湿気と乙女心 ラティウムにも雨は降るし湿気でジメジメする時もある。そしてどこからどう見ても癖っ毛のルルは湿気がひどい日の朝はそれはそれは大騒ぎなのだった。
「か、髪が決まらない…!」
属性を得、そして恋人を得たルルは乙女心の赴くまま鏡と睨めっこしていた。
「ルル…大丈夫よ」
「アミィ」
泣きべそをかくルルを励ますのは同室のアミィ。ルルのいつものリボンを手に取り慣れた手つきでルルの髪を結んでいく。
「ほら、結んだら大丈夫よ。それにビラールさんは髪型ひとつで嫌うような心の狭い人ではないでしょう?」
「そう…だけど…」
ただ、少しでも素敵な自分で会いたいという乙女心が働いているせいでもあった。とにかくルルはアミィに結んでもらった髪型に背を押され部屋を出るのだった。
しかし、それはそれとしてところどころ髪がうねっていたりいつもよりカールが多めにかかっていたりしてルルはいつものように笑顔を浮かべられない。
「ルル?どうした、いたなら声をかけてくれればいいものを…」
ビラールの声が頭上から聞こえたがルルは顔を上げることができず、そのままビラールの服の裾を掴んだ。
「ルル?何かあったか?」
「ううん、なんでもないの…」
「……ルル、」
そう呼ばれてもルルは顔を上げられないでいると急激に視界は上がり体ごと移動する。ビラールに抱き上げられているのだと気づくのにはそう時間を要しなかった。
「び、ビラール!?何してっ…」
「我が妃の顔が見れないのは私として寂しい。だからだ」
にっこりと当然のように語るビラールに思わずルルはため息をこぼした。
「…ビラールってば、強引だわ」
「それが私だからな」
「もうっ!」
怒りのままルルは頬をつねってみるがビラールはそれでも笑っていてルルは頬を膨らませた。
「それで?何があったのだ?」
「……し、湿気でその…髪が上手く纏まらなくて…」
ごにょごにょと言葉をこぼすルルに慈しむように笑いかけるとビラールはルルの頭を撫でた。
「大丈夫大丈夫。いつもの可憐な我が妃のままだ…いや、むしろいつもより可憐さが増したと言えるかもしれないな」
「そ、そんなことないもの!」
「…そんなに気にするようなことではないと思うのだがな…」
「気にするわ!だって好きな人…ビラールの前ではいつだって可愛い私でいたいもの!」
乙女心を勢いのまま明かすとビラールは驚いたような顔をした後蕩けるような笑顔を浮かべる。
「ルル、我が妃は私を困らせるのが上手だな」
「え?」
そう言っている間に降ろされ、そしてリアンが出てくるとルルの周りを一周しそれが魔法の行使だと気づくのにはそう時間がかからなかった。
「リアン!ありがとう!」
ルルの髪を纏まり癖が出ないようにしてくれルルがお礼を言うとリアンは笑う。
『何、我が主の困った顔が見れたお礼よ。それに、あなたが困ることは私の望みではないのだから』
「リアン…」
リアンの声に睨むビラールだったが涼しく笑うリアンだった。
『それよりも時間は大丈夫なのかしら?我が主に無垢なる娘』
「い、いけない!急ごう、ビラール!」
「…ああ」
ルルに手を引かれその強さに笑いながらビラールは歩を進めたーー。
-Fin-