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    suzumi_cuke

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    suzumi_cuke

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    20220605匂わせ程度の鯉月(鯉→月)、メインは俺モブ兵が軍曹の読んでる本について知りたがる日常系の話。気分転換に書いてたら最後まで書けたので置いておきます。

    みんな大好き軍曹殿の愛読書 俺が所属する歩兵第二十七聯隊には、皆から慕われる古参の軍曹殿がいる。

     身長は徴兵資格をぎりぎり通るくらい、そんなに高くない。俺より低い。ところがガタイがとんでもない。下士官と兵は入浴の時間が違うのだが、たまたま遅くなったらしい軍曹殿が風呂から出て着替えているところに出食わした時、そのたくましいお身体に、俺は正直吃驚してしまった。数え切れない傷を刻んだお身体は、服の上からでは思いもつかないほどに鍛え上げられ、腹の筋肉などは八つくらいに割れておられた。触ると多分鉄板のようにカチカチなのだと思う。思わず口を開けて見惚れていると、軍曹殿はやや気まずそうにして、「じろじろ見るな」と背を向けてしまわれた。そうするとどうだ、背中にはそうした傷はなく、きゅっと褌を食い込ませた尻のなんと張りがあって柔らかそうなこと……俺はさっきと別の意味で、軍曹殿が着替えを終えるまで目が釘付けになってしまった。(ぼんやりするなとどやされてしまった)
     この軍曹殿――月島軍曹殿には謎が多い。あまりご自分のことは話されないからだ。ただ、古参兵殿から鶴見中尉殿や宇佐美上等兵殿と同じ、新潟の出であるということは聞いたことがある。戦闘訓練では小柄な体格にもかかわらず、図体のでかい兵たちを次々叩き伏せていく恐るべき技量の持ち主だ。やはり経験が違うのだろうか。
     誰にでも一線を引いて接する点で、親しみやすい方ではないかもしれない。だが俺たちのことをよく見ていて、悩んでいる者にはそれとなく声を掛けて下さるし、いつも冷静で、どんな時でも誰に対しても表情を変えず同じ態度で相談に乗って下さる。ある意味公平な、とても面倒見の良い方だ。そんなわけで皆(新任の少尉殿も)密かに彼を頼りにしている。
     先日、そんな軍曹殿が何やら読書をされていた。夕食を終えて、就寝前の点呼までの短い余暇時間のことだ。軍曹殿へ提出することになっていた書類があったので、俺は下士官室を訪れた。戸を叩いて名乗ると、中から入れとぶっきらぼうな声が返ってきた。部屋の中では軍曹殿が寝台に腰掛け、やや服を寛げて本を読んでいた。
    「本日が期限の課題を持ってまいりました」
    「机に置いておけ」
     本が面白いのか、顔も上げずに軍曹殿は机を指さした。言われた通りにしながら、こっそりそちらを窺うと、軍曹殿の唇が小さく動いていた。声に出すことなく、文字を紡いでおられるようだった。本には薄紙で覆いがしてあって、どんな表紙かよく見えない。この軍曹殿の心を惹くのは一体どんな本なのかと、俺は俄然興味が湧いた。
    「軍曹殿、何を読んでおられるのですか?」
    「ん?」
     俺に目を向けて、軍曹殿は読んでいた本へと目を戻し、それからもう一度俺を見ると、今度はすうと目を細めた。
    「お前にはまだ早い」
     その目つきと言い方に、俺は胸がどきりとした。叱られたというのではなくて、軍曹殿らしからぬ、どこか少しからかうような、そんな言い方だったのだ。俺にはまだ早いというのは、どういう意味であろうか。もしや、若者には刺激が強すぎて見せられないような過激な艶本を読まれているのか?この禁欲的な軍曹殿が?そう考えると、急に軍曹殿の横顔までもが色っぽく見えてくるような気がしてくる。何か答えようと思いながら、舌が絡まったように言葉が出てこなくて焦っていると、どんどんと下士官室の戸を叩く音と、「月島!いるか!」という声が響いた。軍曹殿を呼び捨てに出来るのは、そしてこの声の持ち主は。
     本を寝台に置いて、軍曹殿はつかつかと俺を横切り戸を開けた。
    「鯉登少尉殿!将校がこんなところへ来ないでください。兵たちが無駄に緊張するでしょう」
    「それは、お前がちっともこちらに顔を出さないから……」
     果たして、部屋の前に立っていたのは鯉登少尉殿であった。背筋を伸ばして固まっている俺に気がついて、聯隊でも評判のお綺麗な顔には、露骨に不愉快そうな色が浮かんだ。
    「なんだ、貴様、なぜ月島の部屋にいる」
     何故と言われても。鯉登少尉殿こそ何故ここに来たんだ。
     少尉殿から俺を庇うように軍曹殿が間に立った。
    「そっちで話しましょう」
    「誰だあれは。逢引か?」
    「おかしな邪推はやめてもらえますか。あいつは提出物を持ってきたんです」
     軍曹殿が廊下へ出て、後ろ手に戸を閉めたので、会話の内容は戸に遮られて聞き取りづらくなった。しかしお二人とも、こう言っては何だが声がでかいので、聞き耳を立てれば聞こえないことはない。そうしてもよかったのだが、俺はそれよりも軍曹殿が置いていった本のほうが気になっていた。俺にはまだ早いというその本は一体何が書いてあるのか……?
     こっそりと寝台へ近づいて、俺は軍曹殿の本を手に取ってみた。雑誌というほどペラペラではなく、兵法書のように分厚い堅牢な本でもなく、例えるなら教科書が近いだろうか。艶本が教科書に近いとはおかしな話だ。どきどきしながら出鱈目に、ぱらりと本を開き――俺は困ってしまった。
     読めない。
     漢字が難しくて読めなかったとか、内容が複雑でわからないとかそういう意味ではない。日本語の本ではなかったのだ。試しに他のページもぱらぱらと見てみたのだが、その本には妖艶な挿絵などは一個もなく、どれも日本語ではない言語で文章が書かれていた。講義で見たことがある文字の形だから、きっとロシア語だ。残念だが、これでは書かれているのが官能的な内容であったとしても、俺には到底楽しむことは出来無さそうだ。俺は無念に思いながら、それでもすごすごと退散するのは悔しくて、中表紙に書いてある短い単語の形をこっそりと手帳の隅に書き写した。
    「もう、わかりましたから……」
    「きっとだぞ、待っているからな……」
     声が近づいてくる気配に、俺は慌てて元の机の前に一足飛びに戻って直立した。顰め面の軍曹殿が戸を開けて現れると、俺を見て廊下の方を親指でくいっと指し示した。
    「お前も部屋に戻れ」
     ということは、鯉登少尉殿は先に戻られたということか。若くして将校という立場がそうさせるのか、少尉殿はお顔こそ上玉ではあるが、性格は苛烈なところがある。その上、軍曹殿のことがお気に入りだから、それであれこれと詰問されたり目をつけられてはたまったものではない。そうならずに済んで、俺はほっと胸を撫で下ろした。
     後日、俺は手帳の隅に書き写した単語について調べてみた。思った通り、それは作者の名前だった。どんな破廉恥な内容を書いている人物かと、わざわざ休日に本屋へ行き、恥ずかしながら店の主に手伝ってもらって探したのだが、同じ本は置いていなかった。がっかりした俺に、しかし店の主は「日本語訳のほうならある」と勧めてくれた。それを先に言ってくれ!
     店の主に代金を支払って、期待に胸を膨らませながら、俺は兵営まで待ちきれなくて歩きながら本を開いた。その本はやはり挿絵もなく、文字ばかりだが今度は読める。作者名と題名のある中表紙を開き、最初のページを読み、俺は思わず立ち止まった。
     ……ああ、この時のことを思うと、今でも俺は自分の浅慮と俗っぽい野次馬根性とを思って顔が熱くなる。そして、軍曹殿はどんなお気持ちでこの本を読んでいたのだろうかと、どこか胸がぎゅっと締め付けられるような気がする。
     その本は艶本などではなかった。
     ただただ美しい言葉で切ない思いの丈を綴った詩集だったのだ。



     俺は今ロシア語を勉強している。この言語はとても厄介だ……なぜ性別によって言葉の形を変える必要があるんだ?こんなに厄介な言語を学び、身につけた軍曹殿への尊敬の念は増すばかりだ。何度も投げ出そうとしたが、それでも細々と続けているのは、軍曹殿が読んだあの詩集を、俺も原語で読んでみたいと思ったからだ。訳された本は、勿論それだって文学者が美麗な言葉を尽くしたものだった。でも、あくまで訳した人間を通して出てきた詩なのだ。
     元々の詩を自分の頭を捻って訳すことで、あの時の軍曹殿のお気持ちに少しでも近づくことが出来るのではないかと、そういう淡い期待が俺を机へ向かわせている。
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    suzumi_cuke

    TRAINING20240530鯉月。大団円後くらい。かわいこぶって口説いたのに不発に終わった話。何日もしてない!っていっても「先週しましたよね」「もう4、5日経つが!?」って感じ。天然ボケみたいだけど軍曹は本気で少尉が病気なのかと心配していたし、ちゃんと休んでほしいと思っている。
    口説き文句は明解であれ もう何日も、鯉登は月島とまともに触れ合えていなかった。
     別に喧嘩をしているだとか、気持ちが冷めただとか、特段の理由があるわけではない。ただただここ最近、課業が忙しすぎるだけである。
     これで全然会えないというならばいっそ諦めもつく。そうでなく、書類の受け渡しで手が当たったり、振り返った拍子に肩をぶつけたり、そんな触れ合いと言えないような接触を毎日するくらいには、常に近くにいるのだ。
     それだから、課業に没頭している時はともかく、ちょっとした休憩時や、少し気が逸れた時に月島が目に入ると、途端に恋しさが募る。
     ところが、月島のほうはいたって平静なのである。鯉登が次々差し込まれる課業を捌き、珍しく少し早く片付いたという日でも、「早く帰って休みましょう」と諭して解散する、そんな感じであった。休むよりは、二人で熱く濃密な夜を過ごしたいという気持ちのほうが鯉登はずっと強かったが、疲れているのは自分だけではないのだからと己に言い聞かせ、見苦しく駄々をこねることはしなかった。
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