オレの自慢の相棒(颯新) 颯真の病室の前。病室の中に入る前にノックするのが新の習慣となっていた。何回も来ているし颯真相手には今更だとは思うのだが。一応マナーとして。
軽く手を握り、扉を叩こうとしたときだった。
「——♪ ————♪」
開けるときの反動で開いたのだろう、小さな隙間から、懐かしいメロディーが漏れ聞こえる。颯真と新が初めてライブで歌った曲だった。
即座に手を引っ込めて、新は息を殺した。扉に背を向け、ばくばくと鳴る心臓を抑えようとシャツの裾を血管が浮き出るほど強く握った。背中を伝う汗の感覚が気持ち悪い。持っていた紙袋を落とさなかっただけ褒めて欲しい。
颯真の歌声を聞いたのは何年振りだろう。
遠くまでよく響くその声に何度勇気をもらったことか。力強いのびのびと自由な歌声は、新の心にずっと残っているものだ。宝物の箱が開いて、過去の思い出がシャボン玉のように次々と浮かんでは弾けていく。
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