あと少し、もう少しだけ、共に 私がお手洗いから戻るとーー、天真くんは何故か勧誘にあっていた。
***
「て、天真くん!大丈夫!?」
「あかね」
つまらなさそうな顔をしていた天真くんは私の顔を見た途端安心したようなそんな顔をして私の手を引いた。
「わ、」
「ほら、行くぞ」
「行くって、ええっ!?」
話についていけていない私は引っ張られるがままになりそうだがおそらくスカウトマンらしき人が私の腕をがっしりと掴み離してくれない。
「えっ、えっ…!?」
「君、彼女だよね!?これだけでもいいから!」
そう言って名刺らしきものを無理矢理握らされそして私はそのまま天真くんに引かれるままその場を後にしたのだった。
「おい、あかね。何見てるんだよ」
「名刺、さっきもらったの」
明らかに天真くんは不機嫌だった。もらった名刺は芸能事務所のスカウトマンの名刺らしい。天真くんは体格もいいしモデルにでもと思ったのだろう。
「何のスカウトだったの?」
「どうでもいいだろ、そんなの」
「どうでもよくなんかないよ!」
そう言ってじっと見つめれば仕方がなくモデルのスカウトだと教えてくれた。
「どうして断ったの?」
「興味ない」
「したいことがあるとか?」
「そんなとこだ」
「ふぅん」
「もういいだろ!」
「あっ!」
天真くんは私の手から名刺を奪うとビリビリと破いてしまう。
「…モデルしないの?」
「しねえって」
「…ふうん、そう」
追求したい気持ちもあったが天真くんがして欲しくなさそうに見えて私は追求することをやめた。私が追求しないことに気付いた天真くんは私の手を握り、指を絡め歩きだす。モデルの天真くんを見てみたい半分ともう少し一緒にいたいという気持ちがあったからホッとしたというのが正直な気持ちだった。
「それよりさ、あかね。今度のことなんだけど」
そう言って話題は移り私は天真くんに笑顔を向ける。天真くんが知っているかは分からないが天真くんが思っているよりも天真くんのことが好きなんだよ。と心の中で呟きながらも無邪気に笑う私だった。
-Fin-