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    桧(ひのき)

    @madaki0307

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    桧(ひのき)

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    ココ武(東リベ)
    pixivからの移行作品です。pixivのままの文章をそのまま載せています。
    pixivではまだ公開中です。(非公開にした場合でも、リスク回避の為削除はしません)
    転載や自作発言を固く禁じます。

    There’s no turning back now本誌ネタバレ注意!!!本誌ネタバレ注意!
    ココ武。本誌234話(12/8発売)を読んで、滾って爆速で書いた、超ショートSSです。Twitterに上げた分の支部まとめ。
    タイムリープのトリガーになっちゃった九井と、彼をもっと過去に飛ぶ為のトリガー(共犯)にした武道の話。

    Q、目の前で、元ボスが仮死状態になった元部下の心情を述べよ。(自由記述)





    本誌ネタバレ注意!!!

    2021/12/8発売の本誌、234話までのネタバレを含みますので、単行本派の方は注意して下さい!!!!!
    →2022年5月29日現在、既に単行本になっております。






     静かだった。
     包帯で覆われて、腕と首にはギプス。酸素を送り込む音が、一定のリズムを刻む。そうであるのに、妙に静寂が辺りを包んで、焦燥が滲む。既に三日目に突入しようとしているのだ。起きる気配は無く、死んだように眠るその姿。嫌な記憶が思い出されて、あまり良い気分ではない。〝あまり〟どころか、寧ろその逆で。この上なく最低な気分だ。医師からは、何れ目覚めると言われているというのに。一生目覚めないのではないかと心臓の行動は忙しない。夏だというのに、ずっと薄寒さを感じている。

     花垣は、短期間であったとはいえ九井の元ボス。それに、彼は佐野に気に入られていた人物で。不良界隈のキーパーソンと称して過言ではない。
     様々な要因が積み重なったのはあるが、加入からおよそ四カ月──仮加入状態が長かったのもあり、厳密に言うと、特攻服に袖を通した初めての日に隊長に任命された──で東京卍會の壱番隊隊長になった傑物。喧嘩が強い訳ではない。だが、場を仕切る程の独特な力が光っていた。どんなにボロボロになっても、彼ならば最後まで立っているものだと、九井は思っていた。
     そう、心のどこかで信じていたのだ。遂に人を殺めた佐野には誰も太刀打ちできず、制止の声は届かないのだと目の当たりにするまでは。
     たった一撃の殴打で、意図も簡単に吹っ飛ぶ身体。驚きに瞠目し、頭は真っ白に。出遅れたのだ。もっと上手く、花垣自身を止めておくべきだった。後悔というものは、いつも気が付けば傍にあるもの。
     花垣という男は、銃口を突き付けられても、屈せず啖呵を切れる者。そんな彼が一撃を受けただけで起き上がれないということは、それだけ衝撃の大きさを意味する。だからこそ、背筋は凍りつき、脳内で警鐘がガンガンと五月蝿く響く。
     彼は、佐野の前に身体を滑り込ませただけ。加えて、既に花垣は佐野の手によって腕が折られていた。目の前に飛び出した時既に、『戦える状態ではなかった』のだ。寺野を殺めるという、過ぎた暴行を窘めようとしていただけであるのは、誰の目から見ても明らか。真の意味では戦う気なんて花垣にはなかった筈だ。ただ、どうにかしなければ、という思いに駆られての行動。
     戦う意思の無い者を、殴り飛ばして追い詰める佐野の、幽鬼のような雰囲気。九井の頭は、佐野の凶行への動揺で、思考が明瞭に回らない。
     その少し細い体は、襟ぐりを掴まれて持ち上げられる。抵抗することもできずに鮮血が舞う。ただ呆然と。口を閉じることすらできずに眺めていることしか出来なかった。己は、また救えないのか、と思いかけたその時、瓦城千咒が地面に突っ伏した。飛び出さなかったら、寺野のように命を刈り取られていたかもしれない。
     以前のボスが、現在のボスにほぼ一方的に蹂躙される様を目にするのは、〝頭を抱える〟だとか、〝気まずい〟などいう生温い言葉では表せない、震撼があった。じわじわと広がる恐怖と、駆け巡る焦燥。あの時、九井は佐野に引き上げるよう言い募っていた。起き上がることが出来ない花垣を守ろうとするかのように。
     だが結局その場で花垣を救ったのは、彼自身と瓦城の、短時間でも確かに強固に築き上げられた仲間への情だった。
     病室が個室なのは、九井のせめて計らいだ。水面下の謝罪と微かな罪滅ぼしの行動。一応敵同士であったのだが、梵の内情はどうあれ正式には解散を宣言している。黒龍時代の上司部下の関係でもあるのだ。九井が少し融通を利かせた行為を、決して何者にも咎めさせはしない。
     後始末が大変な中でのこの三日間、病室に通う九井に三途はいい顔をしなかったが、睨視して口を挟ませず。その起床を待つ。
     シーツに臥したままの、一筋も黒の混じることのない金糸。あの澄み渡る蒼天を思わせる瞳は閉じられたまま。

     しかし、突如としてその意識は浮上した。寝ぼけ眼のように、瞼は半分だけ持ち上がる。
    「気がついたか花垣。」
     ボス、とは、口が裂けても発せられない立場。
    「三日寝てたぜ。」
     一瞥もくれない。今回のことで、混乱か、或いは佐野に恐怖を覚えたか。恐怖を感じてくれたなら、それが生存本能を守るためのブレーキとなって、もう二度と彼を止めようとはしないだろう。姿を現さないでいてくれるかもしれない。意識が落ちる前のことを、思い出しているらしい。口は噤まれたまま。
     意識が戻ったことへの一先ずの安心感。その不気味なほどに静かで感情の読めない様相に一抹の不安感。敢えて、もう用はないと言わんばかりに、じゃあなと退出を告げる。
     最後まで、花垣は九井の方を見なかった。どこか侘しそうに天井を見据えていたのだ。
     その寂寞さの意味を、二日後に知ることとなる。



     後始末に追われる九井の携帯が震える。着信の番号を見て僅かに目を見開く。ここ二年は掛かって来たことのなかった、花垣武道の文字。慌てて耳に宛がえば、しかし予想に反して電話の向こうは女性の声で。名を橘日向と述べる。花垣の恋人で、甲斐甲斐しく見舞いや世話をしていた、誰が見ても堅気のタイプの善人。
     不良でありながら、善性光る花垣と、陽だまりを歩く善人そうな彼女。お似合いじゃないか、と聊か眉間の皺を深くさせて対応する。
     曰く、九井に会って少し話がしたいのだという。世間話をする気はないと言えば、武道君に代わりますね、と橘が。携帯電話を花垣の口元に持っていってやったのだろう。
     話し辛そうにくぐもった声で、
    ≪もう一度、お見舞いに来て欲しいんです……。目覚めたばかりの時は、聞きたいことも、聞けなかったから……≫
     花垣は、他にも聞きたいことがあったのだろう。確かに、事の始末について、尋ねたい事が山程に有るのは想像に容易い。
    「わかった。でも、少しだぞ。あんまり長居すると、俺の立場も危うくなりかねねぇからな。」
     非情さを示すかのように、自身の心配を口に出す。電話口で、くすり、と花垣。喉から小さく息が抜けた。微笑んでいるとでもいうのか。少しも希望のない、この状況で。
    「花垣、笑ってる、のか……?」
     ほぼ一方的に痛めつけられて。それを受けて尚、精神的にあまり傷を負っていないのだとしたら、驚愕する程の強靭さだ。


     病室へと赴くと、前回と同じように上を向いている。
    「ココ君、」
     首が固定されている。寄越した視線。それを見て、九井の身体は竦み上がる。
     闘志は眩く、爛々と。
     諦めていない。諦念という選択肢を真っ先に蹴ったらしいこの男。憎たらしい程に美しい覚悟の色を帯びている。佐野万次郎の、人を殺す勢いの暴挙を受けておきながら、本能が恐怖を叫ばないままで。自身の命を使ってでも、挑もうとでもいうのか。
     独りで何かを成し遂げようという、頂点まで極まった意志の強さ。未知の輝きを放つかのように。煌々と燃え盛る、その揺らめき。九井がこの世で見た中で、一等強い光輝。同時に、最後の力を振り絞るかのような、生命を極限まで燃やして閃光を放って降り注ぐ流星のように。
    「来てくれてありがとう。」
     骨折していない方の。左腕を、そろりと伸ばす。右が使えないのだから、左手を伸ばすのは当然のことと言えた。九井は花垣の左手を掬う。
     掬い上げた彼の指を組み替えて、その掌と掌を花垣は重ねた。
    「ココ君。もしも、過去に戻れるとしたら、どれくらいまで戻りたいですか。」
     妙に漠然とした不可思議なことを聞いてくるものだ、と首をかしげる。丸椅子を引き寄せて、腰掛ける。
    「和ませようとしてんのか?」
    「何時がいいですか。」
     笑い飛ばそうとして、食い気味に再度問いかけられて、流石に只事ではないことに気が付いた。元より九井は賢い部類の人間。加えて察しがよく機転も利く。三天戦争際に、寺野死亡を察知する否や、直ぐ様に解散の号令をかけるという行動がその証左と言えよう。
     花垣の様子が世間話でもなく、本題であるのだと理解した彼が、溜息を吐いて斜に構えて応えてみせた。
    「イヌピーには言うなよ。──そりゃ、一番好きだった人を助けられなかった時、だな。」
    「……イヌピー君の、お姉さん?」
    「そう。関東事変の時、イヌピーと、色々言い合ってただろ?」
     二年間と半年ほど前の関東事変。犠牲者や逮捕者も多く、悲惨な結果に終わった抗争ではあったのだが、乾と九井の唯一の蟠りを解消させる喧嘩でもあった。懐かしむように乾赤音について話して聞かせる。彼女の死は九井の恋心を永遠の思い出に昇華させ、区切りはまだついていないように思えるが、他人に話せる迄には前を向いていた。
    「まだランドセル背負っててさ。告白したその帰り。家まで送り届けて、別れた後。イヌピーん家で火事が起きたんだ。本当はな、赤音さんを助けるつもりだった……。」
    「でも、イヌピー君を助けたこと、後悔してないんですよね。」
    「当たり前だろ。本音は赤音さんを助けたかったさ。──でも、イヌピーを助けたくなかった訳じゃない。もしも彼女を助けられて、代わりにイヌピーが火傷を負って瀕死になったら。……きっと俺は、同じように金を作ろうとしたと思う。」
     花垣は、小さく相槌を打つ。
    「俺が分裂でもして、もう一人いたらな。どっちも絶対に助けた。──後悔があるとするなら、片方を助けて、すぐにもう一度救出い向かわなかったことだ。だから、もしも過去に戻れるとした、どっちも助けにあの火事の日に戻りたいって答える。」
    「よかった。」
     目を細めて、微笑んだ。
    「……花垣?」
    「ココ君なら、きっと戻りたい過去を教えてくれると思ってた。」
     重ねた手を、ゆっくりと握り込んだ。
    「君は優しい人だ。好きな人も親友も、どっちも助けに行きたいって、言ってくれるかなって思ってたんだ。」
    「何を……」
    「オレは、ココ君のお金はいらない。でもどうしても欲しいものがあった。」
     こればっかりはお金で買えないんだ、と断言する言葉。
    「何が……、何が欲しいんだ……!?俺が、必ず用意してやる!」
     九井は嫌な予感がしていた。自身の死を悟っているかのように、花垣は穏やかで。何をしたいのか、何をしようとしているのか。その言動は、理解の範疇を超えている。
    「もっと過去に戻る為の、トリガーになって欲しいんだ。」
    「──……過去に、……戻る?」
    「共犯になってくれて、ありがとうココ君。君の立場を思えば、簡単に来られないことはわかってた。だから、一回目で駄目だったら、別の人にお願いしようと思ってたんだ。」
    「なぁ、花垣、どういうことだ。」
    「ココ君の好きな人、俺が絶対助けてみせるから。」
     勢いよく立ち上がった拍子に、椅子がガタンと大きく音を立てた。
    「説明しろ……ッ!」
    「マイキー君に伝えてください。きっと伝わるから。」
     ヒーローになんて、ならなくていい。ただ、生きていてくれるだけでいいのだ。己のボスと己の親友が健在で居てくれれば、多くは望まない。部下と言い切った、年下の。喧嘩の弱い、けれども誰よりも強さを備える、大器の人。自身の、王。
    「過去で待ってて、って。」

     ──お前を、絶対助けてやる。
     誰に向けての言葉なのか、尋ねなくても分かった。佐野に向けられた言葉は、今度、九井にも向けられている。助けなんて、求めていない。だが心の奥底で、実はずっと誰かに救って欲しかったのだろうか。だから、花垣は往ってしまうのか。

     不自然な拍動。握りしめた手から、まるで電流が伝わるかのように。そして、何かが抜け落ちていく感覚を彼は確かに感じ取った。
     花垣の、力が抜けた手を握ったまま。その手を己の額にかざすように、戻ってきてくれと乞うてみる。
     勿論、彼は戻って来ない。そのヒーローは、後退も諦念を知らないのだから。









    【題名解説】


    題名の「There’s no turning back now」は、『もはや引き返すことはできない』という意味。
    もっと過去にタイムリープしてしまった武道君視点で「過去を改変するまでは、本誌軸の2008年には引き返すことができない(義務感)」でもあるし、ココ視点で図らずもトリガーになって過去に行かせてしまう前の、少し数分前に引き返すことはできない(不可能)」でもあります。拙作において彼らの状況を踏まえたダブルミーニングです。



    ここまで読んでくださいまして、誠にありがとうございました。


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    桧(ひのき)

    DONE五十路真一郎×四十路武道……と言いつつあまり年齢操作感の無い真武

    花垣武道誕生日記念本 web公開 真武分。
    佐野真一郎(初代総長)23~24時の出来事。

    ※本の中では4839字だったんですが、ポイピクでは5千字超えてしまっています。
    愛の特権 散々な一日だった。
     近年稀に見る程に、疲れた日であったとも言えよう。

     その地域のレンタルビデオ店のエリアマネージャーであるとは雖も、その日は久方振りの二日間連続での休暇であった。だが悲しい哉、脆くも崩れ去る。
     その店の社員は三人。本来、この日に出勤予定であった社員の家族が緊急入院したのである。良く言えば少数精鋭、悪く言えば人員が不足気味な職場である。故に急遽、花垣が休暇の予定を返上して勤務に入ることになったのだ。

     記念すべき四十歳になる日。世では『不惑』と定められる年齢になったが、物事に惑わされない精神を保つ事は難しく。感情に振り回されてしまうことも屡々。己の精神年齢は成長していないように思えて。ただ無意味に年齢だけを重ねているのではないかと、毎日思う。同棲して既に二十年を越した恋人からの十分大人になったよ、という言葉を胸に、今日も〝大人〟を演じるのだ。
    5041

    recommended works

    AKtyan5560

    DONE─── 青年は1001本の薔薇を食べ神になる

    武道はある日から夢を見るようになった。黒狐の面の青年と白犬の面の青年から、毎日薔薇を食べさせてもらう夢。九井と乾と夢で話すのは楽しく、薔薇も美味しく幸せだと思っていたある日、自分の体から薔薇の香りがすると告げられた
    これは人間の武道が神へとなるまでの物語

    ※神様パロ
    ※九井と乾が神
    ※黒龍総長if
    ※友情出演千冬
    そして俺は神になった愛しい愛しい愛し子よ、吾子を手に入れ抱きしめたい、吾子は今やどこにいるのかよ。
    ─────ミツケタ


    武道は風呂を出ると明日のバイトの為に就寝の準備をする。冬に入りたての寒い日にトレーナーでは寒いが、元々部屋が寒く、暖房器具も無い為毛布に包まると目を瞑り眠気が降りてきた。
    『ミチ……ミツケタ…………』
    何かが聞こえた気がしたが、瞼が降りるのが早く、思考は闇に落ちた。目を開くと何も無い白い空間が広がる。空気があるのかすら分からず、起きると半袖のいつもの私服になっていた、寝る前はトレーナーを着ていた筈だがと思い見渡すが、周りには何も無く遠くまで広がる白に、立ち上がると目の前に人がいた。
    「うっわ!!」
    黒い狐の面のが青年立ち、黒装束を着て髪の横がウェーブが緩く付いて、もう片方剃られている不思議な髪型をしており、青年は喉を触りながら風を切る音を出している、声が出ないようだ。青年は納得すると武道の髪を撫でると、指を床に指し座る様に促し、武道は失礼の無いように正座で座ると、青年は胡座をかいた。困ったように肩を上げ、膝を指す。武道は首を傾げ何を言いたいか分からない青年が、武道の膝を叩きもっと楽に崩せと言う意味が分かった武道は、胡座をかくと何か人間では無い目の前の青年に向き合う。
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