夏の黄泉の日常 「オランピア、今日も精が出ますね。これは今日の手紙です」
「ありがとう、朱砂」
朱砂から手紙を受け取って、そしてある人を探す。
「玄葉なら今は外していますよ」
「え!…いつ戻るとかは、」
「…もう少ししたら戻ると、」
「お、白夜じゃないか」
そんなことを話していると玄葉が現れ思わず背筋を伸ばす。
「ど、どうも…」
「そういえば白夜に行ってなかったな。夏の間、俺は朝黄泉の方にいるから気になるなら明日の朝、黄泉の広場に来てみるといい」
「黄泉?…ええ、わかったわ」
「今日も暑いから水分補給と塩分忘れずにな、」
「わ、わかってます!行ってきます!」
「お〜」
ひらひらと手を振る玄葉に振り返し、手紙を配達に向かうのだった。
***
「…どういう、こと?」
「あ、オランピア。やっぱり来てたんだ」
「刈稲…この様子はどいうこと?」
「ラジオ体操ですよ」
「らじお…何?」
「まあ、気怠い朝にする体操って感じ?ずっと前から玄葉はしてるみたいだけど」
「相変わらず兄さんは元気だなぁ」
そう眩しそうな顔をして、欠伸をしながら現れたのは縁だった。
「縁!」
「兄さんが随分昔からラジオ体操してるのは本当だよ。医者である兄さんにとっては子供たちの健康と出席確認にもちょうどいいんだろう、それに子供たちも嬉しそうだし」
「それは…そうね、」
そう頷いていると音楽が止まり子供たちが何やら首からぶら下げたカードのようなものを手に取りながら玄葉のいる場所へと駆けていく。よく見ればカードにスタンプを押しているところだった。そうして子供たちの作っていた列がなくなった頃、白衣が私に近づいた。
「来てくれたのか、白夜」
「見えてたくせに」
「バレてたか」
そう言っておかしそうに玄葉は笑う。
「はい、白夜にもやるよ」
「カード?」
「ラジオ体操カードだ。毎日来てくれたら俺がハンコを押してる」
「…玄葉はいつも、ここで?」
「ああ。夏の間は黄泉に来て医者になると決めた年の夏からやってて今じゃ恒例行事だ」
「あんなに子供たちに大人気で…妬けるわ」
「そりゃ光栄だ。そうだ、白夜も明日から来るといい」
そう言って先程話題に上がったラジオ体操のカードを私に手渡す。
「…私に?」
「ああ。俺に会いに来るついでに体操してったらどうだ?そうしてくれると俺は嬉しい」
「……考えておくわ、明日…楽しみにしていて」
「!……ああ、」
そうやって玄葉は嬉しそうに笑った。
(…そんな子供のように笑って)
思わずそんな顔に見入ってしまう。このあと私たちは縁に呼ばれるまで見つめ合っていたのだった。
-Fin-