待人よ 出血量が多かったため絶対安静を命じられる。四番隊の名の下で就労制限さえ科せられてしまい隊長とは名ばかりの病人として過ごす。本来隊長でないとこなせない書類業務とていつの間にか三席たちが代理で進めていて週に一二度どうしてもと押印を求めにくる程度、彼らの判断に余るものも猶予ありとされれば先送りされているようで世間のことなど何もわからなくなる。自分の体調さえ分からないのだからこの世に知れることなどないとさえ感じる。目を閉じても身の内の濁った音ばかり、気が滅入るにも飽いた。しばらくしてからそれが、彼の顔を見ていない所為だと気づいた。恥を忍んで三席の片割れに訊けば総隊長直々のお叱りを受けて面倒な出張をこなしているとのこと。かの副隊長は隊長の仕事を決して奪わず全うさせる性質なので、うっかり噛み合った暁にはなるほど出歩く暇もなくなろう。
「代わりにお土産は預かっています。もうお元気そうですし……おい、どうなんだ」
「うーん……明日もお元気なら平気だと思いますけれど」
「アイツの土産なのに、日持ちするのか?」
見合わせた彼らはひと頻り言い合って、それで何らかの判断を下せたらしく翌日の食後に介助されながら厠から帰ってくると小箱が置かれていた。四方二三寸ほどのそれは蓋を開ければ和三盆とゆか里がみっしりと敷かれていた。季節限定だそうでと能書きを読み上げてくれる通りに花の形を模った塊を掬い上げる。嫌いな味ではない。だが甘いだけだった。
「……席官で分けてもらうには少ないよなあ」
「申し訳ありません、まだ食べられるお加減ではなかったですか」
「ふ、不覚。隊長にそんな侘しい思いをさせてしまうなど」
「ああ、いや。違うよ、違う。しばらく病人食ばかりだったから気は晴れたよ。ただ」
気分ではなかったらしいとだけ伝えて、草鹿にでもと小箱を返し渡す。それから、紙と筆を頼む。
「代筆を呼びますか」
「いや俺が自分で書くよ。だから渡すのだけ手配してくれ」
常緑樹に囲まれた水上邸は外界から隔絶されたようなもので、半日寝過ごそうと三月寝倒そうと景色が変わらないこともざらにある。それを望んだのは京楽だった。その夜彼は隊士たちの目をすり抜け雨乾堂の影を膨らませる。彼の立ち姿と薫から季節を知ると浮竹はようやく笑った。
「まめな男で助かる」
馬鹿な真似だとは指摘せず静かに枕許へ寄ると京楽は浮竹へ顔を寄せて囁く。
「君の分まで頑張ってるんだから、拗ねないでよ」
「それがお前の云うところの甲斐性か、うん?」
「……参ったね、どうも」
笠に隠れんとする頬に唇を落とすと浮竹は、干菓子からしれた季節の生菓子を挙げていく。四つ五つと唱えられるのを京楽は苦笑いで諾した。
「元気になったらね」
「お前の顔を見られたんだから、元気になるに決まってるだろ」
「リップサービスが通じるほど他人行儀の仲じゃないでしょ」
分かっているならと彼を追い出して浮竹は眠る。生菓子の消化には体力の備えが必要なのだ。