Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    keskikiki

    @keskikiki

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 16

    keskikiki

    ☆quiet follow

    緋山燃にはくたばってほしいけれどそれはあくまで自分の手で名探偵としてな三途川理

    #三緋

    火葬許可証を発行できません 緋山燃はひとより入院回数が多かった。身体が弱いとか遺伝的な問題があるとかでなく、ひときわ不注意だからでもなく、ひとえに生業の為であった。危険を冒さねばならないシーンがひとより多く、そのために治療を要する機会も多くなる。お陰様で医療費減免の手続きはひと通り頭に叩き込まれてある。それでもこの度の『入院』には顔を顰めなくてはならなかった。
    「おはようございます緋山クン♡お加減いかがですか♡検温のお時間です♡」
    「魘されるほどの高熱です」
    「ハイお口失礼します♡三十秒待ってくださいね♡」
     取り立てるほど発熱していないことを緋山は承知していた。彼女もそうだろう。だが緋山は昏倒を理由に『入院』させられているし個室で面会厳禁とされている。
    「六度二分、ううん、平熱ですね♡それじゃあ朝ご飯は通常コースを頼んでおきますわね♡」
    「食欲無いです」
    「今日は豚の生姜焼きと金平牛蒡にほうれん草の味噌汁、フルーツはオレンジとブルーベリーです♡お箸もスプーンも持てないのですから頑張って食べてくださいね♡」
     腹の鳴る音が室内に響く。
     ──望んだ『入院』ではない。しかし高校生の肉体は空腹には逆らえなかった。
     ホホホと高笑いしながら彼女は退室する。その去り際にカセットテープを置いていくのを忘れずに、だ。しばらく睨めっこしていた緋山だが看護師が朝食を運んでくると──何も知らないらしい彼らは言い付け通り緋山の話に耳を傾けない──諦めて、辿々しい手付きでボストンバッグに残されたテープレコーダーから再生してみる。接続されたヘッドホンからは聴き慣れた刑事の声と忌々しい探偵女医の声が流れ出す。緋山燃は数日前に行方不明になったらしい、同じ事件を追っていた探偵女医は何も知らないと答えた。馬鹿馬鹿しいと緋山はヘッドホンを外し、皿の縁を噛むと角度をつけてバラバラと落ちてくる牛蒡や人参を食べだす。
     三日ほど前にも似た音源を渡されている。その時から応答内容に進歩はない。殺人事件も膠着状況から動かず捜査にあたった私立探偵が行方不明になったところで因果関係は証明されない。もし顔見知りの刑事でなければ敗走を疑われていたところだろう。気を遣ってくれているのは有難いと思いながらも緋山は自分を殴って軟禁してる医者が手配した食事を摂る。初日は頭部強打の影響が分からなかったから留まった。二日目からは折れた手指や脚の代わりが見つけられず逃げようがなかった。特別個室らしいこの部屋はエレベーターからも遠く扉の開閉はすべて院長たる彼女に握られていた。
     無論心当たりはあり、被害を蒙った院長のヴェールを剥いで違法薬物に汚れた医者を現出させたのは緋山であった。ただそのタイミングが宜しくなかった結果の軟禁であった。恐らくと緋山は推察する。数日のうちに自分は何らかの薬品で中毒死させられるのだろう。『入院』初日に彼女は嘯いた。
     ──この国では違法薬物による中毒死より処方薬による中毒死の方が多いんですよ♡
     常習性が無かったことは司法解剖の折に内臓を調べれば判明するだろうが遺体から違法薬物が検出されれば話はそちらへ逸れてしまうだろうし、そもそも緋山はまだ解剖されたくなかった。然りとて有効な手立ては打ち出せず、せめて食事の幾らかを残して摂取量を調整してみるのが関の山であった。我ながら情けないと自嘲するには時間が多過ぎた。カセットテープの録音がヘッドホンもないのに纏わりつく。
     ──私も医師として多くの人間を見てきました。緋山青年は逃げ出すタイプには見えませんでしたのに……ただでさえこの町は凶行に浮き足立っています、何もなければいいのですが。
     ──被害に遭われたご家族も、そうです。難病と知ったご当人は粘り強く闘病してましたし、配偶者やお子さんも正面からそれを支える生活をしてました。まさかあんな事になるなんて……。
     ──あの方は私の患者です。奇禍に巻き込まれた敵討ち、と言えば綺麗事ですかね。しかし未成年の少年までも巻き込むのであれば、これは公人としても許し難いことです。私ももう一度洗い直してみます。
     すべてのピースは揃っている。裏取りもできている。それなのに公表する手立ても然るべき捜査機関へ引き渡す術もない。私立探偵として緋山は緩やかに死んでいく。

    「それでは緋山クン♡今日も一日大人しくお過ごしください♡」
    「今すぐそこら辺を飛び跳ねて周りたいです」
    「ホホ、そのうち蛙みたいになれますわよ♡」
     飛び跳ねる蛙なのかひしゃげた蛙なのか干涸びた蛙なのか、緋山がそれを確かめることはない。なにせ蛙にされた知己がいるので。ただ自分の手足の治り具合との勝負であろうと理解していた。本当に処方薬で中毒死させる気なら緋山が自分の意志で飲む必要があり、食事に混ぜることはできても司法解剖で不審に思われるはずだ。彼女が握っている違法薬物で中毒死させられるなら注射一本で済むだろうが検出されれば彼女の所業が明るみに出る可能性も高い。いずれにせよそれだけで始末することは、緋山を丁重に扱うあたり無いだろう。どう殺されるのか判らないのは存外恐ろしいなと緋山はぼんやりと考える。十日近く軟禁されていて感覚が麻痺しているのだが、いまの緋山にそれを自覚することはできない。
     カセットテープに経緯を吹き込むのが、鉛筆も持てず警察署に駆け込むこともできない緋山のできるただ一つの手段であった。テープの録音時間に不安はあったが通算四本の支給はそれを賄った。だがこれをどうするという話だ。看護師へ託して投函してもらおうにも誰も緋山の話を聞かない。外へ投擲しようにも窓向こうから想像するに着地の際に破損する確率が高い。内通者はもちろんいない。院内の何処かにでもと思ったところで扉の開閉は探偵女医に握られている。密閉袋の類いはないので備え付けのトイレから水道管へ送り出すこともできない。食事と一緒に提げてもらおうとも考えたが恐らく破棄されるだろう。連絡手段はない。こうなってはいかな探偵とはいえ無力である。
    「どうしたものかね」
     『その時』まで力を残しておくのは必要だろう、だがその気力さえ危うくなってくる。寝たきりとはいえ成長期、出された食事を完食してはならないという枷が追い打ちをかける。己の推理を知らしめることのできない探偵、そんなものは、……。
     その時であった。緋山の耳を劈くのは非常ベルの音である。緊急地震速報ではない。火災報知器の音だと判断するや緋山の顔からザッと血の気が引く。探偵女医の仕業ではないはずだ。だが、だからといって彼女がいまの緋山燃を助けに来るだろうか?
     緋山の出す答は否だ。うっかり逃したところを目撃されては言い訳のしようがない。警察や消防に聴取されれば緋山には告発の機会ができる。煙か火に巻かれて、あわよくば身元不明遺体になればといったところか。火が回れば回るほど、だ。それでも、緋山は咄嗟に周りを見回す。窓の外にベランダはない、だがもし放水車が来たら? 一縷の望みを賭けて緋山はベッドを降りる。折れてから適切な処置をされていない脚は体重を支えきれない。床に叩きつけられるが、それを気にせず腕で這いずり窓枠へ手を伸ばす。鍵さえ壊せれば、或いは。だがその試みは中断される。
    「緋山燃!」
     突然の声に振り向けば探偵女医が飛び込んでくる。血走った目に肩で息する姿からは優位の余裕を感じ取ることはできない。どころか緋山の有様を見て彼女は口走る。
    「ど……どうして」
     慄然とする緋山をよそに彼女は呆然とする。だがそれも長続きせず……かぶりを振ると彼女は懐へ手を入れた。
    「どうやって火をつけたのか、答える気があるなら死に方ぐらい選ばせて差し上げますわ♡」
    「……何の話ですか。放火なんですか、これは?」
     心当たりのない緋山としては当然の質問である。だが彼女はそうとは捉えなかったらしく、無言で靴音を響かせた。緋山に逃げようはない。腕を取られて一度は振り払う。すぐ腹に靴を叩き込まれ、悶絶したところで腕を捻じ上げられた。
    「煙に巻かれて死んでくれれば一番ですけれど。焦って墜落死されても困りますから」
     院内着は容易く捲り上げられる。生きたまま火に焼べられるよりはマシかと緋山は目を閉じた。
     だが先に床へ叩きつけられる。注射針の感覚はない。筋肉注射だろうとはいえと緋山は目を開ける。女医が倒れていた。その背後では黒々とした靴裏が輝いている。
    「──けけけ」
     持ち主さながら貪婪に輝く靴裏は直ぐに着地して隠れる。代わりに見慣れた顔が緋山を見下ろしていた。
    「けけけ。飛んで火に入る夏の虫、クマムシだろうと蚊遣りに撒かれてハイ御陀仏。とんだバーベキューです。本当に愚かですねえ、閉め切っていれば防火防炎が働いたでしょうのに。けけけ、三流探偵こそ引っ掛かるトラップよ!」
    「……そうかよ」
     黒々とした靴の爪先が緋山の鼻の前に置かれると軽快にタップを刻みだす。何のテストだと緋山は虚ろな目で見上げた。
    「俺は写真のひとつも持ってないぜ」
    「ナンセンス。こっちだって倉庫のひとつしか燃やしてませんよ」
     燃やしたのかと緋山は顔を顰めた。三途川のなす事だ、人命への配慮がされたとは到底考えられない。だからどうしたと三途川は肩を竦める。
    「せっかくこの女の執務室の向かいで派手に煙が出るようカーテンから燃やしてやったのに、そこへ可燃性の薬品をぶち込んだのはこの女の片腕ですよ。ヒステリーを起こしやがりましてね」
    「そいつ、それまで誰と話してたんだ」
    「この名探偵三途川理に決まってるでしょう。因みにそれってどこだと思います?」
     知らないと緋山は答えた。探偵女医の噂は耳にしたことがある、だがそれしきで敷地を調べる気になる筈もない。
    「この部屋の斜め下です」
    「嘘だろ、お前さん」
    「さすが特待個室、頑丈ですよねえ。外への避難ルートは別途設けてありますし。何を想定していたのやら」
     殺されかけたところで殺されかけたところに助けられた、事情の絡まりに緋山は頭痛を覚える。この男、あの三途川理が自分を助ける気などあるほうが可笑しいのだ。正しくはある。しかしそれを受け入れれば三途川の言動が不可解である──いつもの事であるが。
     緋山が立ち上がらないのを見下ろすと三途川はふむと顎に手を当てた。足を止め、そして囁く。
    「三途川の想定と違ってこの火事はもう小火で済まない勢いなのですが」
    「それを言っていいのは小火で済ませる気があった奴だけだ」
    「幾ら耐火性能が高いとはいえここに居残るのは不味いですよねえ……」
     とはいえ見回したところで車椅子のひとつもない。それでも三途川は動じることなく続ける。
    「どうします。君ひとりだけなら避難ルートの前までお連れしますよ?」
     緋山は目を伏せる。足を潰され手指もままならない。そして被害者にして被疑者である探偵女医は目を覚さない。三途川は警察や消防にここで出会したくはないだろう。
    「芋虫になるからいいや」
    「動画に撮っていいです?」
    「逃げ遅れても知らねえぞ、馬鹿」
     言い捨てると緋山は芋虫か尺取り虫のように膝と肘だけで動きだす。女医も助けなくてはであるが歯で襟を噛み上げると数センチから数十センチしか運べない。間に合うかどうか、そもそも途中で目を覚ました彼女が緋山をどうするか、分の悪い賭けだろう。それでも歩みを止められないのが緋山燃という探偵であった。
     はあとため息を吐くしかない三途川はこめかみに手をやった。馬鹿だ愚かだ三流だと罵ってきた相手であるが高潔さまで見せつけられてはと踵を鳴らす。迷わず女医ごと緋山を蹴り飛ばした。
    「ッは、ぐ……」
    「気が変わりました。蹴鞠は都の嗜みだそうですよ」
    「なにを、ってえ!」
     煩わしそうに三途川は二人を蹴り飛ばす。抗議の声を上げる余裕もなくのたうち回る緋山だが、三途川はその醜態を撮るでもなくつまらなさそうに鼻で嗤った。
    「これも名探偵三途川のしてやるべき慈悲というものです」
     咳き込む緋山が聞き返す暇もなく彼はひらりと二人を乗り越えると内階段の向こうへ消えてしまった。もう助ける気はないらしい。そこで緋山は初めて見た内階段を確かめるより先に背後を振り仰いだ。あの忌々しい病室の全景が確かめられる。そこはもう病室の外、廊下であった。三途川の言った通り外へ繋がる階段らしい扉もすぐそこにある。
     ──そうは言っても火災現場だ。みるみるうちに内階段の向こうから黒煙が見えてくる。痛みで分かりにくいが体感温度は異様に上昇している。どこかでスプリンクラーが作動しているらしい振動も感じるが、それより悲鳴の方が皮膚に刺さってくる。なんと傍迷惑な手段を採ってくれたのだと三途川を詰ってやりたいところだが、彼の言を信じるならば火災拡大の原因はこの探偵女医の方へあるようだし、そもそもとして利害に全く関わっていなかった筈の闖入者には何を言っても無駄なのだろう。とんだ仕事だったと緋山は苦笑すると、もう見えない背中に向けて呟いてやるしかない。
    「素直じゃない奴」
     それだけ虚空に放つと緋山は、探偵として被疑者を無事引き渡すべく、一人の人間として自ら生き延びるため、どうにか非常扉を開けんと女医を踏み台にしてドアノブを肩で押し出すのであった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    keskikiki

    MOURNING髪カーテン書けなかったしこいつら揃って逃げ癖があるから辛い時は独寝しかできないよ
    ぬくぬくと 共寝の目的はひとつでない仲だ。目が醒めたときまだ障子の向こうには雨戸が閉められたままで灯り取りの窓からも暗闇しか窺えなかったが、自分の髪も寝巻きも割合い綺麗なまま少し寝崩した程度、何より隣で眠る男の髪も寝巻きも綺麗なままだった。眠りの浅い男が、とは考えるもののただ身を起こした程度なので仕方ない。況してや布団を分けて眠っていた。
     尿意か来客の気配でもと探ったが用を足せる気もなければ抑えられた霊圧もない、後者なら隣の男も起きていたはずで、万全とは言い難いが寝る前より呼吸器に違和があるわけでもない、微熱が出たようでもない、単純に目が醒めてしまっただけらしかった。吸飲みに手を伸ばしてみる。器物は霊圧を出さないので不便だった。慣れた作業と考えていたが思っていたほど上手くいかず、こうも不如意となる理由はとうつらうつら考えだして、すぐに嗚呼と隣にいる男を思い出した。一枚だけなのか二枚だけなのか、布団の数が変わっていた。それだけで場所も変わるとということを失念していたらしい。我が事ながら呆れるほかなく手探りで水を飲んだ。
    3494

    related works

    recommended works