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    nanana

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    nanana

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    高速道路を運転をするコ様と助手席のわじき。
    付き合ってない。

    #雷コウ
    ##ハンセム

    夜を行く(雷コウ) どこまでもまっすぐ続く真っ黒な道路に、等間隔で白銀の光が並んで、それをいくつもいくつも追い越して「わ」ナンバーの車は走る。高速道路の横の道はどうしてかは知らないけれど薄汚れた下品なネオンライトに照らされた看板が並んでいるか、もしくは何もないかの二択であることがほとんどだ。さっきまでは前者で車通りも多かったはずなのにいつの間にか後者へと変わっていた。
     車内に流れる知らない男がパーソナリティを務めるラジオ番組。流れる音楽は微妙に年代が古いらしく、雷我も隣でハンドルを握る男にもどこかピンとこない。それでも乗車した時から沈黙を続けている二人にとっては、勝手に喋り続ける男の声と馴染みのない音楽は一種の生命線のようなものだった。

    「よかったら高知まで送ろうか」
     広島でのHEAD会議の後、いつものように駅へ向かおうとした雷我に声をかけたのは巷では水と油、だなんて言われるほどに相性の悪い男だった。
    「送る?」
     言われた言葉の意味が理解できず、瞳を細めた雷我の目の前に男は一つ鍵をぶら下げて見せつける。チャリと小さく音を立てたそれはどう見たって車の鍵で、普段見慣れたものではあるけれどこの男が握っているのがどうにもミスマッチで雷我は鍵と顔と二度ほど交互に見つめて最後に男の顔に視線を戻した。
    「車の鍵?」
    「ああ、レンタカーを借りていてね。明日高知で用事があるから私も今夜のうちに移動するつもりだったんだ」
    「なんでまたレンタカーを。新幹線使えばいいじゃねぇか」
    「気分的なものだ」
    「つーかアンタ、免許なんて持ってたんだな」
    「まぁ、一応」
    「アンタの運転、大丈夫なのかよ」
    「不満があるのなら無理に乗ってもらわなくても構わないが」
     なんだか珍しく得意げに喋っていた口が一瞬にしてへの字に曲がった。ぶら下げていた鍵を引っ込めて歩き出そうとした背中に追いついて横に並ぶ。雷我がありがたく乗せていただきマス、と伝えれば、あぁと少しだけ機嫌の良さそうな返事が返ってきたのだった。

     広島から高知まで約三時間のドライブ。手慣れた、とは言い難いハンドルさばきは、本人の性格を裏切らず丁寧で細かい。高速道路の街灯と対向車のライトに照らされて闇夜にもよく目立つ白い横顔。童顔だ童顔だと散々馬鹿にしてきてはいたけれど、車の右側に座りハンドルを握って前を見据える姿はいつも以上に大人びて見えて、雷我が久方ぶりに感じた七歳の年齢差。
     普通車の免許も取ろうか。なんだか少し悔しくて、雷我は自分の貯金通帳に思いをはせる。取ろうと思うならば課金を控えなければいけない。
     ふいにプツンとラジオが途切れる。どうやら電波の途切れる区間らしい。場を繋いでいた男の声がなくなって二人の間に沈黙が落ちる。
     体を重ねたことは何度もある。口に出して関係を確かめたことはない。けれどお互いそれなりにそれなりの感情を持っていることは感じ取っている。
     ただ、二人きりの時に喋る言葉は未だに持ち得ていない。
    「……運転、疲れてねぇか」
     沈黙に耐えられなくなったのは雷我が先だった。途切れた音楽の代わりに車内に落としたのは三十分ほど前から口にしようかずっと悩んでいた言葉だった。
    「コーヒーもあるし大丈夫だ」
     手を伸ばして男が口にした缶コーヒーは途中に寄ったサービスエリアで雷我が購入したものだった。
    「……レンタカーを借りたのは」
     コーヒーを口にした男が口を開く。
    「君と二人きりになれるだろうかと、そう、思って」
     語尾は小さくフェードアウトしていった。予想もしなかった言葉に雷我は思わず横を向いたけれど、相も変わらず男は前を見据えて無表情なまま。
     途切れていた音楽がカーステレオから鳴り始める。ラジオ番組は変わったらしく、男の声から若い女の声に変わっていて、車内に充満していた重たい沈黙は流行りのJポップですべて霧散した。
     カチカチと鳴る左車線へと向かう指示器の音。高速道路から一般道に降りていく。落ちる車のスピード、知らない道ばかりだと思っていたのに、気が付けばそこは雷我の見知った場所になっていた。
    「道案内頼むよ」
     右、左、しばらくまっすぐでそれから信号を左。レンタカーは雷我の言う通りに進んでいく。それが雷我の家まで少し遠回りの道であることを、運転席の男は知らないし、雷我も知られたくないと思っていた。
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    nanana

    DONE付き合ってない雷コウ。
    次に会った時には、プレゼントされたのだというもっとよく似合うグレーがかった青のマフラーが巻かれていてどうしてか腹立たしかった。
    吐き出した冬を噛む(雷コウ) 以上で終了だ、と男が持っていた資料を机でトントンとまとめながら告げた時、窓の外には白い雪がちらついていた。数年に一度と言われる寒波は、地元である高知にも、今現在訪れている福岡にも珍しく雪をもたらしている。それがどこか新鮮で少しだけ窓の外をぼんやりと眺める。男もつられたように同じように視線を向けた。
    「雪か、どうりで寒いわけだな」
     二人きりの福岡支部の会議室。ちょうど職員の帰り時間なのだろう、廊下の方からも賑やかな声がする。
    「こんな日にわざわざ福岡まで来てくれた礼だ。もつ鍋でもご馳走しよう」
     こんな日に、というのはダブルミーニングだ。一つはこんな大寒波の訪れる日に、という意味で、もう一つはクリスマスイブにという意味だ。雷我がこの日を選んだことに深い意味はない。たまたま都合のよかった日にちを指定したらそれがクリスマスイブだっただけの話だ。夜鳴のメンバーと予定したパーティの日付は明日だったからクリスマスにはイブという文化があるのを忘れていたせいかもしれない。
    2302

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