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    sasa

    @19th_zatsuon

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    sasa

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    【カイアサ】アーサーの近衛の騎士がいるんじゃないかなあと思って、モブ騎士の手記という形で書いたもの。カイアサ←モブ。

    ある騎士の手記私はあの方に、心から忠誠を誓っていたのです。

    某月某日。王子付きの騎士となった。栄進ではあるが、いずれ父の爵位を継ぐ身であるから、要は期限付きの行儀見習いのようなものだ。王子はたまに騎士団の視察に来ていたのをお見かけしたことがあったくらいで、お話ししたことはない。着任の挨拶に伺った際には、穏やかな方という印象を受けた。

    某月某日。少し目を離した隙にまた王子が抜け出した!思っていたよりもやんちゃで困る。執務はこなしてくれているようだが、広い城を探すのは大変なのだ。

    某月某日。騎士団の中には、私が王子付きの騎士になれたのは爵位を持つ親の後ろ盾があったからだと噂する者もいる。騎士団内の、特に古株の者たちは王子派の者が多いので嫉妬もあるのだろう。後ろ盾の件は否定できないが、実力も伴っていると証明したい。

    某月某日。王子は私よりいくつも年下なのに、毎日嫌な顔ひとつせず王族としての務めを果たしている。立派な方だ。城の中には王子が魔法使いだからという理由だけで嫌厭する者もいるが、それは王子のお人柄を知らないからだ。

    某月某日。騎士になったのは行儀見習いのようなものだったが、今は誇りを持っている。貴い方をそばでお守りできるのは名誉なことだ。

    某月某日。アーサー様がお茶を淹れてくださったが、恐縮して辞退すると悲しげな顔をさせてしまった。申し訳ないことをしたと思う。もし次があれば私が淹れよう。

    某月某日。アーサー様付きの騎士となって早数ヶ月、抜け出したアーサー様を探すのにもすっかり慣れてしまった。今日は天気が良かったので思った通り中庭にいらした。アーサー様が魔法でティーセットを用意してくださったので、何故かその場で二人でお茶会した。
    アーサー様はもっと友人のように接して欲しいと言ってくださるが、さすがに恐れ多く私にはできそうもなかった。友人になれたらどんなに良いだろう。

    某月某日。アーサー様は朗らかで誰に対してもお優しい方だが、たまに悲しそうに外を見つめていらっしゃることがある。そういうときはどうしたらいいかわからない。どうかもっと笑ってほしい。私にできることはあるだろうか。

    某月某日。アーサー様が賢者の魔法使いに選ばれた。アーサー様は以前から賢者様とは親しく、魔法舎に赴かれることもあったが、まさかアーサー様が選ばれるとは。危険がないといいのだが。

    某月某日。どうやら賢者様は新しい方に変わったらしい。前の賢者様とはちゃんとお別れができなかったらしく、珍しく落ち込んでいらっしゃった。母からもらったとっておきのお茶を淹れると、少し笑ってくださった。

    某月某日。近頃のアーサー様は以前よりも明るくなられた気がする。王子としての執務以外に賢者の魔法使いとしての仕事も増えてお忙しそうなのに、とても充実した顔をされている。アーサー様が楽しそうだと私も嬉しい。

    某月某日。元騎士団長のカイン・ナイトレイ。私は彼とはほとんど入れ違いで騎士団に入ったのでよく知らないが、騎士団内には未だに彼の信奉者たちがいる。何度か話したが、気のいい方であるのは間違いないだろう。

    某月某日。アーサー様の執務をお手伝いしていたら、カイン元騎士団長が来て私は下がらされた。賢者の魔法使いのお仕事はお手伝いできないので、せめて城内での負担は軽くして差し上げたいのだが。

    某月某日。今日もアーサー様のそばにはカイン元騎士団長がいた。カイン元騎士団長はアーサー様と信じられないほどくだけた話し方をする。まるで友人のように。

    某月某日。カイン・ナイトレイがいると私はまるでのけ者だ。城ではずっと私がアーサー様のそばに控えていたのに、最近は「カインがいるから下がっていいよ」と言われる始末だ。

    某月某日。父から、爵位を譲りたいと考えていると手紙があった。確かに父はもう高齢であるし、私も当初は騎士団に長く勤めるつもりはなく、頃合いを見て家を継ぐつもりだった。しかし、家に戻るということはアーサー様付きの騎士を辞めるということだ。

    某月某日。城の使用人がアーサー様とカイン・ナイトレイの噂をしているのを聞いてしまった。『親密』なご関係なのではないか、と。なんてことを。そんなはずない。そんなはずがない。

    某月某日。父ときちんと話さねばと思い家に立ち寄った。よくよく聞いてみると今回のことはアーサー様が執り成してくださったらしい。騎士団にいるよりも身分は良くなることに間違いないが、ようは厄介払いということではないのか。

    某月某日。あの男が来てから何もかも上手くいかない。

    某月某日。アーサー様は変わってしまった。今では何をするにもカイン、カインと。あの男は今は騎士でもないはずなのに、なぜ我が物顔でアーサー様のそばにいるのだろう。そこにいるのは私の役目のはずなのに。

    某月某日。アーサー様があの男を「私の騎士」と呼んでいるのを聞いてしまった。それは私のはずなのに、私はそんなふうに呼んでもらったことはない。

    某月某日。アーサー様

    某月某日。後悔している。先日、偶然あの男と回廊で顔を合わせた際に、酷いことを言ってしまった。これは自分しか見ない手記とはいえ、とても書き記すことのできないようなことだ。あの男は何も言い返してこなかったが、私を見つめる瞳は燃えるようであった。(私はこのとき初めて男の瞳が金と赤の色違いであることに気が付いた)
    あれではアーサー様のことも侮辱している。そんなつもりはなかったのに。もしアーサー様に知られてしまったら。

    某月某日。罷免、もしくは不敬罪で首を切られることも覚悟していたのに、なんの沙汰もない。あの男はアーサー様に言わなかったのだろうか?

    某月某日。爵位を継ぐことにした。これ以上今の地位にしがみついても苦しいだけだ。今とは違う方法で中央の国を、そしてアーサー様を支えたいと思う。

    某月某日。本来なら、父から手紙をもらってすぐ喜んで家に戻れば良かったのだ。もし私が地位にしか興味がない男であればきっとそうしていた。
    アーサー様は自己評価が少し低いところがある。私がアーサー様のそばにいたいと思っているとは考えなかったのだろう。
    私はアーサー様に心から忠誠を誓っていた。そして、心から愛していたのだと思う。だからカイン・ナイトレイに嫉妬していたのだ。アーサー様から愛されるあの男が心底羨ましい。ああ、もしあのとき、アーサー様と友人になれていたのなら、私にもまた違う選択肢があったのだろうか。悲しそうな顔をしたアーサー様に、なにか声をかけることができていたのなら。
    どうか、アーサー様がこの先の千年も幸せでありますように。これを持って、この手記の締めくくりとする。

     ぱたり、軽い音を立てて本が閉じられる。金と赤の瞳を持つ男は、今しがた読み終えたその手記の表紙をしばらく見つめて、やがてなんの躊躇いもなく、暖炉へと焚べた。
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