雲が攫いにくる無数の瞳から発せられる視線はどれも好奇に満ちていた。賑わう酒家なのだからどんな客がいたって可笑しくないが珍しいものでも見るような目が向けられて、居心地が良いとはとても言えない。特に女性からの視線が多い。荀彧はそれらを察しながらも気づかぬふりをして颯爽と歩みを進めた。
これは品定めをする者たちの目だ。宝玉を確かめるような審美眼などではなく、どちらかと言えば少々下品なそれである。よくあることだがここまで色に塗れたものは初めてだった。
毅然とした姿勢でかわしながら、荀彧はどんどん奥へと向かう。狭い出入り口に比べて中は広く奥行きがある。目当ての人は最奥で楽しんでいると聞いたからそこを目指しているが、歩いている内に彼がどういう待遇を受けているのか分かってきてしまった。恐らく常連なのだろう。顔に出さず心で嘆き、一番奥にある卓へと近付いていった。
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