お前のために贈る花 「花束を見繕ってくれないか。」
クルトラの街のある花屋、そこに現れた迷宮守の姿に店員は表情を明るくさせる。
「ザフォラ様、花束ですか…ティファリア様にですか?」
その言葉に思わず咽せてしまうザフォラ。
「…ノーコメントだ」
そんな様子を見せればバレバレだというのにザフォラはそうやって誤魔化した。
「どんな花で作りましょう?」
「……オレンジの、果実を実らせるオレンジの花を使った花束は出来るか?」
「できますが…」
「ならそれで」
「色の雰囲気は?」
「……イエローとかオレンジとかの明るい色味で頼む」
「かしこまりました」
そういうと花束を作り始める花屋を見てふっとザフォラは息を吐くのだった。
***
オレンジの花を選んだのはちょっとした思いつきだった。よく、あいつが淹れてくれるハーブティーと同じものだから。イエローとかオレンジのカラーを指定したのは、なんとなく…本当に何となく、あいつをイメージすると思い浮かぶ色がそれなだけで…他意はない。
「ザフォラ様」
そう呼ばれ顔を上げるとオレンジの花を中心に咲かせ周りにイエローやオレンジのカラーの花が添えられていて柔らかな印象を与えていた。
「いつもながら…見事だな」
「恐縮です。今度、ティファリア様からの感想も教えてくださいね」
「……あいつに渡すなんて一言も言ってないが?」
「でも、ティファリア様に渡すのでしょう?」
「はぁ…お前には敵わんな」
「ザフォラ様のこと小さい頃から知っていますので」
「全く…もう行く。助かった」
代金を渡すと花束を抱えて歩いていく。この街にはあいつのように俺とティファリアのことを勘ぐったり、見守ったりしているような者が多い。それほど新たな迷宮守の存在を出迎えている、ということでありティファリアがクルトラの住民になることを、将来的に迷宮守の嫁となることを望まれているということでもあった。
(ーーまあ、いずれは)
ただ、今日はその日ではないということ。そしてティファリアらしい花束を抱きながらティファリアが待つ広場へと向かう。
あいつは笑うのだろうか。驚くだろうか。
(…どっちもだろうな)
安易に想像できる顔を思い浮かべてはふっと笑みを浮かべる。
ーーと、すこし先にティファリアの顔が見えて頬を緩めた。音もなく近づいて驚かせるのもありだったが…そんなこと我慢できそうになかった。
「ーーティファリア!」
そうして俺は愛おしいその名を呼んでそばに駆け寄る。一等愛らしい、お前の笑顔を見るために。
-Fin-