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    Kakitu_prsk

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    Kakitu_prsk

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    相互フォロワーさんからのリクエストに応える企画第三弾
    あさまきさんのリクエスト
    「無意識(無自覚?)に惹かれ合うルツが...見たいです....!!!」

    セカイを通じて無意識に惹かれあっているルツを呆れながら見つめるネちゃんのお話。あるいは、セカイをこれ以上なく有効活用しているクソデカ想いの持ち主ツと寵愛者ルのあれこれ

    底なし沼より愛を込めて「類、やっぱり此処にいたんだ」

    賑やかながらも平和なワンダーランドに、ある少女の溜息が落とされる。
    呆れ混じりの言葉の先には、ふわふわとした雲のソファに背中を預け、ひたすら機械弄りをする幼馴染の姿があった。
    それまで周囲など見えないほどに熱中していた類は、頭上から聞こえた声によってやっと頭を上げてみせる。

    「やぁ寧々、さっきの練習ぶりだね。どうしたんだい?」
    「どうしたもこうしたも、おばさんが『まだ類が帰ってきてない』って連絡してきたの。練習が終わってからずっと此処にいたってことでしょ?」
    「あぁ……もしかして、それなりに時間が経っていたかな」
    「もうとっくに夜なんだけど。おばさんに無駄な心配をかけないであげてよ」
    「ごめんごめん。つい居心地が良くてね……」

    悪びれもせず笑う幼馴染を前に、寧々は(またか…)と心の中で深い溜息を吐いた。

    と言うのも最近、類は頻繁にセカイで過ごすようになっていたのだ。
    それだけなら以前と然程変わらないのだが、一度来てからの滞在時間が妙に長くなっていることに、いつしか寧々は気づいていた。それが顕著となるのは練習後であり、今日のように練習が終わってからセカイに訪れては、彼の趣味である機械弄りや演出作りに打ち込むようになっていた。せめて一度家に帰ってからセカイに来て欲しいと寧々は思っているものの、変人の類が改めるかは定かでない。それよりも、ここ最近の類の"セカイ狂い"が少し気がかりだった。

    「ねえ類。最近セカイに居過ぎじゃない?」
    「そうかい?でも、言われてみればそうかもしれないね」

    本人すら無自覚だったのか、雲のソファに身を預けて類は首を捻っている。その様子にますます呆れながらも、寧々は真剣に彼の無自覚な異変に向き合おうとしていた。

    「はぁ、天才が聞いて呆れる……。これ以上酷くなるなら、カイトさんたちに言って追い出してもらうからね」
    「うーん、別に大丈夫なんだけどねえ。少し居心地が良い以外は悪いこともないし」
    「類の自己申告は当てにならないから」


    幼馴染の言葉をバッサリと切り捨てながら、寧々は「早く帰ってよ」と類を急かす。
    一先ず自覚できて改めることができるなら、自分としてもこれ以上何かを言うつもりはない。それでも尚続くようなら……セカイの住人や、このセカイを作った"彼"に相談をする必要があるだろう。

    ――寧々が真面目にそう考えていたのが、今から一週間ほど前のことだ。


    「……類」

    呆れ――を通り越した冷たい声を前に、呼ばれた男はぴくりと肩を震わせる。
    ワンダーランドの一角にある広場……そこに類は座り込んでいた。何処から持ってきたのか、ふわふわな雲のソファが中心に置かれ、周囲にはやたらファンシーな色合いをした工具が散らばっている。近くに置かれている見慣れないラムネ菓子もセカイのものだろうか?

    目の前の光景は、率直に言えば『類の作業部屋』によく似ていた。
    彼が機械製作に集中できるように、あらゆる道具が周囲に置かれている。それこそ、類のために出来た場所と言っても過言ではない。
    セカイに物が増える原因があるとすれば、それは想いの力によるものだ。そして、これほどまでに類にとって都合の良い空間を作りだせる人物がいるとするなら……

    「『類が勝手にセカイを改造した』って司にチクるから」
    「待ってくれ寧々。誤解だよ。この場所は僕が作った訳じゃないんだ」
    「往生際悪すぎ」

    若干慌てながら弁明する類に冷ややかな視線を向ける。
    何処からどう見ても、周囲の状況は類の想いが生み出したものにしか見えない。確かにワンダーランドには寧々たちの想いも混じっているが、その土台は"司の想い"で出来ているのだ。そこに自分の私利私欲で魔改造を施し、勝手に長く居座っている幼馴染を見てしまえば、元より鋭い毒舌が更に威力を増すのも無理のないことであった。

    「確かに、僕は日頃からセカイを調査したいと思っているし興味も持っている。だからと言って、司くんの想いを土足で踏み躙るような真似は誓ってしていないよ。この場所もつい最近出来たばかりなんだ」
    「……そう思うなら、何で現実に帰らないでずっと使ってるの」

    腕を組んだまま、寧々は仁王立ちで幼馴染に追及をかける。とはいえ、類は口が回る方なので、あの手この手で言い訳を重ねるのだろうと寧々は思っていた。

    「…………」

    が、予想とは裏腹に類は何故か黙りこくった。それどころか口に手をあて、何やら考え込む素振りを見せている。

    「……そう言えば、何でだろう」
    「は?」

    そうして彼が口に出した言葉は、実に曖昧なものだった。

    「寧々に言われて気づいたのだけど……ここ最近、どうにもセカイが僕にとって"居心地の良い場所"になってきているように感じるんだ」
    「居心地が良い?」
    「うん。此処まで僕にとって都合の良い空間が出来たのは初めてだけど……作業をしたいと思った時に偶然近くに雲の椅子があったり、手軽に空腹を満たしたいと思ったらお菓子があったり、何だか最近このセカイが『気を利かせている』ようにも思えてね」

    類が告げるのは意味不明な現象だ。最近セカイに長居し続ける理由としては、少々説得力に欠けている。
    ……だが、この時寧々は、妙な胸騒ぎを覚えていた。

    「信じられないなら、一先ずカイトさんに聞いてみてくれないかい?あの人なら何か知っているだろうし」
    「類はどうするの?」
    「流石に寧々に怒られたから、今日はもう帰るよ。また明日にでも教えてほしいな」

    類はゆっくりと立ち上がり、自身のスマホを手に取る。
    寧々も特に異論なければ、一先ずは類を見送った。

    「類にとって居心地の良い空間を作る人間なんて、それこそ本人しかいないでしょ」

    独り呟いた言葉は常識的に考えれば正論だった。
    想いの力で作られる場所なら、その想いを生み出す人間は限られている。寧々もえむも、司にだって『類をセカイに留める』理由は無いに等しい。だからこそ、このセカイの住民に聞けば自分と同じ回答を得られると、この時の寧々は思っていた。


    「うーん……確かにその場所は、類くんが創り出したものではないかもしれないね」

    ――しかしその考えは、困り顔をしたカイトの一言で呆気なく崩される。
    寧々は少し目を見開いて驚いた後、カイトに話の続きを促した。

    「寧々ちゃんの言う通り、セカイは想いによって形作られるものだよ。でも、君たちの想いは『ショーを通して皆を笑顔にすること』が一番だよね?それは類くんも変わらないと思うんだ」
    「それは……確かにそうかも。というか、類なら作業場所より"斬新な演出をする道具"とか出しそうだし」

    ショー馬鹿とも言える幼馴染を思い浮かべ、寧々は素直に肯定する。元より類本人ですらセカイへの長期滞在に無自覚だったのだ。ましてやショーを疎かにしかねない選択を、類が進んでするとも思えなかった。
    しかしそうなると、類が無自覚にセカイを好んでいる理由がわからなくなってしまうのだが……

    「そういえば、最近の類くんは"みんな"にすっごく好かれてるわよねえ」

    そんな時、近くにいたメイコが唐突にそんなことを告げた。

    「みんな?」
    「ぬいぐるみ達よ! 類くん、前からぬいぐるみを撫で撫でしてたでしょ?そうやって優しくしてあげてたからか、ぬいぐるみのみんなもすっかり類くんに懐いちゃったみたいなの!」

    メイコは嬉々とした表情で、このセカイのぬいぐるみ達が類とよく遊ぶようになったと寧々に教えてくれた。
    ぬいぐるみを解剖しようとしていた当初の類を思えば、彼らの関係も随分と変わったものである。寧々は内心驚いていた。

    「類くんは前からこのセカイについてよく知りたいと思っていたらしいんだ。そういった彼の歩み寄りが、もしかしたらこのセカイの在り方を変えたのかもしれないね」
    「そうなの…?」

    カイトの告げる見解に寧々は首を傾げる。幼馴染のセカイへの態度は、単純なる興味から来るものだと寧々は思っていた。それこそ研究者らしい振る舞いに近いと思うのだが、セカイにとっては"良い"ものとして映っていた……ということだろうか?

    「……でも、セカイは"誰かの想い"によって作られるから、もしかしたら類くんを大切に想う誰かが、このセカイを彼に取って居心地良くしたのかもしれないね」
    「そうね。それこそ『ずっとここにいてほしい!』って思ってる人が、案外身近にいるのかもしれないわよ?」

    カイトとメイコの結論は、とてもふわふわとしたものだった。
    解決にはならなかったもののヒントは得られたため、寧々は一先ず礼を言って彼らとは別れた。


    「類はここ最近セカイに好かれてて、そして『このセカイにずっといて欲しい』って誰かに想われてる、ってこと……?」

    帰宅後、改めてカイトたちから教えてもらった可能性を思い浮かべるが、寧々にはどうもしっくり来なかった。
    あのセカイに来れるのはワンダーランズ×ショウタイムの四人だけである。類本人がセカイの在り方を変えていないなら、残る候補は寧々たち三人だ。そして、その中で最も有り得るのは……セカイの主である司だろう。だからこそ、寧々は納得しきれなかった。司は確かに類に厚い信頼を置いてはいるが、何もセカイを変えるほどの感情は向けていない…筈だ。寧ろ類の方が、望む演出に何でも応えてくれる司に重い感情を向けているのではないだろうか……というのは考えすぎか。

    「……司に直接聞いてみよ」

    類の異変は今の所寧々しか知らない。あの変な場所ができたことも含めて、明日司やえむに話してみよう……そう寧々は考えていた。


    ***

    翌日、学校の用事で少し遅れた寧々は、ワンダーステージに着いて一番に大慌てなえむと遭遇した。

    「あ!寧々ちゃ~ん!!大変大変大変だよ~~!!」
    「えむ?どうしたの?」
    「えっとね、セカイで類くんが……」

    大袈裟な身振り手振りでもってえむが語ったのは、寧々が来る前に起こったちょっとした騒動だった。

    事のあらましはこうだ。
    今日はセカイで練習をする予定だったため、遅れている寧々よりも先に類たち三人はセカイへ入ったのだ。

    『ワー!!ルイクンだー!!』

    と、入って早々賑やかな声が聞こえたかと思えば、三人にぬいぐるみたちが駆け寄ってきた。それだけなら、ワンダーランドでありふれた光景だったのだが――

    「何だ?妙に数が多いような……」
    『ルイクンはコッチー!!』
    「え?うわっ!?」
    「類くん!?」

    ぬいぐるみ達……というより、最早『ぬいぐるみの団体』とも言うべき数十体ものぬいぐるみが押し寄せたかと思えば、なんと類に向かって一目散に殺到したのだ。驚愕するえむの声など物ともせず、ぬいぐるみ達がもそもそと類に覆いかぶさったかと思えば、ユニット一の高身長がぐらりと揺れ――

    『ヨーシ、運ブゾー!』
    『『オー!!!』』

    ぬいぐるみ達の重さでよろけた類は、そのまま大量のぬいぐるみ達の上に倒れ込む。対するぬいぐるみ達は数の力故か潰れることはなく、さながら神輿のように彼の身体を支えてみせたのだ。
    そうして呆然とする司とえむを置いて、彼らは『オイッチニ、オイッチニ!』と陽気な掛け声を上げながらセカイを走り出す。あまりにも衝撃的すぎる光景に思考停止していた二人は、ぬいぐるみ達が見えなくなったところでやっと正気に戻る有様だった。

    「……え、えええ~!?類くんがぬいぐるみさん達に攫われちゃった!?」

    我に返ったえむの叫んだ内容が、現状を端的に言い表していた。

    「と、取り敢えずオレは類を追う!えむはカイトや寧々に類が攫われたと伝えてくれないか!」
    「がってんしょうちっ!!」

    気絶せずに何とか現実を受けいれた司は、えむに指示を出して慌てて走り出す。今回の異変がセカイに関わるものであれば、バーチャルシンガーたちに助けを求めるのは最適解だろう。えむもそれが理解できたからこそ、二つ返事で司に頷けば、一目散にカイトたちの元へと走り出したのだ。

    そうしてカイトたちに急いで事態を伝え、寧々にも伝えようとセカイを出たあたりで寧々がタイミング良くやってきた……というのが、現在までの流れだった。


    「それだけじゃなくて、セカイ中のぬいぐるみさん達も見当たらないんだ……今、カイトお兄さんたちがセカイを探してるから、寧々ちゃんも手伝って!」
    「わ、わかった…!」

    混乱したまま寧々が頷けば、えむは「あたしは観覧車から探すね!」とあっという間に走り去っていった。その後ろ姿を見送り、寧々は逸る心と共にワンダーランドを走り出す。

    その間に思い浮かべるのは、最近類に起きた異変についてだ。
    『セカイが居心地良く感じられる』と類が長居するようになったこと。そして、類にとって居心地の良い空間がセカイに現れたこと。そして今日、ぬいぐるみ達が一目散に類へと殺到し、彼を連れ去ったこと。
    それが類本人の望みでないのなら、この異変は何が……いや、"誰が"もたらしたのか? 

    「類がいるとしたら、もしかして……」

    寧々はぬいぐるみたちの行先に心当たりがあった。
    その予感に従うように、寧々は真っすぐにとある場所へと走り出す。

    そうして辿り着いたとある広場……そこには不可思議な光景が広がっていた。
    セカイにいるほぼ全てのぬいぐるみ達が、広場でぎゅうぎゅうと並びながら寝転がっている。先ほどの騒動など無かったかのように、気持ちよくお昼寝をしているようだ。そんなふわふわの中心にある小さな丸い空間には、"二人"の人間がいた。
    一人は現状の混乱など何処吹く風といった様子で、何故か毛布をかけられて眠っている。そしてもう一人――今眠っている人間を追っていた筈の人物は、眠る彼の近くに静かに座っていた。

    寧々は最初、この状況がよく理解できなかった。
    ぬいぐるみ達と共に眠っているのは間違いなく類だ。それだけでも不可解だったのに、その類を追ってた筈の司が、何故か眠っている彼に膝枕をしている――という状況が、更に寧々の頭を混乱させたのだ。

    『何やってんの』だとか『散々心配させといてふざけないで』だとか、寧々が今言える言葉は無数に存在する筈だった。

    「……あ」

    それでも、寧々は"それ"を見た瞬間に紡ぐべき言葉を見失ってしまった。

    優しい陽光と柔らかな住人たちに囲まれ、幼馴染は穏やかに眠っている。そんな彼に膝を貸してやっている座長は、眼下の彼をただ静かに見つめていた。
    ――その瞳に、優しさと愛おしさのような感情を滲ませて。

    「……司?」

    思わず――それでいて微睡みにいる人々を起こさない小さな声で、寧々は彼の名前を呼ぶ。その言葉に司が反射的に顔を上げれば、今ようやく寧々に気づいたのか、『しまった』と言いたげな表情を浮かべてみせた。

    「寧々…!あー、これはだな……」
    「えむから状況は教えてもらったから。で、類に何かあったの?」

    表面上は平静を取り繕いながら、寧々は司に問いかける。司は少しだけ驚いた表情を見せた後、申し訳なさそうに言葉を続けた。

    「ぬいぐるみ達を追ってこの場所に来たところまでは良かったのだが、担がれていた類の様子がおかしくてな。それで勝手ながら確かめたところ、類に高熱があったとわかったんだ」
    「熱…!?」

    驚きと共に類を改めて見れば、彼の頬が赤に染められている様を、遠くからでも確かめることができた。

    「変だと思ったんだ。今日の昼休みの打ち合わせは無しだと唐突にメッセージを送ってきたり、練習開始まで中々顔を出さなかったり……。その時点で類の異変に気づけなかったのは、座長として情けない限りだ」

    司は悔しそうに、自分の膝で眠る類を見つめていた。
    普段から仲間を気遣っている彼としては、類の体調不良に早く気づけなかった自分が許せなかったのだろう。

    「オレよりもぬいぐるみ達の方が余程優秀だったな…。類をこの広場に連れてきただけでなく、毛布まで持ってきてくれたんだ。そして『ツカサクンがソバニイテアゲテ!』とオレに類の枕となるように頼んできて……今の状況が出来たという訳だ」

    そこまで司が話したところで、ようやく事態の全貌が寧々にも理解できた。
    何故か類の不調を察していたぬいぐるみ達により、類が倒れる未来は無事に回避された……ということらしい。

    しかし、そこまで考えたところで一つの疑問が生じた。

    「ねぇ。えむに聞いたんだけど、類はセカイに入ってすぐに攫われたんでしょ? なら、ぬいぐるみ達が類を攫った理由とは関係ないんじゃない?」
    「……んん? どういうことだ?」

    首を傾げる司を他所に、寧々の思考は深みに入っていく。

    ――そうだ。えむの話した状況を考えるなら、ぬいぐるみ達が類を攫った理由に熱は関係ない。寧ろ、ここ最近の類の『セカイからの好かれ具合』を思えば、拉致の理由は単に『ぬいぐるみ達が類のことを好きだったから』という風に思えたのだ。
    最近の類の異変を知ってるのは寧々だけである。故に司がきょとんとしているのも無理はなく、寧々は類に起こっている状況を司に説明しようとし――

    (……あれ?)


    唐突に気づいてしまった。

    まるで『類を手放したくない』と言うように、在り方が少し変わったセカイ。
    前にも増して類との距離が縮まり、今回彼を攫うまでに至ったぬいぐるみ達。
    そんな異常を前に、何処かのんびりとした様子で傍観を貫いていたバーチャルシンガー達。

    その全ての共通点は――"ただ一人の男が生み出した"ということ。

    そして、それが意味するのは……


    「……司」

    背筋が冷える感覚を覚えながら、寧々は目の前の彼へと口を開く。
    自信過剰で五月蠅いほどに賑やかな明るい座長……そんな彼からは想像できないほどに、今のセカイが見せる『類への執着』は、あまりにも重く、恐ろしいものだった。
    「なんだ?」と何時も通りの表情で首を傾げる彼に、寧々は一瞬迷い――その先を言葉にする。

    「司は、類のことが好きなの?」

    辛うじて震えなかった声でもって、寧々は核心へと斬り込む。
    だが、それはあまりにも唐突な質問だった。張本人でなければ間違いなく「何言ってんの」と寧々は口にしただろう。
    そんな質問をいきなりぶつけられた司はと言えば、当然ながら呆気に取られた表情を浮かべている。それを見ている内に段々と正気に戻ってきた寧々は、今の質問がどれだけ恥ずかしいものかにようやく思い至った。
    猛烈な羞恥心と共に「違う。今の無し」と寧々は紡ごうとし――


    「あぁ、類のことは好きだぞ!」


    より大きな司の声によって、全ては遮られた。
    余りにもあっけらかんとした、それでいて重大な告白を前に寧々はひゅっと息を飲む。
    そして


    「――勿論、"仲間として"当然だろう!」


    「……は?」

    愛の告白……についてきた蛇足を聞いた瞬間、寧々がドスの効いた声を出してしまったのも無理はない。
    呆然とする寧々を他所に、何時も通りの自信満々な様子で彼は語り始める。

    「類はワンダーランズ×ショウタイムが誇る演出家だ!何処にもない派手で愉快な演出に、オレは何時もワクワクさせてもらっている!まぁ、少々やりすぎな所もあるが、そこはオレが万全に応えれば問題ないだろう!勿論、演出以外にも好きなところはあるぞ。たとえば――」

    とまぁ頼んでもいないのに、司は意気揚々と類の好きなところを猛烈に喋り出した。
    当人が聞いたら恥ずか死ぬのでは……と思えど、幸運にも(?)熱で深く眠っている類には聞こえていないようだった。周りのぬいぐるみ達もぐっすりであれば、ただ寧々だけが司のマシンガントークの被害者になった訳である。

    (……司は類を、恋愛的な意味で好きじゃないってこと?)

    彼の様子を見る限り、何か誤魔化しているようにも思えない。ならば寧々の推測は全て勘違いだったのだろうか?

    そこまで考えたところでふと、彼女の脳裏に過去の記憶が蘇った。

    『セカイの居心地が良い』と感じていた類――そう思う前から、彼はセカイに惹かれていた。
    『仲間として類が好きだ』と告げる司――そう告げども、司が創り出したセカイは雄弁に彼の想いを表している。

    そして何より、ただの仲間である筈の高校生男子二人が、何の違和感も持たずに膝枕をして寝かせてもらっているという状況は、どこからどう見たって『何もない』とは思えなかった。

    そうして考えたところで、寧々はようやく気づいた。


    (あぁ、つまり……二人とも"無自覚"ってこと)


    片や無意識に惹かれるあまり、セカイという"彼の想い"を全て暴きたいと思う演出家。片や無意識に惹かれるあまり、セカイという"外堀"を創り上げて彼を囲おうとしている座長。
    どう見たって双方に大きな感情を抱いていながら、その実彼らはちっとも気づいていなかった。少女漫画も真っ青な鈍感さは、彼らが"ショーバカ"だからこそなのか。
    いずれにせよ、心の中で脱力した寧々が、これ以上二人の関係に踏み入るつもりは毛頭なかった。変人由来の面倒ごとは断固願い下げである。

    「……もう良い。司が類のことを大好きなのはよくわかったから」
    「ハーッハッハ!寧々もわかってくれたか!」

    相変わらず気づいてない司にジト目を向けた後、寧々は後ろを向く。
    「んん?寧々、どうした?おーい!」と叫ぶ司の声を背に、寧々はすたすたと来た道を引き返した。

    一先ず今日の練習は中止にして、類を家に帰さないといけない。運ぶのはカイトやえむたちに協力してもらうとして、看病は……司に任せれば良いだろう。そのまま成り行きで自覚してもらえば万々歳だが、あの様子だとまだまだ時間がかかりそうではある。


    叶うならさっさと気づいてほしい。
    でも無意識で"これ"なのだから、二人が――特に司が、自分の本当の想いに気づいた日には……


    「……外堀が底なし沼になるかもね」


    冗談めかして呟かれた言葉が真となるか否か――それは誰にもわからない。
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    😍💴💴💴💴💴💴💴😍💖💖💖💖💖💖😭👍💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💛💜💛💜💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖☺☺💖💖💖💖❤💖👏
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    Kakitu_prsk

    PROGRESS相互さんに捧げるF/F/1/4の世界観をベースとしたファンタジーパロ🎈🌟の序章
    兎耳長命種族冒険者🎈×夢見る冒険者志望の幼子🌟
    後に🍬🤖ちゃんも加わって🎪で四人PTを組んで冒険していく話に繋がる…筈。

    ※元ネタのF/F/1/4から一部用語や世界観を借りてますが、完全同一でないパラレルくらいに考えてください。元ネタがわからなくてもファンタジーパロとして読めるように意識しています。
    新生のプレリュード深い、深い、森の中――木々が太陽すら覆い隠す森の奥深くに、小さな足音が響き渡った。


    「待ってろ、お兄ちゃんが必ず持って帰ってくるからな……!」

    そんなことを呟き足早に駆けているのは、金色の髪をもつ幼い少年であった。質素な服に身を包み、不相応に大きい片手剣を抱くように持っている。

    人々から『黒の森』とも呼ばれているこの森は、少年の住む”森の都市”を覆うように存在している。森は都市から離れるほどに人の管理が薄くなっており、ましてや少年が今走っている場所は森の比較的奥深く……最深部ほどではないものの、危険な獣や魔物も確認されている地帯だった。
    時折、腕利きの冒険者や警備隊が見回りに訪れているものの、幼子一人が勝手に歩いて良い場所ではないのは明らかだ。だというのに、その少年は何かに急かされるように、森の中をひたすら走っていたのである。
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    Kakitu_prsk

    DOODLE人間🎈がうっかり狛犬🌟の封印を解いたことで、一緒に散らばった大量の悪霊を共に封印するために契約&奔走することになるパロの冒頭ができたよ!!
    書きたいネタをぶつぎりに入れたりもしたけど続く予定はないんだぜ。取り敢えず投げた感じなので文変でも許してちょ
    大神来たりて咆哮す(仮)――ねぇ、知ってる? 学校から少し離れた場所にある森に、寂れた神社があるんだって。
    ――そこに深夜三時に訪れて、壊れかけてる犬の像に触れると呪われるんだってさ
    ――呪われる?
    ――そう!なんでも触れた人は例外なく数年以内に死んじゃうんだって!
    ――うわ~!こわ~い!!


    ……僕がそんな噂話を耳にしたのは、昨日の昼休みのことだった。

    編入したてのクラスには噂好きの人間がいたのか、やたらと大きな声でそう語っていたのを覚えている。
    現実的にも有り得ない、数あるオカルト話の一つだ。そう信じていながら、今こうして夜の神社に立っている僕は、救えないほどの馬鹿なのだろう。

    絶望的なまでに平凡な日々に変化が欲しかった。
    学校が変わろうと”変人”のレッテルは変わらず、僕は何時だって爪弾き者だ。ここに来て一か月弱で、早くもひそひそと噂される身になってしまった僕は、この現実に飽き飽きしていたんだ。
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