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    年越し初詣に行く福岡支部のみなさん。
    しの→あつひで。
    田舎者なので年越し初詣描写は全て捏造。

    #信乃敦
    shinnaidun
    ##ハンセム

    指先に纏うオブラート(信乃敦) 人の話し声、肩をぶつけながら歩かねばならない群衆の足音、それから暖を取るために燃やされている焚火に、屋台の呼び込みの声。それらが合わさって響くはずの喧騒が、何故か鼓膜の表面を撫でて通り過ぎているかのようにどこか遠くへと聞こえていた。それよりも大きく響いていたのは己の心音。繋いで手から伝わる熱に眩暈がしそうになって、はたして自分がまっすぐ歩けているのかわからないほど。
     吐き出す息が熱くて、息を吐くたびに零れる白いもやが浮かれた感情のようで、吐くたびに少しだけ落ち着いてくる自分の恋心。
     己の手を引く大きな背中は、きっとこんな熱視線なんか一つも感じていないだろうと思ったらほっとするようで少し悔しくもあった。

     高校生になった年の年の瀬。信乃と、信乃のおじい様おばあ様がよければ、夜に初詣へ行かないかと声をかけてくれたのはコウの方からだった。といっても、夜に初詣へ行ってみたい、というのは信乃がこの家で暮らす様になった年に言い出した話である。故郷の村では夜中からこんな風に大勢で初詣に集まることはないし、近くの小さな神社も夜は無人だった。だから市内へと引っ越して、学校の友人から祭のような年越しの話を聞かされ自分も行ってみたいと珍しく我儘を言ってみたのだ。けれどもこれまた珍しく信乃に恐ろしく甘いはずの『お兄ちゃん』たちはそんなおねだりに渋い顔をした。曰く、幼い子を深夜に連れまわすのはどうなのかという話である。斯くして、中学生だった信乃の小さなおねだりは意外と厳しい『お兄ちゃん』たちのNGを食らい、その代わりに今、高校生になった信乃が叶えてもらうこととなった。
     防寒着を着込んでマフラーに顔をうずめるようにして集まってくる人々の鼻は一様に赤い。きっと見えないけれど自分もそうなのだろう。父親と母親に手を引かれた幼子も、どう見たって自分よりも年下の学生グループもそこにはたくさんいて、やはりうちの教育方針は厳しかったのでは、と、もはやあの三人を家族のように扱っている自分がいて信乃は少しだけ照れ臭くなった。血の繋がった家族のほうはきっと今頃こたつに入りながらゆく年くる年でも眺めていることだろう。
    「……あいつら帰ってこねぇな。どっかで迷子になってんのか?」
     甘酒を買いに行く、とコウと隆景が人だかりに向かって行ったのは十五分ほど前の事である。それならばと、先ほど屋台で買い与えられた焼餅を食べながら人混みを外れて信乃と敦豪は焚火の前で待っていたのだが一向に二人は返ってこない。焼餅はとっくに二人の胃の中だ。
    「メッセージも既読になんねぇしなあ。敦の兄貴、俺探しに行った方がいいか?」
     ポケットから取り出した端末を開いてみたところで先ほど送った戻りの催促を促すメッセージの既読は二人分足らないまま。
    「いや、この人混みじゃあお前まで迷子がオチだろ」
     ふいに周囲が騒がしくなる。どこからともなく聞こえるカウントダウンの声。その数字が零を告げて新しい年が来たことを知る。
    「あー、年開けちまったか。待っててもしょうがねぇし、二人で拝みに行くか」
     ん、と敦豪から自然に差し出された手に信乃は思わず固まった。
    「お前まではぐれたら大変だろ、手、繋ぐぞ」
     息をするように、わざとらしくもなく、それが自然かのようにこの杁敦豪という男はお兄ちゃんになる。今も年の離れた弟を守ろうとこうやって手を差し出している。
     本当にお兄ちゃんなら良かったのだ。純粋にお兄ちゃんと思えていたなら良かったのだ。いつのころからか信乃は、敦豪に対してお兄ちゃんに向けるものとは違う感情を向けている。
     少し躊躇ったのも、指が震えそうになったのも気が付きませんように。幸い手を引いて前を見据えているのだから少し赤くなった顔には気が付かないだろう。最もそれを指摘されたのなら寒いからだと言う言い訳も準備はしていた。
     まだこの感情は気が付かれたくはないのだ。少なくとも二人で手を繋いでいるのが、周りから見れば仲の良い兄弟にしか見えないうちは。こうやって簡単に手を引かれて庇護されているうちは。
    「帰ったらすぐ寝ろ。昼過ぎにはあっちの家の方に出発するからな」
    「悪いな、敦の兄貴もゆっくり寝てたいだろうに」
    「いや、予定がねぇと際限なくだらけるし丁度いい」
     本殿の前にはすでに長蛇の列ができていた。その最後尾までたどり着くと自然と繋がれていた手はほどけていく。安堵と名残惜しさが混ざって小指だけ往生際が悪そうに最後まで絡み合って別れた。それはさほど不自然な動きではなかったらしく、敦豪は一つも気にする様子がない。
     今年もこの人たちの横に立つことに恥ずかしくない自分でいられますように、そんな願いとも決意表明とも取れない祈りを信乃は両手を合わせて捧げた。
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