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    asebi_LarHyun

    @asebi_LarHyun

    橙・ラーヒュンの二次創作(小説)
    アニメ80話81話で沼落ちした新参者

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    asebi_LarHyun

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    7/23ラーヒュン1dr1wrお題「熱帯夜」お借りしました。
    原作軸。大戦後、ダイ帰還済、平和な世で二人旅中。

    #ラーヒュン
    rahun

    夜の散歩 「熱帯夜」***

     暑い。暑すぎる。

     東側と南側にある窓をどちらも開け放ってみたが、まとわりつくような熱気は微動だにしない。パプニカでは、夜は陸から海へと風が吹くので、少しは熱気が落ち着くのだが。湯浴みは夕食後に済ませたが、体はもう汗でべたついていて、そのまま寝台に横になることも躊躇われた。

     ため息をつきながら窓の下を見ると、石畳はうっすらと白く、見上げれば、隣の宿屋との間の細い空に、満月が浮かんでいた。

     下から視線を感じて再び石畳に目を向けると、帰ってきたラーハルトがこちらを見上げていた。ヒュンケルが顔の横へ手を上げると、ラーハルトは片方の口の端を上げ、頷いて見せた。あいつは食事の後、買いたい物があると言って、日の長い夏の間だけ開かれている夜市へ出かけていたのだ。

     ヒュンケルが水差しから水を注ぐ間に、ラーハルトは部屋に戻ってきた。

    「帰った」
    「ああ。買いたかった物は買えたのか」
    「買えた。出かけるぞ」
    「……今からか?」
    「こう暑くては部屋で休むこともできん。明日は予定もないし、風に当たれるところへ涼みに行こうと思ってな。お前も来い」
    「どこへ行く?」
    「ついてくればよい」

     ヒュンケルは、この無二の友であり恋人でもある男のことを信頼しているし、この暑さから逃れられるなら願ってもないことだと思い、それ以上は尋ねず、短剣だけを腰に差し、ラーハルトに続いて部屋を出た。

     まだ熱を蓄えたままの石畳の上を歩き、やがて町外れの小さな丘の麓まで来たところで、ヒュンケルは、ラーハルトが自分をどこへ連れて行こうとしているのかに思い当たった。

    「空か」
    「ああ。地面が熱せられているから暑いのだ、それならば地面から離れればよかろう?それに風を切れば涼しいからな。どうせ宿にいてもろくに眠れないのだ。この町へ来る途中にあった大きな湖まで飛ぶつもりだ」

     この丘には、空を飛ぶ竜を飼う獣人が住んでいる。昨年この町を訪れたときに偶々知り合い、ラーハルトが自分も竜に乗っていたと話すと、随分と嬉しそうにして、必要ならいつでも貸してやる、と言ってくれた。ラーハルトはあまり見知らぬ者と進んで関わろうとする質ではないが、その獣人がどことなくあの空戦騎に似ていたため、話す気になったのかもしれない。

    「竜も夜は眠るんじゃないのか」
    「普段はそうだがな。今宵のような暑さでは、竜も寝苦しい。そんな夜は湖に半身を浸して眠るのが彼らの気に入りだ」
    「そうなのか。それなら竜も喜んでくれるかもしれんな。しかし急に訪ねて貸してくれるだろうか。もう湖に出掛けてしまっているかもしれん」
    「心配はない。昼にお前が本屋に入っていたときに、通りで向こうがオレを見つけて話しかけてきたのだ。今日のような日は夜になっても暑さが引かんだろうから、竜たちを湖に連れて行きたい。よかったらお前が一頭連れてやってくれないかと頼まれた。ちょうど満月で、迷う心配もない」
    「そうだったのか。しかし……俺は乗り慣れていないぞ」
    「だからこの二人乗り用の鞍を買ってきた。乗馬用だがな。それとこの補助ベルトだ。これで俺とお前を繋いでおけば、落ちることはそうそうなかろう」

     なるほど、それを買いに行っていたのか。

     竜の背に鞍を取りつけ、ラーハルトが後ろに、ヒュンケルが前に乗って、自分と繋がるベルトをヒュンケルも装着し終えたのを確認すると、ラーハルトは竜を飛び立たせた。

     町の熱気が遠ざかる。

     果たして眼下に広がる景色は美しく、しかし高く飛んでも、月はいつまでも遠い。

     竜が飛び続けてくれるおかげで、自身のまわりをつねに新しい空気が通り抜け、熱を溜め込んだ体もいくらか冷やされた。

     ヒュンケルは、この強敵(とも)に初めて相見えた日のことを思い出していた。

     もしも別の出会い方をしていたら。もし今のような世でこいつに出会っていたら……いや、そうであれば、オレとこいつが出会うことさえなかっただろう。そして互いの中にある、悲しみ、怒り、苦しみ、それから、懺悔、さらには、希望、愛、そんな言葉で表されるような思いを、響かせ合うことはなかっただろう。

    「……お前が生き返ってくれて、よかった」
    「それはよかったな」
    「なぜ他人事なんだ」

     わかっている。ラーハルトも、オレと出会えてよかったと思っていることを、オレは知っている。

     オレは、オレのような人間が、誰かから理解されることを望むなど、罪を塗り重ねるが如き考えだと思っていた。仲間たち(あいつらは敵であった俺の心中さえ慮り、俺の行動を見て、俺を受け入れてくれたのだ)のおかげで、俺は、暗黒闘気ではなく光の闘気で戦う道を選ぶことができたが、過去の行いは、その行いによって傷つけられた者がいる以上、消えるものではない。だが、過去が消えなくても、そして、命を賭けて戦うことを贖罪とすることができなくなっても(ダイたちはもう十分だと言ってくれるが、俺の命がこの世にある以上、果たせたと言えるときは来ないと考えている)、贖罪の思いを持ったまま、誰かと理解し合い、共に未来を思ってもよいのだと、ラーハルトとオレは、時間をかけて、理解していった。

    「ヒュンケル。着いたぞ」

     耳元に聞こえた優しい声音に目を開けると、下に湖と砂浜と防砂林が見えた。手綱を握るラーハルトの腕が自分の両側に回され、まるで後ろから抱き締められているようで、背中に感じる体温に安心して、少し眠ってしまっていたようだ。竜は、ラーハルトに命じられ、頭を陸の方に向け、翼を開き、ときどき羽ばたいて、その場にふわふわと留まっている。

    「降りるぞ」
    「ああ」

     ラーハルトが命じると、竜は素直に降下を始める。浜に降り、自由にしてよいと告げられると、竜は湖の中へと進んで、ひとしきり湖水を飲み、首をもたげて風の匂いを嗅いだ後、半身を湖水に浸して休んだ。
     暑いには暑いが、風が心地よい。裸足になって感じる砂の感触も悪くない。

    「ありがとう」

     ヒュンケルはラーハルトに礼を言うと、服も脱いで、ざぶざぶと湖に入った。

    「お前も入れよ」
    「そうしよう」 

     ヒュンケルは、肩まで水に浸かり、ただぼんやりと、休息する竜や、満月に照らされながら波を産み続ける湖面を眺める。

    「こうやって波に揺すられて、ただ繰り返す波の音を聞いていると、なんだかずっとこの夜のまま、月もずっとあそこにあるまま、今だけがずっと続くような気がする」
    「……つまらんぞ、きっとそれは。それに、腹は減る」
    「それはそうだな」

     ヒュンケルが笑って、ラーハルトはふんと鼻を鳴らした。


    Fin.
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