涙がひとつぶ落ちる。土にぶつかって飛び散った涙は、砕け散った欠片を青い花びらに変じ、ひらりと舞って、風に溶けていく。
人間の感情の痕跡が私にはそのように見えていた。
あの青さを今思い出したのは、今があまりにも赤いからだろうか。
過去の残照はすぐさまに過ぎ去った。むせかえるほどの血臭。硝煙の匂い。炎の温かさ。
ここにいるものすべての魂を抱きしめて、城をつくるのだという。
眼下には大輪の花が咲いていた。いくつもの花が咲いては散っていく。ばらばらになった花弁は炎に巻かれながら舞い上がり、私のところまで届く。
花吹雪のなかで私は自身のそばにいる男を見た。
「花が咲かないな、卿は」
生まれてこの方、この男のそばに花が咲いているのを見たことはない。
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