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    Kakitu_prsk

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    書き途中で自分が管理しきれず筆が止まってしまったものを供養。1章まで

    ダショが悲劇の物語の"役"に取り込まれ、しかもツの自我が戻ってねぇ!なんとかせな!なお話(いずれ類司になる…筈…だった…)

    デウスエクスマキナの黄昏(仮題)【Prologue】

    ――それは、微睡みを切り裂くように"セカイ"へと響く


    「 類 」


    自身の名を呼ぶ聞き覚えのある声
    それは我らがワンダーランズ×ショウタイムの座長にして、輝ける星である"彼"のものだ
    耳へと馴染みながら、何処か違和感のある声に引っ張り上げられるように


    己の意識を覆った"薄膜"が割れ、鮮明にセカイが広がった



    ――"僕"が目覚めた時、その世界は異常に満ち溢れていた

    煌びやかな部屋の飾りに、足元に広がる大理石の床と赤いカーペット
    目の前には豪華な玉座が鎮座しており、その脇を中世風の鎧を纏った見知らぬ者が固めている。
    まるで舞台のセットのような、それにしては本物すぎる風景に僕は戸惑っただろう。

    けど、それ以上に目を奪われたのは――


    「……聞こえなかったのか、錬金術師"ルイ"」


    玉座に腰掛け、こちらを見下ろす一対の瞳
    その主は十分すぎるほど知っている。我らが座長――天馬司その人だ

    見知らぬ場所にいた見知った人間に、普通は安堵を覚えることだろう。

    ……けれど、どうしてなのか。
    彼を一目見た瞬間、己の心に湧き上がった感情は何故か"畏怖"であったのだ。

    その身に纏う白き王の服、一房の長髪に輝く冠
    なるほど、普段の彼の性格を考えればこれ以上似合う衣装もないだろう。だが、此方を見下ろす…というより、見下す(みくだす)瞳にはいつもの自信に溢れた光はない。
    それどころか、見るもの全てを塵芥とするかのような"傲慢"さ――それ以上の"冷徹"さすら感じられるのだ。

    驚いた。いつのまに司くんはあんなに演技の幅を広げたのか。
    彼はもっぱら主役や王道の英雄をやりたがるが、このような役のいる脚本を検討しても良いのかもしれない。

    殆ど現実逃避でしかない考えに意識を取られていた僕の口は、司君に現状を問おうと自然に開いていた。


    『――ええ、聞こえておりますとも。王よ。この"私"に何を望むのですか?』


    しかし、その口からは全く別の言葉――それも、まるで演技をするかのように作り上げられた"台詞"がするりと飛び出してきたのだ。

    なんだこれは……僕の意思と反したそれに気持ち悪さすら覚える。
    実は今は舞台の最中だったりするのだろうか。いや、いっそ夢であった方がずっと納得でき―――

    「っが!?」

    僕の思考は次の瞬間、頬に走った強い衝撃によってぶつ切れる。
    それが僕の隣にいた兵士どもによって頭ごと地面に押し付けられたからだと理解するのに数秒要しただろう。
    というより、僕は膝をついた状態だったのだと今更ながら気づいた。
    ついでに、頬に広がる鈍痛がこの奇怪な状況が"現実"であるのだと煩く主張していたか。

    『望む、だと?この王たる俺が下賤な民に望むことなど何もない。』

    頭上から響く声はひどく冷たく、相当なご立腹だ。
    言葉一つでここまで怒るとは余程狭量な王なのだろう。そして普段の司くんとは余りにも異なりすぎる。

    そんな傲慢な"役"である彼を見てやろうと、地に頭を押し付けられながら、それでも玉座へと視線を移し――戦慄した。

    『俺が望めば何もかも思いのまま――お前とてこの場ですぐ首を刎ねても良いのだぞ?それを望むか?』

    僕に向けられた瞳に宿る――"殺意"
    おおよそ現代日本に生きていれば感じる筈のないその感情は、僕の首にナイフをつきつけるかのように鋭く、無機質だった。
    これが演技だとか現実だとか、もはやどうでも良い。
    その拒絶にも似た感情を、心優しい彼がすること自体が耐えられないのだ

    違う――彼は"天馬司"などではない!!

    僕の心がそう叫ぶ。なんなら口に出したっていい。
    だが、まるで縫い付けられたかのように口は動かず。されど先ほどのように自然と台詞が出ることもない。
    いくら僕が常人より賢かったとしても、受け入れる容量が既にオーバーしている。
    喉につきつけられたナイフを前に、僕はどうすることも叶わず。執行までの時間がただただ流れ続ける。

    どうすればいい、何をすればいい?
    この先はどうなっている。僕は――"私"の次の台詞はなんだ?

    先ほど破った筈の"薄膜"が僕の意識を混濁させていく。
    深く、深く、堕ちるように――――


    『―――――お待ちください』


    "僕"としての意識が途絶えかけた瞬間、凛とした声が玉座の間に響き渡った。その声は僕を現実へとまた引き戻す。
    続き、赤いカーペットを叩いて足音が近づいてくる。それは間もなく僕の隣に立った。
    地に伏せたままの視界からは、エメラルドのような鮮やかなドレスが目に映るのみ。
    ……けれども、僕は"それ"が誰かを知っている。

    『"ニーナ・シェラード"!王への謁見は許可をされていないぞ!」

    王の傍に控えた恐らく"大臣役"の男が声を荒げる。
    だが、その威圧的な言葉にも怖気づくことはなく、その"女性"は王へと相対した。

    『いいえ、この者はシェラード家お抱えの錬金術師です。彼に命を下すのであれば、それは私への命と同等ですわ。どうか同席の許可を』
    『……シェラード。それは、万が一には"全ての責"を負うということだな?』
    『ええ、そのつもりです』
    『――いいだろう。その錬金術師を離してやれ』

    王の命によって僕を押さえつけていた重圧がなくなり、弾かれたようにその身体を起こす。
    そして視界に入ったその人物に、僕の推測は当たっていたことに気づいた。

    美しい緑のドレスを身に纏った女性――というより"少女"ではあるが。

    "ニーナ"と呼ばれた彼女は、僕の幼馴染である"草薙寧々"その人であった。

    ただ、やはりと言うべきか。普段の人見知りや、かつて舞台に立てなかった姿など微塵も感じさせず、目の前の"ニーナ"と呼ばれた彼女は堂々とした立ち振る舞いで王と相対していただろう。

    ――この世界で異質なのは、やはり僕だけなのだろうか

    『貴様が貴族であったとしても王の御前である。頭を垂れよ』

    大臣の言葉に応じ、彼女は僕の隣で膝をつく。
    その様すらも気品に満ち溢れていただろう。これがショーであったなら、観客を大いに魅了せしめただろうに。


    「――――ようやく"元に戻った"の。遅すぎ」


    だからこそ、僕は隣で突然そう囁いた彼女への反応に、ほんの数秒遅れてしまった。

    「……寧々、なのかい?」
    「――詳しくは後で。今は"筋書き"通りに進めて」
    「筋書き?」
    「大丈夫。類の"頭の中"にある筈だから」

    彼女はそう言うが、筋書きなんて――
    そう思った瞬間、"僕"の思考の中で何かが"開いた"。

    まるで本を開き物語を読むように――この場で言うべき"私"の台詞が沸き上がってくる。それを意識すれば、自然とするべきことがわかった。

    『王よ。どうぞこの錬金術師になんなりとご命令を』

    "錬金術師"はそう告げ。頭を垂れる。
    王は依然無慈悲な瞳を向け、玉座から言葉を紡ぐ。

    『錬金術師ルイ。この俺に不老不死をもたらす"賢者の石"を献上せよ。
    貴様が賢者の石を作る術を持っていることは知っている。4日後、陽が頭上に着く前に用意できれば褒美をやろう。……だが、用意できねば、直ちにシェラード家を取り潰し、ニーナ・シェラードは全ての責を負って処刑されると思え』


    ――なんとまぁ、横暴で残虐な王のことか!!

    賢者の石などという伝説上の物体を短期間納期で要求どころか、それができねば錬金術師ではなくその上司を殺すときた。
    君は僕の演出要求はやりすぎだというが、今の君の命令はそれを三段跳びで越えているよと目の前の彼に言いたくなってくる。

    だが、それは"筋書き外"の言動だ。ゆえに、ここで"私"にできることはただ一つ。

    『――はっ。必ずや、約束の日までに献上致します。』
    『良いだろう。加えて、日に一度王城へ赴き、経過を報告しろ。逃亡は許されないからな。まぁ、逃亡した時点でその女の命は無いが』

    見上げた王の顔には邪悪な笑みが張り付いている。
    それが不気味で、なのに輝かしさすら感じられる。彼が邪悪な王でもスターを自称する天馬司であるからだろうか?

    『……承知しました』

    今はこれしか言えない。
    周りに兵士さえいなければ…もっと彼に探りを入れることもできただろう。
    だが、彼を取り戻すとしても、それは"今"ではない。悔しいことだが、現状把握のためにも此処は引くしかないと、それは理解できた。

    『では、失礼致します』

    寧々、もといニーナと共に玉座の間より立ち去る。
    その間際、振り返って見た"王"の姿は、どこまでも冷酷で――寂しそうにも感じられたか。


    「……待っててね、司くん」


    必ず、君を取り戻す。

    ***

    【一章 登場人物たちは再会す】

    馬車に乗せられ、城下街からシェラード家…いわゆる寧々の"役"たる女性が住む屋敷へと向かった。
    本格的な馬車に乗るのは勿論、窓から見える城下街の賑やかさには目を見張るものがあった。これが異常事態などではなかったら無限に楽しみ、観察することができたのに!

    「馬車は御者がいるから…作戦会議は屋敷で皆揃ってからね」
    「皆…ということは、えむくんもいるんだね?」
    「うん…類、ここに来るまでのことはもう思い出せた?」
    「ああ、ぼんやりとだけどね…そこもあとで整理しようか」

    馬車の中で軽く言葉を交じわせてる間に屋敷へとたどり着いた。
    さすが貴族の役だけあってか、豪華な建物と広々とした庭に、さながら海外の観光地に来たような感動を覚えてしまったか。

    『おかえりなさいませ、ニーナ様』

    屋敷の扉が開かれれば、使用人たちが僕らを出迎える。
    ……うん、数がとても多いね?
    寧々もといニーナさんはかなりの上流階級なのだろう。


    『ニーナ様。ルイ様。お部屋のご準備はできております』


    使用人軍団からついと出てきたメイドが恭しくそう告げる。
    その姿を見て、僕は反射的に声を出してしまった。

    「えむくん…?」

    そう、クラシカルなメイド服に身を包んで居るのは紛れもなくえむくんだったのだ。
    普段の彼女なら寧々に勢いよく飛びつくほど元気だが、今の彼女は貴族の使用人らしく、物腰が丁寧な仕事人といった様相で僕らに頭を下げている。これが演劇中などでなければ、珍しすぎて夢か再度疑いたくなるほどだ。
    しかし、えむ君は本来上流貴族側と言えるのだけど、これは良いのかな…?

    『ありがとう"エマ"。案内して』
    『かしこまりました』

    "エマ"と呼ばれた役であるえむくんの先導により、僕らは屋敷の片隅にある部屋へとやってきた。
    使用人が多く居れど、ここらあたりに人はいない。
    えむ君に扉を開けてもらい、僕らはその部屋…どうやら談話室へと足を踏み入れた。
    そして、扉が閉められると同時に

    「ぷっは〜!!!類くんおかえり〜!!!」

    ……メイド姿のえむくんから飛びつきをいただいた。
    物の見事に尻もちをついてしまったね。これに対応できる司くんの体幹の良さを実感してしまうよ。

    「あたしすっごい心配したんだよ!?寧々ちゃんとたくさん呼びかけても類くん中々戻ってくれないし!」
    「呼びかけてくれた、か…僕の記憶がハッキリしたのは王宮にいた頃だったから、それ以前の記憶が曖昧なんだ」
    「まぁ、そうだよね…『錬金術師ルイ』になりきってた…というより"飲み込まれてた"って感じだったし。」
    「世には憑依型役者もいるけど、僕…そして司くんもおそらくそうではないのだろう?この状況が現実なのもわかったし、そろそろ情報整理と行こうか」

    この身の五感全てがこれは現実だと主張してくる以上、そろそろ観念して向き合うしかない。
    どうしてこうなっているのか、これからどうなるか。騒がしくも頼れる座長が不在なのは惜しいが、会議の時間と行こう。


    「まずはここに来るまでの記憶を掘り起こそう。僕の記憶だと、今度の劇の題材探しとして近所の図書館に皆で行った筈だよ」
    「合ってる。前は戯曲を持ち寄ったから、今度は物語にしたんだっけ」
    「うんうん!ふわふわ〜な物語から、ワッハッハ!な物語まで、色んなお話を集めたよね!」

    そう。その日僕らは次のショーの題材探しをしていた。古今東西の物語を集め、前と同じくセカイで読み合わせと相談をする予定だったんだ。
    本を集め、セカイに赴く…ここまでは共通認識の筈だ。異常なこともない。

    「そうして確か…本を広げておいた時に…」
    「……そうだ。確か"借りた覚えのない本"がなかった?」
    「あ!!あたしも覚えてるよ!題名とかも何も書かれてない古い本!借りる前に見た時はなかったんじゃないかなぁ」

    セカイにやってきて借りた本を並べた時、見覚えのない"古い本"が確かにあった。蔵書特有のバーコードもなく、少し萎びたような本だったと思う。
    全員持ってきた覚えがなく、どうしてだろうと首を傾げたものだ。

    「それで、司が『なんの物語なんだろうな』って手に取って……」
    「……開けたところまでは覚えているよ。その後は?」
    「う〜〜ん……なんだか急にピカっ!ってなったのと…あ!あとカイトお兄さんの声が聞こえた気がする」
    「そう言えばそうだねぇ。確か『その本を開けちゃダメだ!』って……」

    束の間の沈黙
    当事者がいれば視線は彼に集まってただろうね

    「アイツ、ほんと不用心なんだから……まぁ、司が開かなくても類やえむが開いてそうだったけど」
    「流石寧々。よくわかってるね」
    「あたしも中身見たかったなぁ〜!」

    詰まるところ我らが座長のやらかしではあるが、あんなことを予測するのは不可能だろう。
    そして僕らの4分の3はまず軽率に本を開く。それは間違いないから寧々の毒舌も今回ばかりは控え目だった。

    「あとは、気づいたらこのお屋敷の"女主人"になってたの。えむとわたしは最初から意識があって、オマケに頭の中に台本があった。その台本に書かれた場面では、それに沿った台詞を言わないとダメ…というより、"無理やり言わされる"感じ」
    「あぁ、それは僕も経験済みだよ。演じるつもりもないのにやらされるのは中々気持ち悪いね」
    「でもでもっ!あたしは寧々ちゃんや類くんよりはぎゅぎゅっとされてないかも!」
    「おや?それは興味深いね」

    はいはーい!と元気よく手をあげるメイド服姿のえむくんに視線が向く。

    「それについては、なんとなく推測できてる。多分えむは"モブ"だから」
    「モブ……あぁ、俗に言う"エキストラ"のようなものか。物語上は僕らの役ほど重要じゃないってことだね」

    寧々の説明に納得がいった。えむくんは使用人の中の一メイドという役柄だ。女主人の世話をしているなら物語にもそれなりに出てくるが、重要とまでは言えないのだろう。

    「最初は寧々ちゃんや類くんみたいにキラキラしてるのも良いなぁって思ったんだけど、メイドさんのお仕事って楽しいんだよ!」

    そう目を輝かせて話す姿はすっかりこの世界に適応してしまってるようだ。普段のえむくんが財閥の令嬢であるからこそ、真逆な立場は何もかも新鮮なのだろうね。

    ……しかし、セカイという超常現象とはまた違った現象。経緯は分かったとしても、その仕組みや現状打破の方法までは情報不足だ。

    「各々の頭の中に台本があり、それに従った役をやらせられてるのはわかった。でも、まだ不可解な部分がある。推測したいこともね。」
    「うんうん!そういえば司くんとは話せなかったの?」
    「話せたよ。ただ、彼は前の僕と同じく、"役に飲まれている"状態なのだろうね。……まさか彼に殺意を向けられるとは思わなかったよ」
    「えぇ!?喧嘩しちゃったの!?」
    「落ち着いて。司の役がそういうことを平気でするような奴ってこと。……私も、実際に会って冷や汗かいたけど」

    司の癖に、と愚痴を溢す寧々だが、その手は強く握りしめられている。
    やはり彼女も僕と同じく、豹変した司くんに思うことはあるらしい。

    「まとめよう。僕らは謎の本の物語に取り込まれ、それぞれに応じた役を与えられている。これは推測だけど、物語における重要度が高いほどこの縛りは強い。僕が先程まで自我を取り戻せなかったのがその証拠だ」
    「あとは、どうやって元の世界に帰れるかだけど……」

    寧々の言葉に僕らは頭を悩ます。
    ……おそらくこうだと言う推測はあるにはある。けど、それを確かにしてくれる後押しがあれば良いのだがーーー


    『ーーそれについては、もう思いついてるんじゃないかな?』


    僕らの思考が途切れたのは、突然談話室に何者かの声が響いたからだろう。

    「えっ!?」
    「わわっ!?なになに!?」
    「今のは…」

    あたりを見回しても3人以外誰もいない
    ……いや、声の出所はどちらかと言うと

    『僕はここにいるよ!』

    ややくぐもった声を探るように、錬金術師の持っていた腰付きの袋の中を漁る。数々の興味深い品物の先にある"青い何か"を引き出せばーー


    「……カイトダヨー」


    「「「カイトさん(お兄さん)!?」」」

    僕が取り出したのは、見慣れた青髪の人形
    ミクの着ぐるみにどこか似ているデフォルメされた容姿だが、それは紛れもなくワンダーランドのセカイの座長たるカイトさんその人であったのだ。

    「やぁ、随分と遅れてしまって申し訳ない。僕もこの姿とはいえやっと話せるようになったんだ」
    「わー!!カイトお兄さんどうしたの!?ネネロボちゃんみたいになってる!」
    「そうだね…もしかして、その姿も"物語"の影響かな?」

    僕がそう問いかけると、カイトさんは神妙な雰囲気(表情は変わらず)で僕らに語り始める。

    「うん。どうやら僕含め、ワンダーランドの住人は色んな形で物語に取り込まれてしまってるらしい。座長である僕は辛うじてこの姿で君らと話せるけど、ミクやぬいぐるみ達がどこに行ってしまったかはわからないんだ」
    「そんな……わたしたちだけじゃなかったなんて……」
    「カイトさん。そもそも今のセカイの状況はどうなってるのかな。カイトさんならわかるかと思うのだけど」
    「……そうだね。僕がわかる範囲で答えよう」

    そうして、カイトさんが把握してる限りのセカイの現状について、僕らは知ることになる。

    「まず、司くんが開いた本は、君たちがこのセカイにきた時に作られた、"想い"でできた本だと思う」
    「"想い"でできた本?」
    「うん。それが誰の想いなのかはわからない。でも、本を開いて物語を始めてしまったことで、物語のセカイが作られてしまったんだ。それも、ワンダーランドのセカイを取り込む形でね」
    「どうしてそんなことに……」

    寧々が戸惑いの声を上げる。

    「物語のセカイができるにあたり、元々司くんの想いで完成されていたセカイに乗っかったのだろうね。実体化の"核"にしたとも言えるのかな?どちらにせよ、今の"ワンダーランドのセカイ"は"物語のセカイ"と混ざり合ってしまっている。このままじゃワンダーランドのセカイが乗っ取られてしまう…どころか、君たちが現実世界に帰れるかも怪しくなってくるんだ」
    「そ、そんな…」

    えむくんが不安げにカイトさんを見やる。
    不安なのは寧々も同じだろう。
    ……けれど、僕は違った。

    「カイトさん。この物語のセカイを終わらせる方法はあるのだろう?……それも、恐らく"簡単"に」
    「えっ。類、それってどういうこと?」
    「簡単なことだよ。ショーはいつかは終わる。それは物語とて例外じゃない。このセカイがある物語によって作られ、それに沿って紡がれるのなら……」
    「……あーー!物語を"めでたしめでたし"にすれば良いんだね!」
    「ご名答だよ。えむくん」

    そう。ここが"物語"に乗っ取られたセカイなら、それを完結させてしまえば良い。物語が終わればページは閉じられる。そうすれば物語のセカイも消える筈だ。

    「うん。類くんの言う通り。物語を終わらせれば元に戻る筈だよ」
    「なんだ、そう難しく考えなくてもよかったってこと?」
    「……いや。注意すべきことは勿論あるよ」

    カイトさんの真剣な声色に、僕らの解れた緊張が再度現れる。

    「それは、『物語が終わるまでに物語に取り込まれたままではいけないこと』だ。
    例えば"物語の住人"としての意識のまま終われば、君たちは"物語のセカイ"を構成する存在と見なされ、物語に取り残されてしまうかもしれない」
    「それって前までの類くんみたいな感じなのかな?それなら類くんは戻ったし、寧々ちゃんもあたしもだいじょう……」

    大丈夫、と言いかけたえむくんの言葉が途切れる。その表情は徐々に焦燥に塗られ…それは寧々や、僕も同じだっただろう

    「「「司(くん)が危ない…!!!」」」

    そう。ワンダーランズ×ショウタイムの中で、司くんだけが"己"を取り戻せていない。このままでは、彼は物語が終わると同時に、このセカイに取り残されてしまう!

    「そ、そもそもなんで司だけ戻れてないの?類だって戻ってこれたのに…」
    「それは……"ワンダーランドのセカイ"を作ったのが司くんだからかもしれない」

    ぽつりとカイトが告げる。

    「類くんが最初"役"に取り込まれてたのは、君が物語にとって重要な"役"であったからだと僕は思っている。それはきっと司くんにも言えて……加えて、彼は物語のセカイが取り込んだワンダーランドのセカイの想い主であったから――」
    「……そういうことか。物語のセカイはワンダーランドのセカイ、そして司くんを取り込むことで実体化を確立してるんだね?」
    「その通り。物語を完遂できたとして、もう一つの要である司くんも取り戻さないと戻ることはできないだろう」

    思わず空を仰ぎたくなった。
    あぁ、僕らの未来のスター。君のありあまる元気でこの重い空気を吹き飛ばして欲しいのに、重い空気の発生源が君なのだから世の中ままならないよ。

    「そして、だけど…もう一つ問題はある」
    「まだあるの?」
    「そうだね。僕からじゃわからない、類くんたちだけが知っている問題だよ」
    「なになに?なぞなぞ?」
    「僕らだけが知っている……あぁ、そういうことか」

    カイトさんの言葉に一番思い当たることを浮かべ、僕は深呼吸一つ挟んで寧々とえむくんに問いかける。

    「……寧々、えむくん。二人が把握してる限りの"筋書き"を教えてくれ」

    そう口にした途端、二人の表情があからさまに曇った。
    寧々はいつも以上に口を結び、明るいえむくんすらうろうろと視線を揺らしている。
    ……明らかに言いたくない。いや、口にするのを恐れている雰囲気だ。

    「……多分だけど、僕が一番最後まで筋書きを把握できている。ただ、筋書きはあくまでその役の主観でしか書かれてないらしい。皆の役の筋書き全部を合わせてみないとわからないんだ。

    それを踏まえて言わせてもらうけど……」

    ーーあぁ、胸糞が悪い。
    けど、この物語を唯一最後まで見届ける"主人公"として、僕が言わなければいけない。



    「多分、僕以外の全員が最期には死ぬ」



    この物語のセカイが、よりにもよって僕らの劇団とは真逆の、"救いのない悲劇"によって出来ているのだと。

    ***

    昔々、あるところに優れた錬金術師がおりました。
    彼は類稀な才能を持って、多くの人に幸せを与えました。彼の才能を見込んだ女貴族が彼を庇護したことで、彼はより多くの人を自分の才によって救っていきます。

    ある日、錬金術師の才を聞きつけた王が彼を呼び出しました。
    王はその横暴で冷酷な態度によって国民より恐れられていました。

    王は錬金術師に「不老不死となる賢者の石を4日後までに献上しろ。成し遂げれば褒美を授けるが、失敗すればお前の主を殺す」と言います。王の無慈悲な態度に、それでも錬金術師は応じました。

    王は錬金術師が逃げぬよう、毎日顔を出し報告しろと命令します。

    1日目、錬金術師は素材を集めたと告げます。また、王になぜ不老不死を求めるか聞きました。
    王は永遠の命を持って世界を我が物にすると言います。

    2日目、錬金術師は賢者の石の元となる素材を調合したと言います。また、王に不老不死となることの辛さを説きます。しかし王は耳をかしません。賢者の石は王にとって最も欲するものを与えることはない。そう錬金術師は忠告しますが、立腹した王に追い返されました。

    3日目はついに王からの謁見を拒否されたまま、約束の日が来ます。

    錬金術師は約束通り賢者の石を渡します。
    およそこの世で見たことのない神秘的な石を前に王はこれこそが賢者の石と確信します。
    そして約束を果たした錬金術師には褒美が与えられる。……その筈でした。

    王は錬金術師を己の手中に収めたくなったのです。故に、王は賢者の石が確証を得られるまで錬金術師を牢に閉じ込めました。そして錬金術師を己のものとするため、また賢者の石の口封じのため、主人の家を焼き払ってしまったのです。
    女主人は捕まり、処刑として手足を縛ったまま湖に突き落とされました。

    牢の中よりそのことを聞いてしまった錬金術師は怒りに燃え上がります。
    ある夜、王城で舞踏会が行われてる最中。己が作り出した石造りの人形たちを王城に呼び出し、錬金術師は城を混乱に落とします。
    彼は牢を抜け出し、ついに玉座にて王へと相対しました。けれど、その胸に刃を突き立てる寸前に兵士に取り押さえられてしまいます。

    王は愚かな錬金術師を嘲笑いました。
    そうして己が不老不死へと至るため、賢者の石を飲み込み……血を吐き出したのです。

    実は錬金術師が渡したのは賢者の石ではない、ただの猛毒だったのです。

    「愚かな王よ、お前が一度でも自分を省みればそれが毒であったことも気づけただろうに!」

    毒に蝕まれ、なお王は怒りの刃を向けようとしますが、それより前に拘束を振り解いた錬金術師が王へと飛びかかり、その首に刃をつきつけ組み伏します。

    「私は孤独な王と寄り添っても良いとすら思っていた。だが、お前は私からあまりにも多くを奪い去った!最早私の手で殺さねば気が済まない!」

    全てを失った錬金術師の慟哭は玉座に虚しく響き渡ります。
    そして、鈍く光る刃は王の胸へと振り下ろされ、確かに突き刺さったのです。

    失われたものの多く、それらは二度と取り戻せないまま……


    ****


    「……」

    沈黙、としか言いようがない。
    先ほどよりさらに重くなった空気が、温かな談話室を浸食している。
    えむくんは泣きかけていたし、寧々も悲壮な面持ちで強く手を握りしめている。きっと、冷静に物を考えているのは僕だけだ。

    ……いや、本当にそうだろうか。
    "筋書き"が全て見えた今、僕はどう思っているのだろう


    「……類、怖い顔してる」
    「…………そうかい?自覚はなかったんだけど」
    「えむについて、前に嫌なことを言われて反論した時と似てるよ」
    「おっと、それはそれは…」

    どうやら思ってる以上に、僕は現状に憤っていたらしい。
    つくづく、僕は自分の心に疎いようだ。

    ……ああ、そうだ。きっと今の僕は怒りを感じている。
    望まぬ演劇を強制されるのも、大切なワンダーランドの人々を人質に取られているのも、えむくんや寧々が殺されてしまう筋書きにも、

    ……僕の手で、王(司くん)の命を奪わせることにも、だ。

    「多分、だけど。自分さえ取り戻せれば、もし物語で死んでも"物語を完遂したこと"と見做される。全てが終われば、きっと生きて帰れるだろう」
    「だからといって、断言はできないだろう?カイトさん」
    「…………」

    カイトさんの沈黙が答えだ。
    この物語のセカイの詳細が不明な限り、僕らは常に綱渡りをやらされることになる。
    一発本番、選択を誤れば奈落の底。ワンダーランドを取り戻し、そして僕らが生きて帰るために、きっと僕が考えないといけないんだ。

    寧々が、えむくんが、そして司くんが

    皆が無事に元の世界に戻れる方法を


    「……類、一人で抱えないで」


    深く沈み込むほど落ちた思考が、不意に引き上げられる。
    焦りで狭まっていた視界が広がれば、目の前には心配そうな顔をした寧々とえむくんがいただろう。

    「あたしねっ!多分皆の中で一番自由に動けるからっ!だから、類くんと寧々ちゃんが頑張ってる間に色々探して試してみるよ!」

    「わたしも、主人公(ルイ)よりそんなに重い役じゃないから。ニーナの筋書きが無い時に出来る限り頑張ってみる。だから……」


    「――絶対、司を取り戻すよ」
    「悲しい物語に司くんを置いてかないんだからねっ!」


    一つ年下の彼女たちから、力強い宣言が響き渡る。

    ……そうだ。僕はもう、一人じゃない
    どんな困難も幾度となく乗り越えてみせたじゃないか。

    そして、それを束ねてみせた"光"を、僕は知っている。

    「……ありがとう。寧々、えむくん。僕も同じ気持ちだ」


    「寝惚けている僕らの星を取り戻そう。そして、最後は必ず大団円だ」


    僕の決意の言葉に、二人は強く頷く。
    「大丈夫そうだね」と手元の小さな人形は微笑んでいたかもしれない。



    これより、ワンダーランズ×ショウタイムの幕が上がる。
    全てがリハーサル無し。だけど、必ず成し遂げて見せよう。

    皆が笑顔になる大団円のために。
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    Replies from the creator

    Kakitu_prsk

    PROGRESS相互さんに捧げるF/F/1/4の世界観をベースとしたファンタジーパロ🎈🌟の序章
    兎耳長命種族冒険者🎈×夢見る冒険者志望の幼子🌟
    後に🍬🤖ちゃんも加わって🎪で四人PTを組んで冒険していく話に繋がる…筈。

    ※元ネタのF/F/1/4から一部用語や世界観を借りてますが、完全同一でないパラレルくらいに考えてください。元ネタがわからなくてもファンタジーパロとして読めるように意識しています。
    新生のプレリュード深い、深い、森の中――木々が太陽すら覆い隠す森の奥深くに、小さな足音が響き渡った。


    「待ってろ、お兄ちゃんが必ず持って帰ってくるからな……!」

    そんなことを呟き足早に駆けているのは、金色の髪をもつ幼い少年であった。質素な服に身を包み、不相応に大きい片手剣を抱くように持っている。

    人々から『黒の森』とも呼ばれているこの森は、少年の住む”森の都市”を覆うように存在している。森は都市から離れるほどに人の管理が薄くなっており、ましてや少年が今走っている場所は森の比較的奥深く……最深部ほどではないものの、危険な獣や魔物も確認されている地帯だった。
    時折、腕利きの冒険者や警備隊が見回りに訪れているものの、幼子一人が勝手に歩いて良い場所ではないのは明らかだ。だというのに、その少年は何かに急かされるように、森の中をひたすら走っていたのである。
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    Kakitu_prsk

    DOODLE人間🎈がうっかり狛犬🌟の封印を解いたことで、一緒に散らばった大量の悪霊を共に封印するために契約&奔走することになるパロの冒頭ができたよ!!
    書きたいネタをぶつぎりに入れたりもしたけど続く予定はないんだぜ。取り敢えず投げた感じなので文変でも許してちょ
    大神来たりて咆哮す(仮)――ねぇ、知ってる? 学校から少し離れた場所にある森に、寂れた神社があるんだって。
    ――そこに深夜三時に訪れて、壊れかけてる犬の像に触れると呪われるんだってさ
    ――呪われる?
    ――そう!なんでも触れた人は例外なく数年以内に死んじゃうんだって!
    ――うわ~!こわ~い!!


    ……僕がそんな噂話を耳にしたのは、昨日の昼休みのことだった。

    編入したてのクラスには噂好きの人間がいたのか、やたらと大きな声でそう語っていたのを覚えている。
    現実的にも有り得ない、数あるオカルト話の一つだ。そう信じていながら、今こうして夜の神社に立っている僕は、救えないほどの馬鹿なのだろう。

    絶望的なまでに平凡な日々に変化が欲しかった。
    学校が変わろうと”変人”のレッテルは変わらず、僕は何時だって爪弾き者だ。ここに来て一か月弱で、早くもひそひそと噂される身になってしまった僕は、この現実に飽き飽きしていたんだ。
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