この瞬間、世界に2人だけ書き損じ②
「乾杯!」
急に酒の山を抱えて赤葦の家に乗り込んできた黒尾が、家主を放置して勝手に酒盛りを始める。
「ちょっと、どういうつもりですか?」
「ん? ちょっと頼まれたから」
「木兎さんですね」
「過保護な先輩だよなぁ」
「俺があの人の後輩だったの、もう十年くらい前なんですけど。まぁ気にかけてもらえるのは嬉しいですけどね」
「はいはい。たまには旦那にも惚気てやれば? 喜ぶだろ。単純だし」
「黒尾さんまでそんなこと言って…… そもそも恋人ですらないですし、嫌ですよ、あの人の嫁なんて。振り回されるのが目に浮かぶ」
「嫁って言い出しだのは俺じゃねぇし」
「それは知ってますよ。だいたい俺みたいなのが嫁って言われてたら、あの人だって迷惑でしょうに」
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