狡い男たちの話「道を間違えるな」と言われ決別したあの日以来、その言葉を守って自分なりに真っ当に生きてきたと乾は胸を張って言える。しばらくは報復にきた相手と拳を交えることはあったが、時間が経つにつれそんな輩は徐々に減り、いつしかいなくなった。そして、いつのまにかバイク屋の経営者だ。平和ボケしているともいえる今の暮らしは、あの頃の自分が見たら信じられないかもしれない。
九井が最後に望んでくれたように、その言葉に反することのないように、生きていこうと。あの日に決めた。幸いにも次第にバイク屋も軌道に乗り、生活への不安も薄れていった。ずっとこの先もそんな道が続いていく。
――そう思っていた。
今、乾がいるのは大きなベッドの上で、自分の店でも家でもない。
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