ボツまとめ離れる/思う
自分たちが生まれる少し前まで東梢局はこの島国ではなく大陸を主眼に据えていたとは何度聞いても信じ難くて京楽少年と浮竹少年は山本の屋敷に宿泊が許されると決まってその頃の話をせがんだ。爆竹の音が減っただのひとの話す音が静かになっただの食べるものがめっきり変わっただの聞いても肌で理解することの叶わない話ばかりで、それでも懐古するような口ぶりが厳格な山本から出てくるのが面白くて、雀部の口からも乱世の残り香の巻き上げるような記憶を引き出そうとしてはきゃあきゃあと寝る前というのにはしゃいだものだった。言い条その頃に憧れなどなくて、ただ日頃から昔話や手柄自慢のひとつも聞かせてくれない彼らから自分たちの生まれ落ちるより前の話を聞くのが楽しかっただけである。そうやって京楽は、いまの平穏と平安を確かめて、祈る。この日々がずっと続きますようにとの願いは叶うことがない。
15510