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    66rrrrkk

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    幽霊のドと暮らす本誌軸救済後のマのほのぼの話のかきかけ

    #ドラマイ
    drabai

    救済論への解答その1(仮)「おい、起きろマイキー!遅刻すんぞ!」

     優しい声にぱっちりと目を開けて、スマホの電源をつける。なんだ、まだ時間あるじゃんと二度寝を決め込もうとすると、もう一度大声でマイキー、と呼ばれて渋々起き上がった。このまま寝ようとしても耳元で永遠に名前を呼ばれて起こされるのを知ってるから。

    「おはよ、ケンチン」
    「おはよーじゃねえよ、もう一回寝ようとしやがって」
    「だってねみーもん」

     くぁ、と大きなあくびをしながら洗面台へと向かい、顔を洗う。最近、温水が出なくて修理に来てもらったばかりの古いそれはなんとか今日も温かい水を出してくれた。こんな寒い日に水なんか出されたらたまったモンじゃねえ。

    「あーあービシャビシャじゃねえか」
    「乾く乾く」

     洗顔の勢いで濡れた胸元を見てケンチンが苦笑いしているのも毎日のこと。服につかないように顔を洗うって意外と難しい。
     冷気に震えながら台所へと向かう。オレとケンチンしか住んでいないにも関わらず、道場も併設されているオレの実家はひたすらに寒い。いい加減リフォームを入れねえと、とは思ってんだけど、オレにそこまでの金はない。ムショに入れられる前にやっとけばよかった。
     冷蔵庫を開けて中身を確認。卵、ウインナー、冷凍庫に白ご飯。

    「ケンチン、腹減った?」
    「減らね」
    「やっぱ幽霊って減らねえんだな」
    「まあな。死んでるから食っても消化する器官がないし」
    「幽霊ジョークってやつ?」

     クスクス笑いながら、一人分なら十分な量を手にもって扉を閉める。卵を落とさないか心配げに見ているケンチンはいつまで経っても過保護だ。オレの知らないところで死んだくせに、オレのそばから離れないなんて、本当にばかだ。
     ケンチンに世話をしてもらえなくなったオレはいろんなことができるようになった。朝ごはんを作って食べる、掃除洗濯をする、公共料金の支払いをする、エトセトラエトセトラ。
     それでもケンチンはやっぱりオレの世話を焼いて、やれ水道料金の支払いは明日までだの、隅っこに埃が溜まってるだの相変わらずうるさい。
     目玉焼きを裏返して黄身を潰す。べしゃりと潰れたそれに羨望を抱く癖はやめられないけど、もうそんな風にはならないよ。ケンチンいるし。

    「食える?」
    「ウン。最近調子いいじゃん、オレ」
    「無理すんなよ」
    「おう。いただきます」

     目の前に座ったケンチンが、オレが口に運ぶたびにホッとしたように笑う。眉を下げて、よかった、食った、って安心してるのがかわいい。
     その昔、ケンチンと一緒に暮らしはじめた頃、オレは何を食べても味がしなかった。だから食べなくてよく貧血で倒れてたんだけど、そんなオレを見てケンチンは申し訳なさそうにしていた。ごめんなマイキー、オレのせいでって。
     ケンチンにそんなことを言わせたくなくて、頑張って食べた。砂利を飲み込む感覚は不愉快極まりなかったけど、ケンチンがよかった、うまいかマイキー?って言うから、うまいよって言うしかない。そうか、うまいかって微笑むケンチンの顔にオレはマイキーのことが大好きですって書いてあったから、オレは頑張って食べてなんとか摂食障害を克服した。愛のパワーってやつかもしんない。

    「今日はどうすんの、また店に来る?」
    「いや、今日は散歩してくるわ。何時上がりだっけ?」
    「ラストまで」
    「わかった。迎えに行く」
    「マジ?やった!」

     今日はシフトが長くてうんざりしていたところに嬉しい話が降りてきて、年甲斐にもなくはしゃいでしまった。ケンチンが迎えに来るなら開店から閉店までぶっ通しだろうが頑張れるような気がする。
     食器を流しに入れて、ケンチンに服を選んでもらってそれを着る。そうこうしている間に洗濯機がオレを呼ぶので、中身を干せば、ようやく仕事に行く準備が完了した。
     こんな風にちゃんと生活をする未来なんて想像もしなかった。ここまでスムーズに事が進むようになったのはここ最近のことで、オレが無理だ面倒だと騒ぐたびに鬼教官・龍宮寺堅はオレを叱り飛ばして支えてくれた。ほんと、いいやつだよケンチンは。

    「マイキー、ゴミ忘れんなよ」
    「あーそうだった」

     ゴミを持って指定の場所へと向かえば、楽しそうに井戸端会議をしていたご婦人たちはオレの顔を見てササッと解散していく。ヒソヒソと語られる会話の内容は知らないし、一生知るつもりもない。
     烏避けのネットを捲って袋を投げ込めば本当に出かける準備が終わって一息。とはいっても仕事があるからどこかお茶でも、というわけにはいかない。あーあ、働きたくねえな。
     そんなことをぼんやり考えていたから、隣にいるケンチンが青筋を立ててることに気づくのが遅かった。

    「…ンの、アイツら」
    「そんな怒んなよ、いつもの事じゃん」
    「あのな、そういうことじゃねえだろ」

     悲しそうにケンチンは言う。触れられないのに、オレの頰を包もうとした手がオレの頰に伸びてくる。
     それが何にも代え難いほどに嬉しい。温度も質感もない手のひらでも、オレを大事に想ってくれている気持ちはたくさん伝わってくる。

    「オマエはもっと自分を大事にしろ」
    「ケンチンが十分大事にしてくれてんじゃん」

     本音なんだけど、ケンチンは深いため息を吐き出して苦笑いを浮かべる。わかってるよ、これじゃダメなんだろ。
     でもな、オレはオレのことをよくわかってるから、どうして煙たがられているかもちゃんと理解してる。

    「殺人犯で出所した上、幽霊と暮らしてるなんて主張するヤツ、頭がおかしいと思われても仕方ねぇだろ。それよりもオレとケンチンのふたりのことを考えようよ」

     でもさ、どうでもいいじゃん、そんなこと。
     頭がイカれてようが、ケンチンが居る限りオレはもう暴力に振り回されることないし、オレは悪い事しないんだから、ケンチンだってオレのそばにいれるからウィンウィンだと思うんだけど。
     それよりもっと楽しいことに時間を割きたい。今日の夕飯の献立とか、休みの日に見る映画をどれにするとか。
     オレに欠けてるものはケンチンが補ってくれるでしょ?東卍の時みたいにさ。

    「オレは今、ケンチンといれてとっても幸せ。ケンチンは違う?」
    「……オレも。オレもマイキーといられて幸せだ」

     ぐっとケンチンと顔の距離が近くなる。ほのかに赤くなった顔を隠すように、溶け合うように近づいた距離が離れて、オレは気づいた。
     あ、キスされた。

    「…情熱的だね、ケンチン」
    「なんのことだか」
     
     オレがわからないわけないじゃん。照れたようにそっぽを向いたケンチンに、心の奥からじんわりと暖かい何かが湧き上がってくる。

     オレは今、幽霊のケンチンと幸せに暮らしている。

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