考えればいい。
    数十秒黙ったあと、天馬くんが小さく息を吐いた。
    顔を上げた彼は、いつもの真剣な目を僕へ向ける。

    「分かった。その賭け、のってやる」
    「そうこなくてはね」

    彼の返答に、僕は笑みを返した。
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    Replies from the creator

    ナンナル

    CAN’T MAKE銀楼の聖女

    急に思い付いたから、とりあえず書いてみた。
    ※セーフと言い張る。直接表現ないから、セーフと言い張る。
    ※🎈君ほぼ居ません。
    ※モブと☆くんの描写の方が多い。
    ※突然始まり、突然終わります。

    びっくりするほど変なとこで終わってます。なんか急に書き始めたので、一時休憩も兼ねて投げる。続くか分からないけど、やる気があれば一話分だけは書き切りたい( ˇωˇ )
    銀楼の聖女『類っ、ダメだ、待ってくれっ、嫌だ、やッ…』

    赤い瞳も、その首元に付いた赤い痕も、全て夢なら良いと思った。
    掴まれた腕の痛みに顔を顰めて、縋る様に声を上げる。甘い匂いで体の力が全く入らず、抵抗もままならない状態でベンチに押し倒された。オレの知っている類とは違う、優しさの欠片もない怖い顔が近付き、乱暴に唇が塞がれる。髪を隠す頭巾が床に落ちて、髪を結わえていたリボンが解かれた。

    『っ、ん…ふ、……んんっ…』

    キスのせいで、声が出せない。震える手で類の胸元を必死に叩くも、止まる気配がなくて戸惑った。するりと服の裾から手が差し入れられ、長い爪が布を裂く。視界の隅に、避けた布が床へ落ちていく様が映る。漸くキスから解放され、慌てて息を吸い込んだ。苦しかった肺に酸素を一気に流し込んだせいで咳き込むオレを横目に、類がオレの体へ視線を向ける。裂いた服の隙間から晒された肌に、類の表情が更に険しくなるのが見えた。
    6221

    ナンナル

    DOODLE魔王様夫婦の周りを巻き込む大喧嘩、というのを書きたくて書いてたけど、ここで終わってもいいのでは無いか、と思い始めた。残りはご想像にお任せします、か…。
    喧嘩の理由がどーでもいい内容なのに、周りが最大限振り回されるの理不尽よな。
    魔王様夫婦の家出騒動「はぁあ、可愛い…」
    「ふふん、当然です! 母様の子どもですから!」
    「性格までつかさくんそっくりで、本当に姫は可愛いね」

    どこかで見たことのあるふわふわのドレスを着た娘の姿に、つい、顔を顰めてしまう。数日前に、オレも類から似たような服を贈られた気がするが、気の所為だろうか。さすがに似合わないので、着ずにクローゼットへしまったが、まさか同じ服を姫にも贈ったのか? オレが着ないから? オレに良く似た姫に着せて楽しんでいるのか?

    (……デレデレしおって…)

    むっすぅ、と顔を顰めて、仕事もせずに娘に構い倒しの夫を睨む。
    産まれたばかりの双子は、先程漸く眠った所だ。こちらは夜中に起きなければならなくて寝不足だというのに、呑気に娘を可愛がる夫が腹立たしい。というより、寝不足の原因は類にもあるのだ。双子を寝かし付けた後に『次は僕の番だよ』と毎度襲ってくるのだから。どれだけ疲れたからと拒んでも、最終的に流されてしまう。お陰で、腰が痛くて部屋から出るのも億劫だというに。
    6142