私だけの魔女 「ご注文の『ヴォルカノ・ボッカ』です〜」
店員の言葉と共に運ばれた『ヴォルカノ・ボッカ』に嬉しそうにルルは歓喜の声を上げた。
「しかし、戻ってきて初めてのデートが『ヴォルカノ・ボッカを食べること』とは…本当に良かったのか?」
「ええ、だって食べたかったのは本当だもの。過去でビラールと『ヴォルカノ・ボッカ』の話をしてからどうしても食べたくなってしまって」
クリームを入れながらルルはそう言った。
「ふ…、」
「…今、笑う要素あった?」
「いや、我が妻は相変わらず無欲だなと思ってな。逆に私が困ってしまうほどに」
「…私はビラールといられるだけで幸せなのに」
「もっと幸せにしたいと思うのはだめか?」
「だ、だめじゃないけど…でも、無理はしないでほしい」
「わかった」
無欲な妻に頷くと『ヴォルカノ・ボッカ』を口に運んだ。
「クリームを入れなくても食べれるなんてビラールはすごいなぁ。私は大人になっても無理な気がするもの」
「人それぞれだ。辛いものが好きな人もいれば苦手なものもいる。無理して苦手なものを食べるよりも好きに楽しんだ方がいいと思う?」
「う、うん…そうよね、分かってる…し、大人でも出来ないことがあるってことを過去で知ったわ」
そう更に輝きを増した瞳でルルは言う。
「ふふ、美味しい」
そんな無邪気な顔を見ると心が満たされるのを感じつつ、また口へと運ぶ。ピリリとした辛味がファランバルドの味を感じさせ私に懐かしさを感じさせるものだった。
***
「あ〜美味しかった」
「ああ、本当に美味なものだ」
店から出たあと手を繋ぎ町を散策する。ルルに、人並みの幸せ、幸福を選ぶということを教えてくれた私だけの魔女に何かしてやりたいと思うがルルは本当に無欲で私の最近の悩みの種はどうやってルルを喜ばせるかに他ならなかった。けれどーー……、
「ビラール?どうしたの?」
そう言って強く手を引くルル。恋人になってから嬉しいことの一つだった。そうやって引かれる腕も、私に向けられる顔も声も、全てが愛おしくてたまらない。
「ルル、」
名を呼べばぴたりと止まり私を見上げてくる。そんなルルの柔らかな唇に自身の唇を重ねる。
「〜〜〜っ」
顔を真っ赤にさせ驚くルル。そんなルルがまた愛おしくてたまらない。
「ルル、私だけのお前、私だけの…愛おしい…魔女、」
「……っ、」
「私の全てはお前のために…」
呼吸はキスの間に溶けて消え、言葉ではない方法で愛を伝え続ける。「人前なのに!」とルルに怒られてしまう私だが、それを作戦のうち、言えば怒られてしまうだろうから笑って言葉を閉ざしたーー。
-Fin-