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    ナンナル

    @nannru122

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    ナンナル

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    メイテイ!××
    【ハロイン小話】
    滑り込みっ!_:( _ ́ω`):_
    3000字弱のお話の予定が全然終わらなくてギリギリになった。
    もはや意味わからんってなったので、色々雰囲気で読み流してください。
    本編には一切関係無いお話になります( ˇωˇ )

    メイテイ!×× ハロイン(類side)

    「………………類、それ、なに?」
    「ハロウィンのお菓子かな」
    「………それ全部、配るの?」
    「まさか。これは配らないよ」

    車の後部座席に大きな紙袋を三つ詰め込んで、扉を閉める。助手席に乗り込んでシートベルトを付けると、運転席に座った寧々が訝しげな顔を僕へ向けた。言外に、『何のためのお菓子だ』と問いかけられている気がして、にこりと笑顔で返す。今日も仕事が少し長引いてしまったので、家に着くのは八時を回るだろう。
    僕が答えないと察した寧々が、車のエンジンをかける。ゆっくりと動き出した車体の窓から外を見れば、薄暗い駐車場に停められた車が次々に後ろへ流れていく。有名な高級車も何台かあるなぁ、とぼんやり眺めながら、スマホの画面に目を向けた。
    新着のメッセージを開けば、つい口元が緩んでしまう。

    「……また 司からのメッセージ見てニヤけてるの?」
    「ふふ、今夜はポタージュスープを作ってくれたそうだよ」
    「…それ絶対カボチャのポタージュスープじゃないの? 類、カボチャ食べれないんじゃ…」
    「そこは天馬くんだからね」
    「………意味がわからないんだけど」

    はぁ、と溜息を吐く寧々を にこ、と笑って躱す。
    十月三十一日と言えば、世間一般はハロウィンで大忙しだろう。ケーキ屋さんやデパートのお菓子コーナーがその色で飾り付けられるからね。仮装を楽しむ人も多い。特に若い学生には大人気のイベントなんじゃないかな。色々なお店で仮装用の衣装や小道具が並んでいるのを見掛けるしね。

    (食べるのが大好きな天馬くんなら、きっと楽しみなイベントなのだろうね)

    家で待つ歳下の恋人を思い出して、ついまた口元が緩んでしまう。役者になるという夢に向かって頑張る彼は、今日のイベントをどう思っているだろうか? 仮装をして驚かせる、なんて、役者としてはとてもやる気が出るイベントだと思う。態々今日は『早く帰って来れますか?』と朝からメッセージが来たほどなのだから。そんな“何かあります”と言わんばかりの問いかけをされては、早く帰ります、としか言えないだろう。撮影をミスなくこなして予定よりも早く終業したのを褒めて欲しいくらいだ。
    いや、天馬くんが何か可愛らしいことをしてくれるならそれで充分かな。

    「まぁ、類が自分から野菜を食べるならいいかな」
    「極力、天馬くんの作ってくれたご飯は食べたいからね」
    「はいはい。惚気は充分」

    いつの間にか着いたらしい地下駐車場に車が止まる。ドアを開ければ、寧々が「類」と僕の名を呼んだ。

    「明日も朝早いんだから、程々にね」
    「分かっているよ」

    一言そう返して、ドアを閉めた。後部座席から紙袋を取って、「それじゃぁ、寧々、また明日」と挨拶を一つして後部座席のドアを閉める。
    車が発進するのを目で確認してから、早足に地下駐車場のエレベーターに乗り込んだ。ボタンを押して、そのまま鋼の箱がゆっくり浮上していく。そわそわとしてしまう自分に苦笑して、スマホを見た。予想通りの時刻。新着のメッセージはなし。
    今夜は、一体どんなお出迎えをしてくれるのだろうか。天馬くんのことだから、無難にシーツを被ったお化けかな。扉を開けた瞬間を狙って驚かせようとしてくるかもしれないし、身構えておかないと。自然と歩く歩幅が広くなり、いつもより早く廊下を進んでいく。家の中でそわそわと待っているだろう天馬くんを想像すると、楽しみで仕方ない。部屋の前まで来て、鍵を出す。鍵を開けて、心の中で二秒ほどゆっくり数えた。
    さぁ、どんな風に彼が現れるか。

    「ただいま」
    「おかえりなさい、神代さん」
    「……ぁ、うん、ただいま、天馬くん…」

    扉を開ければ、奥の方から寄ってくる天馬くんに笑顔で迎えられた。一瞬目を瞬いてしまって、すぐに笑顔を向ける。
    濃いブラウンのカーディガンを着た天馬くんは、至って普通の格好だった。いつものようにふわりと笑って、「荷物、持ちましょうか?」と問いかけてくれる天馬くんにほんの少し残念な気持ちになる。どうやら、天馬くんはそこまでハロウィンというイベントを楽しみにしているわけではなかったようだ。
    大丈夫だよ、と荷物の件は断ると、ほんの少ししゅん、とその表情が崩れる。けれど、すぐに笑顔で取り繕われて、促されるまま靴を脱いで家に上がった。

    「ご飯の前にお風呂に入ってください! まだご飯が終わってなくて…」
    「そうかい? なら、そうさせてもらおうかな」
    「はい! 是非、ゆっくりどうぞ!」
    「うん…?」

    浴室への扉を開けて 早く、と促す天馬くんに首を傾ぐ。なんだかそわそわしているようにも見えるけれど、気の所為だろうか。ぱたん、と中に入ったのを見て呆気なく閉じられた扉に首を更に傾げる。
    案の定、一緒に入ってくれるわけでもない。なら、準備が間に合わなくて慌ててお風呂に、ということだろうか? けれど、過度に期待して、またその期待が外れるのもかっこ悪い。考えるのを一度やめ、仕事で色々な匂いの着いた服を脱いだ。
    お菓子の袋は脱衣所に置いたまま。

    ―――

    「今日はグラタンなんだね」
    「はい!薄くスライスした玉ねぎも入ってますが、先に火を通したのであまりしゃきしゃきした食感は残らないと思いますよ」
    「ありがとう、天馬くん」

    ぱちん、と手を合わせる天馬くんに合わせて僕も手を合わせる。「いただきます」と声を揃えてから、フォークを手に取った。今夜は洋食らしい。フォークでグラタンを掬うと、チーズがゆっくり伸びていく。とろぉっとしたソースが垂れて、湯気がふわりと上がった。中はまだ相当熱いようだ。ふー、ふー、と軽く息を吹きかけて口に入れれば、熱いソースに舌がピリッとした。はふ、と空気で緩和しながら咀嚼して、ゆっくり飲み込む。クリームの濃厚な味が口の中に残る。表面の少し焦げ目のついたチーズとは違うチーズの味も混ざっている気がした。柔らかいマカロニをフォークで刺して、息を吹きかけて軽く冷ます。それを口に入れると、じわりとクリームソースの味が口内に広がっていく。

    「ソースにも、チーズが入っているんだね」
    「そうなんです! クリームソースを作る時にチェダーチーズも混ぜたので、普通のクリームソースよりチーズの味が濃くなって玉ねぎの味も薄れるかと思って」
    「確かに、言われなければ分からなかったね。とても美味しいよ」
    「それなら良かったです!」

    へにゃりと嬉しそうに笑う天馬くんが、いそいそと自分の分を食べ始める。どうやら、僕の反応が気になって、食べずに待っていたらしい。彼の掬ったグラタンから みー、とチーズが伸びた。それに ふー、ふー、と息を吹きかけて冷ましているのがとても可愛らしい。ぱく、と口に入れて、はふ、はふ、と少し熱かったのかギュッ、と目を瞑って食べているのがまた愛らしい。ごくん、と飲み込んで、美味しかったのか へなりとその顔が緩んでいく。彼の仕草の一つひとつが可愛らしくて堪らない。初めて見る濃いブラウンのカーディガンも良く似合っている。黒に近いブラウンのカーディガンの下には、白いシャツを着ているようだ。彼の金色の髪がよく映える。白や水色といった明るめの服をよく着るイメージがあるけれど、こういう色合いも良いね。綺麗な金糸が揺れる度にキラキラして見えて、ついつい彼の仕草を目で追ってしまう。
    幸せそうに食べ進めていた天馬くんが、次の一口を掬った所で、はた、と僕に気付いて視線を上げた。彼の琥珀色の瞳が僕を映し、すぐに視線が逸らされる。
    じわぁ、とその頬を赤くさせる天馬くんが、小さな声で「神代さん…」と僕の名を呼んだ。

    「……恥ずかしい、ので、……あまり見ないでください…」
    「すまないね。君の食べる姿が可愛らしくて、ついつい見てしまうんだ」
    「…もう、…今日は、おしまい、に、してください…」
    「そうだね、せっかくの料理が冷めてしまうから、おしまいにしないとね」

    “今日は”という事は、明日は良いのだろうか。なんて、そんな質問をしたら彼が困ってしまうので飲み込む。もう一口グラタンを口に入れて、隣のお皿に目を向ける。メッセージでも貰ったポタージュスープだろうか。寧々の予想通り濃い黄色をしているので、カボチャのスープなのだろうね。スプーンに持ち替えて、そっと掬う。冷製のスープらしく、お皿も冷たい。スプーンで掬った一口を飲むと、ほんのりカボチャの味が口に広がる。カボチャ独特の甘みが、牛乳で少し飲みやすくされている。
    じっ、とこちらを見つめる天馬くんは、分かりやすく僕の反応を気にしていた。

    「少しカボチャの味はするけれど、そこまで気にならないかな」
    「牛乳を少し多めにして、味付けもほんの少し濃くしてみたんです」
    「僕の為に、いつもありがとう」

    もう一口スプーンで掬ってスープを飲む。カボチャの味はするけれど、このくらいなら大丈夫かな。「うん、このスープも美味しいね」と天馬くんに伝えれば、不安そうにしていた表情がパッと綻んだ。安心した様子でまた食べ始める天馬くんをちら、と見て、もう一口スープを飲む。この表情が見られるなら、苦手な野菜も何だって食べられる気がしてしまう。まぁ、天馬くんが気を遣って、食べやすく調理してくれるから、ということもあるけれどね。
    天馬くんの話を聞きながら、時折相槌を打って食事を進めていく。そうして最後は彼と一緒に「ご馳走様でした」と手を合わせた。片付けも天馬くんと一緒にやった所で、彼がふと思い出したように廊下の方へ目を向けた。

    「そういえば、今日は荷物が多かったですね」
    「ふふ、中身が気になるかい?」
    「気になります!」

    最後の一枚を水で流し、天馬くんがお皿を手渡してくれる。それを軽くタオルで拭いて食器棚にもどしてから、天馬くんの手を引いた。廊下に置いてあった紙袋をまとめて持ち、天馬くんと一緒にリビングに向かう。ソファーに彼を座らせて、隣に腰を下ろした。
    紙袋を一つ持ち上げて中を見せれば、彼の瞳が丸くなる。

    「わっ、…お菓子が沢山入ってますね……!」
    「うん。全部天馬くんに」
    「…な、…全部?!」
    「今日はハロウィンだからね。良い子の天馬くんには御褒美にお菓子をあげないと、って思ったんだ」

    受け取ってくれるかい?と首を傾げて見せれば、彼が視線を紙袋へ向けてから、迷うように眉を下げた。んー、と悩む彼の手に僕の手を重ね、とん、と彼の額に僕のを触れ合わせる。「君に貰ってほしいな」と追い討ちのようにそう伝えれば、ビクッ、と肩を跳ねさせた天馬くんがギュッ、と目を強く瞑る。

    「……、…その、…あ、りがとう、ございます…」
    「ふふ、出来れば、僕の前で食べてほしいかな。君が美味しそうに食べる姿が見たいと思って選んでるうちに、気付いたらどんどん増えてしまっていたからね」
    「さ、さすがに量が多いので、神代さんも一緒に食べてください…!」
    「それなら、今度えむくんと寧々も誘って、お菓子パーティーなんてどうかな?」
    「それはいいですね!!」

    僕の提案に、先程で顔を赤く染めていた天馬くんが、パッとその表情を綻ばせた。寧々やえむくんがいた方が、彼も緊張しないだろうからね。それに、その方が可愛らしい顔をゆっくりと見ることが出来るかもしれない。用意し過ぎた自覚はあるので、彼一人に全部を食べさせる訳にもいかないだろう。気を遣わせるより、喜んでくれた方がいい。
    紙袋を机の上に置き直して、その中から一つ、小さい箱を取りだした。中に入っているのはチョコレートだ。女性に人気のお店のチョコレートの箱を開け、そこから一粒を摘み上げる。天馬くんの口元へそれを近付けると、彼が目を瞬いた。

    「口、開けて」
    「…っ、……ぁ、…」

    小さく開けられた彼の口にチョコレートをそっと押し込む。ふに、と柔らかい唇に指先が触れた。恥ずかしそうに俯く天馬くんは、その数秒後にパッとその顔を上げる。キラキラした瞳が僕へ向けられ、つい くすっ、と笑ってしまった。どうやら彼のお気に召した様だ。もぐもぐと口を動かしてから ごくん、と飲み込んだ彼が、興奮気味に「凄く甘くて美味しいです!」と感想をくれる。

    「中が少しトロッとしていて、口いっぱいに甘い味が広がって、なのに後味は少しビターなのでまた食べたくなると言いますか、飲み込んだ後にすぐ味が恋しくなると言いますかっ…!」
    「ふふ、もう一つどうかな?」
    「食べたいです!」

    ピッ、と背筋を伸ばして僕の方を見る天馬くんに、つい笑みがこぼれてしまう。片手で口元を隠すように押さえて、反対の手でもう一粒チョコレートを摘む。それを、今度は先程より大きく開けられた口にころりと入れると、彼は幸せそうにもぐもぐと口を動かした。ごくん、と飲み込んだ後も、味を噛み締めるように ぎゅ、と目を瞑って口元を緩ませるものだから、あまりに愛らしくてついつい目が逸らせなくなってしまう。じっと見つめる僕に気付いた天馬くんが、ハッ、と表情を慌てて引き締めるのですらとても可愛い。
    恥ずかしそうに顔を赤くした天馬くんが、バ、バ、バ、と手を顔の前で振り、「もう大丈夫ですっ…!!」と大きな声でそう言った。もっと見ていたかったな、と残念な気持ちはあれど、無理矢理食べさせる訳にもいかないので諦めるしかないだろう。チョコレートの箱をテーブルの上に置いて、天馬くんの方へ顔を向ける。

    「それじゃぁ、残りのお菓子は好きな時に食べるといいよ」
    「ぁ、ありがとうございますっ…!」
    「今日の分の課題は終わったのかい?」
    「はい! 今日は早めに終わらせたので大丈夫です!」
    「さすが、天馬くんだね」

    専門学校の課題があれば、彼に教えてあげたりもしているけれど、どうやら今日は大丈夫なようだね。ちゃんと早めに終わらせる所が、真面目な天馬くんらしい。時計を見ると、まだ寝るには少しだけ早い。それなら、今練習しているショーの台本の読み合わせをするのはどうかな。天馬くんに個人指導も出来るし、時間も調整出来る。
    そんな事を考えていれば、くい、と袖が控え目に引かれた。俯きがちに、僕の方へ少し体を向けてソファーに座ったまま袖を引く天馬くんが、「神代さん」と小さな声で名前を呼んでくれる。

    「なにかな?」
    「……あ、の、お菓子、ありがとうございました」
    「ふふ、気にしないでおくれ」
    「…そ、れで、…………オレも、…神代さんに、用意、したんですが…」

    途切れ途切れに聞こえてきた彼の言葉に目を瞬く。
    よく見れば、金糸の間から覗く彼の耳が赤く染まっていて、指先も少し震えているようだ。緊張しているのが伝わってきて、僕も自然と背筋が伸びる。
    出来るだけ優しい声音を意識して、「なにを?」と問い返せば、彼は一度開いた口を閉じて、ちら、と僕を見た。

    「……か、神代さんに、…お、かし、を、用意、しました…」
    「嬉しいね。天馬くんの手作りかな?」
    「…あ、いや、……ちが、くは、ないのですが…」

    んー、と首を少し傾けた天馬くんは、赤い顔を顰めて考え始めてしまった。手作りではないのだろうか。それでも、天馬くんが僕の為に用意してくれたなら、なんだって嬉しい。断る、という選択肢もない。
    震える彼の手をとれば、ハッ、と天馬くんが顔を上げた。そんな彼に、ふわりと笑って見せれば、更にその顔が赤く染まっていく。

    「天馬くんがくれるものなら、なんでも欲しいな」
    「…ぇ、と……、それ、では……」

    僕の言葉を聞いた彼が、視線をゆっくり逸らす。重ねた手が離れていき、胸の高さまで上げられる。恐る恐る広げられた両手に、僕は目を瞬いた。
    これ以上無いほど顔を赤くさせた天馬くんが、「…どうぞ……」と、震える声でそう言った。意味がよく理解できず、思考が固まる。
    恥ずかしそうにする天馬くんが、言い訳をするかのように早口に言葉を紡いだ。

    「は、ハロウィンなのでお菓子の仮装を、と思いまして、本当はもっとしっかり準備すれば良かったんですけど ギリギリまで悩んだせいで準備が間に合わなくて、でも適当に決めたわけじゃないんです…! 少しでも神代さんが喜ぶならって思って……」
    「天馬くん、少し落ち着いて」
    「お、オレも神代さんとそういう事がしたいって思ってますし、たまにはオレからそういう気持ちも伝えるべきだと思って準備しましたし、だから、その、あの、…お、オレがお菓子ですっ…!!」

    ごにょごにょと小さくなったり、噛んだりもしながら頑張って説明しようとする天馬くんを止めようとしたけれど、僕の声は聞こえなかったようだ。頑張って色々言ってくれた彼は、最後はとても元気な声でそう言いきった。そんな予想外な発言に、思わず片手で額を押さえる。所々聞き取れた言葉を頭の中で繋げて、何とか彼の言いたいことは受け止められたと思う。けれど、本当に僕の予想を遥かに通り越していて、気持ちが追いつかない。

    「少し待っておくれ。もしかして、天馬くんのその普段あまり着ない服装はお菓子の仮装って事なのかな?」
    「…ちょこ、のつもり、です」

    こくりと頷く天馬くんの返しに、成程と納得してしまう。言われてみれば、濃いブラウンのカーディガンはチョコレートの様な色だ。白いシャツはホワイトチョコレートだろうか。言われてみればチョコレートに見えなくもない。少し無理はあるけれど。

    「誰の入れ知恵かな?」
    「……………………ネットで調べて…」
    「はぁ…」

    僕が大きく息を吐くと、天馬くんがビクッ、と肩を跳ねさせた。怒っているつもりは無い。ただ、気持ちを鎮めるのに必死なのだ。
    大方、『恋人を喜ばせるプレゼント』とでも調べたのだろうね。それに出てきた回答を実戦してくれたのだ。天馬くんらしいと言えば天馬くんらしい。以前彼が一人で、キスの仕方を調べていた事もあったな、と思い返す。恋人の僕を頼らずネットの知識を鵜呑みにするのが彼の悪いところかもしれない。努力は認めるけれどね。

    (…僕が我慢のできる大人で良かったね)

    もう一度息をゆっくりと吐いて、気持ちを落ち着かせる。世間一般的にお菓子の格好をして、『私を食べて』なんてどう考えても夜のお誘いだろうに。悪い大人を相手にすれば問答無用で襲われていただろうね。彼にその気がないのは容易に想像ができるので、敢えて教えはしないけれど。
    不安そうにする天馬くんを安心させるように、眉を下げて笑ってみせる。

    「それなら、遠慮なく頂くとしようかな」
    「…っ、…ぁ、ど、どうぞっ…!」
    「ふふ、せっかくなら、食べ方を教えてくれるかい?」
    「…………ちょこ、なので、…溶ける前に、ギュッて、してください…」

    ちら、と僕を見る天馬くんの言葉に頷いて、両手を広げる。彼の腕の内に入り込んで、その背に両手を回した。正面から強く抱き締めれば、肩口に彼が顔を擦り寄せてくれる。彼の両手も僕の背に回されて、ギュッ、と抱き締め返された。
    小さな声が、「あと、…」と言葉を繋げる。

    「……少しだけ、キス、も…してください…」
    「お易い御用だよ。他にはあるかい?」
    「………ほか…? ……それなら、寝る時間まで、このままで、お話していたいです…」
    「勿論」

    髪にそっと口付ければ、腕の中で天馬くんがもぞもぞと身じろいだ。要は恋人らしい事がしたかった、ということなのだろうね。確かに僕も嬉しいお菓子のプレゼントかもしれないな。少し理性が持つかが怪しいところではあるけれど。それでも、満足そうに僕の腕の中でへにゃりと表情を緩ませる天馬くんを見てしまえば、これ以上彼を困らせたくは無いと思ってしまう。
    彼が僕の方へ顔を向けてくれるまでのんびりと待ちながら、ゆっくりと話をした。お互いの体温が程よく温かくて、心地よい。天馬くんが聞きたいと言っていた仕事の話をしながら、彼が寝る時間までのんびりと恋人との時間を過ごした。

    お菓子のお礼に、とびきり甘いお菓子を貰った、そんな話。
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    💖☺☺☺💖💖😍👏💖😍👏💖🙏🙏💘💖☺💕🙏💯🍫💞💖☺☺💖☺💞🍫💖💖💖💖💖😍🌋💖💞💞💖💖💖💖💖💖💖💖
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    ナンナル

    CAN’T MAKE銀楼の聖女

    急に思い付いたから、とりあえず書いてみた。
    ※セーフと言い張る。直接表現ないから、セーフと言い張る。
    ※🎈君ほぼ居ません。
    ※モブと☆くんの描写の方が多い。
    ※突然始まり、突然終わります。

    びっくりするほど変なとこで終わってます。なんか急に書き始めたので、一時休憩も兼ねて投げる。続くか分からないけど、やる気があれば一話分だけは書き切りたい( ˇωˇ )
    銀楼の聖女『類っ、ダメだ、待ってくれっ、嫌だ、やッ…』

    赤い瞳も、その首元に付いた赤い痕も、全て夢なら良いと思った。
    掴まれた腕の痛みに顔を顰めて、縋る様に声を上げる。甘い匂いで体の力が全く入らず、抵抗もままならない状態でベンチに押し倒された。オレの知っている類とは違う、優しさの欠片もない怖い顔が近付き、乱暴に唇が塞がれる。髪を隠す頭巾が床に落ちて、髪を結わえていたリボンが解かれた。

    『っ、ん…ふ、……んんっ…』

    キスのせいで、声が出せない。震える手で類の胸元を必死に叩くも、止まる気配がなくて戸惑った。するりと服の裾から手が差し入れられ、長い爪が布を裂く。視界の隅に、避けた布が床へ落ちていく様が映る。漸くキスから解放され、慌てて息を吸い込んだ。苦しかった肺に酸素を一気に流し込んだせいで咳き込むオレを横目に、類がオレの体へ視線を向ける。裂いた服の隙間から晒された肌に、類の表情が更に険しくなるのが見えた。
    6221

    ナンナル

    DOODLE魔王様夫婦の周りを巻き込む大喧嘩、というのを書きたくて書いてたけど、ここで終わってもいいのでは無いか、と思い始めた。残りはご想像にお任せします、か…。
    喧嘩の理由がどーでもいい内容なのに、周りが最大限振り回されるの理不尽よな。
    魔王様夫婦の家出騒動「はぁあ、可愛い…」
    「ふふん、当然です! 母様の子どもですから!」
    「性格までつかさくんそっくりで、本当に姫は可愛いね」

    どこかで見たことのあるふわふわのドレスを着た娘の姿に、つい、顔を顰めてしまう。数日前に、オレも類から似たような服を贈られた気がするが、気の所為だろうか。さすがに似合わないので、着ずにクローゼットへしまったが、まさか同じ服を姫にも贈ったのか? オレが着ないから? オレに良く似た姫に着せて楽しんでいるのか?

    (……デレデレしおって…)

    むっすぅ、と顔を顰めて、仕事もせずに娘に構い倒しの夫を睨む。
    産まれたばかりの双子は、先程漸く眠った所だ。こちらは夜中に起きなければならなくて寝不足だというのに、呑気に娘を可愛がる夫が腹立たしい。というより、寝不足の原因は類にもあるのだ。双子を寝かし付けた後に『次は僕の番だよ』と毎度襲ってくるのだから。どれだけ疲れたからと拒んでも、最終的に流されてしまう。お陰で、腰が痛くて部屋から出るのも億劫だというに。
    6142

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